Bランク探索員・山嵐助三郎再び 日須美ダンジョン第10層
体力と煌気を回復させて、チーム莉子は更にダンジョンの奥へと進む。
第9層も問題なくクリアして、目の前には第10層への道が現れた。
「今日はこの辺りで引き上げるのも良いかもしれないね。芽衣の装備も作りたいし」
「みみっ。逆神師匠、芽衣のために……。優しさで溢れているです」
六駆の言葉を受けて、莉子とクララがアイコンタクト。
今回はクララが発言するらしい。
「本当のところは? もう分かってるけどねー」
「さっきの隠し部屋のイドクロアが絶対に高価だと思うので、さっさと換金して家に帰ってドラマの再放送見ながら注文したピザ片手にだらけたいです!!」
清々しいほどの本音だった。
溢れているのはほんの少しの優しさと、それをはるかに凌駕するいやらしい考え。
「もうちょっとだけ頑張ろうよぉ! せっかく回復もしたんだからさ! ほら、次が第10層でしょ? キリもいいし! あと、なにか貴重な出会いがあるかもだよ!? 強いモンスターとか! 貴重なイドクロアとか!!」
「うーん。まあ、莉子がそう言うなら。ぶっちゃけ、『直帰』使えばどこからでも第1層に戻れるしね。それじゃあ進もうか」
「やったぁ! 確か、最深攻略地点が第12層だったから、もうすぐ追いつけるよ!!」
「そう言えば、第4層以降、探索員とまったく出会わないね。攻略パーティーもいるんだから、どこかで遭遇してもおかしくないのに」
芽衣が控えめに六駆の疑問を解消する。
「多分、攻略パーティーの皆さんは、【転移黒石】を持ってるんだと思うです。あれを使えば、地上と最深攻略地点との間は簡単に往来できるです」
「それはなんだっけ?」
諸君も多分、六駆と同じように疑問を持たれた事だろう。
かつて、ほんの少しだけ触れた【転移黒石】について解説しよう。
優れたBランク以上の探索員に協会本部が貸し与える、瞬間移動を可能にするイドクロア加工物であり、それを持つことは優秀なパーティーと名乗る事のできる一種のステータスにもなっている。
数に限りがあるため、「くださいな!」と言って「あいよ!」と貸与されるものではない。
だが芽衣の推察通り、日須美ダンジョンの攻略パーティーの何組かは【転移黒石】を所持しており、彼らは疲労を覚えたら気軽に帰還できるし、後日速やかに探索を再開する事も可能である。
ズルい? それは違う。
そこまでのランクに到達するまでは、それなりの苦労と努力の積み重ねが必要なのだ。
「まあ、六駆くんは知らなくてもいいよ。だって、『門』で同じことやってるもん」
「ああ、そうなの? じゃあ別にいいや。あんまり興味ないし」
むしろ、このおっさんの方がズルい。
六駆も異世界で相応の努力をしたから千を超えるスキルを身に付けているのだが、それを現世に持って帰って来て強くてニューゲームするのは、やはり何となくズルさが匂い立つ。
主人公がズルいとか、イメージが悪いのでヤメて欲しいものである。
雑談をしながら第10層へと下りてきたチーム莉子。
そこで、ついに攻略パーティーと鉢合わせをする。
噂をすれば影が差すと言うが、この場合は噂をしたちょっと前の自分たちを悔やむ事となる。
バッドエンカウントのお時間がやって来た。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「いいか! 実力がない者はすぐに除隊だからな! 俺のパーティーは弱者を必要としていない! どんな強者にだって、数の力があれば勝てる! 優秀な駒こそが勝利への近道だ! それでは、行くぞ! 山嵐組、出動!!」
山嵐助三郎。
かつて御滝ダンジョンにて莉子とクララを罠にハメた、ソフトモヒカンのよく似合う小悪党であった。
彼はその際、御滝ダンジョンで「穴場だと聞いてやって来た」と言っていた。
なるほど、ホームタウンは日須美市だったのか。
日須美ダンジョンの攻略パーティーのひとつは、彼がまとめる山嵐組だった。
「うげぇー。なんか見覚えのある頭がいるにゃー」
「うわぁ。ホントですね。なんだか嫌なこと思い出しちゃいましたよぉ」
その山嵐組に気付いた莉子とクララが、顔をしかめる。
莉子の顔をそこにいるというだけで曇らせる事ができるのは、なかなか稀有な存在である。
山嵐は胸を張れば良い。
そして、彼もチーム莉子が階層に下りてきたことに気が付いた。
「げぇぇぇぇっ!? あ、あいつら!! どうして日須美にいるんだ!? ぜ、全員、俺を中心に隊列を組め!! 緊急迎撃態勢だ!!」
チーム莉子を見るなり、すぐに攻撃を仕掛けようとしてくる山嵐。
お変わりないようでなんだか安心する。
「あれ!? 鼻嵐くんじゃないか! 生きてたんだね! いやー! この前はごめんね、色々と! 僕もさ、あれはちょっとやり過ぎたかなぁって反省してたんだよー! いやいや、ホントに元気そうで安心したよ! なに、ここで攻略の準備? 奇遇だねぇ!!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!? ぜ、全員、シールドを展開しろぉぉぉ!!!」
六駆と山嵐の温度差がすさまじかった。
山嵐にとって、六駆は自分を半殺しにした悪魔。
ならば、姿を見た瞬間に身を守ろうとするのも納得の行動だった。
六駆くん、君は本当に、色々なところで悪魔扱いされているな。
「そんな構えなくても良いじゃない! お互い、この前の事は水に流すってことでさ! 同じ探索員なんだし、仲良くフェアプレーでやっていこうよ!」
歩み寄りを見せる六駆。
これこそ、おっさんの寛容さ。珍しく懐の深さを見せつけている。
なお、物理的にも歩み寄って来た事で、山嵐の精神が早々に限界を迎えた。
「がっ!! 『ガイアスコルピウス』!!」
いきなり土を圧縮したバリスタで巨大な土塊を撃って来る山嵐。
よくないヤンチャに寛容な精神を見せていた六駆おじさんもちょっとイラっとする。
「これは、避けたら後ろが危ないな。うん。『鏡反射盾』、広域展開!!」
数多く持つ盾スキルの中でも、六駆は『鏡反射盾』を気に入っている。
これは相手の攻撃をはね返す盾を構築するものだが、その姿は三面鏡のようになっており、3つの角度から3倍返しができる。
なにより、相手が撃って来たスキルをはね返すので、六駆の消耗がほとんどないところがステキである。
「ひぃぃぃぃぃっ!? あぎゃあぁぁぁぁっ!!」
こうして、山嵐組は再び壊滅的な被害を受けた。
六駆はため息を吐いてさらに彼らに近づいた。
「何がしたいのかね、君は。あのね、何もしてない人にいきなりスキル撃っちゃダメでしょ? そんな事、みんな小学校で習うよ?」
自分の記憶にはないくせに、よくもまあ、いけしゃあしゃあと。
「ヘイ。どうした、助三郎。激しい音が聞こえたが?」
「あ、兄貴ぃ! 助けてくれぇ! 悪魔が! 悪魔が来たんだよ!!」
よく自分の責任でトラブルに巻き込まれる六駆だが、今回は珍しく、ここまでまったく彼に非のない展開。
まあ、たまにはそんな事もあると諦めてもらおう。