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 シキョウはジャスパーを振り向く。その瞳には挑発的な光と真摯な願いが宿っていた。



「この機械の影響で光の下を歩けなくなってしまった彼らを救ってくれ。それが重力の精霊魔石を渡す条件だ」



 精霊を視認できる人だけを保護してシキョウの洞窟が満員になるほどの人数がその症状を抱えて苦しんでいる。それではメタリス全体ではどれだけの被害者がいるのか。ジャスパーは深く息を吐いた。


 この依頼は1つ完成させたところで終わらない。その全ての住人が助けられることによってようやく達成されるものだ。それではジェマが今直面しているコマスでの問題の解決に時間がかかり過ぎる。そうなればジェマはどれだけの時間家に帰ることができなくなってしまうのか。


 そんなジャスパーの思考を読み取ったようにシキョウは小さく肩を上げた。



「1つ試作品を仕上げてくれ。それが彼らを助けるものだったなら重力の精霊魔石は渡そう。定期的にこちらへ道具を送ってもらうことにはなるだろうが、無理はしなくて良い。体調を崩さないようにお前がサポートしてやれ。それから報酬も支払おう。この国にあるものを言えばなんでも届けてやろう」



 シキョウの言葉にジャスパーは頷いた。それだけの条件ならば、ジェマが潰れてしまうこともない。目の前のことに熱中しがちなジェマには難しい急がば回れも、どうにか頑張ってもらうことができそうだ。



「分かった。引き受けよう」


「よろしく頼む」



 ひとまずシキョウから作動する機械をいくつか受け取ったジャスパーは急いでジェマの元に戻った。ジャスパーから重力の精霊魔石を入手するための条件を聞いたジェマは、二つ返事で機械の調査を始めた。



「このモニターを見ると目をやられるらしいから気をつけてくれ」


「うん、分かった」



 ジェマはその仕組みを解明するために、機械をくまなく調べ始める。モニターの仕組みや障害を発生させる原因を見つけるために。



「うーん。仕組み自体には問題はなさそうだから、そのジャスパーのお友達が言っていたみたいに、この機械が発するものが問題なのかも」



 ジェマの言葉にジャスパーは眉を顰める。



「調べたいのか?」


「だって、そうしないと調べきれないでしょ? そうなったら道具も正確に作れない。それじゃあ、重力の精霊魔石がもらえない」



 ジェマの瞳には必死さが宿っていた。どうしても重力の精霊魔石が欲しい。そのためなら、どんなことでもするつもりだった。



「だが、それを調べるためにはジェマもその機械が発する何かしらの毒性の影響を受ける可能性があるんだぞ?」


「それでもだよ。調べなければ分からないことばかりだから。私は、絶対に調べ尽くす。それでもし自分の身に危険があっても、苦しんでいる人がいるなら助けたい」



 ジェマの真っ直ぐすぎる瞳にジャスパーはため息を漏らした。分かっていたことだった。ジェマは諦めるなんて言葉を知らない。困っている人を放っておくわけがない。こんなジェマに危険が及ぶかもしれないこと、ジェマが重力の精霊魔石を望まなければ認めなかった。


 認められるはずがない。誰よりも大切な家族が危険な目に遭うかもしれないなんて、許容できるはずがなかった。それでも、危険を遠ざけてばかりが親ではないと分かっている。ジャスパーは深呼吸をした。



「分かった。我も精一杯サポートしよう」


「ピッ!」



 隅でずっと話を聞いていたジェットも同意するように1本の足を上げる。その姿に小さく微笑んだジャスパーはジェットのふわふわの頭を撫でてやった。そして、ハッとした。



「そうか。この機械が発する光の中に毒があるとするならば、その光自体を阻害するように闇で包んでしまえば良い」



 ジャスパーの思い付きに、ジェットは首を傾げた。けれどすぐにピンときたようで、シュルシュルと糸を吐き出し始めた。その闇属性の糸が紡いだのは、空間を覆い尽くすような大きな布。その布からは闇が溢れ、周囲の光を飲み込んでいく。



「これだと、見たい光も見えなくなっちゃうかも」



 不満げなジェマをジャスパーは厳しい顔で見つめた。



「最終的に光が原因だという可能性が出たならばこの闇なしで見ても良い。だが、それまではダメだ。目がなければ、道具もまともに作れなくなるぞ」



 ジェマの身を案じる言葉に、ジェマは言葉をグッと飲み込んだ。



「分かった。それじゃあ、まずはこれでやってみるよ」



 ジェマの言葉に満足げに頷いたジャスパー。ジェマはジェットが作り出した闇の中で早速機械を起動させてみる。その刹那、真っ暗な世界にいくつかの光が満ちた。ジェマとジャスパー、ジェットは驚いて目を見開いた。



「何、これ……」



 ジャスパーはジッと考え込む。かつて読んだよ持つに似たような記述があったはず。その記憶を辿っていくと、ふと思いつくものがあった。



「不可視光か」



 かつて読んだことがあるだけのもの。けれど確か、人間には見えない光を見せるものがあるらしかった。それを視認できるとは聞いたことがないけれど、もしかするならば、これがその不可視光なのではないか。



「それ、少し調べたい」


「それなら、私が力になりましょう」



 いつから話を聞いていたのか、ドアから顔を覗かせたハナナがにこやかに微笑んだ。



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