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ジェマたちは山を抜け、ファスフォリアへと到着した。
「すぐに道具師ギルドの本部へと向かおう」
レップの言葉に頷き、一行はファスフォリアの中心街を抜けて道具師ギルドの本部へ向かう。その途中に位置する王立マジフォリア学園。そのそばを通りかかったとき、1人の少年が馬車に駆け寄ってきた。
一行は動きを止める。騎士たちは一瞬身構えたものの、シヴァリーが手を挙げて構えを解かせる。シヴァリーは馬車を覗き込んでジェマを手招く。
「ジェマ、少しだけ時間を良いか?」
ジェマは頷いて、ジェットをそっと座席に寝かせてジャスパーと共に馬車の外に出た。
「ジェマ! シヴァリー!」
「ラルド!」
学生服のまま駆け寄ってきたのは、ラルドだった。ジェマは嬉しそうにラルドに駆け寄った。けれど2人の手が触れる前に、ラルドが大きな影に掬い上げられた。
「ラルド!」
「お、親父! や、やめろって! く、くる、し……」
ラルドを軽々と抱き上げてぎゅうっと抱き締めたのはエメド。久しぶりの息子との再会に気分が良くなったのか、力いっぱいラルドを抱き締めてぐるぐると回る。
「ああ、私の可愛い可愛いラルド!」
「ちょ、やめろって! 恥ずかしいだろ!」
ジタバタと暴れるラルドをもう一度抱き締めて地面に下ろすと、エメドは満足げに笑う。
「少し背が伸びたかな? それに顔つきも立派に商売人らしくなってきたじゃないか」
ラルドの肩をぽんぽんと叩く仕草に、ラルドはふいっと顔を背ける。その耳の赤さは隠しきれていなくて、エメドはまた嬉しそうに頬を緩めた。
「ほう。エメドの息子はこんなに大きくなったか」
レップも馬車から降りて来て、まじまじとラルドを上から下までじっくりと見つめる。ラルドはどこか居心地悪そうに、けれど背筋を伸ばして一礼した。
「お久しぶりです。レップさん」
「ああ。久しぶりだな。と言っても、君は覚えていないんじゃないかな?」
「はい。ですが父からはよくレップさんのお話を伺いますから」
「そうなんだね。ふむ。私もよくエメドから君の目利きの素晴らしさについては聞いているよ。今抱えている用事が終わったら〈エメラルド商会〉へ顔を出すつもりだから、そのつもりでいてくれたまえ」
「分かりました」
ラルドはいつになく緊張した様子で頷く。その凛々しい顔つきにエメドは満足げに頷く。そしてすっかり満足した様子の大人2人の後ろで、ジェマはそわそわしていた。その肩をぽんっとシヴァリーが叩き、背中を押してやる。
「ラルドさん! お久しぶりです!」
ようやくラルドの前に立つことができたジェマ。その逞しさを増して帰ってきた姿に、ラルドは静かに頬を染める。そしてぶっきらぼうにジェマの頭を撫でた。
「久しぶりだな。商品の納品、助かった」
「いえいえ。遅くなってしまうこともあって、ごめんなさい」
「大丈夫だ。この街の全員がジェマの商品を待ち望んでいた。それと、〈チェリッシュ〉の新装開店もな」
ラルドの言葉にジェマが照れ臭そうに笑う。ラルドは小さく口角を上げると、その視線をシヴァリーに移した。
「無事で良かった」
「当たり前だろう?」
2人は拳をぶつけ合う。ありきたりな少年同士の姿。けれど商人と騎士のそんな姿は珍しい。レップは興味深そうに顎を撫でた。
「そういえば、〈チェリッシュ〉にはまだ行けていないのか?」
ラルドが首を傾げると、ジェマは真面目な顔で頷いた。
「はい。それよりも先にやることがありまして」
「そうか。それなら、その用事が終わったら一度〈エメラルド商会〉に寄ってくれ。修繕と同時に少し改装したところがあるからな。その案内をしてやるよ」
「ありがとうございます!」
ジェマは嬉しそうに笑う。2人が約束を交わすと、シヴァリーが導いてジェマを再び馬車に戻らせる。
「それじゃあ、ラルド、また後でな!」
「ああ、またな」
ラルドとシヴァリーが手を振り合い、エメドも大きく腕を振ってラルドと一度別れる。
そして一行の馬車は再び道具師ギルド本部へ向けて走り出す。騎士団第8小隊の帰還に沸く街の人々の声をかき分けながら馬車は進み、ようやく道具師ギルド本部へと到着した。ギルド庁舎が立ち並ぶ敷地の入り口で、シヴァリーがアポイントの確認をする。
するとすんなりと中へと通される。道具師ギルド本部の入り口のドアが開かれる。その向こう、シャンデリアが輝くエントランスに立っていた女がタイトなドレスの裾を摘まんで一礼した。
「こんにちは。皆さん。長旅ご苦労様でしたね」
ジェマは道具師であれば誰でも畏敬の念を抱くその人を前に、背筋を伸ばした。
「はじめまして、私は道具師ギルド本部長のチュベローズ・マホガニーと申します」
その恭しさと美しさに内包された力強さで圧倒するこの女。持ち前の観察眼と統率力、厳格さで信頼を得て組織のトップへと上り詰めた。
人格だけではなく道具師としても優秀で、所有者固定魔道具師に最も近い人物としても知られている。現在生存する道具師の中では最も優れた道具師であると誰もが認める存在だった。




