莉子とクララの新戦闘スタイル 御滝ダンジョン第9層
ダンジョンの入口から階段を下りて、第1層に入ったら、莉子とクララが周囲をくまなく警戒する。
「『門』! あっ、やっぱり天井に刺さるなぁ。はい、2人とも中へどうぞ」
この六駆の反則スキルが露見したら、たちまちチーム莉子はこの近辺の探索員の、いやそれよりももっと大きな規模で話題の的になるだろう。
それはこの場にいる誰もが望んでいない事だった。
『門』をくぐり抜けた先は、ダンジョンの第9層。
前回の攻略で六駆が『基点』を付けた場所から1ミリたりともズレていなかった。
「ひょえー。相変わらずだけど、六駆くんのスキルって便利だよねー。出来ない事ないんじゃないかと思えてくんだけど」
「あのー、六駆くん。わたし思ったんだけどさ。その『門』で、異世界に行けないの?」
莉子さん、ここでダンジョン攻略という行動の根幹を揺るがす事実に気付いてしまう。
ヤメて頂けないだろうか。
反則も過ぎると興醒めと紙一重。
だが、我らが主人公の六駆くん、さすがに心得ていた。
「『基点』が向こうにあれば往来もできるんだけどね。まさか、異世界目指してダンジョンに潜るなんて想定してなかったからさ。あと、僕が関与した異世界がこの先に繋がっている保証もないし」
「なんか異世界っていっぱいあるらしいじゃない」と六駆は続けた。
確かに、彼が転生した異世界は6つ。
それは一般的な観点からすれば頭のおかしい数であるが、数多ある異世界側からすれば、ほんの6つ。
ただし、その6つがいずれも異世界の中でも極めて強大な世界である事は六駆でさえ理解していない。
「さあ、攻略再開と行こう! 莉子は新装備もだけど、新しいスキルに慣れていかなくちゃね! クララ先輩も、その弓の使い心地を確認してください!」
「はーい! 師匠がせっかく用意してくれたスキルだし、わたし頑張るよ!」
「あたしも! 早く弓を使いたくてウズウズしとるぜよー!!」
噂をすれば影が差す。
そんな不用意に発言するから、すぐに現実のものとなるのだ。
「はい! じゃあ、早速実戦だ! なんか待ち伏せされてるみたいだし!!」
「うわわわっ! なんかヤバいのがいっぱいいるー!! 六駆くん、どうするの!?」
「もちろん戦うさ! はい、心の準備をして! いつも言ってるけど、スキルはメンタル勝負! 気持ちで負けたら勝てる戦を捨てることになるよ!!」
「相変わらずスパルタだにゃー。よーし、莉子ちゃん、頑張るぞな!!」
繰り返すが、第9層以降は探索員未踏の階層。
つまり、モンスターたちもお待ちかねな訳であり、彼らが集団で「おいでませ」と歓迎してくる事情も何ら不思議ではなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「じゃあ、明らかに強くて修行の邪魔になりそうなヤツは僕が適当に片づけておくから、2人は準備ね! 『光剣』! はいはい! ごめんなさいよ!!」
戦闘態勢に移行する六駆であったが、事前にイドクロア持ちのモンスター情報は莉子から取得済み。
このやり取りもかなり繰り返されているので、今後は結構な頻度で端折られるかと思われる。
諸君にはご理解頂けると幸いである。
「よいしょー。はいー。……おっと! お前は確か、シェルアルマジロ! ええと、外皮がイドクロアだから。まあ、首落としとけばいいか! よいしょー!」
六駆がモンスターの群れの中でやりたい放題している間に、莉子とクララも準備が整う。
「莉子はまず、盾スキルから覚えようか! 説明は僕の家でした通りだよ。ちゃんと覚えてる?」
「うんっ! 『風神壁』!!」
莉子が発動させたのは、風の盾。
山嵐助三郎という身の程知らずを覚えておいでだろうか。
彼が自信満々に使っていた『アダマントウォール』という土スキル。
