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窮地の椎名クララ 御滝ダンジョン第3層

「やめろって! オレたちゃ別に悪ぃことしてねぇだろ?」

「そうだ! 勝手に正義感出して来るヤツ利用して、なにが悪いんだ!!」


「よく喋る口だなぁ。莉子。口に粘土詰めても良い?」

「今はそんなことよりも、早く先に進まなきゃ! 粘土なら、後でわたしがその辺で拾ってくるから!!」


 六駆も「なるほど」と納得して、薄情者コンビに前を歩かせて、スピードが落ちると蹴りを入れるという、オールドスタイルで下の階層へ。

 どうやって案内させたものかと言うのが六駆の懸案事項だったのだが、その問題は早々に解決された。


「『ストーンバレット』!! はぁ、まずったにゃー。こんなにキツいなんて……」


 第3層は巨大な蜘蛛の縄張りだった。

 巨大、巨大と言うからには、5メートルくらいはあるんだろうなといきどおる諸君には、安心して欲しい。


 その蜘蛛、六駆の目算によれば、20メートルは優に超えていたと言う。

 それはさておき、莉子の想像が悪い形で的中してしまう。

 独り巨大蜘蛛に立ち向かう見知った顔に向かって、思わず彼女は叫んだ。


「クララ先輩!! 大丈夫ですか!?」

「え!? あっ! 莉子ちゃん!? ダメ、こっちに来たら! Dランクじゃこいつ、手に負えないし!!」


「ほら、な!? お前ら、Dランクなんだ? オレらCランクだぜ? それでも話にならねぇんだから、あの姉ちゃんに任せて逃げようべごぼぼぼぼぼぼぼほ」


 薄情者Aの口にその辺の土を詰めた六駆が状況を確認する。

 第3層は遮蔽物しゃへいぶつが一切ない。

 100メートル四方の巨大な相撲の土俵のようである。


「六駆くん! わたし、頑張る! 指示出して!!」

「いやぁ、莉子にはちょっと早すぎる相手だなぁ。おススメはできないよ」


「敵う、敵わないじゃないよぉ! わたしたちが助けてあげないと、クララ先輩が!!」

「まあ、落ち着きなさいって。……仕方ないから、師匠の実力を見せてあげよう」


 久しぶりにやる気になった六駆。

 これは4度目の異世界転生の時以来である。

 実に7年ぶりの出来事であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「『滑走グライド二重ダブル』!」


 六駆がスピードスケートの選手のように地面を滑る。

 似たようなスキルの『瞬動しゅんどう』を使用しなかったのは、足元に張り巡らされた蜘蛛の糸を警戒しての判断であった。


「キュリィィィィッ! ギィイィィィィッ!!!」


「うわっ! 耳障りな鳴き声! よっと、大丈夫ですか、クララ先輩!」

「六駆くん、なんで来たの!? 蜘蛛の糸はどうにかできても、あいつの口から出て来るヤツがヤバいんだってば!」


「どうヤバいのか、説明できます?」

「うぇっ!? ええと、糸の塊と、炎と冷気。3種類吐いてくるから、対応が追い付かなくて!! ほらぁ、来るよ! 君だけでも逃げてってば!!」


「キュララララララッ!!」


「ふむ。ちょっと1回受けてみるか。『石壁グウォールド』!」

「きゃあぁぁぁっ!! ぁぁぁ……? えっ、その、六駆くん? これはなに?」

「地面を重力操作で盾にするスキルです。ああ、地面に手を付ける必要はないんですけどね。ほら、鋼の錬金術師でこんな感じに壁作るシーンがあるじゃないですか! 若い頃、アレに憧れてですね! それがクセになっちゃって!」


