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7、カモミール作戦

 時は前後して、ジュレーニーツは負傷した翌日に目を覚ましてくれた。一時期は心肺停止にもなったそうだが、どうにか生き返ってくれたようで何よりだった。

 ジュレーニーツから今後の方針を聞くと、以下の通りだった。


・自分は指揮官としてやっていけない状態であるため、しばらくは治療に専念すること

・指揮官の後任は外部の人にお願いすること、つまり、第2旅団は指揮官以外の人事異動はないということ

・後任は上層部に任せるとのこと


 ということであり、その翌日には管区司令部から後任の指揮官が来た。

 その姿には見覚えがあった。長く白いあごひげを生やし、髪の毛がほとんど抜けきってしまっている、まるで山奥で修行していた仙人みたいな、偏屈な爺さん。フェルナート・トラヴェス准将だった。

 彼の訓示を聞いている者は、皆が戸惑いと動揺の気持ちを抱いている様子だった。私は新しい指揮官に対する不安よりも、司令部内の結束の欠如に対しての不安を抱いた。

 撤兵を唱えていた彼は、管区司令部内で煙たがられている人であり、この旅団内での評価も芳しくなかった。

 管区司令部と不仲で、厄介払いされたような形で送られてきた彼を、信用してもいいものだろうかと、何人かが不信感を抱いている様子だった。これにより司令部内に司令を信用するかしないかで不和が生じる可能性を私は危惧していた。

 新しい旅団長が、参謀事務室で我々司令部のメンバーに対する訓示を終えると、今度は隷下部隊長に対する訓示に行った。副官を帯同していないのも気になった。

 訓示の内容はごく普通で、あまり面白い物でもない、お堅い感じの、淡々とした物だった。

 あまり耳に入ってこないなと思っていると、いつの間にか訓示は終わってしまっていた。

「……どう思います?」

 新しい旅団長が事務室を出ると、ウェステーリスが私に聞いてきた。

「至って普通の訓示だったと思うけど」

「そうではなく、彼に対してですわ」

「まあ、個人的には司令部内に亀裂が生じることの方が怖いわね」

「彼については?」

「なんとも。指揮官としての実力も知らないし」

「そうですのね」

「そう言うあなたはどうなのよ?」

「……ノーコメントですわ」

 ウェステーリスの真意を聞こうとすると、トタトタと足音を立てながら、今度は事務室内に、慌てた様子で誰かが入ってきた。トラヴェスではなさそうだ。

 入ってきた人は、赤というよりも橙色と言うべき髪色だ。体格はやや小さく、私と同じくらいだ。髪は少し長く、おさげを半分くらいの位置で折って、肩にかからないようにまとめた髪型をしている。

「……ありゃ、旅団長はどこでありますかいな?」

 声を聞いてわかったのだが、かなり強いモデアーリ訛りをしている。ヴァルレートの商人でも、ここまでの話し方なのは今の時代では珍しい。モデアーリ出身のエルフやドラゴニュートか、老年のモデアーリ人から聞けるかどうかレベルの訛り方だ。

「さっき出て行きましたわよ。それよりあなたは?」

 ウェステーリスが呆れた様子で聞くと、その女性は気恥ずかしそうに後頭部を掻きながら答えた。

「ああ、これはこれは、失礼、あっしとしたことが。ええ、名乗りますとも、ええ。あっしはディミティア・ヘルンって言うもんで。以後、お見知りおきを。一応、イルメアン少佐の代わりに来た副官って事になっておりますもんで、ええ。まあ、よろしくお願いしますわ」

 随分と陽気な人に思えたが、いい加減なところがある感じがした。副官がいなかったのは旅団長の人望の問題というより、この人の問題と言う方が適切だろう。

「遅刻とは感心しませんね。仮にも佐官なんですから、しゃんとしていただきたいものですが」

 色々な人を見てきたであろう人事参謀のフィルナールも、これには呆れ顔だ。ヘルンは苦笑しながら、手でゴマを擦っている。商人の家系なのだろうか?いずれにせよ、キャラの強調がすごい。

「いや、すいませんねえ。ええ、なにぶん、あっしも昨日、唐突に移動を言い渡されたもんですから、寝不足なんですよ。ええ。そんでまあ寝坊しちゃいましてね、ええ。それは本当に申し訳ない限りで」

 ヘルンはその様に釈明した。フィルナールは納得しなかったみたいだが、私は納得できたので、助け舟を出してやる事にした。

「それより、旅団長のところには行かなくて良いの?」

「ええ、ええ、そうですね。じゃあ、あっしはこれで、失礼します」

 そうして、ヘルンは事務室を出た。去り際、私に軽い会釈をした様に見えた。

 終始、怪しいものを売る商人みたいな胡散臭い笑みを浮かべており、気さくにも見えるが、私には怖くもあった。何を考えているかわからないからだ。裏社会で違法な薬屋をしていてもおかしくないような、そんな感じであった。

