充分な戦果 地上へ帰還
「クララ先輩! お願いします! 僕にメタルゲルの上手な捕獲法を教えてください! お金なら3000円まで出します!」
「はっはー! 安いにゃー! あたしも詳しくは知らないんだけど、メタルゲルって物理攻撃全部弾くんだよね」
「あ。それは知ってます」
「急に冷たいにゃあ……。なんか、電撃で痺れて動かなくなるとか聞いたことはあるけどー。それも確証は持てないからねー」
そんな話をしている間にも、メタルゲルは「お呼びじゃないようなので失礼します」と反転して、少しずつ3人から離れていく。
現状取れる選択肢は3つ。
諦める。
電撃系のスキルを試す。
もっといい方法を思い付く。
第一案は考えるまでもない。
メタルゲルを諦める探索員など、100人いても0人である。
1000人いれば、ようやく1人くらい酔狂な者が混じるかどうか。
第二案も、六駆はあまり気が進まない。
『大竜砲』で誘爆するモンスターである特性を考えると、スキルを厳選する必要がある。
それが六駆には難しい。
なにせ、彼は千を超えるスキルを習得しており、今回はその有り余る選択肢が邪魔をする。
こうなると第三案に期待したいところだが、クララは既に知恵を出して、六駆はいくら知恵を絞ろうともなんだか脂ぎった汁しか出て来そうにない。
そんなピンチにこそ輝く、情報量と発想力を兼ね備えた期待のルーキー。
その名も小坂莉子。
彼女が提案した作戦は、こうである。
「ね、物理攻撃でやっつけちゃうのは?」
六駆が即座に否定した。
「いや、だから物理は効かないんだってば。どうしたの、莉子。疲れた?」
莉子も譲らない。
「違うよぉ! 物理攻撃って、それ一般的な探索員の話じゃん! 六駆くんの物理攻撃ならどうかなって事! 六駆くん、引くくらい強いでしょ。メタルゲルの外皮くらい貫けないのかなぁって」
「……確かに! 莉子ちゃん、すごっ! その発想はなかった! そだそだ! メタルゲルに効かないのは、あくまでも常識の範囲内の物理攻撃だ!」
クララの賛同を得た莉子は、六駆に確認する。
「六駆くん! なんかドカーン! って感じの、すごい打撃系スキルないの!?」
「あるけど。大丈夫かな」
「試してみる価値はあるとあたしも思うよ! このままだと逃げられるだけだし!」
2人の言い分はもっともであり、六駆に代替案がある訳でもなかったので、彼も結局はその作戦に同意する事にした。
そうなれば、彼の行動は早い。
「『瞬動』! からのー! 『豪拳』っ!!」
『豪拳』は逆神流スキルの中でもかなり古く、祖父の四郎が子供の頃には既に存在していたらしい。
効果も実にシンプル。
体内の煌気を拳に集中させて、対象を一気に貫く。
「シェアァァァアァァァァッ」
六駆の『豪拳』は、Aランク探索員でも困難とされるメタルゲルの外皮を貫いた。
メタルゲルの構造は、まだ探索員協会本部の研究でも明らかになっていないのだが、実はこの時、六駆は偶然にもこのレアモンスターの核を粉砕していた。
その結果、どうなるか。
メタルゲルは活動を停止し、ぐにゃりと地表に溶け落ちて、最期はゼリー状に凝固した。
「うぉぉ! すごい! 莉子、君は天才だ!! 頭がおかしい!」
「ひゃー! ホントに物理でメタルゲル倒しちゃった! 作戦考える方もアレだけど、それを実行する方も大概だー!!」
「あのぉ。わたし、褒められてるのかなぁ?」
「「もちろん!!」」
口を揃えて返事をした六駆とクララは、速やかにお宝を収集箱へ。
これで、レッドパーオムの牙と合わせて、どんぶり勘定だが35万。
3人で分けても1人10万円を超えている。
充分な戦果だった。
莉子は『太刀風』を習得したし、クララはチーム莉子に加入できた。
全員が満足のいく結果を残した以上、こうなる流れは必然だった。
「帰ろう! 今日はもうこの辺で良いだろう!」
