居眠り
「ごめん瑠璃、聞き間違いかもしれないんだけど、いま皇尊のご子息が同じ学年だって言った?」
「そ〜ですよ〜月花」
聞き間違いではなかったらしい。
「なんで受験の時に言わなかったの…。そして、なんで皇の一族であろう者が庶民の学校なんかに通ってるの…。そんな風習ってあったっけ…」
私は頭を抱えて唸る。
できれば一生、皇の一族になんて関わりたくなんかなかった。
だって他の国で言うところの『王家』なのだから。
「はぁ、こんなことになるんだったら瑠璃が行く所と同じにする、なんて言わなきゃ良かった…」
「落ち込んでても仕方ないですよ〜月花。もう受かってしまった訳ですし、今日は入学式ですし」
ぐぅの音も出ない。
「ぬ〜…」
「ぬぅの音なら出ましたね〜」
きっと瑠璃のことだ。知ってて隠していたんだろう。
決まってしまったことなら仕方ない。割り切ろう。そうしよう。
「さて、もうそろそろ食べ終わらないとですね〜」
「?もう食べ終わるよ?」
「早いですね〜」
「そんなもんでしょ。先、片しとくね」
そう言って食器を持って立ち上がる。
「今日は久しぶりに会う人が二人いますよ」
そんな瑠璃の声は
「ん?なにか言った〜瑠璃〜」
洗い物をしている月花の耳には届かなかった。
「なんでもないですよ、月花」
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(早く終わんないかな)
そんな事を思いながら私は眠気と戦っていた。
できるだけ寝ないように気をつけながらも、やっぱり色んな人の話は長いわけで、眠くなってしまう。
しかも、私の席などはカーテンの隙間から漏れた光が丁度あたる。眠いことこの上ない。
ちらっと後ろの方を覗き見る。
後ろの方にはちゃんと前を向いて座っている瑠璃がいた。
入学式の席順は新入生全体で名前の順だったので、瑠璃は後ろの方である。おかげで話せない。
それにしても、瑠璃はあんなに朝早くから起きていたのに、まだ平気そうだ。
瑠璃にしては珍しく、校長先生の話に熱心に耳を傾けている。
何度目か分からない欠伸を噛み殺し、前を向く。
すると、隣の人につつかれた。
「もしかして、眠い?」
もう眠気でほとんど働いていない頭で頷く。
「俺も。一緒に寝る?多分二人くらいなら気づかれないだろうし…」
相手方も相当眠いようで、喋りながら舟をこいでいる。
もう私の眠気も限界に達したようだ。
「うゆ…」と小さく呟き、私の意識は暖かな夢の中へ落ちていった。