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不承転生  作者: 喜幸
3/5

転生者たち

3話目です。

誤字などがありましたら、申し訳ありません。

見つけ次第、修正して参ります。

「ん…」(朝か…そういえば泊まらせて貰ったんだったな)


日本製に見えるアナログ時計の短針が6と7の間を刺している

(…やっぱり時間の感覚も元の世界とほぼ同じみたいだな)


「はぁ…」

透は周囲の違和感たっぷりな目覚めに諸々を思い出してしまい、早朝から憂鬱感を纏わせる


「おはようございます、透様」


「あ、おはようございます」


リビングに向かうとあの子の父親がいた居た


(というか、あの女の子もその両親もまだ名前知らないんだよな…)


「本日はどうされますか?」

その人は優しげな笑みを浮かべながらそう聞いてきた


「あ、ええと、今からは街を見て回って、それから旅に出ようと思います」


「そうですか。良ければ私が街をご案内いたしましょうか?土地勘がありますゆえ、お役に立てると思います」


「良いんですか?是非お願いします」


「ええ」

にこやかにそう応える相手


「…あ、あと、ほんと今更なんですが、お名前をお伺いしても良いですか…?」


「ああ、まだ名乗っておりませんでしたね。大変失礼致しました。私は藤堂(とうどう) 源太(げんた)と申します」


(やっぱり和名なんだ)


「そして妻が(みなみ)、娘が美咲(みき)と申します」


「源太さん、昨晩は泊めて下さりありがとうございました。」

深々とお辞儀をしながらそう言った


「いえいえ、私の方こそ神従様のお役に立てて本当に嬉しく思います」


透が朝食を済ませ、源太と街へ出掛けようとしていた時だった


「パパ…」

階段から美咲が降りてきた


「うん?どうしたんだい美咲」


「その人とどっか行っちゃうの…?」

美咲は自分の方を見ながら、不安げにそう言った


「ああ、少しこの街を案内してくるんだよ」


「パパ、昨日と今日は遊んでくれる約束だったのに…」


「…あ、あの僕はひとりでも大丈夫ですよ」

透は今にも泣き出してしまいそうな少女の訴えに耐えかね、にこやかにそう提案した


「いいえ、透様はお気になさらずに」


「え…」

笑顔でそう返す源太さんの言葉に固まってしまった


「あ、でも…」

見たくもない、美咲ちゃんの表情を恐る恐る伺う。彼女は唖然とした表情で固まっていた


そして、一瞬顔をしかめたかと思うとドタドタと足音を立てながら階段を上がって行ってしまった


「あ、…」

思ってもみなかった状況に自然と言葉が漏れる


「…申し訳ありません、お見苦しいところをお見せしました」

その状況で紡がれたのは、娘を泣かせた直後の父親とは思えない、あまりに非情な言葉であった


「…いいんですか?」


「お気になさらず。娘が本当に申し訳ありません。後で言って聞かせておきますので、どうかご慈悲を…」


「…!」

そう言って見ず知らずの年端もいかない自分に縋り込む彼の姿に悪寒がした。

そこで透は初めて、この人は“異世界人”なんだと認識した


「…やっぱり同行は結構です。改めて、泊めて下さりありがとうございました。…あと、お願いなんですが娘さんと仲直りをしてあげて下さい」


「…分かりました。あなたのこれからの旅に、神の祝福があらんことを」


「…それでは」

そう言い残し、俺は足早にその家の玄関を後にした


(…美咲ちゃんの様子からして、俺が来るまでは普通の家庭だったんだろうに、俺が来た途端にあんな風に)


「っ…」

透の脳に何度目かの違和感が走る


「足早に飛び出して、これからどうするつもりだい?」


透は脳内に流れる言葉を理解しつつ、一刻も早くここから離れたいと宛もなく歩き始めた


(「…なぁ、お前はこの世界を魔王から救うために俺を寄越したんだろ」)


「そうだね」


(「だけど結果的にそのせいで、お前も言っていた悪習に取り憑かれている。」)


「…」


(「…魔王を倒せって、具体的に魔王って何なんだ?

この悪習を割り切るしかないほど、凶悪な存在なのか?それが知れないと、俺はお前の行動が理解できない。)」


「そうだったね。君には話しそびれていたよ、魔王のこと。…魔王はここから遙か北西の地に住む人間…いや、怪物のことさ」


(人間?)


「種族としてはね。…そいつは圧倒的なまでの力を有し、今から十数年前までこの世界を脅かしていた。しかしその十数年前、後に勇者と称えられた5人によって魔王は封印された。」


(封印?)


「そう、封印だ。彼らの力をもってしても魔王はあまりに強大で、討ち取るまでには至らなかったのだよ」


「…しかも、倒された勇者達は魔王に洗脳され、封印された魔王の身を守っている。」


「僕は適正のある者に能力を与え、封印の場所まで至れるか暫くは見守っていたのだが、最近になって封印が弱まりを見せ始めたんだ。だから止むを得ず、君たち異世界の住人たちに来てもらうことになった訳だ。」


「魔王の喉元まで至った勇者たちの存在は、まさに奇跡だったんだよ」


(それがこの世界の現状か…成り行きは理解したよ。だけどその話を聞く限り、俺が魔王を倒すなんて到底不可能に思えるが、封印された魔王をどうすればいいんだ?)


