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日常 最強の男の弱点は現実社会の全て

 日須美ダンジョンの攻略初日は木曜日だった。

 芽衣の装備ができるまで、3日ほどかかる。


 よって、翌週の月曜日には再びダンジョンに潜ることになる。

 学校を公欠扱いで休めるため、この曜日の並びは理想的だった。

 金曜日、つまり今日だけ学校に行けば土日は家に引きこもる事ができる。


 だが、その1日すらも頑張れない男がここにいた。


「ちょっとぉ! 六駆くんってばぁ! どうしてわたしが毎日迎えに来ないといけないのかなぁ!? わたしは君の、か、かか、彼女じゃないんだよぉ!?」


 自分で言っておいて、なんだかまんざらじゃない表情の莉子さん。

 ああ、もう手遅れなのか。


「今日は無理! だって、6時間目まで授業があるんでしょ!? 無理だよ、無理! ああ、そうだ! なんかダンジョンで受けた傷が痛む!! そうだ、そうだ!!」


「怪我ってそんな急に思いついて痛みだすものじゃないでしょ!? って言うか、六駆くん怪我しないじゃん! リノラトゥハブと戦った時にやっと擦り傷つくったくらいじゃん!! もう少し上手な言い訳を考えてよね!」


「嫌だ!! 1回行ったから、もう良いじゃないか!! 清水の舞台から飛び降りる覚悟で行ったんだ! あんな覚悟、そんなにほいほい出せやしないよ!!」


 六駆の言い方だと、世の中の学生は毎日清水の舞台から飛び降りている事になる。

 全国の学生諸君を尊敬しながら、さっさと舞台からノーロープバンジーをすると良い。


「お父さん! おじいちゃん!!」


「よし来た! 任せとけ、莉子ちゃん!! 今日は布団から出してみせるぜ!」

「ワシじゃて、たまにゃあ孫の尻くらい叩けるぞい!!」


 この風景を見る度に、本当にこの人たちは異世界を平定したのかと疑いたくなる。

 諸君におかれましては、もうしばらく茶番にお付き合い頂きたい。


「喰らえ! 『発破岩弾ブラストブラスター』!!」

「大吾は爆発か! ならばワシは! 『水龍霜柱すいりゅうしもばしら』!!」


「僕は絶対に布団を守る!! 『監獄囲い(プリズンブロック)』!!」


 逆神家三代の不毛なスキル合戦は、本日も六駆に軍配が上がった。

 それを見届けた莉子は、六駆と再度交渉する。


「出て来てくれたら、学校の帰りにマクドナルドで好きなもの食べて良いよ! 六駆くん、ひとりじゃ注文できないでしょ!」


 すると、布団から顔だけ出して、六駆は尋ねた。


「……ホットアップルパイと、それからマックシェイクも注文していい?」

「もぉ! いいよ! マックフルーリーも買ってあげるからぁ! 急がないと、遅刻しちゃうよぉ!!」


「……じゃあ、今日だけだからね?」


 おっさんの登校拒否シーンだけで尺を使い過ぎである。

 いい加減にしろ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そして放課後。

 マクドナルドにて、六駆は笑顔でスイーツを頬張る。

 それを見ながら、莉子は深刻なため息をついていた。


 原因が目の前の甘いもの大好きおじさんであることは、諸君もお察しの通り。


 放課後になるやいなや「ねぇ、莉子! 早くマクドナルド行こう! こんなところに居たくないんだ! 早く人のいないところで2人きりになろう!! ねぇ!!」と大声で要求した六駆。

