Bランク探索員・山嵐助三郎の狡猾な罠 閉じ込められた莉子とクララ
自称敏腕探索員、山嵐助三郎。
彼はプライドが高く、さらにはキレやすい。
8割の女子に嫌われる要素を持っていた。
残りの1割には相手にされず、残った1割にはひどく気の毒なものを見る時の視線を無料で提供される。
女子と飲食店に入るなり突然店員さんに対して高圧的な態度を取ったり、自慢の腕時計の話を2時間繰り返したりする。
彼のパーティーに女子が1人もいない理由がそこにはあった。
「お前……! そこの女! 俺の髪をニワトリと言ったか!?」
「あ、ごめんね、怒らせるつもりはなかったんだよ? あと、別にニワトリっぽいからって悪い意味とは限らないっしょ!」
「そ、そうか! ならば、俺の女にしてやる!」
「やー! 冗談キツイっす! あたし卵産めないにゃー!」
「クララ先輩、何言ってるんですかぁ! もぉ! わたしの周り、こんな人ばっかりぃ!!」
莉子は3度目の攻略で気付き始めていた。
自分の出会う探索員に、今のところまともな人間が1人もいない事に。
それは、探索員という特殊な職業はまともな神経を保っていられるほど甘くはない的な側面もあるのだろうが、残念なことに、莉子が出会う探索員はだいたいネジが何本か外れている。
「組長! ちょ、ヤバいっすよ! なんか周り、囲まれてます!!」
「うわっ、なんだこいつら! 見たことねぇモンスターっすよ!!」
山嵐組のパーティーメンバーが慌てる。
莉子も騒ぎの方を見てみると、前回巣を張っていた巨大蜘蛛の子蜘蛛たちが大量に出現していた。
どうやら、あの蜘蛛は忘れ形見として卵を多く遺していったらしい。
子蜘蛛の数、ざっと見積もっても40、いや、50に迫るだうか。
莉子は理性的な判断をして、この場の全員に呼びかけた。
「今はまず、協力してこのモンスターを倒しましょう! 1匹の力は大したことないですけど、動きは早いし、なにより毒を持っているんです! しかも、その毒ってかなり強いみたいで、人によっては30分くらいで命を落としちゃうんですよ!!」
彼女は持っている情報を全て開示する事で、一致団結を目指した。
だが、山嵐には自分の知らない知識を目の前の小娘が知っている。その事実が気に入らない。
どこまでも小さな男である。
「うるさいぞ! 怯えるな、お前たち! この俺がいるんだぞ! 24歳にしてBランク探索員まで上り詰めた、この俺が!! こんな雑魚ども、俺ひとりで充分だ!!」
「わぁ! Bランク! すごいですね! 頼りになります!!」
「……君はずいぶんとこの蜘蛛について知っているようだけど。以前に討伐した事があるのかい?」
「あ、はい! 元はとっても大きな蜘蛛のモンスターがここに巣を作っていて! それを倒した時に、子蜘蛛の相手もしました!」
話の腰を折って申し訳ないが、その大きな蜘蛛の名前はリコスパイダーである。
この度、無事に正式な新種として探索員協会に認可された。
「倒した? 君が? 見たところ、配給装備のようだけど。君は俺より強いのかな?」
莉子は慌てて首を横に振る。
「とんでもないです! わたしの師匠が倒してくれたんです!」
「では、その師匠とやらは俺よりも強いと?」
「それはそうですよ! うちの師匠より強い人はいないと思います!」
莉子は相変わらず、誠意をもって山嵐に対応していた。
だが、彼は「あなたよりもうちの師匠の方が強い」と即答された事に憤慨する。
「それならば、自慢の師匠とやらに助けてもらうが良い! 俺たちは先に行かせてもらう!」
「へっ!? そんなぁ!」
「いーよ、いーよ。放っとこう、莉子ちゃん。あたしたちも、一旦第2層に戻ったら良いんだし」
その言葉を待っていた山嵐。
ギラリと鋭い目の奥が怪しく光る。
「そうはいかない! 『ガイアスコルピウス』!!」
「マジ!? 危ない、莉子ちゃん!!」
「うひゃあっ!?」
山嵐が創り出したのは、土を高密度に圧縮した巨大なバリスタ。
そこから発射した複数の回転する槍は、莉子たちの頭上を越えて行った。
「ちょっと、あなたね! 探索員同士の争いでスキル使うのは禁止されてるでしょ!? いくらBランクだからってやっていい事と悪い事があるっしょ!!」
「ふん。これだからバカは嫌いだ。俺はお前たちを狙ったんじゃない。よく見てみるんだな」
莉子が槍の飛んで行った先を確認すると、第2層へ繋がる通路が今の一撃で完全に塞がれていた。
「えっ、えっ!? あの、どういうことですか!?」
「決まっている。それほど危険なモンスターならば、上層に逃してしまうと低ランクの探索員が犠牲になってしまうだろう?」
山嵐の言葉を真っ直ぐに受け止めた莉子は「なんだぁ、思っていたよりも常識的な人じゃん」と安心した。
もちろん、彼女の安心も今回は死亡フラグである。
「じゃあ、早いとこあたしらも第4層に下りよ! 莉子ちゃん、立って、ダッシュ!!」
「はい!」
「待て待て。下の階層に逃がすのも危険じゃないか。ここで処理しなければ」
「そうですよね! じゃあ、みんなで力を合わせて!!」
「それはお前たちの仕事だ! せいぜい死なないように頑張ってくれよな! おっと、こっちの通路も塞がせてもらうから、悪く思うなよ! 『アダマントウォール』!!」
ここでようやく、莉子も気が付く、山嵐の悪魔じみた計略。
チーム莉子は子蜘蛛50匹の密室に閉じ込められたのだ。
「ひどいですよぉ! どうしてこんな事するんですかぁ!」
心が清らかな莉子には分からない。
世の中には、根っこから腐っている悪人もいるという事が。
「莉子ちゃん! 状況確認! こうなったら、あたしたち2人でどうにかするしかないっしょ! そんで、その後にあのニワトリ野郎をぶっ飛ばそう!」
クララの思考の立て直しは、さすが中堅探索員と呼ぶべき速さだった。
既に弓を具現化している彼女。
莉子もまずは目の前の事に集中するべきだと、自分の頬を叩いて気合を入れる。
「はい! 大丈夫、大丈夫! わたしだって、やれます!!」
「その意気だー! さあ、行くよ! 『フレイムアロー』!!」
莉子もとっておきを繰り出すのに躊躇いはない。
「六駆くんが用意してくれた、新しいスキル、使うね! 『旋風破』っ!!」
真横に走るつむじ風が、戦いの開始を告げる。
チーム莉子発足以来、最大の危機であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、その頃の六駆くん。
「まずい! これはいけない! 僕の年長者としての威厳が!! でもタクシーは呼べない! お金がない!! 急いでくれ、ウルトライエロースカーレット号!!」
彼は必死に自転車を漕いでダンジョン入口までの道のりを走っていた。
ウルトライエロースカーレットと言うのは、彼の愛車の名前であり、イエローもスカーレットも色を表す言葉だということには当然気付いていない。
これでも、6度異世界を平定した、世界最強の男である。
「なかなか良かった!」
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