「なんというか、すごい方でしたね……」

 リファレールは圧倒された様子だった。ロネリースも言葉を失っている。他の人もざわついていた。

「まあ、今の時代では珍しいほどの商人っぷりでしたわね」

「私としては素行が気になりますね。あの旅団長といい、あの副官といい、大丈夫でしょうか」

「なるようにしかならないと思うけどね」

 結局、私たちは与えられた手札で戦うしかないのだ。昔からそうであった様に、今もそうなのだ。

 そんな状況で、我々第2旅団は、またしても司令部から呼び出しを受けた。

 新しい旅団長は上の人を軒並み掻っ攫って、司令部の方へと赴いた。

 メンツは、旅団長のトラヴェスはもちろん、副旅団長のディルメース、副官のヘルンに、私を加えた4人だった。命令下達だそうで、私まで駆り出されるのはかなりの事なのだろうと想像がついた。

 5人乗りのジープを2台手配して、我々は司令部に向かった。このメンツの中では、運転手を除くと私の序列は下から二番目なので、一番序列の低いヘルンと私が同じ車両になった。

「それでは、出発いたします」

「お願いします」

 運転手の報告に私が応じると、車は走り出した。前にはお偉方が乗っているわけだが、今頃車内の空気は地獄みたいなのだろう。まあ、仕方がない。

「しかし、ええ、名前を聞いてませんでしたね?前にも言いましたけど、あっしはディミティア・ヘルンって言います」

「コアネ・レーリンツ。旅団の作戦参謀。よろしく」

「ええ。呼び方は、こういう場ならコアネさんで良いですかね?」

「お好きな様に」

 別に判別できればなんでも構わない。公的な場でもない限りは好きなように呼べば良いと、少なくとも私は思っている。上官に報告する際は、肩書きで呼んでもらえないと怒られるのでやめて欲しいが、そうでない場合ならなんでも良い。

「えっへ。じゃあ、コアネさん、改めて、よろしくお願いします」

 そう言いながら、ヘルンは手を差し出してきた。私は握手だと解釈して、その手を握った。

「はいはい」

「いや、ええ、コアネさんは出身はどこなんで?」

「スロレア州のメローラ。そう言うあなたは……ヴァルレート?モデアーリのどこかよね?」

 私の出身地はあまり思い出したくない物だったので、ヘルンの出身地に話題を移してもらう事にした。

「いや、惜しい。ええ。本当に惜しいです。あっしはメイリの出身ですわ。ええ」

 メイリか。確かに惜しい。ヴァルレートの東隣で、国内屈指の旅客港で知られるメイリ港のある場所だ。ヴァルレートの下町というイメージが強い。あのあたりも訛りが強いイメージがあるが、実際行ったときはそんなにすごくはなかった。少なくとも、会話に違和感がないレベルだった。

「メイリといえば、港よね」

「ええ、よくご存知で」

 ヘルンは少し驚いた様子を見せた。

「以前行ったけれど、あなたほどの訛りの人は見なかったわね。やっぱり商人の家系なの?」

「ええ、あっしの訛りが強いってのはよく言われますわ。ええ。実際にあっしの父は露天商だったんで、ええ。そんでもってめっちゃ早口で、でも滑舌は良いもんだから、聞き取れるもんで、ええ。それが今やスポーツやら競馬やらの実況席で活かされてますわ」

「それはすごい。私の親にも見習って欲しいくらい」

 今頃何をしているのだろうか。私の親は。まあ、なんでも構わない。もう関係ないのだから。

「いやいや、そんな。メローラだってあれじゃないですか。賢い人がたくさんいる感じの」

「ああいう手合いは外部の奴らだからね。あんまり良い場所じゃないと思うけど」

「ああ、地元民は苦労する感じですかいな?」

「まあ、そうね」

「いや、ええ、でもまあ、わかりますわ。メイリはメイリで頭お花畑っちゅうか、ど阿呆な連中が最近多くて困っていますよ。ええ。あっしは前、道を歩いてた時に火ぃ付いたままのタバコをクソジジイに投げつけられた事ありますからね」

 本人は笑いながら言っているが、普通に警察の世話になるレベルの事件だ。

「それは警察案件でしょ。大丈夫だったの?」

「ええ、まあ革命の時期の話でしたからねえ。ええ。その火ぃ付いたままのタバコを相手にぶん投げてやりましたわ。『おい!落としたぞ!』つって。そしたら、なんと、たまたま上手いこと奴の服の中に入りましてねえ。ええ。それはもう傑作でしたよ」

 ああ、良い性格をしているタイプだ。この人と酒を飲んだら楽しめそうだと思った。

「革命の時期なら仕方ないわね」

 革命の時期の警察は役立たずも良いところだった。「市民のための警察」というより、「国家権力のための警察」という色が濃くなっていた時代だったため、「あの時代の警察は役立たず」という印象がシャルステル人の間では広く持たれている。

