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明らかになる異世界の黒幕 敵は元Aランク探索員

 南雲は理性的な態度でキャンポムに「少し話を聞かせてくれるか」と言った。

 キャンポムは拒まない。

 「敗残兵として、責務を果たそう」と答えた。


 そこに口を挟むのが逆神六駆。

 なんかいい感じの空気を察知して、盛り上がる場所へと首を突っ込む。


「ちょっと待ってください。おかしくないですか? キャンポムさん、明らかに国に忠義を果たすタイプの軍人でしょう? そんな人が簡単に重要な話をすると思います?」


 意外と事の本質を見抜いているのが腹立たしい。

 さすがは百戦錬磨。異世界の酸いも甘いも嚙み分けてきたおっさん。

 着眼点が良い。


「俺とて、忠義はあったさ。だが、それは先代の皇帝に対してだ。今の皇帝は、異界からの来訪者の傀儡かいらいに過ぎん。俺たちは体のいい捨て駒なんだ」


「捨て駒とはひどい話だなぁ!!」



 六駆くん。

 君が山嵐と梶谷を捨て駒にしてから、まだ1時間もたっていないのだが。

 どの口が言うのか。



「内乱か? それとも、クーデター? 世継ぎ騒動の線もあるか。そもそも、君たちの国、ルベルバックは君主独裁政治なのかね?」

「ああ。ルベルバックは皇帝の血筋が代々統べる、軍事国家だ。過去に何度も異国からの攻撃を受けたが、1度として負けた事がない。それが……」


 常勝無敗のルベルバックに、突如として来訪者が現れたかと思えば、先代の皇帝を失脚させ、王家の血筋を引く遠縁の若者を新皇帝に据えたのが昨年のことだとキャンポムは語った。


 六駆は「よくある話だなぁ」と感じていた。

 異世界同士の争いも珍しい事ではないし、独裁政治の国には皇帝弑逆(しいぎゃく)なんて事態もつきものだと彼は知っている。


 だが、続けてキャンポムの口から出て来た言葉は、六駆はもちろん、南雲は絶対に聞き捨ててはならないものであった。


「貴殿らの国から来た、探索員と言ったか? その探索員の男が、今のルベルバックの実質的な支配者だ。新皇帝のポヨポヨは放蕩者で、若い女と酒さえあれば何も文句を言わない男。しかし、俺たちは軍人だ。上の指示には逆らえない」


 六駆は「なるほど」と頷いて、所見を述べた。


「名前がそこはかとなく可愛い響きですね!!」


 六駆の口から建設的な発言が出る確率は、だいたい3分の1くらい。

 今回の六駆おじさん発言ガチャは外したようである。

 諸君もこの後の南雲の話から集中して頂きたい。


「探索員!? 本当に探索員が関わっているのか!? もしそうならば、これは私たち探索員協会も黙ってはいられない事態だぞ! その来訪者の名前は分かるか?」


「アクツ・ジョータと言う名だ」

「うわぁ! 響き的に日本人ですよ! 南雲さん! どうします! ねえねえ、南雲さん!!」


 南雲は速やかに通信機を起動させた。


「山根くん! 聞こえていたか!?」


『はいはい。全部聞こえてますよ。照会したら、ばっちり引っ掛かりました。阿久津あくつ浄汰じょうた。2年前に異世界で行方不明になったAランク探索員です。パーティーメンバーも含めて、4人全員が綺麗に行方不明になってますね』


