休日 屋根の修理と莉子のお礼 街へデートに出かけよう
「どうも! お暑い中ご苦労様です! これ、アクエリアス買って来ましたんで、皆さんでお飲みください! 若くても熱中症になりますからね!」
こちら、逆神家。
台風が来るまでの期間はあと7日。
六駆は方々を駆けまわって、7日で屋根を修理してくれる業者を探し回った。
その結果、『まさひろ工務店』という業者が「やってみましょう!」と立ち上がった。
聞けば日程的にかなりの無理を要するらしく、おまけに逆神家の母屋は木造建築であり、主にその2つの理由が壁となって屋根の修理するお金はあるのに人がいないと言う哀しみを六駆は背負う事となったのだ。
つまり、まさひろ工務店は神。
アクエリアスを1時間おきに差し入れる六駆の気持ちも分かるというもの。
あとは7日の間に雨さえ降らなければどうにかなる。
幸いなことに、1週間予報では今のところ全てにおひさまのマークが躍っている。
万が一雨雲が身の程知らずに攻めてきたら、六駆は異世界の太陽を召喚する構えである。
そんな逆神家に来客アリ。
逆神家の場所を知っている人間なんて数人しかいないので、誰が来たのか説明するまでもないだろう。
しかし説明しないと諸君に怒られるので、しっかり務めさせて頂きたい。
「こんにちはー! 六駆くーん! わっ! 屋根が直り始めてる! すごーい!!」
我らがチーム莉子のリーダー、小坂莉子。
ダンジョン攻略が休みの日にはよく訪ねて来てスキルの修行をしている。
「やあ、莉子。申し訳ないんだけどさ、今日から工事の人が入るから、スキルの特訓はしばらくできないんだよ」
「もぉ。わたしのことバカにしてるでしょ? それくらい分かるもん!」
それなら一体どうしてと、首を傾げる六駆くん。
強力なモンスターを相手にすれば脳細胞が生き生きとするのに、それ以外の場面ではだいたい脳細胞が死に絶えている。
脳のアンチエイジングについて知識をお持ちの方は、大至急その叡智を彼に授けてやって欲しい。
「今日はね、お礼に来たの! 昨日、お母さんと一緒に回転寿司に行ったら、すっごく喜んでくれて! 気が利く弟子としては師匠を現世に成らすリハビリが必要かなと思ってさっ!」
「ほほう。つまり、僕に街の事を教えてくれると?」
「そうだよぉ! 六駆くん、デートしよう!」
「いや、しかし僕には屋根の修理の監督責任が」
なにやら甘酸っぱい空気に引き寄せられた人影が2つ。
「六駆、ここはオレたちに任せて、行ってくれ!」
「そうじゃ! ワシらじゃて、作業してくれる皆さんを応援くらいできる!!」
「親父。じいちゃん。……そりゃそうだ。穴開けたのが親父で、貯金食いつぶしたのが2人で、修理代稼いできたの僕じゃないか。じゃあ、あとよろしく」
「お土産は、ビールでいいぞ!」
「ワシは日本酒がええのぉ」
ごくつぶしコンビに家を任せて、街へ出発する六駆と莉子。
果たして、無事にデートを満喫できるのか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うわっ! 人が多い! なにこれ、お祭でもあるの!?」
「六駆くん。そんな、山奥から出て来た人みたいなリアクションをヤメてくれる? 声が大きいから、結構恥ずかしいんだよね」
「いや、だって。ロスコンティルの兵団の数を優に超えてるよ! 怖い!!」
「ろ、ロスコンティル? あ、異世界の国の名前だ! おじさんの思考に合わせられるようになってきた自分が怖いなぁ。それからさ、六駆くん?」
「なに? まさか、これ以上の衝撃が僕を待ち構えているの!?」
「腕組んで来るのヤメて欲しいな! それ、普通女の子がするものだよ!」
「だって、はぐれたら2度と家まで帰れそうにないし!!」
莉子は少しばかり呆然とした。
ダンジョンではあんなに頼もしい六駆が、街に連れ出したら小鹿みたいになった。
30年と言えば、だいたい平成が終わるくらいの時間である。
平成元年に生きていた人を令和元年に拉致したら、多分六駆と同じ反応をするのではないかと思われ、少しだけ六駆を可愛いと思ってしまった莉子さん。
早く目を覚ませ。
君の腕にすがりついているのは、見た目こそそれなりの顔立ちな高校生だが、中身はおっさんだ。
「じゃあ、デートの定番! カフェにでも行こー!」
「そうだ、それがいい! この人混みでは、いざと言う時に戦えない!」
「異世界って過酷なところなんだね……」
今日の六駆には優しくしてあげよう。
莉子の母性が目覚めてしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「お待たせいたしました! こちら、タピオカクリームチーズティーです。そして、こちらがイチゴミルクタピオカです。ご注文はお揃いでしょうか。ごゆっくりお過ごしくださいませー」
カフェのお姉さんが、手際よく注文の品を運んで来てくれる。
六駆と莉子は、会釈をして受け取った。
「さあ、どうぞ! ここはわたしがご馳走するから!」
「なんだか悪いなぁ。莉子は本当にやさ美味しいなぁ、これぇ!!」
「喜んでもらえてうれしいけど、普通女子を褒めてる時に飲み物の感想被せて来ないよね? わたしじゃなかったら怒ってるよ?」
「いや、こういう俗っぽい味、久しぶりだよ! タピオカかー。そう言えば、昔流行ってたねぇ。懐かしいなぁ」
タピオカは実際にブームと衰退を繰り返すので、六駆の発言が珍しくギリギリ的を外していないと言うプチ奇跡が発生。
奇跡はもっと大事な場面に取っておいた方が良いのではないか。
「あ、ごめん。クララ先輩からメッセージ来た! えーと。ね、六駆くん。明後日ってダンジョン潜れそう?」
「もちろん大丈夫だよ。早いところ攻略し切って、異世界までたどり着いて隠居生活だ! そのためならば僕は何度だって潜るね!!」
「そっかぁ。良かった。じゃ、クララ先輩に送っとくねー。あ、いいこと考えた! ついでにタピオカドリンクで飯テロしちゃおう! はい、六駆くん、笑ってー!」
「あー! やってたなぁ! 昔! 女の子がそうやってご飯の写真撮ったりするの!」
莉子と六駆の写った飯テロ写真はクララの元へと送信された。
2人が楽しそうに出かけている様子と、自分が呼ばれていない事実がクララにとって本当のテロだった事を、2人が知ることはない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「いやー! 30年ぶりの街はすごかった! いい刺激になったよ! 今度出掛ける時もついて来てね! 怖いから!!」
ナチュラルに次のデートの約束をしようとする六駆。
当然だが、まったく自覚していない。
「ま、まあ、いいでしょう! 六駆くんひとりで街歩きはまだ危ないもんね! 仕方ないから次もどこか、楽しいところ案内してあげるよ! 仕方ないもんね!! それじゃ、明後日ね!」
「うん。気を付けて帰るんだよ」
束の間の休息を過ごしたチーム莉子。
彼らは再びダンジョンへ潜る。
なお、独りハブられたチーム莉子のメンバーは、1日中アマゾンプライムで映画を見ていたらしい。
「なかなか良かった!」
「続きが気になる!」
「更新されたら次話も読みたい!」
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