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 束の間の休息。洞窟の中とは思えない安心感のある空間で一夜を明かし旅の疲れを癒した一行は、改めてコマスへの道を辿り始めた。洞窟を抜けるとすぐ、森。その向こうに街と大河が見えた。



「本当にコマスに繋がっているんだな」



 シヴァリーは改めてしみじみと呟く。そしてすぐに気を引き締めて馬車の御者台に飛び乗った。



「さあ、進むぞ!」


「おぉっ!」



 シヴァリーの勇ましい声に、騎士たちが続く。休息のおかげで勢いを取り戻した騎士たち。ジャスパーは安心してジェマの肩の上で足をぷらぷらさせる。



「ピピッ!」



 しばらく進んだところで、ジェットが警戒するようにひと鳴きした。



「シヴァリーさん、停めてください」



 ジェマが声を掛けると、馬車が停まる。騎士たちは馬や馬車から飛び降りて、周囲を警戒する。ジェマも一緒に飛び降りて、ジェットが脚で示す方に目を凝らす。



「あれは、モス()でしょうか……」



 遠くで蠢くように飛び交う茶色い群れ。ジェマは少し肩の力を抜いた。けれどすぐ、その安心感が消え去り、緊張感が漂った。


 特徴的な黄色の斑点。遠目に見ても分かる手のひらサイズの身体。



「近づかないようにしてください。モスの中でも、ナンブモスです」


「ナンブモス?」


「はい。鱗粉に痺れ毒を含むモスです。群れで過ごすことが多い種ではありますが、あの量の群れは見たことも聞いたこともありません」



 ジェマの言葉に騎士たちは即座に弓矢を取った。剣では間合いが狭くて鱗粉を浴びてしまう可能性が高い。けれど弓矢ならば、多少は回避できるはず。



「まあ、【回復ポーション】を使えばすぐ治るんですけど。でも強く痺れていると、【回復ポーション】を飲むこともできなくなりますから。気を付けてください」


「戦うか?」


「いえ。刺激しなければ襲ってくることもありませんし、ひとまず放置しましょう。群れが巨大化している理由もまだ分かりませんし」


「そうだな。よし、迂回して先に進むぞ」



 シヴァリーの言葉に、騎士たちは隊列を組み直して迂回する。ジェマは注意深く周囲を観察しながら進んでいく。


 特に大きな違和感はなく、そのまま森を抜ける。するとすぐに、コマスの入り口が見えてきた。木造りの関所。シヴァリーがそこで身分証を提示して、通行の手続きを進める。


 その間にジェマが隣の関所を眺めてると、そこには荷馬車が列をなして通行の順番を待っていた。



「あちらの関所は主に商人が通行するための関所です。荷馬車の検問もあるので、時間がかかるんです」



 ハナナの説明に、ジェマは少し考え込む。ジェマが1人で来ることになった場合、通ることになるのはあの関所だろう。商人に混ざって商品をチェックしてもらって、ようやく通行できる。


 商売人は信用が命。そうなるとあの関所をスルーしてしまうことはできない。面倒に思うけれど、やらなければいけないことの1つとしてこなす必要がある。


 ジェマが小さくため息を漏らしたころ、シヴァリーが通行手続きを終えて戻ってきた。



「軽く検閲をしたら、それで終わりだ」



 通常の通行でも手間がかかる。ジェマは内心げんなりしながらも頷いた。


 商業の街として発展したコマスは、行商人たちがこぞって集まる都市。そこで商品を売買すること自体に意味があり、コマスに店舗を持っている商人は一目置かれる存在として、商人たちの憧れの的になる。


 ジェマのような商売人にとっても、コマスに店舗を構える商店との取引には意味がある。販路の確保という意味でも、素材の調達という意味でも。最も適した街だからだ。


 検閲を終えて、ようやく街に入る。中央の街道は道を挟んでどちら側にも木造りや石造りの建物。ジャンルを問わず、無数のお店がずらりと並んでいる。そしてその大通りの一番端。そこに塔が4つ並んだデザインの石造りの建物が経っている。



「あの向こうに見えるのがギルド庁舎と呼ばれる建物です。騎士団詰め所、道具師ギルド、冒険者ギルド、商人ギルドが全て集められた建物で、この街の中心となる機関です」



 普通は襲撃に備えてバラバラに設置することが多いギルド。それを1ヵ所に纏めた上で、騎士団詰め所まで集めることで防衛面も強化していることがうかがえる。



「癒着も激しくなりそうですけどね」


「そうですね。そこは外部監査という形で維持しているそうです」



 ハナナの説明にジェマはふむふむと頷く。こういう知識をくれる存在はなかなか貴重。ジェマはこの旅を通して、ハナナのおかげで増えた知識の多さを実感していた。



「ひとまずあそこを目指す。ジェマ、絶対に俺たちから離れるなよ?」



 シヴァリーはいつになく厳しく言うと、先頭に立って歩き始める。ジェマが不思議に思いながらも馬車に乗り込むと、馬に乗って警護していたカポックが馬車の隣に近づいてきた。



「コマスは、発展しているようで闇も深い。裏路地に迷い込めば、人身売買も横行しているような場所だ。特にジェマのように能力もあって年若い娘ならなおさら危険だ」



 ジェマはカポックの言葉に深く頷いた。カポックも元々コマスで奴隷として売買されていたと聞く。その言葉の重みがずっしりとジェマにのしかかった。



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