まさかの知っている異世界に到達 ミンスティラリア東の果て
異世界、ミンスティラリア。
17年前までは、人族と魔族が長い戦い、実に数百年にも及ぶ不毛な争いを続けていた。
両陣営ともに疲弊しきっており、戦力は200年ほど拮抗状態。
そんな中、彗星のごとく現れた救世主がいた。
彼は異世界から来たと語り、この世界にはないスキルを駆使して戦場を駆け、時に血を流し、時に民衆の涙を拭い、最後には平定させるに至った。
その栄誉を称え、是非とも国を治める王の座に就いてくれと民に求められた彼は「いや、次があるので失礼します」と、ある日忽然と姿を消した。
それ以降、その男はこの世界の英雄となった。
英雄の名前は、逆神六駆。
「いやぁ! なーんか覚えのある煌気が異世界を繋ぐ道から漏れてるなぁと思ってたんだよ! そうか、そうか! ここかぁ! 名前は覚えてないけど、ここかぁ! 僕が2回目か3回目か4回目か、その辺りで転生した異世界だったのかぁ!!」
この記憶力が悪く、察しも悪ければ警戒心も乏しい、まるで神社で餌付けされた鳩のような男の名前もまた、逆神六駆。
同姓同名の他人だろうか。
そうあって欲しいと願う気持ちはあるが、嘘偽りで諸君を謀ることはルール違反。
こうなっては致し方なし。肯定しよう。
この頭の中おっさんの六駆くん、ミンスティラリアの英雄である。
「痛ぁっ! なんか、頭が痛くなってきたぁ!」
「ああ、それはそうだろうね。この檻、煌気を吸収する作りになってるもの。普通の人なら、2時間も叩き込んでおくと煌気が空っぽになるよ!」
「あたたたっ。六駆くん、詳しいねー? さすが異世界周回者だにゃー」
「僕が作ったんですよ、この檻! まだ使ってたのかぁ! 物持ちが良いんだか、技術がまるで進歩してないんだか、複雑だなぁ!」
この時の六駆を見つめる莉子とクララの視線は、かつてない程に冷たかったと言う。
「こちら東のD地点。侵入者を発見」
「間抜けにも『六駆監獄』に引っ掛かっております。このまま放置してもすぐに息絶えるかと。指示を願います」
莉子が目を丸くしている。
クララは逆に目を細めて、一足お先に現実逃避を始めていた。
まだ考える事を諦めていない莉子さん、六駆に質問をする。
「あのぉ、六駆くん? わたしの目がまだハッキリしているのならだよ? あそこにいる人たち、鳥みたいな翼が生えて、手は鋭い爪が伸びてるし、何なら顔も鳥っぽく見えるんだけど。か、仮装とかかなぁ?」
「いやいや、あれでちゃんとした正装だよ。確か、鳥獣人とか言う種族だっけ? 魔族だか魔物だか、そんなカテゴライズだった記憶が、おぼろげながら……」
「な、なんで魔物がいるのぉ!? 六駆くん、異世界は全部平定して回ったんでしょ!? おかしいじゃん!!」
六駆は少し困ったように頭をかいて、「はは、参ったなぁ」と笑ったのちに、莉子が信じたくないようなセリフを吐く。
「だって、この世界で僕が手を貸したの、魔王軍だったからね!」
「もぉヤダ、この師匠。むちゃくちゃだと思ってたけどぉ! 常識とかどこでなくしちゃったの!? ちゃんと小学校の頃、道徳の授業受けてた!?」
「いやはや、なにせ35年以上前の話だからねぇ。どうだったかな? ちゃんと小学校は出てるよ?」
「もぉぉぉ! なんでこんな事になるのぉ!? 頑張ってダンジョン攻略したのにぃ!!」
莉子の悲し気な声が、渓谷にこだました。
クララは全てを諦めた表情で、その悲鳴をBGMに「昨日食べたラーメン美味しかったなー」と、在りし日の現世へ思いを馳せていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
六駆は考えた。
まずはどうしたものか。
