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モンスターハウスを有効活用 一方、近づいてくる危機 日須美ダンジョン第14層

 弟子の修行は六駆にとって良いことづくめ。


 まず、自分の指導でどんどん腕を上げていく若い力を眺めるのが楽しい。

 異世界で独り開発し続けたスキルが伝承されて、現世で頑張る少女たちの助けになれる事。それが異世界周回者(リピーター)と言う逆神家の崇高な使命(笑)を肯定してくれているようで、彼の喜びはひとしおだった。


 あとはまあ、いつも通りである。


 弟子の修行と称して、自分は後ろで楽をするのが実に快適。

 「好きな四文字熟語は?」と聞かれたら迷わず「不労所得!」と答える六駆。

 働かないで食べるご飯はすこぶる美味しい。


 逆神家の男たちに受け継がれる、ダメ人間の血脈。

 どこかで断ち切らなければならないのに、六駆くんの代では無理な様子。


 とりあえず第13層のモンスターからほどほどにイドクロアを収穫して、一向は第14層へ。

 この階層は開けた空間が3ヶ所しかないシンプルな構造だが、その分モンスターがわんさか湧いていると言う、いわゆるモンスターハウス状態。

 修行をするにはもってこいだと六駆は思った。


「さあ! 何匹いるかな? えーと、3、8、12匹もいる! 莉子は10匹撃破を目標に頑張ろう! 芽衣は2匹で良いから、自力で倒すように! ほい、『貸付槍レンタランス』ね」


「ふぇぇ。六駆くんのスパルタ指導が出たぁ……。10匹は多いよぉ! 中には凶悪なヤツもいるんだよ!?」

「芽衣には荷が重いです。『瞬動しゅんどう』! みっ!? みみみみみっ!!」


 莉子は文句を言いながらも迎撃態勢。

 芽衣は『瞬動しゅんどう』を使って逃げようとしたところを、六駆に捕まった。

 首根っこを掴まれた猫みたいになった芽衣。

 師匠の言いつけ無視して即断即決でスキル使って逃亡を図る様は「この子の思い切りの良さってやっぱり前衛向きだなぁ」と六駆に感心させる。


「ちなみに、一番強いのはどいつかな?」

「あの蛇みたいなヤツ! ワチエスネークって言って、外皮が超硬いの! あと、その奥にいるゲキキリンって言うんだけど、首の短いキリンみたいなのもむちゃくちゃ強いよ! 討伐報酬が超高いんだもんっ!!」


「よし! ゲキキリンだけは僕が引き受けよう!」

「清々しいほどにお金第一主義だにゃー。2人とも、がんばー! パイセンも援護するから! 強弓『サジタリウス』!!」


 クララは六駆の弟子ではないが、彼の戦闘から多くの事を学んでいた。

 それは彼女の地力の高さが成せる技であり、ぼっち……ソロ探索員としてCランクまで独力でランクアップした能力の証だった。


 このチームはまだまだ強くなれる。

 六駆は確信していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆は『滑走グライド』でゲキキリンとの距離を一気に詰める。

 ゲキキリンは高額討伐対象に入っているモンスターであり、その攻撃の独特さでも知られていた。


 短く見える首は収納しているだけで、外敵が襲ってくるとバネ仕掛けのように硬い頭を先頭に首を伸ばし敵を粉砕する。


「おわぁっ! ビックリした! ちょっと、急にそういうギミック出して来るのヤメて欲しいな! 僕、結構怖がりなんだよ!?」


 通常なら象でも一撃で潰してしまうゲキキリンの攻撃を喰らって、「ビックリした」と言う感想を持つ辺りに乙女たち3人はドン引きしていた。


「ゲキキリンの尻尾、イドクロアだよ! 特徴とかは教えなくて良いよね!? わたしも自分の事で手一杯なんだからぁ!!」

「尻尾が大事ね! 了解、了解!! 『伸びる断斬(バンジーブレイク)』!!」


 ゲキキリンを一刀両断にして、六駆はいそいそと尻尾を切り取り始めた。

 その作業を終えると、彼はお仕事終了。

 弟子たちの応援にまわる。


「莉子ちゃん! そっちのワニさんの足、あたしが止めるにゃ! 『アイシクルパラライズアロー』!!」

「助かります! いっけぇ! 『豪熱風ギズシロッコ』!! わわっ、煌気オーラ調整ミスったぁ!!」


 莉子の『豪熱風ギズシロッコ』は、ワニ型モンスターの隣にいた、燃える岩のモンスターにも襲い掛かる。

 見た目通り炎の属性は吸収する岩型モンスター。


「ほらほら、集中力が切れてるよ! いつも言ってるでしょ! スキルはメンタル勝負! あと、今のパターンならクララ先輩のサポートを生かして、『連弾太刀風れんだんたちかぜ』で1匹のみを先に倒すべきだったね!!」


