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8.ピザのためなら窯作りから始める系女子

 


 ディアが新鮮なトマトをたくさん採って帰ってきてくれたので、今日はトマトパーティーにしようと決めた。


 どの料理ならばトマトが最大限活きるだろうかと頭を悩ませた結果、脳内のトマト料理トーナメントを勝ち抜いたのはピザだったので、ピザにする。

 

 ぶつぶつとトマト料理の名前を呟くとともに、トーナメント実況風の独り言を言い、ついに今日のメニューを決めて満足げに頷いた私を、ディアは珍獣でも見たような顔で見ている。


「ディアはリクエストとかありますか? 例えば、トマトを全部ピザに使うんじゃなくて、少しはサラダにして食べたいとか」

「食えれば何でもいい」

「なるほど」


 作り甲斐のなさ、ここに極まれり。

 まぁ、こっちも好きなメニューを好きに作れる方が楽だし嬉しいけれど。

 白けた目をした私から目を逸らしたディアは、そのまま家を出て行った。


 フレミリア様のお墓の方角だったから、花束を備えにでも行ったのだろう。ディアは、フレミリア様のお墓に花束を備えることは一日も欠かしたことがない。雨の日でも風の日でも、毎日黙々とカレンデュラの花畑へと出かけていく。


 それが愛だということは、前世を含めて、家族愛以外の愛を知らない私にもよく分かるから、キュッと胸が切なくなる。


 ディアは一度花畑に行くとなかなか帰ってこない。フレミリア様に近況報告でもしているのか、ただお墓の前で彼女のことを想っているのか。


 もし話しかけているのなら、私のことも紹介してくれてるのかな。どんな風に紹介しているのか、気になる。やけに生命力が高いとか、うるさいとか、そんな感じだろうか。


 いつか、ミレリアという居候はなかなか美味いパンを焼きます、なんて伝えてもらえたら嬉しいのだけれど。元パン屋の意地。


 そのためにも、今日も美味しいものを作らなければ。


 私は、早速ピザ生地を作るために、ボウルを用意し、その中に薄力粉、砂糖、塩を入れて混ぜ始めた。ぬるま湯を少しずつ加えながら混ぜ合わせていくのがポイントだ。


「よいっ、しょ!」


 パン作り、というか生地作りは案外体力勝負。まとまってきた生地に体重をのせ、表面がなめらかになるまで、しっかりこねていく。


 それから生地を一つにまとめて、空気が入らないように後ろで捻じれば、ひとまず完成だ。これは、生地が2倍ぐらいの大きさになるまで寝かせておく。


 さて、次はお待ちかねのトマトソース作りに取り掛かろう!

 火の魔法石で水を沸かせておいた鍋の中に新鮮なトマトを放り込み、皮を湯むきしてからザク切りにする。あとはみじん切りにしたタマネギとニンニクを炒め、先ほどザク切りにしたトマトを入れて茹でればあらかた完成だ。


「やっぱりピザといえばマルゲリータでしょ!」


 ふんふんと鼻歌を歌いながら生地を確認する。ソースが出来上がる頃には完成するだろう。


 あとは生地を広げて、具材を載せ、オーブンで焼くだけ。案外簡単だ。今のうちにオーブンを予熱しておこうか。


「……でもピザって、窯で焼いた方が絶対美味しいよねぇ」


 頭の中に浮かぶのは、元実家の窯で焼いたピザ。あれは香ばしかった。美味しかった。じゅるりと涎が出てくる。


 オーブンではなくわざわざ窯を使うのは、ピザを焼き上げるのに一番適した温度で焼けるからだと前世の父は言っていた。オーブンだと温度の高さが足りないのだとか。


「この家に窯は……あるわけないよね」


 普通はない。パン屋かピザ屋か、余程料理が好きな人の家でもない限り。

 そういえば家の前にある花壇の横には、ちょうど良さそうなレンガがあったな、と思い出す。


 まさか、作っちゃう? 

 いやいや。流石に。流石にね。お庭に勝手にピザ窯を作ったら怒られるかもしれないし。


 でも、ディアは花畑へ行くとなかなか帰ってこないから、時間ならある。


 葛藤すること、3秒。窯焼きピザ食べたさに取り憑かれた私は、ピザ生地とソースに保存処理を行い、玄関の外へと向かった。







 レンガを積み上げて、その上からディアに耐火の魔法をかけて貰えば、立派なピザ窯になるはず。多分だけど。


 あやふやな知識の元、シンプルに窯作りに興味があったこともあり、私は黙々とレンガを積み上げていた。どんな形にするのがいいんだろう。


 きっと、円形の方が見栄えはいいけれど、私のスキルから考えると無難に長方形の方がいい。残りレンガの数と睨めっこしながら形作っていると、花畑の方から帰ってくるディアの姿が見えた。


「あ、おかえりなさい!」


 何やら顰めっ面をしていたようだが、レンガを積み上げている私の姿を見て、ディアは意味不明だと言いたげな顔をしていた。

 違います。不審者じゃないです。美味しいピザを食べるための労働ですよ!


「このレンガってもう少し貰えたりしませんか?」

「……何をしているんだ」

「何って、ピザ窯作りを。食べたことあります? 窯で焼かれたピザ。信じられないぐらい美味しいんですよ!」


 父が作ってくれたピザの味を思い出してニッコニコの私に、ディアは呆れ顔だ。


「お前、料理のためにそこまでするのか」

「私の生命力の源なので。あ、ごめんなさい。勝手にピザ窯作っちゃいました」

「別に、好きにすればいい。壊すのは一瞬だ」


 てっきり、俺とフレミリア様の庭にそんなものを建てるなとか色々言われるかと思っていたら、めちゃくちゃドライな言葉が返ってきた。

 選択肢に何の躊躇いもなく『破壊』がある。


「私の窯焼きピザを食べたら、壊すなんて言えなくなりますよ」


 ぶっちゃけ自信はある。レンガをまたひとつ積み上げてそう言うと、ディアは無表情のままそっぽを向いた。そのままどこかへ行ってしまったので、せっせとレンガを積み続ける。


 疲れてきたからちょっと休憩しよう。


 芝生の上に寝転がって腰を伸ばしていると、頭上から「貧弱だな」と声が降ってきた。酷いことを言われているのに、低めの声は艶があって素敵だな、なんて一瞬思う。もし私が男に産まれていたらディアの声になりたいと思うほど。


 そして、その素敵な声でディアは続けた。


「残りは俺がやる」

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