「ごめん! あたしが話しかけたけど、やっぱ集中して!!」

「へーい! クララ先輩はこの盾の後ろにいてください! 僕、ちょっとあの蜘蛛黙らせてきますから! 『滑走グライド二重ダブル』!」


 姿が見えなくなったクララよりも、自分の周りをウロチョロする六駆に蜘蛛の目標が変わったのは実に自然な流れだった。

 それは、六駆にとっても望むところ。


「さっさと終わらせて僕は屋根の修理代を稼がにゃならんのだ! 『大竜砲ドラグーン』!!!」


 古龍のブレスが蜘蛛を襲う。

 状況を見守っていた莉子は「これで決まって!」と祈った。

 ささやかな祈りほど届かないのが、この世の理であるとも知らずに。


「キュリィィィィイィィィィィッ!!!」

「マジか! 氷吐いて相殺しやがった! へぇー! そうか、そうか! 面白い!」


 六駆は長年の経験から、蜘蛛の急所に当たりをつける。

 この階層に来た際、クララが石礫いしつぶてのような攻撃を仕掛けて、蜘蛛が防御行動を取らなかったシーンを目撃していたのも彼の推理の材料になった。


 外皮が極めて固い。恐らく、物理以外の、炎や冷気にも耐性がありそう。

 ならば、なにゆえ真正面から放った『大竜砲』は冷気でガードしたのか。


 つまり、急所は口。

 ありがちな弱点である。この手合いの対策ならば10や20は持ち合わせているのが、六駆の経験値。


「おっしゃ! 蜘蛛野郎、こいつもしっかり味わえよ! 『岩牙ドルファング』!!」

「キゲェァアァァァァ!!」


 地中から生み出される巨大な石の槍。

 それが狙いすましたかのように、蜘蛛の口を貫く。

 致命傷どころか、大したダメージにもならないだろうが、これで蜘蛛は口を塞ぐ事ができない。


「そんじゃ、お別れだ! とっておきをくれてやる! 『圧縮竜巻ハリケバラム』!!」


 六駆が繰り出すは異世界の天変地異。

 限界まで圧縮した竜巻は球体となり、ゆっくりと蜘蛛の口の中に入っていく。


「……ふんっ! 弾けろぉ!!」


 煌気オーラを纏った球体は、彼の合図でその場にあるもの全てを切り刻む。

 例えば相手が、新種のモンスターだったとしても。



「キュリィィィッ! ピギャウゥゥゥゥッ」



 巨大蜘蛛は跡形もなく崩れ去った。

 久しぶりの少しだけ気合の入る交戦に、六駆も満足。


「す、すごっ……。って、待って! まだ小蜘蛛が何匹かいるの!」

「莉子さーん。出番だってさ!」

「ふぇぇ! 人使いが荒いよぉ! てぇぇぇい! また出たぁ! やぁぁぁぁっ! もぉ! はぁぁぁっ!!!」


 莉子の『太刀風たちかぜ』が残った小蜘蛛を1つずつ丁寧に割っていく。

 目に見えるモンスターをだいたい処理し終えたところで、彼女はクララの元へ走る。


「大丈夫でしたか!? クララ先輩! もう平気です! あっ、怪我が!」

「やー。君たち、ホントに何者!? すごいねー。怪我はしょうがないよ。平気!」


「六駆くん! なんか治療するスキル使えないの!?」

「使えるけど? あ、使った方が良い? いや、労災とかの関係で、使わない方が良いのかなとか思ってさ!」


「早くして! もぉ、おじさんってめんどくさい!!」

「分かったって! でもさ、その前に。あれ、どうする?」



「誰かぁぁぁぁ! 助け、たしゅけてぇぇぇ! あああ! 蜘蛛がぁぁぁ!!」

「お願いですぅ! あ、なんか刺された! 刺されましたぁ! お救いくださいぃぃ!」



 薄情者コンビが、莉子の始末し損ねた小蜘蛛にたかられていた。

 片方は、何やら毒々しい色の牙で足を刺されている。


「因果応報ってあるんだなぁ。あっはっは!」

「助けてあげてよぉ。ここであの人たち見捨てたら、わたしたちまで同レベルになっちゃうじゃん! ヤダよ、わたし! お母さんが泣いちゃう!」


 なるほど、莉子の言う事の方が道理である。

 不承不承ながら、六駆は彼らにたかる蜘蛛を払いのけた。


 ただし、それが行われたのは、クララの治療が済んでからの事だった。

「なかなか良かった!」

「続きが気になる!」

「更新されたら次話も読みたい!」


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