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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。4  作者: こーの新


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11


 ジャスパーとジェットが部屋に戻ると、ジェマがガタッと立ち上がった。



「できた!」



 ジェマの手元には、いつもとは違う【次元袋】のお財布。ジャスパーは皿を机に置いてからジェマの方へと近づいた。



「試してみなくて良いのか?」


「この道具、【加重次元財布】の特徴が1回きりの使用だから。試すこともできないんだよね。でも2つ作ったから、1つをソルトのレッドさんに送って開発登録をお願いしようと思って」



 ジェマは困ったように肩をすくめた。この道具の信頼性を上げるためには必要な性能だが、それと引き換えに手元に残っている1つが正常に動作するかどうかを試す機会を失った。それでも正確な魔石付与魔道具であることを証明する。その証明となるのが開発登録だ。


 1つの道具師ギルドが認めた道具はどこの道具師ギルドであってもそれが正式な道具であることを認めることになる。



「なるほどな。こっちの開発登録の申請が通って効果が証明されたら、コマスの道具師ギルドを詰めると?」


「詰めるなんて言い方が悪いよ。ただ、きちんとさせるだけなんだから」



 ジェマはそう言いながら、さっきジャスパーがシキョウに持って行った道具の残りを見やる。



「あれの開発申請を出す。そのときにきっちり支払いが行われていないことを証明出来たら、報告ができる」


「そうか。それなら、早速商品名を決めないとな」



 ジェマはうーんと考え込む。商品名は道具の顔ともなる、1度きりしか決められないもの。その割にはいつもかなりラフに決めているけれど。



「決めた! この道具の名前は、【奇怪グラス】にする」


「【奇怪グラス】?」


「そう。眼鏡ってグラスとも言うでしょ?」



 胸を張るジェマに、ジャスパーは苦笑いを浮かべた。



「正直、気になるのは奇怪の方だ」



 ジャスパーの言葉にジェマは胸を張るのをやめる。そしてニシシ、と悪戯っぽく笑ってみせた。



「普通の人だったら仕組みもイマイチ分からないし、見た目にも正直これを日常遣いするのは気が引ける。だけどこれを使わないと生きていけない人もいる」


「ああ、そうだな? だったら、お助けとかの方が良いんじゃないか?」


「それだと、なんか正義感があるじゃん。今回のは私の私欲のために作ったから、ちょっとブラックヒーローみたいな感じにしたいの」


「ダークヒーローな。ブラックヒーローはただの黒いヒーローだ」



 ジャスパーは苦笑いを浮かべながらも、ジェマの昂奮して紅潮した頬を優しく見つめる。



「ジェマがそれが良いと思うなら、きっとそれが正解だな」


「えへへ、でしょ?」



 ちょっぴり自信満々に笑って、申請書に記入を始めようとするジェマの肩に、ジャスパーはぽんっと蹄を置いた。



「ご飯、冷めるぞ?」



 その言葉を聞くや否や、ジェマの鼻がひくりと匂いを感知した。



「炒飯じゃん! やったー!」


「野菜と魔物の肉をふんだんに使ったんだ。今日はジェットにも切るのを手伝ってもらったから、味わって食べろよ?」



 どこか自慢げなジャスパーとジェットはぐいっと胸を張る。ジェマはその姿にケラケラと笑いながら、炒飯をあっちからこっちから眺める。



「ジャスパーもジェットも凄いね。断面が綺麗過ぎるよ」



 闇属性の糸と浮遊魔法。むしろ曲がって切る方が難しい。ジャスパーはそれは口には出さずに自分もジェマの隣に座る。



「今日はジェットも同じものだ。作ったら食べたくなったらしい」


「そっかそっか。ジェットは生肉とかの方が好きだけど、これも食べられないわけじゃないもんね」


「ピピィ!」



 1人と1柱と1匹が並んで座る。ジェマはジャスパーとジェットをちらりと見て、手を合わせた。



「いただきます!」


「いただきます」


「ピィ!」



 それぞれが挨拶をしてから食べ始める。ジェマは1口食べて、すぐに目をキラキラと輝かせた。



「んー! 美味しすぎ! 幸せぇ」



 ふにゃりと目尻を下げて喜ぶジェマに、ジャスパーはふんっと鼻を鳴らして鼻の下を掻いた。



「我が作ったのだから、当然のことだ」


「初めて作ってくれたときより、ずっと美味しくなったよね。あのときの味もすきだったけど」



 ジェマの言葉に、ジャスパーは苦笑いを浮かべた。そもそも精霊は食事をそんなに必要としていない。拠り所となるものが元気なら、精霊も元気でいられる。例外は植物の精霊くらい。後は害する意思を持つ者によって攻撃されない限りには問題ない。


 人間と精霊と魔物。普段は絶対に交わらず、交わることは許されないとされてきた。けれどこうして共に暮らし、共に家族だと想い合っている。


 ジャスパーは炒飯を空中で丸くして口の中に放り込む。世間の声も何もかも。全く気にならない。ただこの家族がジャスパーにとっての安息の地。


 スレートの食事を初めて食べたとき、食事というものに感動した。スレートが忙しいときに、ひっそりと隠れながら慎重に調味料を測りながら初めての料理を作って、スレートとジェマが喜んでくれた。


 ジャスパーが料理に興味を持ったことを知って、スレートが合間を縫って料理を教えてくれた。スレートと2人きりの時間が楽しくて、食べて笑顔になるスレートとジェマに胸が温かくなった。


 スレートを失って、食事が喉を通らなくなったジェマがようやく食べてくれたお粥。スレートが教えてくれた最後の料理だった。


 ジャスパーは懐かしいことを思い返しながら、炒飯を楽しんだ。ジェマとジェットの幸せそうな顔をスパイスに。それが何より、至福の時間。



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