あれも本来は防御スキルなのだが、その壁の強度は非常に高いものの、土を錬成して作り上げた性質ため、小回りが利かないというデメリットがある。
その分広範囲を守れたり、用途に合わせて本来の盾としての役割を持たせたり、壁として対象を押し留めたりと使い分ければいいのだが、やはり相応の経験が必要になる。
莉子が新たに覚えようとしている『風神壁』は、防御範囲こそ2メートル四方ほどと少し狭いが、小回りバツグン、汎用性も高く、盾として1度展開してしまえば煌気を注がなくともしばらく発現しっぱなしという、なかなか便利な代物。
さすが、逆神家三代のチョイス。
「それじゃあ、このデカい亀に水か氷か、なんか吐かせるから、防御してー!」
「へっ!? そ、そんな、いきなりぃ!? わわわっ!」
六駆が巨大な亀の背中を『光剣』で一刺しすると、亀は驚いて口から氷柱を吐き出した。
「ちょっとぉ! なんかすごいのが来たぁ! ふぇぇぇ! ……って、あれ?」
「お見事、お見事! やっぱり莉子は風と相性が良いね! しっかり『風神壁』は使えてるみたいだ! では、次! 近接戦闘ね! この亀には引き続き頑張ってもらいます!」
「キャウルゥゥゥゥウゥゥゥゥッ!!」
亀、怒りの抗議。
口から氷柱を吐きまくる。
「クララ先輩! 援護よろしくお願いします!」
「りょーかい! 『フレイムパラライズアロー』!!」
クララはさすがの応用力。
複数の源石を同時に使えるようになった弓を用いて、早速『フレイムアロー』と『パラライズアロー』の併せ技を披露した。
これならば、相手に炎のダメージが通らない場合でも麻痺の状態異常が付与できる。
六駆が教えなくても実践できるのが、彼女の経験による強み。
「ギィゲェェエェェ」
「はい! 莉子は麻痺した亀に向かって走って、走って! 大丈夫、気持ちがあれば何とかなるから! 元気出していこう! それ、頑張って! 頑張って!!」
六駆くん、ここぞとばかりに精神論を口にするおっさん属性を全開に。
莉子も必死で指示に従うようになったのは、これもまた経験による成長だろう。
「もぉぉ! 動きは止まってるけど、氷柱が飛んできて怖いよぉ! でも、意外とこの盾が頼りになる! わわっ! もうすごい近いじゃん!!」
「じゃあ、近接攻撃スキル! 行ってみようか! これはシンプルなヤツだから、簡単だよ。手をピンと伸ばして、手刀で相手を割るイメージ! さあ、イメージできたら、スキルの名前を叫んでみよう! こういうのは気合が大事!!」
「分かったよぉ! ふぅ……。やぁぁぁっ! 『斧の一撃』!!」
莉子が空を斬った直後に、巨大な斧で叩き割るような必殺の一撃が炸裂した。
こちらも風スキル。
しかし、物理スキルにも分類されると言う、「風か物理、どっちかのダメージが通れば効果はバツグン!」という売り文句の六駆考案オリジナルスキル。
「す、すごい……! ドンキタートルが潰れちゃった……! すっごく硬いのに!」
「こちらもお見事! それじゃあ、反復練習だ! 大丈夫、まだモンスターは、いちに、さん……6匹もいるからね! 修行には事欠かないよ!!」
「ふぇぇ! もっと優しく教えてよぉ! やぁぁぁっ!! ひゃっ!? た、盾ぇ!!」
「ひゃー。あたしは六駆くんにスキル習いたくないなぁー。パイセン、援護しまーす!!」
その後もモンスターたちを薙ぎ払いつつ、チーム莉子は順調に進み、彼らは第10層へと差し掛かっていた。
「なかなか良かった!」
「続きが気になる!」
「更新されたら次話も読みたい!」
等々、少しでも思って頂けたら、下にございます【☆☆☆☆☆】から作品を応援する事できますので、【★★★★★】にして頂けるととても励みになります!!
皆様の応援がモチベーションでございます!!
拙作を面白いと思ってくださいましたら、評価をぜひお願いいたします!!