 クラスメイト達に「微笑ましいなぁ」と温かい目で見られた莉子。


 六駆だけでなく、莉子まで学校に行きたくなくなりつつあった。


「あ、そだ。クララ先輩と芽衣ちゃんが合流したいって、さっきメッセージが届いたんだけどさ。六駆くん……やっぱりいいや」

「なに? どうしたの? ちょっと、お願いだから僕をこんなところで独りにしないでよ!? トイレは3分以内に帰って来てよ!! 絶対だよ!!」


「もぉ! だからやっぱりいいって言ったのにぃ! 周りの人から向けられる視線が痛いんだよぉ! 六駆くん、声が大きいんだから!!」

「それは多分、莉子が可愛いからだよ! 間違いない! 僕も一緒に居られて鼻が高いもの!!」


「えっ? そ、そうかなぁ? も、もぉ! シェイクのおかわり買って来てあげてもいいよ? もぉー!! 六駆くんはわたしが居ないとダメなんだからぁ!」


 莉子さんの症状がここのところ実に深刻である。

 速やかにしかるべき処置をしなければ、手遅れになるやもしれぬ。


 それから30分後、クララが芽衣を連れて入店して来た。


「やほー! おおー! 2人の制服姿! 新鮮だにゃー!!」

「どうもです。まさか、お二人も御滝市に住んでいたなんて、驚きです」


 実は、芽衣も御滝市に住んでいる。

 実家は東京なのだが、探索員になるために協会本部に近く、かつ近隣に多くのダンジョンがある御滝市へと引っ越してきていたのだ。

 現在は親戚の家に下宿している。


「芽衣ちゃん! 制服姿、かわいいー!! ルルシス学院なんだね! 名門私立!!」

「おじ様が転入の手続きをしてくれたです。一応編入試験は合格したけど、多分知らないところで裏金とかが飛び交っていると思うです」


 芽衣は現実世界でもしっかりネガティブ。

 さらに、莉子はクララの私服の感想をしっかりとスルー。

 クララは今日もガッツリぼっち。


「すごいなぁ、芽衣さん。ひとりで知らない土地の学校に通えるなんて。尊敬しますよ。ホントに」

「……逆神師匠? なんかダンジョンの中と雰囲気が違うです?」


「いや、僕なんかはもう、アレですから。路傍の石ころ。こんなオシャンティーな場所で発言する事すらおこがましいです。へへっ」

「六駆くん、ヤメて! なんか新しい卑屈なキャラにならないで!! いちいち対応するの大変なんだよぉ!?」


 無視すればいいのに、大変な対応をする気満々な莉子さん。

 極めて重症である。


 クララと芽衣もハンバーガーのセットを注文して、テーブルにつく。

 芽衣はポテトをげっ歯類のようにサクサク食べて、その場の空気をほっこりさせた。


「やー! ダンジョン攻略がないと暇でさー! 大学行ってもやる事ないしー! 家でずーっとマインクラフトばっかりしてるのも飽きたんだよにゃー」


 六駆と莉子は「「あ。この人、大学に馴染めないで留年するタイプだ」」と察したと言う。

 芽衣が大学生になる時分、クララはまだ大学生かもしれない。


「逆神師匠。芽衣はダンジョンに潜るのが不安でハンバーガーが喉を通らないです」

「大丈夫だよぉ! 六駆くん、頼りになるからさっ!」


「へへっ。すいやせんねぇ。ダンジョンでは働きますんで。へへっ」

「芽衣はそこはかとなく不安が増大していくです」


「そうそう。莉子と芽衣は、次の攻略用に新しいスキルの入ったリング用意しておくからね。サクッと今のリングのスキルは習得してもらわないと困るな!」


 ダンジョンの話になると少し元気になる六駆。

 さっきまでの体たらくを見ていると、その発言に説得力はまるでない。


「わぁ! おじいちゃんにお礼言わなきゃだね!」

「芽衣も1度、逆神師匠のお宅にうかがってご挨拶しなくちゃです」

「おおー! いいねー! じゃあ、次は六駆くんの家でおしゃべりするにゃー!!」


 自宅以外はアウェーな六駆にとって、ホームに仲間が来てくれるのは願ってもない事だった。


「いつでも歓迎するよ!」


 そう答える六駆の顔は、今日一で輝いていた。


 束の間の休息で体力と気力を充填したチーム莉子。

 六駆に関しては気力をすり減らしているが、ダンジョンに入れば元気になるので問題ない。


 さあ、攻略再開である。

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