「それより、ええ、話は変わりますが、コアネさんはメイリに行ったことがおありで?」

「一度だけね。働き詰めで疲れていた時に留学の話が舞い込んできて、それを海路で行かせてもらったのよ」

「ああ、船の上でゆっくりしろって事で?」

「そうね。たまたま海軍の艦艇がメイリに寄港してて、それに便乗させてもらったの」

「そりゃまた、貴重な経験で。ええ。どうでした?」

「まだ時代が時代で、女性用の区画分けとかがなかったから、それで少し苦労したわね。自室以外にトイレがないとか。それでもその艦長が将官用の個室を使わせてくれて、かなり良い環境で過ごさせてもらったのが印象ね」

「そりゃまた、羨ましい。あっしは将官待遇とか受けた試しがないですね」

「普通はないと思う。だから個人的には海軍というか、あの艦長や船員達に恩義はあるのよね」

「その艦長さんは、今はなんで?」

 なんでとはなんだ。意味が理解できなかった。

「ええっと……なんて?」

「ああいや、その当時の艦長さんは、今は何の役職なんですかいな?」

 聞き返すと、ヘルンは比較的丁寧に言い直してくれた。おそらく訛りが出たのだろう。

「ああ。ええと、詳しくは知らないけど、もう結構な立場にいるはず。間違いなく将官ではあるはずだけどね」

「なるほど。そりゃ、ええ、また会えると良いでしょうね」

「まあでも、10年くらい前の話だし、きっと私の事は忘れてると思うけど」

「ああ、結構昔で……」

 自分で言っておきながら、もう10年かと驚いた。「時間は雷鳴のような物(意訳:光陰矢のごとし)」と言うが、歳を取ると尚更それを感じる。

「ちなみに、その艦っちゅうのは、なんて名前で?」

「ミサイル駆逐艦の『ココット』ね。ちょうど今、近海にいるみたい」

「ありゃ。それなら、その駆逐艦に助けられたかもっちゅう事ですね」

「そうかもしれないわね」

 まあ、そう思っておく方が幸せなのかもしれないが、実際のところは、ココットは確か潜水艦向けの装備を搭載している駆逐艦なので、こんなところにミサイルを撃ち込んではいないだろう。それに、借りばかり作るのも、なんだか気に入らない。

 そんな貸し、相手は忘れてしまっているのだろうが。


 管区司令部の庁舎の壁は、修復工事でもするみたいで、金属製の足場と骨組みに、緑色のシートで覆われていた。穴はまだ塞がっていないが、そのうち消えるのだろう。

 会議室に入ってからは、ヘルンと誰かという形でしか会話がなく、まるでヘルン一人だけが沈黙を嫌っているかの様だった。心なしか、三人中二人の上官は疲れている様にも見える。まあ、あの車内の空気は察するに余りある。

 トラヴェス爺さんは結構偏屈そうだ。私自身が年配の男性の扱いに慣れていないせいなのもあるだろうが、接し方がよくわからなかった。

 私は彼とのコミュニケーションを早々に諦め、会議の開始時刻ギリギリまで、自販機の前で缶のコーヒーを一人で飲んでから、会議に臨んだ。あの空気だけならまだしも、他の士官からの刺す様な視線の中にいるのは御免被りたかったのだ。

 出席率としては結構悪めで、第1旅団は上層部が数人揃っていたが、他の部隊については代役が多く、我々第2旅団のみが司令部の面々としては一番数が多かった。おかげで我々だけが浮いている感覚がした。これはつまり、この会議の重要性の認識が、他所の部隊とは違うという事である。管区司令部の面々はいつもの調子なので、おそらく意図した事なのだろう。何か事情があるのだろうか。

 会議が始まると、皆は静まり返る。話しているのは進行役の人だけだ。視線については、書類か、話している人に対して向くので、会議の開始の前よりかは大分居心地が良くなった。今日の進行役はどうやら、管区司令部の副官みたいだ。

 状況については多国籍空軍の介入と、上の方で指揮権について揉め事があるとかどうとかいう話はあったが、基本的に我々を取り巻く状況が好転したという事が伝わってくる内容であった。

 管区司令部の司令官のシェールコール少将は、終始、喜びというよりは安心感を抱いている様子で話していた。

 情報共有の間、暇になった司会の副官から資料が渡されると、トラヴェスが何か副官に対してお小言を言っていた。小声であったので何を言っているのかはわからなかったが、私のところに資料が回ってくると、その理由がわかった。

 司令部のメンツが目を通しておかなければならない、我々に対する命令書がなかったのだ。他の部隊の物は丁寧に挟んであるが、我々に対しての物だけがなぜか欠けていた。落丁かと思ったが、よく見るとページ数は飛んでいない。意図的に省かれているみたいだった。

