好きの肯定
4話目です。
誤字などがありましたら、申し訳ありません。
見つけ次第、修正して参ります。
コンコンとドアをノックして、中からの反応を待つ
「はーい」
中から返事が聞こえ、その数秒後、ガチャリとドアが開いた
「あ、朝早くからすみません、、」
(そういえば今めちゃめちゃ早朝だったわ…)
「あの…どちら様ですか?」
その声と共に中から若々しくガタイのいいお姉さんが出てきた
「ええと、私は神の命により異世界より馳せ参じました神従でございます。」
(日本語合ってるかな…)
「し、神従様!?」
「は、はい。あの、こちらに別の神従が居候しているという情報を耳にしたのですが…」
「!やはりあの方は…神従様なら二階に居るのですが、今は部屋に篭ってしまわれて…」
「えっと…どのような経緯でそうなったのか教えて頂けますか…?」
「は、はい立ち話もなんですので、中に入って頂けますか?」
それから家に上がり、リビングで詳しい話を聞くことにした
「それで、彼はどういった経緯であなたの家に居候することになったのでしょうか」
「彼?…私が家に帰って来た時、神従様は家の前に倒れていて危ないと思ったから家に運んだんです。」
「運んだって二階までですか…?おひとりで?」
「はい。看病できる空き部屋が他に無く、あの方の体重も異様に軽かったので」
「なるほど…その後のことも聞かせて貰えますか?」
「はい。こんな時間にこの辺りで見ないお人だったので、もしや神従様かもしれないと思い、付きっきりで看病をしておりました。
…ですが、目を覚ましこちらを見るなりパニックを起こしてしまい、私は驚いてその部屋を出てしまったんです…」
「なるほど、それから昨日からそのままですか」
「はい…恐らく…私どうしても眠れなくて、誰かに頼ろうと思っていたところ、貴方様が来て下さって本当に安心だったんです…!お名前は?」
彼女は落ち着いた表情でお辞儀をしながらそう言った
「九條 透と申します。」
その言葉に自分もにこやかに返事をした
それから例の部屋まで案内をして貰った。
階段を登りきったところで先導していた彼女は足を止め、一番奥の部屋の扉を指指す
「あの部屋です」
「分かりました。案内ありがとうございます」
何となく小声でお礼を伝える
「お願いします…」
そう言い残して家主は階段を降りていった
それから部屋の前まで歩き、その扉と対面する。
静寂に包まれた空間。中からの反応はなく、異様に緊迫した空気が辺りを支配した
(この中に俺と同じ日本人が…)
唾を飲み、意を決して扉を叩いた
「突然すみません、起きていますか?」
ノックから数秒
(…返事がないな)
「はい…」
十数秒が経過し、また声をかけようとしたところに、今にも消えてしまいそうなか細い声が帰ってきた
一声で、何となくだけれど、自分より声が高く年下に聞こえた
「僕はこの家の者ではなく、貴方と同じ世界から、日本からやってきた者です」
「…」
今度は返事がない
「…僕も貴方と同じ境遇で、この世界へやって来ました。」
「…」
「…心中お察しします。
不幸に死んで、理不尽な使命を押し付けられて、見知らぬ地へ送られて、さぞ辛かったことでしょう…僕はあなたを救いたい。どうすれば外へ出て来てくれませんか…?」
扉に手のひらを当ててそう言った
「…なさい」
「うん?」
「ごめんなさい…でも、僕はもう…嫌なんだ…」
嘆きだった。世界中の全てが嫌で、もう信じられない…そう訴える悲痛な嘆きだった。
「大丈夫です、僕はあなたを…」
「あなたに何がわかるんですか…!僕は何もしていない…ただ好きに生きてただけなのに…僕は…!僕は…」
「…あなたのことは何もわからない。そして、あなたを知ったところで僕はきっと、あなたを本当の意味で理解することは出来ないでしょう…」
「じゃあもう…!」
「でも、あなたの在り方を否定しないと約束はできます。」
「え…?」
「少し、僕の昔話を聞いてくれますか?
…僕は子供の頃から変わり者でした。
生きることに興味がなくて、虫たちに生きていて哀れだと、これは救済だと、そんな考えで殺していたりしました。」
「そんなある日、保育園の先生から命の大切さについて説かれた紙芝居を読んでもらう機会があって、先生が終わった後にみんなの前で先生に聞いたんです。どうしてみんな生きるの?って。その後の先生の返答にも納得いかず、変に問い詰めたせいもあって、僕はとても気味悪がられました。そして、そこで僕は初めて気付きました。
自分が普通じゃないんだって」
「それから僕は一般人の振りをして生きてきました。でもそれは少し窮屈で、生きづらくて…それで、結局僕は自殺しました。」
「えっ…」
お手本のような絶句が帰ってきた
「…軽蔑しましたか?異常だと思いましたか?