「封印された時、魔王は既に瀕死の状態だった。最後に立っていた勇者が己を犠牲に封印したんだ。

魔王は瀕死の状態で封印され、今もその状態のままでいる」


(…人が歩いてる)

宛もなく歩いている途中、通行人に出くわした。その人は早朝にただ散歩をしているように見えた

そして言葉はないが、すれ違う際には互いに軽く会釈をした


何気ない光景だが、それに心底安心する自分がいた


「…瀕死の魔王であれば、君でも倒せそうだろう?」


(「ん?ああ、そうだな。)

他に意識が逸れていたせいで聞き流しそうになった

(「…魔王のことはわかったけど、そこに行くまでの洗脳された勇者達がまずいんだろ?」)


「ふふ、その通りさ。

魔王の住まう城、通称 魔王城(まおうじょう)。その周辺も危険地帯となっていてね、魔王が封印されてから今までこの世界を見守ってきたが、誰一人そこに辿り着くものは現れなかった」


(「…それはやばそうだな」)


「魔王を倒す並みに困難…いや、見た目が真人間である分より困難なことかもね。」


(「…先が思いやられるな」)


「だからこそ、君は他の転生者たちと協力する必要があるんだよ」


(「言っていたな、俺の他にも連れてこられた人がいるって。俺が連れてこられた時に一緒に連れてこられたのか?それともタイミングはバラバラなのか?」)


「その質問の意図を組んで後者が正解、と応えておこうか」


(「どういう意味だ?」)


「タイミングはバラバラだ。しかし君の場合は偶然でね、もう一人とほぼ同時に連れて来ることになったんだ」


(「…もしかして予定が詰まってたとか言ってたあれか?」)


「ご名答。それが無ければ、魔王の話もその他諸々もじっくり話そうと思っていたんだけどね。」


(「まさかそのせいで俺をあんな場所に放り出したなんて言わないよな…」)


「それは違う。それに僕という優秀なナビがついたじゃないか」


(「…まぁいいよ、それでその他の転生者?達はどこにいるんだ?」)


「現在はここから少し離れた地区に2人、この付近に一人いる」


(「この付近って正確にはどこら辺だ?」)


「…ここだね」


(「え?」)

思わず足を止める


周囲を見渡すと、先程と変わり映えのしない風景が視界を埋めつくす


(「ここって…?」)


「進行方向左側の建物だ。」


その言葉に従い目を向けると、それは周りの建物と何ら変わりのない洋風の建物であった

。いまさっき出てきた家とも外見が酷似している


(居候か…?)


「ああ、昨日からこの家に泊まっている…だが」


(「だが?」)


「彼は少々曲者でね、外の世界が怖いって引きこもっている」


(「えぇ…まぁそうなるのも無理ないのか」)


「彼の能力は強力だから仲間に引き入れたいところではあるが...どうする?駄目元で引っ張り出せるか試してみるかい?」


(「勝手にこんな場所に連れて来ておいて無責任だな...その人の詳細な人物像を教えてくれよ」)


佐野(さの) (れん)。君よりひとつ年上の男性。君と似て根暗な性格。」


「...」


「その性格が災いしてか、学校でいじめに会い、家にずっと引きこもってしまった。半年程引きこもっていたところ、火事に巻き込まれて窒息死。」


(「悲惨だな…思ったんだが、その蓮さん以外の転生者は全員魔王討伐に乗り気なのか?」)


「うん?ああ、2人は僕が神だと知ってからか、僕の言うことに大人しく従っていたね。多分もう一度命を貰えた時点で嬉しいんだよ、普通は」


(「そっか、なるほど…蓮さんの時は?」)


「君と似た反応をしていたと言っておこうか」


(「嫌々じゃねーか。…現実に期待できなかったって点で、その人と俺は似てるのかもな」)


「僕に言わせれば、君の方が余程異質に思えるけどね」


(「根本の話じゃなくて、辿ってきた軌跡の話だよ。死にたいとまでは行かないかもだけど、似てるから何となくわかる。期待の出来ない現実の生き辛らさが」)


(「…なぁ、神」)


「なんだい?」


(「俺以外の転生者がこの世界で死んだ場合、どうなるんだ?」)


「死ぬ。だろうね、この世界から解脱した後の魂のゆくえは分からないが」


(「そうか。...俺はこのままそっとしておくことが蓮さんにとって一番なんじゃないかって、一瞬思った。だけど、自分と重ねてみてわかったよ。」)


(「俺は無意味と思える世界を生き続けて、現状維持が一番だと思っていた。だけど結局は一歩を踏み出して、俺は自殺という形でその世界から強制的に自分を解放した。

そして、ここに呼ばれさえしなければ俺は楽になれたんだと思う。もしそうであれば、俺はその選択に一切の悔いは無かった。」)


(「だけど彼は、どんな形であれその一歩を踏み出せず、現状維持のままずっと苦しみ続けている。」)


(「だから俺は、俺の身勝手な同情で、この世界に苦しんでいる彼を助け出すことにするよ。彼を苦しめている孤独と恐怖から、殺すか、引きずり出すかして解放させてみせる」)


「ははっ尋常じゃないね、好きだよそういうの」


俺はそう決意し、目の前の扉にノックをした

九條(くじょう) (とおる)

漢字の後に()を使うとふりがなが振れるの初めて知りました。

すごいですね、編集で初出のワードに付けようと思います。

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