 ディルメースも戸惑っているみたいで、私と目が合ったが、首を傾げる事しかできなかった。

 管区司令部の副官はうちの旅団長の対応で忙しく、他に聞ける相手もいなかった。話している司令部の面々はこちらの様子に気づいているみたいだが、無視している様だった。いじめられているのだろうか。

 そんな不安感に駆られながら、命令下達に移る事になった。やはり、呼び出しを喰らうというのはそういう事なのだ。しかも指揮官直々に説明するという事は、司令部がそれだけその作戦を重要視しているという事を意味している。それだけに、他所の部隊の様子が目についた。

 うちの場合、命令下達は指揮官にもよるが、もっぱら我々参謀に任せ、指揮官は後ろで腕を組んで見ている場合が多い。そうでないのなら、何か事情があるのだ。

 指揮官直々の命令下達だというのに、他所の部隊の人達は飄々としていた。緊張感に欠ける感じだが、いかがなものかと思う。

「まず、第1旅団。これにあっては後方に控え、予備戦力としてしばらくは扱うこととする。理由としては、先の防衛戦で損耗が激しかった事が挙げられるため、士気及び装備の観点からの判断よ」

 妥当な決断だと思った。旅団長のリースレアも安堵している様子で、他の人達も見解は同じ様だった。

 質問も少なめで済み、続いては、我々の下達に移る事になる。

「次、第2旅団。こちらも第1旅団と同様、予備として扱うわ。次、第3旅団」

 シェールコールはそれだけ言って、次の部隊に行った。あっさりしすぎている。

 確かに予備兵力は必要だが、こちらは第1旅団ほど損耗も疲弊もしていない。にも関わらず、我々を予備兵力として割り振るのは理解できなかった。

 予備兵力はあくまでも、作戦の最終フェーズに入ったときに仕上げをするためのものだ。それが多く存在したところで、大して意味はないどころか、むしろ有害とすら言っていい。遊兵の存在は戦術においてはあってはならない存在で、勿体無いからと兵力を出し渋るのは下策中の下策だ。

 百歩譲って、司令の作戦を受けるとしても、質疑応答の時間を作らなかったことが理解に苦しんだ。何も知らなきゃ何も出来ないというのに、うちの副官と司令官は何もなかったかの様に資料を読んでいる。

 疑問符が浮かんでいるのは私とディルメースの二人だ。まるで私たち二人だけが世界から取り残されているかの様な孤独感に苛まれていた。

「(ねえ、何かおかしくない?)」

 ディルメースが、会議の邪魔にならない程度の小声で聞いてきた。

「(そうですね。何かあるんでしょうか)」

 ディルメースが動揺している様子が、私にも伝わってきた。確かに奇妙な感じだが、まだ慌てる様な時間ではない。

「(大丈夫なの?)」

「(最後の質疑応答で聞きましょう)」

 私が答えると、ディルメースは頷いた。

 やがて、命令下達が終わり、全体質問のフェーズに入ると、私達は手を挙げた。だが、二人とも指される事はなく、時間の都合なる理由で会議は終わった。

 そのあと、管区司令部の方から我々だけが残る様に言われ、会議室には管区司令部のお偉いさんと、我々第2旅団のお偉いさんだけが残った。会議室の広さに対して人数が明らかに見合っておらず、少し寂しさを感じる。

 私達に隠されていた事情というものが、おそらくここで明らかになる。このまま帰されたらどうしようかと思ったが、そうでない様で安心した。

 とはいえ、副司令官のミーコヴェル准将もこちらの状況を掴みかねている様子で、シェールコールをじっと、戸惑いの眼差しで見ていた。

「さて、まずは、すまなかったわね。事前に連絡が行っていなかったみたいで」

「いや、ええ、謝るべきは私です。共有出来なくて本当に申し訳なかったです。ええ」

 シェールコールが一応、といった態度で謝ると、ヘルンがすかさず申し訳なさそうに頭を下げた。

 事情が汲み取れず、我々は困惑した。ひとまずいじめられているわけではないことは理解したが、それ以上の、肝心なところがわからないままだった。

「状況が分からないとなんとも言えないのですが、どういうことですか?」

 ディルメースがシェールコールに聞いた。

「司令と副官は知っているはずだけれど、あなた方第2旅団は、予備兵力以上の大役を任せるつもりでいるのよ」

 ますますわけがわからなくなっていると、管区司令部の副官が我々に、第2旅団宛の命令書を差し出してきた。どうやら会議で配られた資料とは別に用意されていたみたいだった。

 副官が持っている封筒から、私は事情を察した。

 ほとんど全ての命令書には「機密指定」という仰々しい赤色のスタンプが押されており、そう簡単に関係のない人に見せられないことになっている。その機密指定書類の入っている封筒の表に、誰に見せていいのかを示す肩書きが書いてあるのだが、明らかにそこに書いてある肩書きが少なかった。通常は数十人分いるのだが、数人分程度しか書いていない。それだけ見せられない書類だということだ。