現世に帰るしても、この状況をどう説明したら良いのだろう。
「ダンジョンの先に通じていた異世界、僕の知ってるとこでした」みたいな言い訳が、果たして通じるのだろうか。
沖縄に住んでいる者が「俺のじいちゃんち、北海道にあるんだぜ!」と言ったら、それは程よい盛り上がりを見せるだろう。
「そのノリで言ってみるか?」
だが、これまで「自分の決断を信じて良かった」と思った事の10倍はある、「自分の考えなんてクソみたいなもの信じなければ良かった」と言う後悔。
幾度となく人に裏切られた異世界周回者だが、最も裏切られたのは自分にではなかったか。
彼は己の立場を鑑みた。
今の自分はチーム莉子の一員。ならば、リーダーの指示を仰ぐのが筋ではないか。
「莉子! どうしたら良いと思う!? あのね……。顔色が悪いなぁ」
そこで気付く、六駆くん。
この檻は煌気を吸い取り続ける、悪魔じみた仕掛けが施されている。
莉子もクララも、気付けば青息吐息。
彼は「ひどい事をするヤツがいるねぇ」と憤慨しながら、まずは脱出を試みる事にした。
いい加減にしろ。
悪魔は逆神六駆、お前ではないか。
「『光剣』! せりゃあ!!」
この悪魔の化身には、檻の煌気吸収も無効化されてしまうのか。
そんな事はない。
しっかりと六駆も煌気を吸い取られ続けていた。
一般人であれば、2時間で全ての煌気を吸い取られる『六駆監獄』であるが、果たしてこの悪魔の化身を干からびさせるにはどれ程の時間が必要なのか。
ざっと見積もって、約7年。
もはや一般人とか一般人じゃないとか、そんな範疇の話ではない。
人か人じゃないかの議論ももう終わっている。
この悪魔め。
「やれやれ。あと少しで手遅れになるところだったよ!」
どの口が言うのか、この悪魔。
六駆は取り急ぎ『吸収』と『注入』の同時使用で、煌気の点滴を生成。
もはや手慣れた作業で、緑のナイフを2人の太ももに刺した。
穏やかでいられないのは、領地の偵察に来ていた原住民である鳥獣人コンビ。
未知の世界から来た侵略者が、かつての英雄がもたらした叡智の結晶である『六駆監獄』をひょろっとした剣でバラバラにしてしまった。
「こ、こちら、東のD地点!! し、侵入者が! あ、あの、『六駆監獄』を破壊しました!! いえ、見間違いではありません!! 至急、大至急応援をお願いします!!」
六駆としても、騒ぎにはしたくなかったのだが、現状自分たちがこの世界にとっての異物である自覚があるため、鳥獣人たちへの攻撃を良しとしなかった。
まだ平和的な道の模索ができる可能性があったためである。
「わ、我々で足止めするぞ!」
「おう! この命に代えても!! 『紙矢』!!」
鳥獣人たちが繰り出すのは、逆神流のスキル。
かつての英雄から手ほどきを受けた、誇り高きスキルである。
「『連弾太刀風』! 良くないなぁ、そういう好戦的な姿勢は」
鳥獣人の放った『紙矢』を事も無げに切り裂いた六駆の『太刀風』。
六駆おじさん、かつてこの国で何をしたのか、半分以上を忘れていた。
一応、現在彼は必死になって記憶を検索中であるが、時間がかかりそうである。
「異世界でも著作権って効くのかな? オリジナリティを主張したら、もしかしてお金儲けがワンチャン!?」
この悪魔、とんでもない事を考え始めている。
「なかなか良かった!」
「続きが気になる!」
「更新されたら次話も読みたい!」
等々、少しでも思って頂けたら、下にございます【☆☆☆☆☆】から作品を応援する事できますので、【★★★★★】にして頂けるととても励みになります!!
皆様の応援がモチベーションでございます!!
拙作を面白いと思ってくださいましたら、評価をぜひお願いいたします!!