イドクロアの山 御滝ダンジョン第7層
下り坂を歩いて行くと、そこには探索員にとって桃源郷のような場所が待っていた。
莉子もクララも、そして六駆も、テンションが跳ね上がる。
第7層は細い道と開けた場所が繰り返される、ダンジョンらしい迷路のようなマップになっているのだが、そのダンジョンらしさで元気になるのは莉子とクララ。
六駆までもが目を少年のようにキラキラさせているのは、そこに出て来るモンスターの種類に影響されていた。
「六駆くん、すごいよぉ! そっちのスコーピオンタートルの甲羅と尻尾、イドクロアだよ! あっちにいるゴールドシープの体毛もイドクロア! わっ、わっ! シャドウバードだ! あの子の羽もイドクロア!!」
まさかのイドクロア持ちモンスターの群れと遭遇。
しかも、そのどれもが良質であり、これはもう六駆が目の色を変えなければ嘘だと思われた。
「どうしよう!? 僕が下手に攻撃しても良いものか! 辞書! この中で一番強いのはどれ?」
「ちょっとぉ! 今、莉子の事を辞書って呼び間違えたよね!? もう、完全にわたしの事を都合のいい女だと認識している証拠だよね!?」
「『パラライズアロー』! あっ、ダメだー! スコーピオンタートルの甲羅にはあたしの弓スキル、攻撃が通らないねー!」
六駆はその経験から、モンスターの特性を見定めた。
スコーピオンタートルは見るからに物理攻撃に耐性を持っていそうだし、ゴールドシープは大人しそうなので自分が手を出したらイドクロアをダメにしそう。
シャドウバードは薄っぺらい形状をしているので、攻撃の命中率に問題が出そうである。
「六駆くんはスコーピオンタートルとシャドウバードには絶対に関わらないでね! ゴールドシープをお願い! あのモンスター、体毛の中で発電してて、それを使って攻撃してくるから、結構強いんだよぉ!」
六駆の経験という見地からもモンスターの特性。
だいたい5割くらいは当たっていた。
よくぞここまで来たなと喜んで良いのか、まだその程度なのかと悲しめば良いのか、これは実に微妙な判断が求められ、有識者の間でも議論を呼びそうである。
「莉子ちゃん、まずはあたしとコンビでスコーピオンタートルやる?」
「ですねっ! わたしが『旋風波』でひっくり返しますから、クララ先輩は氷属性の矢で仕留めて下さい!」
「おけおけー! パイセン頑張るよー!!」
共に死線を超えた2人のコンビネーションはレベルアップしていた。
本来コンビネーションなど必要としない六駆だが、「ああ、なんかいいなぁ。ああいうのってさ」と、仲間に入りたくなったと言う。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい、羊! お前の相手はこの僕だ! 覚悟しろい!!」
「ブルメェェェェェッ」
「はぁぁぁっ! てぇぇぇいっ! クララ先輩、今です!」
「まっかせて! せぇぇぇ、やっ! 『アイシクルアロー』!!」
「羊、この野郎! なんか電気で攻撃してくるらしいじゃないか! さあ、来いよ!」
「ブルゥメェェ! ブルメェエエェェェェェンッ!!」
六駆くん、言い知れぬ寂しさを感じていた。
一方、無事にスコーピオンタートルを討伐した莉子とクララ。
スコーピオンタートルは、長い毒針と、かなりの強度を誇る甲羅がイドクロアとして認定されている。
どちらも10万円近い良品である。
「どうしたものか。炎はまずいよな。お前、明らかにその体毛がイドクロアっぽいもんな。そうなると、物理か。でもなぁ、その存在感主張している角も怪しいんだよなぁ。……よし、首だけ叩き落とそう! 『光剣』! おりぁ!!」
六駆くん、ゴールドシープのアイデンティティを完封したまま戦闘を終える。
別に良いのだが、せめて2回か3回は斬り合ったり、鍔迫り合いしたりして欲しいものである。