 再び六駆が口を挟む。

 安心して欲しい。今度はちゃんと必要な意見である。

 異世界転生周回者としての見地からの発言をした。


「あの、ルベルバックに阿久津さんが現れたのって、何年前ですか?」

「2年ほど前だが」


「ああ。じゃあルベルバックと現世って時間の流れがほぼ同じなんですね。異世界って全然違うスピードで時間が流れるところが多いですから」


 ミンスティラリアなどはまさに時間の流れの違う異世界。

 六駆が滞在した異世界は、ほとんどが同じような時間構造をしている国だった。


「逆神くん。負傷者はどうなっている?」

「遠隔操作で絶賛回復中です。あと15分もすればみんな元気になりますよ!」


「ええ……。遠隔操作ってなんだね。それ、普通は攻撃スキルに付与する特殊効果じゃないか。回復スキルに応用できるの?」

「気合と根性があればできますよ!」


「いいや。できないよ? 常人なら頭のおかしくなるようなセンスもそこに加えておいてくれる?」


 そして15分後。

 ピッタリ予定通りにルベルバック軍侵攻部隊の治療は完了していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「すまない! 手厚い対応に感謝する!! ……では、俺も責任を取ろう。軍事裁判など要求する権利もないな。さあ、見せしめに首を落としてくれ」


 キャンポムは敗軍の将としての模範的なあるべき姿を示そうとしていた。

 そこにやっぱり口を挟む六駆くん。


「南雲さん。南雲さん。僕、良いこと思い付いたんですけど!」

「あまり積極的に聞きたくないな。でもまあ、言ってみると良い」



「このままルベルバックに攻め込んで、阿久津さんパーティーを叩きのめすのはどうですか?」

「すごい発想力だな、逆神くん! 無茶苦茶だ! 何言ってんの!?」



 だが、六駆には勝算があった。

 それを今から彼が語ります。


「いえね、僕1人でも、5万人くらいなら相手ができますし、そもそも圧政で軍事まで掌握してるんでしょう? だったら、探索員協会のやり方もよくご存じでしょうから、普通の対応取ってたらまた裏かかれますよ。ランドゥルでこの状況も見てるでしょうし。多分、南雲さんは1度本部に戻って対策を、とか考えてますよね? 僕だったら、それ見届けてすぐに今回の10倍くらいの軍をその隙に日須美ダンジョンにぶち込みます。で、日須美市を軍事拠点にしますね」


 まるで「僕の方がルベルバック軍を使って現世の侵攻を上手くやれますよ!」と主張している六駆おじさん。

 実際にその通りだし、南雲の今後の対応もズバピタで的中させていた。


『南雲さん。自分も逆神くんの意見に賛成です。逆神くんの想定通りになったら、責任取らされるのって南雲さんですよ? 阿久津がこっちの状況を全部見て、聞いてるのなら、どう動いても裏をかかれるのが決定事項ですから。困るんですよね。自分現場から研究職になってまだ1年半ですよ? また現場復帰するのやだなー』


 目の前の異世界事情通な逆神六駆と、通信機の先の信頼する右腕・山根健斗。

 双方の意見は実に正しいと判断する決断力は南雲にもあった。


 六駆の言う通りこのまま即座に攻め込めば、もちろん対策されるだろうが時間を置くよりは迎撃態勢の精度がはるかに落ちるのは明白。


「キャンポム司令官。ルベルバックの軍事力はどの程度だ?」


「まさか、我らの国のために動かれるおつもりか? ヤメておいた方が良い。全軍で7万ほどの兵士が本国には控えている。貴殿らはどう見ても30人程度ではないか。厚意を向けてくれる者がむざむざ死にに行くのは見過ごせない」



「たったの7万! なんだ、意外と少ないですね!!」

「逆神くんは算数が苦手なのかな? こっちは20人にも満たないんだよ?」



 六駆は続ける。

 「色々と作戦はあります。悪いようにはしないから、行っちゃいましょう」と。


 南雲は苦渋の決断を迫られていた。

 だが、1度退くと言う選択肢が悪手なのが分かっている以上、六駆の甘い囁きに耳を傾けるしか彼の進む道はなかった。


 進むも地獄、退くも地獄。

 持参したコーヒーを水筒から注ぎ、ごくりと喉を鳴らす南雲監察官。


 その一杯は、ひと際苦かったらしい。

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