回復 そして仕切り直し 御滝ダンジョン第6層
「さてと。2人とも、ちょっと体を見せて! あ、これは別にいやらしい意味とかそういうのではなくて、診察的な意味で、診せてと言ったんだけど、それでも気持ち悪いと思うんだったら何か別の方法を考えます。寝坊してすみませんでした」
悪魔じみた強さで山嵐を圧倒した六駆の姿はどこへやら。
小兵力士の立ち合いさながらな低い姿勢。
そののち、力士は相手に突進して行くが、六駆は額を地面に擦りつける。
「もぉ! 別に怒ってないってばぁ! って言うか、助けてくれてありがと! ちょっとだけカッコ良かったよ? 師匠!」
「え、ホントに? おっさん死ねばいいのにとか思ってない!?」
「あっははー! あんなに大暴れしておいて、どうしてこんなに卑屈になるんだろうね、六駆くんはさー。あいたたっ。あたしは是非診察を受けたいでありますよ!」
「わたしもー。実はさっきからリングはめてる指が痛んだよぉ」
許可を得た六駆くん、セクハラにならないよう細心の注意を払いながら、スキル『検診眼』を発動させる。
対象の怪我や病気の有無。体力や煌気の消耗。その他諸々をサーチするものであり、諸君に分かりやすくぶっちゃけると、ステータス画面を開くイメージである。
「クララ先輩は大きな怪我はないですね。ただ、打撲がいくつか。あと、切り傷が少し。うん。『軽気功』。あとは楽にしていてください」
「ああー。このじんわり体が温まるの、良いよねー。岩盤浴みたいで気持ちいいにゃー」
「莉子は怪我よりも、煌気の量が良くないな。多分、『旋風破』を乱発したでしょ? コントロールができてないスキルを使いまくったから、煌気がほぼ枯渇してる」
「ご、ごめんね。でも、使わないと2人とも危ないと思ったから……」
「いや、もう、その件に関しては僕の方がごめんなさい。それでね、リングの指が痛いのは、煌気がなくなる合図なんだよ。リングって、常に体内の煌気を吸い出すからね。で、ガス欠状態になったら、痛みでお知らせしてくれるの」
六駆は説明しながら、自分の左腕に『吸収』を使い、煌気を吸い出す。
以前も言及したが、『吸収』は攻撃用のスキルであり、自分に向けて使用するなんて頭のおかしな事をしたのは、恐らく六駆が初めてである。
「……うん。よし。こんなものかな。じゃあ、莉子。刺すよ?」
「えっ!? なにを!? ヤダ、怖い! 六駆くんが未知の情報出して来る時はだいたい怖いもん! ヤダ、痛いのはヤダよぉ! 優しくしてよぉ!!」
莉子さん、誰かが通りかかると誤解は必至なセリフを必死で吐く。
六駆は説明よりも先に対処をした方が良いと判断して、莉子に黙って『注入』を使用。
緑色に発光するナイフを発現させて、それを指でヒョイと操り、莉子の太ももに刺した。
これから莉子さんが叫ぶので、先に説明をしておこう。
『注入』も本来は攻撃用のスキル。
効果は、あらかじめ『吸収』でモンスターなどから吸い取った血や体液に含まれる、毒であったり、麻痺であったりの状態異常を対象に付与する。
それを六駆は勝手にアレンジ。
自分の腕から吸い出した煌気を、莉子の体に注ぎ込むと言う、実に乱暴な治療を施した訳である。
輸血のようなものだと考えて頂ければ伝わるだろうか。
それでは、莉子さんが叫びます。
「ひゃあああっ!! 痛い痛い! 痛いぃぃ!!! 六駆くんの鬼ぃ! なんで女の子の太ももにナイフを平気な顔で刺せるのぉ!? このぉ、変態、異常者、変なおじさん!!!」
「僕には多数の言葉のナイフが飛んできてるよ……。落ち着いて、莉子。痛くないでしょ? 僕、ものすごく繊細なコントロールしてるからね?」
「ふぇ? ……あ。痛くない。って言うか、ちょっと気持ちいいかも」
「僕の煌気を薄くして莉子に移動させてるんだよ。あと、『軽気功』も同時に使ってるから、リラックスしててね」
「ご、ごめんね。大きな声出しちゃって。ありがとー。それからね……」
「うん? どこか痛んだりする?」
「ううん! ただ、おじさんの煌気が体に入って来てるって思ったら、なんかヤダなって感じただけだよ!」
莉子の放つ言葉のナイフは、六駆がここ10年で喰らったダメージの中でも、五指に入るほどの威力だったと言う。
◆◇◆◇◆◇◆◇
それから1時間。
六駆の数少ない回復スキルと、スキル本来の使用法を無視した反則技で、莉子とクララは完全に回復していた。
「今日は引き上げようか」と2人に配慮する六駆だが、「まだ何もしてないのに帰るのはヤダよぉ!」というリーダーの意見により、探索を再開することとなった。
2人とも回復したとはいえ、やはり不安な六駆。
自責の念も手伝って、珍しく先頭を歩く。
出て来るモンスターは『旋風破』で全てを抉り切る。
莉子に対して新しいスキルの使い方をレクチャーしながらの攻略は進み、第6層まで到達していた。
ちなみに、道中で六駆が瞬殺したモンスターの中には、イドクロアを持つ個体が複数含まれており、莉子の計算でだいたい150000円分のイドクロアを彼の『旋風破』で粉砕していたのだが、今度は彼女が空気を読んでその事実は隠匿された。
師匠と弟子。
お互いがお互いを思いやる、麗しき師弟愛。
莉子は六駆の気遣いを感じているが、六駆は莉子の気遣いなど知る由もない。
と言うか、その事実を知ったら彼は静かに帰宅を進言するだろう。
家に帰ってふて寝するのは間違いない。
「さて。前回はこの辺りで探索を中断したんだったね。クララ先輩?」
「ちゃんと記録しとるぜよー! 『マッピング』! 表示っと!!」
探索員がまず身に付けるスキルは2つある。
1つは度々話題に上がる『ライトカッター』。
初歩スキルの中でも最も覚えやすい、ルーキー御用達の攻撃方法。
もう1つがこの『マッピング』である。
ダンジョンのこれまで進んで来た軌跡は装備に付いている記録石に保存されており、それを空間に映し出すもので、「『マッピング』を覚えるまでは現場に出るな」とさえ言われる、基礎スキル。
なお、当然のことながら、六駆と莉子のルーキーズはそのどちらも覚えていない。
クララをパーティーに加えて本当に助かっている2人なのだが、彼らは「「クララ先輩、ぼっちだからなぁ!」」などと、失礼なことを未だに考えている。
年長者に対するリスペクトのなさも似てきている、師匠と弟子。
「この先が第7層っぽいにゃ! 行こっかー!!」
「2人とも大丈夫? まだ大人しくしといた方が良いって! 僕が先頭で露払いするから!」
「ヤダよぉ! 六駆くんが先に行くと、モンスターの姿が見えたと思ったら倒しちゃうんだもん! わたし『旋風破』のノウハウ覚えたし、使いたいー!!」
「いや、でも、危ないかもだし! ほら、強いモンスターが横から出てきたらどうするの!?」
「もぉ! おじさん、ウザい!!」
「……おじさんにも心があるんだよ?」
こうして、莉子が先頭を勝ち取ることに成功。
クララは「微笑ましいにゃー」と2人を見守っていた。
「なかなか良かった!」
「続きが気になる!」
「更新されたら次話も読みたい!」
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