…でも僕はただ誰にも迷惑をかけず、ただ“好きに死んだ”だけです。あなたはそれを、否定しますか…?」
「それは…」
「これをいきなり肯定しろだなんて、到底無理な話だと思います。それが恐らく正常な反応です。…僕は“好きに生きる”意味が理解できない。だから、そんな異常な僕には、あなたの考えもきっと理解できないでしょう。
…ですが、“好きに生きる”以上に異常であろう“好きに死ぬ”を肯定できる僕は、あなたを絶対否定しないと誓えます。」
「でも……!」
「良ければ話してください、あなたの“好きに生きる”を。理解できないなりに、相談に乗りますよ?」
「……っ」
「……変、かもだけど僕は、その…可愛いものが好き、なんだ」
「…続けてください」
「っ……それで、僕は可愛いものが好きで、可愛いって言われるのも好きだった。学校ではある時クラスの人にバレて…それから言いふらされて…みんな僕を気持ち悪いって…だから…外はみんなみんな、こわい…」
「それは辛かったですね…僕も似たようなこたを経験したので、その気持ちは理解できます。」
「…気持ち悪がらない?」
「勿論です。そもそも僕は生きることに興味が無いので、大抵の事はふーんで終わってしまうんです」
「ふーん、か…」
「僕は他人に迷惑がかからないのなら、誰がどんな趣味を持とうがいいと思いますし、僕は肯定します。でもその代わり、どんな趣味も僕には理解はできません。そんなことをするくらいならさっさと死にたいと考えてしまいますから。
これは無関心ゆえの肯定です。」
「…可笑しな人だね」
「自負しています」
「ふふっ…」
不意に扉の向こうから聞こえてきた微笑だが、素直に可愛いと思った
「さて、僕があなたをのことを変に思わないという事はわかって貰えたと思います。
ですが、本題はここからです。
この世界で今、あなたがどうしたいか。それを聞かせて欲しいんです。
神から聞かされたと思いますが、この世界は元の世界とは大きく違います。信仰により統一され、戦争もなく、僕達は神の使いとして崇められる存在になったんです。元の世界の常識などもはや通用しません。
さあ、そんな世界であなたはどうしたいですか?」
「…僕は……僕は…やっぱり、好きに生きたい…外に出て、可愛いを見つけて、可愛いを着飾って、可愛いって言われたい…」
「立派な目標です。ならば、それを実現するためにあなたは、どうすればいいと思いますか?」
「…分からない…っ…嫌だ…やっぱりこわいよ…軽蔑されるのが…非難されるのが…みんなが、こわい…」
「…わかりました。なら、僕と一緒に外へ出るというのはどうでしょうか?」
「君と…?」
「はい。僕はあなたを見ても絶対に軽蔑しないと、非難しないと、約束します。
僕に着いてきてくれるのならば、もし世界中の誰が非難しようと、僕が守ると誓います。」
「でも……」
「…悩むのであれば、僕が後押しをしてあげます。今から6つ数えます。そのカウントが終わるまでに出てこないのであれば…僕はこの扉を蹴破り、能力であなたを即時殺害します。
いいですね?」
「えっ?」
「5……4……」
「はっえ、まって!待ってって !」
「3……2……」
「うそうそ!ちょっ!」
ドタドタ…ガチャッ!
次の瞬間、急いで扉に近づく足音が聞こえ、扉が勢いよく開けられた。
「…!」
少しだけ開いた扉から覗かせるその人の容姿を見て、俺は息を飲んだ。
可愛い服と白い肌、綺麗な桃色の瞳、サラサラで紫掛かった長髪、整った顔立ち、誰が一目見ても彼は美少女であった。
「で、出てきたよ…」
顔を赤らめオドオドと目を合わせようとせず、扉の内に張り付き彼。
様々な疑問を振り払って、笑顔を浮かべながら言葉を紡ぐ
「こんにちは蓮さん、お会いできて嬉しいです。」
「……」
ガチャンッ
「あっちょっと!」
俺の顔をチラッと見て、彼はまた扉を閉めてしまった
すかさずノブに手をやり、引こうとするが相手も負けじと抵抗してくる
「ちょっなんでまた閉めるんですか!」
「や、やだ殺さないで…!」
扉の向こうからはそんな声が聞こえ、抵抗は収まらない。無理やり扉を引くことも出来ず拮抗状態となっていた
「…急に脅してしまい本当に悪かったです。でもどうしたら出てきて…」
「ち、違うの…君を見てもこわいとは思わなくて…で、でも…その、恥ずかしくて…」
「っ…それはつまり、誘いを受けてくれるということで良いですか…?」
「…う、うん」
「それは嬉しい…と言いたいところですが、最後に言い忘れていたことの補足です。
僕はこれから神の命に逸れず、魔王を殺すつもりでいます。
そんな僕に着いてくるということは、相応の危険に身を置くことになってしまいます。残念ならがら僕が100%助けるという保証も出来ません…それでも、着いてきてくれますか?」
「い、いいよ…」
「本当ですか?」
「う、うん…それを知ってて了承したんだし、それに…君と一緒なら、僕は少し…上手く言えないけど…自信を持てる気が、するから…」
言葉を絞り出すようにして彼はそう言った
「ありがとうございます。あなたならきっと、自信を持って好きに生きることができますよ。…僕は扉に触れません。
なので今度は、自ら踏み出してみて下さい。あなたが好きに生きるための第一歩を」
「……」
扉の向こうから緊張が伝わる
「っ…!」
キィー
声にならない掛け声と共に、扉が軋む音がした。
扉がゆっくりと開きはじめ、そして、完全に開ききった時そこには、両手でノブを握りしめ、さっきよりもほんの少し自信を持った顔をした彼がいた
「で、できた…!」
彼がとても嬉しそうに笑う
「とても立派です蓮さん。では改めて、僕は九條 透といいます。これからよろしくお願いします」
俺は少しお辞儀をしながら、にこやかに彼に手を差し伸べた
「っ…!…う、うん…よろしくね…!」
彼は顔を背け照れ笑いをしながらも、ゆっくりと俺の手を取った
男の娘も良いですよね。
一人称の被りが多いので(主に僕)、神の一人称は「ぼく」に変更しようか悩み中です。