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48.ずっと一緒に



 ご馳走を2人で食べたあと、私たちはしっかりケーキまで食べて、お腹いっぱいのまま庭に出た。今日は天気が良かったし、あたたかい気候だったから、外で風にあたりたいと私が言い出したのだ。


 家から持ってきた大きめの布を引いて、その上にゴロンと寝転がる。星空が煌めいている。ぼーっと見つめていると流れ星が見えたけれど、祈る内容が見つからなくて、そのまま見送ってしまった。


 ふと横を向いて、ディアを見つめる。ディアはさっきの流れ星に何かを祈ったのだろうか。


「ねぇ」

「なんだ」

「ディア、何か私にして欲しいことってない?」


 正直、誕生日じゃなくても私に出来ることならなんだってしたいけれど、ディアは自分からそういうことを言い出すタイプじゃないから、こういう機会に聞いておきたい。


 そう思って尋ねると、ディアは少し考えたあと「これ以上望んだらバチが当たりそうだ」と言った。


「そんなことないよ! 私はディアにどれだけでも、ていうか世界で一番幸せになって欲しいから……!」

「ミレリアが隣にいるだけで、俺は毎日世界一幸せだからな」

「もう! いつもそういうこと言う!」

「ダメなのか?」


 ディアの綺麗な目が私を覗き込んできた。それだけで私はいつも、何も言えなくなって、項垂れるしかなくなってしまう。恥ずかしくって抗議しちゃうけど、だって本当は、すごく嬉しいし。


「……ディア。何でもいいんだよ?」


 もう一度確認をすると、ディアは20秒ほど黙り込んで真剣に悩んだあと、思いついたように口を開いた。


「そうだ。名前を呼んで欲しい」

「名前? 毎日呼んでるのに?」

「それでも呼んで欲しいんだ」


 もっと特別なものを贈りたいのに、とも思ったけれど、本人が望むのならばそれに応えるしかない。


「じゃあ……ディア」

「もう一回」

「ディア」

「もっと」

「ディア!」


 私が名前を呼ぶたびに、ディアはとびきり眩しく笑う。


「あぁ。もっと呼んでくれ」

「ディア。……なんか、恥ずかしくなってきた」

「どうして? あなたがくれた大切な名前だ」


 ディアはそう言って、さらりと私の髪を撫で、優しく耳にかけた。


「俺はあなたに名前を呼ばれるたびに嬉しくて堪らなくなる。心臓が高鳴って、生きている心地がするんだ」

「…………」

「名前も、感情も、生きる意味も。俺はミレリアから貰ってばかりだな」

「それは違うよ!」


 思わず声をあげてしまった。だって、それは。


「私も……私だって、ディアに出会う前まではずっと生きてる意味なんか分からなかった」


 死ぬためだけに戦場へ行っていた。いつ終わってもいいって、ずっと思ってた。未来のことなんて考えたことすらなかった。


「ディアに出会ってからなんだよ。ディアに出会って初めて、明日のことを真剣に考えるようになった。私はディアに出会うために産まれてきたんだって、それなら産まれてきて良かったなって、初めて思えたの」


 私は、ディアが初めて私の名前を呼んでくれた瞬間を、死ぬまで忘れることはないだろう。


「だから、貰ってばっかりなのは私の方!」


 いつのまにか溢れてきた涙を、ディアの指がすっと拭ってくれる。そのせいで、もっと涙が止まらなくなった。

 ひたすら泣きじゃくる私に、ディアは「空を見てくれ」と言うので、どうにか涙を押し込めて目を開く。すると、夜空にパッと光の花が咲いた。


「え!?」


 驚きで涙が引っ込んだ私を見て、ディアはふわりと笑う。


「良かった。泣き止んでくれて」

「え、え!? これ、花火!?」


 私が作るものとは少し違う感じがするけれど、間違いなく花火だ。夜空に溶けるように消えていく光の粒を見送ってディアの方を向くと、ディアは得意げに口を開いた。


「あぁ。俺もミレリアに花火を見せたくて、練習してたんだ。綺麗だろう?」

「うん。すごく、綺麗」


 花火を上げるときは、いつも頭の中でどんな形にしようかと想像をしてから空に放つ。だから、ある程度どんなものになるか分かっていて、いつも花火をキラキラした目で見上げているディアを見ていた。花火がこんなに綺麗だなんて、知らなかった。


 ディアが私の頬に手を添える。私は何も言えなくなってしまって、綺麗な形の唇が動く様子をただ見つめていた。


「ミレリア」

「…………なに」

「明日とか、明後日どころじゃなくて、これからもずっと一緒にいて欲しい」


 ──── 明日も、明後日も、二人でいましょうね!

 線香花火を見ながら、そんなことを言った記憶が蘇る。ディアは切実な顔で言葉を続けた。


「結婚しよう。俺は、俺の人生にミレリアがいてくれたら、他に何もいらない」


 そういえば、番にはなったし、死ぬときは一緒だけれど、結婚はしていなかった。ディアは律儀に人間になった私のことを考えて、プロポーズのタイミングを見計らってくれていたのだろうか。


 答えなんて分かってるくせに、ディアは緊張した顔で私の返事を待っている。答えなんてひとつに決まってる。私の全部は、とっくにディアのものだ。

 私、絶対にあなたを幸せにするからね。心の中でそう呟いて、満面の笑みを浮かべる。


「不束者ですが、これからずっと、ずーーっと! よろしくお願いします!」

これにて完結です。

いただいたリアクションが感想を励みに、なんとか完結させることが出来ました。

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!


もしよければ「☆☆☆☆☆」から応援していただけると嬉しいです。一言でもいいので、感想もいただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
完結お疲れさまでした。 収まるところに収まった、ハッピーエンドは良かったです。 また作品を読ませていただけて、ありがとうございました。
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