六駆は2人の返事もろくに聞かないうちに、『直帰』を使い、チーム莉子はダンジョンを脱出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
反則スキル『直帰』の使用がバレないように、ダンジョンの入口付近に転移するチーム莉子。
小賢しい事をさせたらば、現世でおっさんに敵う者はいない。
そののち、平然とした態度で3人はダンジョンの防壁をくぐり、帰還する。
「お帰りないさませぇー! あら、今日はお一人様多いんですねぇ! さあさあ、こちらへどうぞぉー!」
もうすっかり攻略後のリザルト画面のようになった本田林が、チーム莉子を出迎えた。
六駆は、何を置いてもまず採取したイドクロアを換金しようと、収集箱を本田林に差し出した。
驚いたのは本田林。
「レッドパオームの牙は分かるんですけどね? あの、このメタルゲルの外皮。どうやってこんなに良い状態で!? 多分、前例がないレベルに美しいんですけど!!」
チーム莉子、集合。そして内緒話。
「ど、どうすんの!? 上手いこと言わないと、本部に目を付けられるっしょ!」
「わ、わわ、わたしもこんな状況は想定外でしたぁ!!」
「大丈夫。僕に任せて!」
莉子はすぐに嫌な予感を覚えた。
その感情は、クララに伝播する。
「ちょっと待って」と声をかけようとしたものの、時すでに遅し。
「これはですね。落ちてました! その辺に!!」
「お、落ちていたんですか!? しかも、その辺に!?」
莉子にとって、自分の師匠であり相棒でもある六駆。
「許されるなら助走をつけて蹴飛ばしたいなぁ!」と彼女は思った。
「落ちてたんですよ! それともなんですか? 僕の言っている事が信用できないと? 本田林さんは、そうおっしゃるんですか? ええ!?」
クララにとって、命の恩人であり尊敬すべき探索員でもある六駆。
「チンピラの恫喝みたいだにゃー」と彼女は思った。
「あ、いえいえ! とんでもございませぇぇん! すぐに、換金いたしまぁぁぁす!!」
本田林にとって、六駆はやべぇルーキー小坂莉子の相棒。
「逆らったら今度こそ殺される!」と彼は思った。
それぞれの思いをよそに、採取して来たイドクロアは呆気なく換金される。
本田林が確認した。
「討伐報酬と合計で、425700円になりましたが、どのように配分しましょうか」
六駆が即答する。
「僕とクララ先輩に10万ずつ。残りは全部莉子に。それでいいですか? 先輩」
「あたしはもちろん! それでオッケーっすよ! むしろ貰い過ぎ感がある!」
「えっ!? えっ!? いいの? わたし、修行見てもらってただけなのに?」
「何言ってんの。クララ先輩を助けようと決断したのも莉子なら、レッドパオームの牙とメタルゲルの外皮を採取できたのも莉子のアイデア。これでもまだ君にとっては不公平だと思うけど」
おっさんが1度言い出すと、その意見を覆すのは困難である。
それを承知している莉子。
少し遠慮がちに、けれどとても嬉しそうにこう言った。
「ありがとー! これで、お母さんと美味しいもの食べられるよぉー!!」
六駆とクララ、さらには本田林までもが、なんだかほっこりとした。
着替えに時間のかかる女子を先に行かせて、事後処理を引き受けた六駆。
本田林が確認したい事があると申し出た。
「あのぉ、記録石にある、この巨大蜘蛛なんですが。どうやら新種のモンスターみたいでして。お名前を付けて頂きたいのですが」
「名前ですか? ええと。んー。まあ良いか。じゃあ、リコスパイダーで!」
「あ、はい。承知いたしました」
のちにこの事実を知った莉子からものすごく怒られる六駆である。
完全無欠の最強探索員も、未来予知まではできないようだった。
「なかなか良かった!」
「続きが気になる!」
「更新されたら次話も読みたい!」
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