――宛、第2旅団司令部 発、北方管区司令部


 貴部隊にあっては、秘匿名称「カモミール」作戦に従事することを命ずる。なお、本作戦は機密事項であり、隷下部隊の指揮官を含め、本書の閲覧許可が出ていない者に対する本作戦の存在を示すことも、別途命令があるまで禁ずる。


――北方管区司令部指揮官 カーレット・シェールコール


「……読み終わったら、回収させていただきます」

 管区司令部の副官がそう言ったので、私は命令書に「見ました」という意味のサインだけして、返却した。

「その、『カモミール』とは……?」

 ミラリスが聞くと、管区司令部の参謀長の、ロイメールが口を開いた。

「それは私から説明します」

 ロイメールは室内のプロジェクターの電源を点けた。

 それを見た管区司令部の副官が部屋の電気を消し、ホワイトボードに映されているスライドがよく見える様になった。

「ありがとうございます。さて、本作戦は開戦以前に立案されていた物で、この戦争を受けて、遠征軍司令部や魔法軍参謀本部や、統合軍作戦司令本部の方で協議を重ねて、承認された作戦です」

 ホワイトボードには、フラレシアの全土が入っている地図が映し出されていた。スライドの物らしい。

「以降は秘匿名称より、便宜上、『カモミール作戦』と呼称します。これはこの情報を知っている人は皆知っておりますので、ご承知おき下さい」

 確か、「逆境に耐える」とか、「逆境で生まれる力」だったか。カモミールの花言葉は。随分と脳筋な……軍隊らしい花言葉に思えるのは私だけだろうか。

「この作戦は主に作戦術、及び戦略的見地より語られます。この戦争の行く末を左右する重要な作戦ですから、心して聞いてください」

 トラヴェスは腕を組んで黙っており、ケルンはジッとスライドを見ていた。この二人は知っていたみたいだが、おそらく手続きの上で何かトラブルがあり、我々まで知らせるのが遅れたのだろう。そうであるのなら、作戦会議におけるあの態度にも説明がつく。

「本作戦の概要は、端的に言えば、歴史に残る規模の上陸作戦です」

 ロイメールがパソコンのキーを押すと、スライドが進み、友軍と敵軍を示すシンボルが地図の上に出てきた。地図の上のアリスレークルの領土の上に、我々第2旅団を示すシンボルが、フラレシアの領土の上に、フラレシア軍を示すシンボルがある。

「まずは、背景事情です。戦況はご存じの通り、現在膠着状態が続いています。一部専門家の間では泥沼化するとすら言われていますが、この作戦はそれを打開し、我々が主導権を握るために行う作戦です」

 うちの軍には、「同程度の強さを持つ剣と盾を比べると、強いのは剣である」という言葉がある。剣というのは攻撃の隠喩で、盾とは防御の隠喩である。つまり、軍人は常に攻撃することを考えなければならないということである。

 言い方を変えれば、この言葉は戦闘の主導権を握ることの重要性を説いている物で、攻撃すれば相手は弱るが、防御だけしていたとしても相手は弱るどころか強くなることさえあるというのが、この真意である。防御だけでは相手に時間を与え、援軍に来られたり、何か打開策を思い付かれたりするなど、言ってしまえば「時間をドブに捨てる」ということだ。

 ここで誤解しないで欲しいのは、「戦闘において、防御という行動が悪手」だと言っているわけではないという事である。むやみやたらに攻撃して、余計な犠牲を増やすくらいなら、防御も有効な部隊行動だ。ただ、この言葉が言いたいことは、防御している間もいつか攻撃に移る事を考える必要があるということだ。

 この作戦の意味するところは、すなわち、我々に、ついにその時が来たということだ。

「では、作戦の大まかな流れを説明します。

 初めは、第2旅団の部隊を二分し、それぞれ、レールカット港、及びハントゥケネ港に分散して、海軍の強襲揚陸艦に乗艦してもらいます。まずはリハーサルとしての演習をアネリア・ミフィリアにて行い、そして作戦の詳細を修正、本番へと臨みます。本番ではフラレシア領の港近くの海岸に、2隻の強襲揚陸艦を初めとする海軍艦艇を用いた強襲揚陸を、空軍の支援の下で行い、そのまま港を占領し、海岸堡を確保します。

 この際、港の守備については頑強な抵抗が予想されますが、それについては海軍の航空支援や艦砲射撃、砲迫攻撃にて対処します。可能な限り敵を港から誘き出し、ある程度の敵を火力を以って消耗させた上で港を占領し、これを補給拠点に進撃します。