「よし、残るはあのヒラヒラした赤い鳥か! 莉子、僕が撃ち落とそうか?」
「絶対ダメ!!」
「ええ……。かつてない却下のされ方。そんなに貴重なの?」
「わたしの憧れなんだもん!」
「あの、キモい飛び方してる鳥が? 変わった初恋だなぁ。お父さんとかじゃないんだ?」
「シャドウバードの羽はねー、レアだけど、そこまで高くはないんだよ。1キロ3万円とかかな?」
「割と高いですけど。じゃあ、どうして莉子はあんなに固執しているんですか?」
「それはねー! あの鳥さんの羽! 探索員女子に人気の装備素材なんだにゃー! 莉子ちゃんも、そろそろ配給装備を卒業したいんだってさ!」
乙女の心を読めなかった六駆だが、それは確かにと思うところもあった。
莉子には防御のスキルを教えていないので、彼女の身を護るのは現状防具のみ。
配給装備の防御力がどの程度なのかは知らないが、探索員で配給装備を着ている者はほとんど見かけない。
それはつまり、装備を新しくあつらえた方が良いからだと思われた。
「シャドウバードの羽ってどんな効果があるんですか?」
「耐熱、耐氷に優れていて、他にも毒や酸を弾くみたいだよ!」
「ほほう。良いじゃないですか。莉子! 頑張って! 『太刀風』で真っ二つにしたら、両方の翼がゲットできるよ!!」
「ふぇぇ。集中できないよぉ! ミスしたら憧れの可愛い新装備が!! そっかぁ。六駆くんは普段から、こんなプレッシャーで戦っていたんだね……」
六駆からすれば隠居生活のための資金源と装備にかける素材を同列に置かないで欲しいと思ったが、普通は逆が正解なのだ。
装備に使うお金を自分の道楽生活のための貯金と同列に扱うな。
「莉子! 一本集中ー! 大丈夫、大丈夫! 当たる、当たるー!!」
「もぉ! 部活の応援みたいに言うのヤメて! 手が震えるでしょ!」
「そだそだー! 莉子ちゃんの『太刀風』なら綺麗に採取できるよー!! がんばー!!」
「うわぁぁん! クララ先輩までぇー! もぉ、やってやるぅ! 落ち着いて、私。……ふぅ。てぇぇぇぇいっ!!」
莉子の『太刀風』はシャドウバードを綺麗に割った。
これまでの修行の成果。彼女の努力と資質が見事に融合し、ひとつの完成系としての結果を発揮する。
さすがは習得済みと六駆が公認しただけのことはある。
莉子も自分の力だけでイドクロアをゲット。
シャドウバードの羽は1体からかなりの量を採取できるので、この分ならば装備用の資材としても充分だろう。
その後も第7層にはイドクロア持ちのモンスターが続々現れ、彼らは嬉々として討伐していった。
山嵐の1件で立ち込めていた暗雲から、光が差し込み、それは瞬く間に曇り空を晴らしていく。
「えへへへ。これで可愛い装備が作れるよぉ! 嬉しいなぁ!」
「散々狩ったし、そろそろ次の階層に進もうか」
「おりょ? 六駆くんにしては珍しい! てっきり、僕はここに住むよ! とか言い出すと思ったのに!」
「あくまでも僕の目標はダンジョンの攻略ですからね! ちまちまモンスター狩らなくても、それだけで一攫千金! あとは、莉子の修行もそろそろ再開しないと!」
「えへへへへへ」
「明らかに浮かれてますから。こういう時こそ修行をしなくては」
「ああー。忘れそうになるけど、意外と優秀な先生なんだよね、六駆くんって」
更にチーム莉子の進撃は続く。
「なかなか良かった!」
「続きが気になる!」
「更新されたら次話も読みたい!」
等々、少しでも思って頂けたら、下にございます【☆☆☆☆☆】から作品を応援する事できますので、【★★★★★】にして頂けるととても励みになります!!
皆様の応援がモチベーションでございます!!
拙作を面白いと思ってくださいましたら、評価をぜひお願いいたします!!




