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攻略再開 背中に輝く莉子の文字 日須美ダンジョン第10層

 月曜日。

 本日も探索員としての職務を学校に申請して、公欠扱いで日須美ダンジョンに向かう六駆と莉子。

 御滝市に住んでいる事が分かった芽衣とも、駅で待ち合わせ。


 六駆は誰かと一緒じゃないと電車に乗る事ができない。

 これまでは莉子しか頼れる相手がいなかったが、芽衣も同じ市内に住んでいるとなれば、その選択肢は広がる。


 精神年齢46歳が女子中学生を頼るのはどうかと言う議論はしない。

 今さら何を言っているのかと諸君も思われる事だろう。


 逆神六駆はそういうおっさんである。


 日須美西駅の前には、朝の9時にも関わらずクララが既に3人を待ちわびていた。

 彼女のプライベートは一切が謎のままだが、とりあえずパーティーの中で自分以外が御滝市在住という事実はクララのぼっちをまたひとつ高みへと押し上げている。


 こちらに関しても敢えて多くは語るまい。

 クララがぼっちなのは、どう足掻いても変わらないのだから。


 日須美ダンジョンの良いところ。徒歩数分の距離にセブンイレブンがある。

 今日もしっかりと飲食物を買い込むチーム莉子。

 支払いはクララが「あたし先輩だから! 任せるにゃー!!」と張り切って引き受けた。


 その姿がなんだか必死に見えて、莉子は「クララ先輩のTwitterにいいねしとかなくっちゃ」と、スマホを取り出したと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おはようございますぅ、チーム莉子のみなさん! いやぁ、今日もステキな朝ですね!! ご注文の装備、届いておりますよ! ご確認ください!!」


 本田林は粛々と自分の出番をこなす。

 彼の持って来た箱の中には、芽衣の新装備が入っていた。


「不備がないかご確認ください! 木原様にとってもお似合いだと思いますよ!!」


 本田林はそう言うと「もうひとつ持ってきますね!」と事務所に小走りで向かう。

 その間に、莉子とクララのファッションチェックがスタート。


「可愛いっ! やっぱりスカートの丈を超短くして、スパッツ見せるスタイルにしたの正解ですね! 健康的な印象がとってもステキです!!」

「うむうむ! ジャケットもノースリーブにして、腕のパーツとの間に隙間を作ったところが品のあるセクシーさを醸し出してるにゃー!!」


「芽衣のためにすみませんです。ダンジョンで倒れる時は、この装備で息絶える事にするです。このご恩は来世まで忘れないです」


 六駆も莉子に「ほーらぁ! 六駆くんも何か感想!!」と促されたので、「すごくいいね! 太ももに『注入イジェクロン』のナイフ刺しやすそう!」と言ったところ、リーダーにぺしんと叩かれた。

 彼に女子のファッションを正しく褒めろと言うのは、酷な注文である。


「お待たせしました!! 逆神様のマントも新調されたものが届いております! これは素晴らしいですよ! ご確認くださいまっせぇ!!」


「ふぇ? 六駆くん、マント作り直したの?」

「いや、なんか汚れが目立つから、綺麗にしてって本田林さんに頼んだら、せっかくだから少し進化させましょうってことになってね。で、何が変わったんですか?」


「ご覧ください! 背中の莉子の文字周りをラメで加工しておきました! これでチーム莉子の名前はさらに目立ちます!! このラメ、ただ光るだけじゃなくて、電撃を吸収する効果も加わっているんですよ!! 例の貴重なイドクロア! 隠し部屋にあったんでしたっけ? 全部使っておきました!!」


「おお、それはすごい! ありがとうございます!! ん? 莉子、どうしたの?」

「どうしたのじゃないよぉ! どうしてわたしの名前が光るようになってるのさぁ!?」



「いや、莉子にはお世話になりっぱなしだからさ! 恩返しみたいな?」

「六駆くん。恩を仇で返すって言葉を知ってるかなぁ?」



 その後、莉子に5分ほど怒られた六駆。

 残りのパーティーメンバーと本田林は3人並んで「ああ、なんだか微笑ましいなぁ」と、少し心が温かくなったらしい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 日須美ダンジョン第1層は、今日も新人探索員で溢れている。

 そんな中、六駆は地面に手を当てた。


「じゃあ、いきまーす。『ゲート』っ! あいたっ」

「いっちゃダメだよぉ! 人目を気にして!! こんなところで『ゲート』出したら大騒ぎになるでしょ!!」


 莉子の言う事はだいたい正しい。

 六駆は「なるほどなぁ」と聡明な彼女に感心した。


「じゃあ、煙幕でも出そうか?」

「六駆くんの出す煙幕って大丈夫かにゃー? 毒とか麻痺とか誘発しない?」


「あ、ただの煙幕もありますよ! やっぱりそっちの方が良いですか?」

「逆神師匠。無差別に通りすがりの人に状態異常を与えちゃダメです」


 六駆は「これは僕としたことが、失敗しちゃった!」と舌を出す。

 いつものように莉子を少しイラっとさせたところで、彼は『灰被り(アシュカバル)』を使用。


 彼のスキルにしては珍しく、高濃度のもやを発生させるだけのシンプルなもの。

 だが、ダンジョンの中にはもやの出る場所も多いので、そのシンプルさが逆にピンポンであった。


「では、改めて! 『ゲート』っ!! おっ、日須美ダンジョンは天井高いから、ちゃんと全部出たよ! ささ、みんな、どうぞおはいんなさいよ!!」


 『門』を抜ければそこは第10層の『基点マーキング』ポイント。

 まったく、楽をする事にだけは抜け目のない男である。


「今日で一気に最深部まで潜りたいな! ねぇ、莉子?」

「そだね! 行けるかは分かんないけど、行こうと思うのは大事だよ!!」


「芽衣ちゃん? そんなに緊張しなくても、平気だにゃ! 新しい装備で防御力も上がってるし、ピンチの時はお姉さんの後ろにいると良いぞなー!」

「椎名先輩は頼りになるです。いざと言う時は迷わず盾にさせてもらうです」


「えっ。あ、うん。……今、ナチュラルに盾って言われたにゃ」


 こうしてチーム莉子は攻略を再開させる。


 第10層のそれなりに手ごわくなってきたモンスターを、莉子が『斧の一撃(アックスラッシュ)』で叩き割り、クララが『フレイムサンダルアロー』で焼き払う。

 芽衣は芽衣で、『瞬動しゅんどう』を使いまくってモンスターの攻撃を避け続ける。


 3人が着実にレベルアップを繰り返しながら、いよいよ階層は11になろうとしていた。

 御滝ダンジョンでは、人工竜・リノラトゥハブが待ち構えていたのが第11層。

 現状、最深攻略地点が第12層なので、今回はいきなりボス戦とはならないはずだが、いつどんな脅威が襲い掛かって来るか分からないのがダンジョンである。


「次の階層で、莉子と芽衣は新しいスキルを覚えてもらおうかな。多分、2人とも指のリングのスキルは習得が済んでると思うから」


「えっ!? ホントに!? 新スキルの話は聞いてたけど、こんなに早く教えてもらえるんだぁ! えへへ、ちょっと楽しみだな! ね、芽衣ちゃん!」

「回避系スキルでお願いするです! 回避系スキルでお願いするです……!!」


「芽衣ちゃん? クララパイセンのスカートを引っ張るのはいいけど、それ以上力を入れられると脱げちゃうから、手加減して欲しいにゃー?」


 チーム莉子のコンディションは抜群。

 これは本当に最深部到達もあるかもと期待せずにはいられない。

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