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懐かしの現世 攻略報酬は? 御滝ダンジョン探索課事務所

 ミンスティラリアの異界の門をくぐると、御滝ダンジョン第12層へと繋がる。

 それは当然のことなのだが、莉子にとっては不思議な感覚だった。


 おおよそ40日もの時間を異世界で過ごしていたのに、ダンジョンの中は記憶に残っている景色のまま。

 ボーっとしていると、ダンジョンからミンスティラリアへ続いていた通路がゆっくりと消えていく。


 シミリートが「英雄殿たちが帰られたら、こちらから異界の門を潰しておくので安心したまえよ」と言っていたので、約束を果たしてくれたようであった。


 第11層に上がって来ると、人工竜、正式名称リノラトゥハブを撃破した痕跡が、まだそこに克明に刻まれている。

 六駆の放った『紫電の雷鳥(トニトルス・パープル)』で出来た大穴からは、未だに焦げ臭さが漂っており、その事実は莉子とクララに「本当にまだ現世では数分しか経っていないんだ」と感じさせ、フワフワとした感覚がより強くなった。


「2人とも、大丈夫? 異世界酔いするよねー。僕も初めての時は困ったもの!」

「この感じ、異世界酔いって言うんだ? なんかヤな響きー」

「アパートに帰ったら、誰もいない部屋にただいまって言うんだね……」


 2人のメンタルが安定するまで、六駆はしばしの休憩を提案した。

 時計を見ると、夕方の5時を少し過ぎた時分。

 8月の空はまだ明るい。


「わたしたち、本当に異世界に行ってたんだね。異世界って六駆くんから聞いてはいたけど、おじさんの適当な作り話みたいに感じてたから、なんだか現実感がなさ過ぎて」


 莉子さん、ナチュラルに六駆をディスる。


「まあ、気持ちは分かるよ。さっきまでケモ耳生やした異世界人とやんややんや話してたのが、急に静かなダンジョンに戻ってきたから、落差はあるよね」


「ああー! せめてミンスティラリアが隣町くらいの距離にあれば良いのに! あたしをチヤホヤしてくれたトカゲのお兄さんとか、ナマズのおじいちゃんとか!! ニャンコスさんとかぁ!! あんなに慕われたの生まれて初めてだったのにー!!」


 莉子とは違うベクトルでクララも異世界からの帰還で心を不安定にしていた。


「まあまあ。また別のダンジョンを攻略すれば、新しい異世界にも行けるよ! そんな事より、まずは攻略報酬だよ! 2千万! 2千万!!」


「うわぁ。六駆くんがお金に汚いおじさんの顔になってるー」

「何を言うんだ、莉子! 世の中お金が全てじゃないけど、お金がないとお金で買えないものはもちろん、お金で買えるものも手に入らないんだよ!!」


 六駆の言う事は正しいし、ある意味では社会の本質を捉えていたが、穢れを知らぬ10代の乙女たちには響かない。

 その手の欲に満ちた話は、逆神家に帰ってからするのが良いだろう。

 多分、相当な盛り上がりを見せるはずである。


 あの家には、魂の穢れた人間しか住んでいない。


 それから30分ほど第11層でのんびりと過ごし、時に気の向くままにスキルを撃ったりしていたら、莉子の心も落ち着いて来た。


「よぉし! 本田林さんのところへ報告に行こー!!」

「そうこなくっちゃ! 1人頭、666万円!! いつ振り込まれるのかな!?」

「お金で友達は買えないんだよにゃー」


 六駆の『直帰リターナル』でダンジョンの入口付近に移動。

 チーム莉子、堂々の凱旋を果たす。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「えええっ!? ダンジョンの最下層まで攻略されたのですか!?」


 本田林、久しぶりの登場でナイスリアクションを繰り出した。

 彼は自分の役割がよく分かっている。


「ええ! それはもう、苦難の連続でした! だけど僕たちは諦めなかった! 襲い来るモンスターたちを斬り伏せては進み、這いつくばっても前へ、前へ!!」


 莉子とクララは「この人、よくそんな口から出まかせがほいほい出てくるなぁ」と冷たい視線を向けて、現世へ戻ってきた実感を得ていた。


「素晴らしい! それで、異世界のイドクロアは何をお持ちになられましたか!?」

「ああ、それが、ダンジョンの最下層、行き止まりだったんですよね」


「えっ。行き止まり、ですか? あ、ああー。そう、ですか……。ああー……」


 明らかに気まずそうな本田林を見て、六駆は嫌な予感がした。

 気のせいであってくれと願えば願う程に、一度芽吹いた悪しき想像はぐんぐんと成長していく。


「本田林さん? あの、2千万は?」

「申し上げにくいのですが、異世界に通じていないとなりますとですね、あのぉー。攻略報酬の桁が減ると申しますかー。そのぉー。恐らく、出ても100万円が限界かと思われまして……」



「死のう」

「ちょっとぉ、六駆くん!? 顔から倒れたけど、大丈夫!?」



 六駆にとって、2千万の攻略報酬は心の支えだった。

 「現世に帰れば2千万!」というバラ色の未来が、ミンスティラリアでの彼の活躍の根源であり、エネルギーの元であり、活力そのものだった。


 それを失った今、彼の心には張り切った分だけのお勘定が押し寄せる。

 あれだけの仕事をして、1人頭33万円。

 あまりにも割が合わない。


「六駆くんってばぁ! うわっ、すごい勢いで鼻血出てるけど!? もぉ! ハンカチあげるから、押さえて!」

「これは重症だにゃー。あんなに生き生きしてたのに。あたしは六駆くん見てたら、ちょっと元気出てきたかも!」


 本田林は、「この人たちに今話しかけても平気かしら?」と怯えながらも、自分の職務を遂行する。


「ええと、記録石をお預かりしても? もしかしたら、本部の解析で何か見つかるかもしれませんし! 異世界の入口を見落としているかも!!」


 本田林の励ましに、鼻血をダバダバ垂れ流しながら六駆は短く答えた。


「そんな事はないんですよ。絶対に」


 シミリートの仕事ぶりを一番評価していたのは、他ならぬ六駆である。

 彼が認めた異世界の科学者が、万が一にもミスなどしているはずがない。

 そもそも、ミスがあったとしたら、2千万円ゲットの前に協会本部から横やりが入るので、それはそれで骨折り損になる。

 どう足掻いても六駆の求める隠居のための資金は手に入らないのだ。


 3人は記録石を提出して、更衣室で着替えて帰路に就く。


 本田林は「やっぱあの人たちやべー。もう攻略しちゃったよ」と、畏敬いけいの念とドン引きを重ね合わせながら、記録石を解析装置に乗せて、本部へとデータを転送した。


「ほらぁ、帰るよ、六駆くん!」

「……死にたい」

「あっははー! これはまた、ものすごいへこみ方だにゃー」


 元からポッキリ折れていた六駆の心をさらにへし折った悲しき現実。

 複雑骨折をした心は癒されるのか。


 六駆が再び立ち上がるまでに、夏休みを全て消費する事になるのだが、その前チーム莉子を取り巻く環境に変化が訪れるのだった。

「なかなか良かった!」

「続きが気になる!」

「更新されたら次話も読みたい!」


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