 港の立地は地図を見て貰えば分かる通り、首都に近い場所です。最終的な目標は首都の占領ですが、爾後の詳細は情勢を鑑みて、上陸作戦後に策定します。

 ここまでで質問は?」

 私は手を挙げた。

「レーリンツ中佐」

「港における頑強な抵抗が予想されるということですが、具体的に航空支援などでどのように対応するのですか?」

 聞くと、ロイメールが口を噤んだ。その視線の先にはトラヴェスが居る。

「……これから詳しく述べるけれど、市街地に対する攻撃で対処してもらうわ」

 見かねたシェールコールが、ロイメールに代わり、はっきりと言った。

「これは第2旅団から別途、兵力を調達し、一個大隊程度の魔装歩兵を空挺で市街地に潜入させます。彼女達に市内でゲリラ戦を繰り広げてもらっている間に、あなた方の部隊に上陸をしてもらいます」

 ミーコヴェルが、淡々と補足説明を加えた。

 仮にも軍人は、己の国民を守ることがその責務として教え込まれる。それは近代以降の軍隊で有れば、どこでも変わらない。

 市街地に対する攻撃に、軍としてはそれに対処しないわけにはいかない。そうなると、まずは最寄りの港の守備隊がまず駆り出されるだろう。

 つまり、市街地を意図的に戦場にするということだ。それは民間人の生命を脅かす事でもある、最低な事だった。

「……だから嫌なんだ」

 すると、今まで黙っていたトラヴェスが、口を開いた。

「でも、これが戦争よ。先に吹っかけてきたのはあいつらだし、犠牲を最小限に済ますには、そうするしかないのよ」

 シェールコールが冷めた口調で言った。どこか突き放している様にも見えるが、理解はできる。だが、人としては間違っているのかもしれない。

「……だと良いがな」

 結局、軍人は上の人には逆らえない。トラヴェスも、階級が上の人に「やれ」と言われたら、それをやるしかない事に違いはない。悲しき宿命だ。

 正直なところ、私はこの場には限られた人しかいない事を、心の中で感謝していた。後方参謀のノーレリアンの様に、うちの司令部のメンツの中には、厳しく反対する人もいたであろう。

 とはいえ、これから苦労しそうではある。いつか言わなければならないことだ。

「……しかし、ええ、私も反対しますよ。まだ納得は行ってませんからねえ」

 ケルンも、初めて見る様な真顔で言った。少し意外だった。

 だが、気持ちはわかる。少数の犠牲で多数を救うという事は、果たして正しいのか。タチの悪いトロッコ問題を目の当たりにしているようなものだ。

 もしかしたら、犠牲になる市民がいなくても、戦争は終わるかもしれない。だが、確実に戦争を終わらせる事の方が、軍人としては正しいのだと、私は思っていた。

 じゃあ、私個人の、軍人という肩書きの外れたコアネ・レーリンツ自身の意見としてはどうなのだという事だが、私は「どうとでもなれ」とも思っていた。

 表には絶対に出せないが、世界のどこで誰が死のうと知った事ではない。どうせ、戦争なんてなくとも死ぬ人はこの世にはたくさんいるし、それと引き換えに生まれてくる人もいるのだ。むしろ、人口が多すぎるとすら嘆かれている昨今では、社会的な広い視野で見た場合に限っては、ちょうどいいとさえ捉えられる。だが、個人という狭い視野で見た場合には、それは悲劇な事に違いない。

 私の考えに対して、ある人は失望するのだろうか?それとも怒るだろうか?そういう人もいるだろう。だから、表には出せないのだ。戦災者の目の前で「人口が多すぎるくらいなんだし、社会的な広い視野では……」なんて事を言おうものなら、殴られても文句は言えない。

 軍人としての私は、そんな私を嗜める。だが、私の個性は簡単には潰せない。だから、妥協して、それを表に出さず、生きていくのみだ。

 むしろ、トラヴェスやケルン、ひいてはエルメネーヌもそうなのかもしれないが、この様な戦争に真っ向から反対し続ける存在、言い換えれば、正気を保ち続けられる様な、側から見たら狂ったとも見られる存在は、なくてはならないのだろう。

 正しい戦争があるとすれば、それは国際法に則った戦争だ。しかし、国際法はあくまでも理想論だ。現実とは違う。

 地雷を置かずに、敵の進撃路を限定する手段は限られる。戦闘地域で、民間人を撃たずにやり過ごすのはかなり難しい。間違って文化財や病院もろとも爆弾で吹き飛ばす事もあり得るし、そういう物や人を盾にして防御を固める、卑怯な武装組織もある。家を壊さずに市街戦をやるとか、無理な話だ。感情的になって、ストレスのあまり捕虜に虐待を加えたり、勢い余って殺してしまう人もいる。女性は特にそうだが、性的な意味で暴力を振るわれる事もある。そもそも、それを悪いとすら思っていないような野蛮な連中さえ存在しているし、仮に国際法を守る意図があったとしても、やむを得ず、あるいは意図せずやってしまう場合もある。