「ふぇぇ! 分かってるよぉ! 新しいスキル、調整が難しいんだもん! 『跳躍翔フロッパー』! 岩には物理ぃ! 『斧の一撃(アックスラッシュ)』っ!!」


 ミスからの立て直し。そして思考の切り替えの速さ。

 その一連の流れは六駆を唸らせた。


 「これなら残りも大丈夫そうだ」と考えた師匠は、妹弟子の方に向かう。

 芽衣はカエル型のモンスターと対峙していた。

 名前はメギラグアルボン。ふんからグアル草の生えるグアルボンの仲間みたいな名前をしているが、見た目が少し似ているだけで別の種族。


 伸びる舌で攻撃を繰り出し、カエルそっくりの見た目なのに俊敏性に優れているため、なかなか近づけない。


「みっ! みみみっ! みみっ!! みみみみみっ!! みみみみぃぃぃっ!!!」


 相変わらず、天才的な回避能力を見せる芽衣。

 2秒に1度伸びて来る舌を、全て華麗に躱す。

 隠し部屋の包囲戦でも見せていた回避能力の高さだが、いつの間にか『瞬動しゅんどう』の使うタイミングが冴えを増しており、メギラグアルボンの攻撃程度ならばかすりもしない。


「芽衣さんや。攻撃しないと勝てないよ?」

「みみみっ! 無理言わないで欲しいです! 近づくのは無理です! 危険です!!」


 この子にはまず、自信を付けさせなければならない。

 六駆は助言を与える。


「『貸付槍レンタランス』は煌気オーラを込めたら伸びるから! しっかりカエルを狙って伸ばしてごらん!!」

「わ、分かったです!! みぃぃぃぃっ!!」


 凄まじい勢いで伸びた『貸付槍レンタランス』は、メギラグアルボンの体を貫いて、そのまま反対側の壁まで到達した。

 何と言う煌気オーラの無駄遣い。

 だが、無事にひとりでモンスターを倒した事実を芽衣に認めさせるのが先決。


「ほら! 芽衣だって普通に戦えば勝てるんだから! その調子だよ! よし、続いてやって来た、ダチョウみたいなヤツもやつけよう!!」


「みみみっ!? 無理です! 『幻想身ファントミオル』!!」


 芽衣が7人に増えた。


 まだ教えたばかりの『幻想身ファントミオル』で6体の分身を作り出す芸当には、相当なセンスが求められる。

 芽衣の「絶対に避けるです」と言う気持ちが、回避スキルと驚異的な相性の良さを見せ始めていた。


「……ん?」


 弟子たちの戦いを見ながら、六駆は少し首を傾げた。


 なにやら、煌気オーラの揺らぎを下の階層から感じる。

 攻略パーティーが戦闘をしているのかと彼は考えたが、思い出してほしい。


 日須美ダンジョンの最深攻略地点は第12層。

 ここは既に第14層。

 留守にしていた3日間のうちにどこかの攻略パーティーが記録を更新したのかもしれないが、それにしては煌気オーラの揺らぎの数が多かった。


 まあ、下に行けば何なのか分かるだろうと、六駆はさして気にしない。

 それからも弟子たちを戦わせて、イドクロアが出たらせっせと回収。


 そうしているうちにモンスターの群れは一掃されており、自分の弟子たちの成長を感じて六駆は満足していた。


 下の階層に何かがあるかもしれないと言う危惧は、するりと彼の脳裏から抜け落ちていく。

 これもまた、いつもの事である。


 だが、着実に危機が迫っていた。

 それも、チーム莉子だけではなく、探索員協会を揺るがすほどの危機が。

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