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 どうすれば良いのか分からないまま、ジェマは騎士団詰め所に戻った。用意された部屋でジーッと考え込んでいるジェマを、ジャスパーとジェットが心配そうに見つめる。



「ピピィ……」


「大丈夫だ。我らはジェマが何か思いついたとき、精一杯手助けしてやろう」


「ピィ」



 ジャスパーの言葉にジェットが頷く。ジェマの後ろ姿はどこか小さくて、だけどまだ諦めてはいない。


 ジャスパーは早速部屋の隅に設置された小さなキッチンで調理を始める。さっき討伐したハイランドオークの肉の塊をそぎ落としていく。


 ハイランドオークの肉は、高く売れるとはいえ、3分の1だけの買い取りに留めた。ジャスパーが料理をするし、騎士たちは大飯食らいばかり。折角の獲物を売り捌いてしまうのは勿体ない。


 道中で討伐している魔物や動物も大抵そうして食べながら、街についたときに残っているものの半分ほどを売る。そうして収入を得ながら旅を続けていた。


 ジャスパーはそいだ肉の1番新鮮なところを、【次元袋】に仕舞いなおす。それから残りの部分を干し肉やハンバーグ、ステーキに変身させていく。


 部屋の中がお肉のジューシーな香りで包み込まれても、ジェマはただ1点を見つめたまま考え込んでいた。ジャスパーがハンバーグを半分ほど焼き上げたころ、ジェマの手が動き始めた。


 【次元袋】に手を突っ込むと、あれでもない、これでもないと素材を取り出していく。そして最終的に手を止めると、ガタッと立ち上がった。



「素材を貰いに行ってくる」


「待て待て待て?」



 ジャスパーは慌ててジェマの肩に飛び乗る。浮遊魔法で調理器具を操りながら料理をしているおかげで、蹄が汚れないからこういうときに便利だ。



「どこに何を貰いに行く気だ?」


「どこかの精霊さんから、重力の精霊魔石を貰いたいの。だから精霊さんで道具の依頼をしてくれる人を探してくる!」



 ジャスパーはジェマの言葉にやれやれと肩をすくめる。



「重力の精霊魔石なんて、かなり希少だぞ? そんじょそこらの精霊じゃ生成できないからな?」


「じゃあ、誰ならできるの?」



 ジェマの少し拗ねたような顔に、ジャスパーはたじろいだ。やりたいのにできない、子どもっぽい癇癪に似た感情の表れ。日ごろは大人びているジェマがこうして子どもっぽくなるときは、大抵いっぱいいっぱいのとき。



「ジェマ。そんなに焦るな」


「焦ってないもんっ」



 珍しく声を張り上げるジェマ。その表情から感じられる焦りと悔しさ。ジャスパーは小さくため息を漏らした。



「ジェマ。一旦落ち着け。大丈夫だ。我が助けてやる」



 ジャスパーの落ち着いた声。ジェマは少し落ち着いて、けれど瞳に涙をいっぱいに溜めたままジャスパーを見つめた。その苦しそうな顔つきに、ジャスパーはそっと蹄でジェマの頬に触れた。



「ジェマ、1人じゃない。だからそんな顔をしなくて良い」



 ジャスパーが言い聞かせるように言うと、ジェマは少しずつ落ち着いていく。ジャスパーはジェマを心配する気持ちになりながらも、一方で安心していた。


 成人する前にスレートが亡くなり、スレートの背中を追うという夢だけを胸に突き進んできた。成人したとはいえ、まだ10歳。店主として、天才道具師の娘として。死に物狂いで働いてきた。


 大人になるほかなかった。


 ジャスパーはその姿をハラハラしながら見守ってきた。かつての天真爛漫で無邪気な少女らしい姿が見られないことに寂しさを感じながら、けれどジェマが望むのならと応援してきた。


 それでも父親代わりとしての気持ちは、せめてもう少し子どもらしくいられる時間を過ごして欲しかった。


 他の同い年くらいの子どもは、まだ学園に通っている子が多い。ラルドもまだ学生。〈エメラルド商会〉ファスフォリア本店の仕事を本格的にしているとはいえ、学校ではまだまだ友人と遊んだり趣味を謳歌したりとしているらしい。


 学園に行っていない子どもはアルバイトをしていたり。働いていても、まだ見習い。新人として、教えを乞う時期にある。


 ジャスパーはそれが悔しかった。友人もまともに作ることができない境遇にあることは、最近ようやく理解した。けれどそれでも、ジェマにはもっと他の子どもたちのように感情の赴くままに生きて欲しかった。損益関係なく、誰かに心置きなく頼ることを覚えて欲しかった。


 ジェマにとっては好きなことが道具を作ること。分かっていても、趣味が仕事。休まる暇がないことを心配する気持ちだって湧く。たまには誰かを



「我の友人に、重力を司る精霊がいる。やつなら重力の精霊魔石を作ることだって造作ない」


「頼んでくれるの?」



 ジェマは不安げに問う。ジャスパーは友人について話したことがない。ジェマと出会う前のことについてはあまり話したがらないから、ジェマも無理に聞こうとはしなかった。



「ジャスパー、ごめんね」



 ジェマは胸が痛んだ。自分が子どもっぽい素振りを露わにしてしまったせいで、ジャスパーの触れられたくない部分に触れてしまった気がした。



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