 現実は、彼らの言うほど、甘くはないのだ。

「……まあ、気持ちはわかるわよ。でも、これは上からの命令で、私もどうしようもないの。文句があるなら統合軍の司令部に言ってきなさいと、前も言ったはずよ」

 シェールコールがトラヴェスに言った。

「それはわかってます。ですから私は、旅団長としてここにいます。しかし、私の立場をはっきりさせておきたかった意図があった事はご理解ください」

「ああ、そういうこと。まあ、いいわ。それなら続けましょう」

 シェールコールがロイメールを見たので、私もロイメールからの言葉を待った。

「では、具体的な上陸作戦の流れを確認します。

 まず、第一に、当然ながら地元住民に対する退去勧告を、シャルステル語、フラレシア語、レト語の3ヶ国語で行い、その上で行動に移ります。なお、これで敵には作戦が露見しますから、これを受けた敵の行動を見て判断します。

 もし、先程のレーリンツ中佐のご指摘通り、敵が港の防御を固めた場合は、先鋒として、第2旅団隷下の一個魔装歩兵大隊を捻出し、これを市街地に空挺降下を以って投入します。この目的は港の防備にあたる敵の誘引で、市街地でゲリラ戦を以て対処します。

 その隙に、本命の上陸作戦の実行に移ります。この作戦における敵の脅威は、判明している範囲では以下の通りです」

 

・増強第52機械化歩兵旅団

・敵性ゲリラ、民兵(100人程度の反社会組織)

・地元警察(およそ数百人、特に留意すべきは警察特殊部隊である、「フラレシア武装国家警官隊/FANP」30人程度)


 これは相当難しい作戦だと、私は思った。特に、地元警察だ。これは脅威判定が極めて難しい。いくら制服警官がホルスターを携帯しているからと言って、敵国の警官を撃ち殺した後に、実は拳銃を持っていませんでした、なんて事があったなら、最悪だ。かと言って見逃せば、今度は自分が撃ち殺されるかもしれない。

 遠目で、警官のホルスターに銃があるかどうかなんてわからない。民間人を巻き込む可能性の高い、市街地のゲリラ戦は、そういうリスクと表裏一体なのだ。

「つまり、市街地戦をやらなくて済む可能性もあるという事ですか?」

 ディルメースが質問した。

「そうね。敵が市街地に移動した場合は作戦は実行しないわ。けれど、港で防御を固めた場合は、やる事になるわね。いずれにせよ、今後の敵の動き次第ではあるし、なんなら彼に判断してもらう事になると思うわ」

 シェールコールはトラヴェスをチラ見しつつ言った。

「どういうことですか?」

「この作戦の指揮はこの管区司令部じゃなくて、統合軍作戦司令部が執るんです。厳密には、そこから派遣された将校が指揮を執る事になります」

 ディルメースの質問にはミーコヴェルが答えた。

「確かに、統合軍による作戦ならそうなりますね」

「ええ。レーリンツ中佐の言うように、私達も他所の軍や統合軍作戦の立案、指揮の経験はないから、統合軍作戦司令部から将官クラスの指揮官が来て、その人が担当する事になっているわ。詳細は追って連絡が入ると思うけれど、私達管区司令部はあくまでも兵力の捻出のみが任務だから、そこでの魔法軍としての決断は、基本的にトラヴェスやあなた方に決めてもらう事になるわ。だから、頼んだわよ」

「命令とあらば」

 シェールコールが言うと、トラヴェスが反応した。

「さて、他に質問は?」

 すると、ケルンが挙手をした。

「ええ、あの、あっしの勉強不足で申し訳ないんですが、ええ、その、増強第52機械化歩兵旅団とはなんでしょうか。機械化歩兵旅団ベースなのはわかりますが、その、増強という事について、もう少し具体的な編成を教えてもらえると、ありがたいです。ええ」

 この質問には、ミーコヴェルが答えた。

「まず、フラレシアの機械化歩兵旅団の編成は機械化歩兵中隊3つを抱えた大隊を5つ、兵員数で1500人程度を有します。この歩兵を全員、IFV(歩兵戦闘車)やAPC(装甲兵員輸送車)に載せて輸送できる能力がある部隊が機械化歩兵です。これに砲や戦車の大隊規模の部隊を一つずつ足して、後は後方部隊を組み合わせた物になると、これが機械化歩兵旅団の基本構成になります。増強というのはこれに戦車や砲の大隊がいくらか追加された物だと思って差し支えありません」

