現世への帰還 記録石の改ざん成功
六駆と莉子は仕事をしているのに、クララはどうした。
もしや、先の戦でどこかを負傷したのか。
そんな心配の声を上げる、全世界50人のクララファンの諸君、ご安心めされよ。
「リーチ! ふっふっふー! またあたしが勝っちゃうかにゃー!」
「甘いのじゃ、クララ! それ、ロンなのじゃ!」
「あちゃー! ファニちゃんにやられちったー! 狙われていたのかぁー」
「クララの打ち筋はもう覚えたのじゃ! 妾をいつまでも甘く見ているからいけないのじゃ!!」
ご覧の通り、普通に毎日ファニコラと遊んでいた。
ミンスティラリアはクララにとってあまりにも居心地がよく、ついでにこの世界では六駆が戦闘以外でも頼りになるので、頼りっぱなしにしておけば万事解決。
好き放題に過ごしていても誰にも咎められないし、現世と違ってここには友達もいる。
下手すると「あたしはここで別れるよ!」とか言って、パーティー離脱イベントが発生するくらいにクララはミンスティラリアに馴染んでいた。
一方、その頃。
すっかり働き者になった六駆おじさん、今日も頑張っている。
この時点ではまだ名無しの新エネルギー粒子、のちのリコニウムを大気に循環させる日がついにやって来た。
魔王軍直属・魔技師分室室長と言う、なんだかよく分からないけど偉そうな肩書を無理やりダズモンガーに押し付けられたシミリート。
国の全域に影響を及ぼすプロジェクトをほぼ独りでこなしている彼を、一介の村人にしておくのは体裁が良くないと判断した、親友からの配慮だった。
彼もその意は理解しているので、不承不承で親友の気持ちを汲んでいた。
「シミリート様。新エネルギーの核の設置、完了いたしました!」
トンバウルが駆け足でやって来て、敬礼ののち告げた。
「様はやめてくれないか。私は君よりもずっと矮小な生き物だよ。研究することしかできないのだから」
「シミリートさん、諦めましょう。僕なんか、知らない間に神様扱いですよ」
「わたしもですよぉ! いつの間にか、戦いの女神とか呼ばれてます! ふぇぇ」
「くくっ。お二人にそう言われると、なるほど。返す言葉がない」
莉子の煌気とシミリートの調合した魔素のエネルギーを凝縮させ、核に閉じ込めたものが巨大なフラスコの中に揺蕩っている。
上空には、今日も太陽の隣にミンスティラリア全土から吸い出した魔素の塊が浮いている。
全ての準備は整い、ここからは英雄の仕事である。
「それじゃあ、やりますよ。まずはこの核を魔素と融合させますよっと」
六駆が何をするのか、集まった魔王軍の魔技師、さらには護衛団の兵士、見物に集まった住人たちが息を呑んで見守る。
「ふんっ!!」
何か高度なスキルが使われると思っていたその場に集う全員の期待を裏切って、六駆は普通に核を手づかみで拾うと、上空の魔素溜まりにぶん投げた。
「ええ……」という戸惑いの声が漏れたと言う。
「いきます! 光るのでじーっと見てると目が痛いですよ! では、『解放』!!」
巨大なエネルギーの塊が、六駆の指の動きに合わせて渦を巻き、彼の手の平がパッと開かれた瞬間に四方八方へと光の粒子を撒きながら霧散していった。
「ふむ。さすがは英雄殿。では、誰か。君でいいか。魔法を使ってみてくれるかね」
「じ、自分でありますか!?」
彼の名前はオポチョ。
トンバウル軍の若い兵士で、「この戦いが終わったら、故郷に帰って母さんの作ったシチューを食べるんだ」という死亡フラグを有言実行して見せた男。
オポチョは控えめに手をかざして「『フレアボール』!」と叫んだ。
美しい火球が上空へと放たれ、それは実験の成功を告げる祝砲となる。
リコニウムの生成に関わった、六駆、莉子、シミリート。
そしてこのオポチョの名前は、トンバウルが後世に残すべく執筆した人族武装蜂起顛末記に名前を遺し、遠い未来まで語られることとなる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
さらに数日が経って、シミリートが珍しく魔王城へやって来た。
それは、チーム莉子にとっての朗報だった。
「えっ!? できたんですか!? 記録石の改ざん!」
「わぁ! すごい! シミリートさん、ありがとー!!」
「ええ……。もうできたのかにゃー。あと2年くらいかかれば良いのに……」
チーム莉子は三者三様に喜びを表現した。失礼、約1名、既に心を病んでいる。
まさか六駆よりも先にダメになるとは、クララの秘めたるポテンシャルも凄まじい。
「うぇぇぇ……。帰ってしまうのか、六駆殿! 莉子ぉ! クララぁ!! 妾は寂しいのじゃあ!!」
「魔王様、六駆殿たちを困らせてはなりませぬ。このお方たちは、本来この世界に来るはずがなかったにも関わらず、我らを救って下さったのですぞ! お帰りになられる時には、笑顔で万歳。それが我らにできる精一杯のお礼でございます!!」
莉子とクララにすがりつくファニコラ。
気付けばミンスティラリアでチーム莉子が過ごした時も、1ヶ月と12日。
心は小学生女児のファニコラが寂しがるのも無理はなかった。
そこでミンスティラリアに来てから完全に頼れる師匠ポジションを確立した六駆が、またしても粋な計らいを見せる。
「ダズモンガーくん。謁見の間にさ、ちょっとスキル使ってもいい?」
「はっ? ははっ! 構いませんぞ! 六駆殿のなさることでしたら!!」
「それは良かった。『基点』!」
六駆がペシンと叩きつけた煌気の塊は、楕円形の痕を壁につける。
その場にいる全員が首を傾げたが、莉子が最初に反応した。
「わぁ! 六駆くん! これって、『門』の! ……もぉ! そーゆうとこ、わたし大好き!!」
「あらら、莉子から大好きを頂戴してしまった。ええと、皆さんにも説明しときますね。これは『基点』と言って、僕の移動スキルのチェックポイントなんですよ」
彼は説明を続けた。
この『基点』がある限り、ミンスティラリアと現世の往来が『門』により容易にできる事。
だから、会いたい時に会えるので、寂しくはないという事。
「六駆殿ぉ! 妾、そっちの世界に遊びに行っても良いのか!?」
「良いんじゃないかな? ファニちゃん、コスプレした小学生だって言っても通じそうだし。ダズモンガーくんは着ぐるみって事で押し通そう!」
「良かったね、ファニちゃん! 今度は現世の案内をわたしがしてあげるね!」
「ああ……。これで完全に帰る流れだにゃー……。さよなら、あたしのパラダイス」
シミリートから記録石を受け取った3人は、それを元の場所にはめ込む。
こうなれば、現世に戻らなければ。
異世界とは繋がっていなかった事になった記録石だが、ダンジョン攻略完遂の事実は消えていないため、攻略報酬を受け取れる。
一体いくらになるのだろうかと考えるだけで、六駆の口からはよだれが垂れる。
頼りになる六駆おじさん、終了のお知らせ。
そんな悲しい事実を莉子は知らないまま、ミンスティラリアに一先ずの別れを告げた。
さらば、異世界。
チーム莉子、現世へと帰還する。
「なかなか良かった!」
「続きが気になる!」
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