「ええ、大変よくわかりました。ありがとうございます」

「他にはありますか?」

 ミーコヴェルが聞いたが、質問はなさそうだった。

「では、解散よ。後はお願いね」

 シェールコールがそう言い、この場はお開きとなった。


 司令部に帰還すると、同僚達は不安げな面持ちで私を迎えてくれた。

「中佐、おかえりなさいませ。どうでしたか?」

 聞いたのはリファレールだった。

「どうって、別に普通の会議よ」

 私はまずデスクに行き、鞄から荷物を取り出して、物品の整理を始めた。

「そうではなく、新旅団長の事ですわ。わかるでしょう?」

 ウェステーリスに呆れた様子で言われた。

「まあ、普通よね。別に殴り合いとかもなければ、言い合いとかもなかったし」

「作戦の内容はどうでしたかー?」

 ロネリースが聞いた。

「私達は予備兵力に充てるみたい。大規模な配置転換があるかもね」

 私はわざとぼかして答えた。別に嘘ではないし、詳細は追って旅団長の口から語られることだろう。

 荷物整理を終えて、私はふと参謀長の席を見たが、ミラリスは不在の様だった。

「……参謀長は?」

「穴掘り(意訳では「お花摘み」で、トイレに行くことの隠語)だと思います」

 聞くと、人事参謀のフィルナールが答えた。

「ああ、そう」

 会議の報告でもしようかと思ったが、いないなら仕方ない。私は自席に着いた。

「……でも、結構経ちますね」

「大きい穴を掘っているのでは?」

 フィルナールの呟きに、リメリールが反応した。

「月のアレかもしれませんわよ。今朝から何やら体調が悪そうでしたし」

「そうなんですか?そんな感じしなかったんですが」

 リメリールは少し驚いた様な反応をした。

「参謀長の場合は大分重いみたいですからね。隠すのは上手いみたいですが……」

 それなら、しばらくは報告どころではなさそうだ。回復を待つべきだろうが、いずれにせよ、一度ディルメースとも話をする必要がありそうだ。

「しかし、配置転換なら、どこになるんでしょうね」

 リファレールが呟いた。

「さあね。多分、そのうち旅団長から教えてもらえるでしょう」

 すると、副官のケルンが部屋に入ってきた。

「お疲れ様です。皆さん」

 そう言って入室すると、ケルンは私のところに来た。

「ええと、情報参謀、作戦参謀。旅団長からお呼び出しです。部下も帯同の上で執務室に来るようにとの事で」

「私もですか……」

「ええ、全員ですねえ。頼んます」

 ケルンの呼んだ人に当てはまる人が席を立った。

「何事ですかねー?」

「さあ……、なんでしょう?」

 ロネリースやリファレールも疑問だった様で、他の人もおおむね同じ感じであった。

 やがて、ケルンに付いて行く形で、執務室に行った。

「失礼します、旅団長。情報参謀と作戦参謀、以下4名をお連れしました」

「入れ」

 旅団長の声が聞こえたので、私は部屋に入った。

 部屋には旅団長と副官の他に、副旅団長のディルメースも居た。

「失礼します」

 それぞれが声を上げながら入室し、旅団長の前で横一列に並ぶ。それを見た旅団長は、席を立った。

「旅団長に、敬礼」

 副旅団長の号令に合わせ、参謀達が旅団長に対して一斉に敬礼をした。

「休め。楽にしろ」

 答礼をした旅団長の号令に合わせ、休めの姿勢を取った。

「……さっきの会議に参加した作戦参謀と副旅団長には繰り返しになるが、爾後、ここで話す内容は機密事項になる。司令部内でも口外は禁じる」

 私は、これから旅団長が話すであろう話題に察しがついた。カモミール作戦の事だろう。

「会議に出席した者以外で、その内容を聞いた者は?」

 すると、リファレールとロネリース、ウェステーリスの3人が手を挙げた。

「リファレール大尉、知っている事を報告」

「はい、我々第2旅団は、予備兵力として充当されるとの命令を受領した旨、伺いました」

 リファレールが言うと、トラヴェスは私をジッと見た。機密は話していないぞと、私も若干目を細めて、彼を見た。

「他には?」

「以上です」

 リファレールがそう言うと、トラヴェスはようやく私から視線を逸らした。

「そうか。だが、それはカバーストーリーだ。これから話す件について聞かれた時は、別の指示があるまでそう説明する様に」

 トラヴェスが言うと、話を聞いている人達の表情が若干強張った。

「さて、さっきの会議で、我々第2旅団に対して命令が降った。内容は、『カモミール作戦』に従事せよ、との事だ。……作戦参謀、説明を」

 私に振るのかと内心思いつつ、返事をする。

「はい。まだ資料がないので口頭での説明に留まりますが、フラレシア領に直接侵攻する作戦を、統合軍作戦司令部が立案したそうです」

「なるほど、見事に一本取られましたわね」

 少し説明すると、ウェステーリスが反応した。

「しかし、フラレシア領にですか?それって……大丈夫なんですか?」

 聞いたのはリファレールだった。

「大丈夫にしたいけどね。で、攻める場所は港で、そこに上陸する。管区司令部の参謀長は『歴史に残る規模の上陸作戦』とか言っていたけれど、まあ、それだけ手強い案件って事よね」

「……とまあ、詳細は作戦参謀と副旅団長が知っているから、作戦立案にあたっての疑問点は二人に聞いてくれ。再三注意するが、情報保全の観点から、ここにいる者以外に本件の口外は禁止する。以上、質問がなければ解散」

 こうして、カモミール作戦の用意が始まった。いずれにせよ、大変なのはこれからだった。

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