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冒険者ギルド勤務記録-とあるギルド職員の一日-

作者: 黒パソコン

 朝日が昇り外からは馬車の走る音が聞こえ、カーテンの隙間からは日が差す。


「……ああ、朝か」


 カーテンの隙間から差す日のまぶしさに耐えかねてヤマトは目を覚ます。


「今日も一日働きますかあ」


 そう言って、ヤマトはベットから出ると体を伸ばす。


「朝飯は…… 途中で買えばいいか」


 顔を洗い髭を剃って、身支度を整えるとヤマトは借りているアパートの一室から出る。




 職場まで行く途中にあるパン屋にヤマトは入ると中から焼きたてのパンの良いにおいに満ちており、ヤマトは腹の虫が鳴いているのを感じる。


(今日は何買うかな?)


 いつもと同じパンを買うか、たまには別のパンを買うか迷いながらも、最終的にいつもと同じパンを買い会計を済ませ店を出る。




 ヤマトの住んでいる住宅区から商業区を抜けると、行政区に入る。そこにヤマトの職場の冒険者ギルド「サンダーソード」がある。


「おはようございます」

『おはようございます』


 挨拶をしながら中に入ると、すでに何人か来ている従業員たちからも挨拶が返ってくる。


「ヤマトさん、おはようございます。」


 そうヤマトに挨拶してきたのは、受付嬢のアニーだった。


「ヤマトさん、朝はパンだけですか? ちゃんと食べないと体に悪いですよ」

「ああ、一人だとどうしてもね。ここのパンおいしいし」

「もう、ヤマトさんはいつもそう言って」


 ヤマトはアニーのお小言から逃げるようにして、更衣室へ行く。行儀が悪いがパンを食べながら着替えると気持ちを切り替え、仕事用の眼鏡をかけると更衣室を出る。




 ポツリポツリと冒険者が集まり始める。ヤマトは今日の仕事を確認していると声をかけられる。その相手は、ギルド長のブラッドであった。


「ヤマト、今日も早いな」

「おはようございます。ブラッドギルド長」

「おはよう。それで、外回りの時に一緒にこの書類を行政府に届けて貰っていいか?」


 ブラッドがそういうと数枚の書類を取り出す。


「わかりました。お預かりします」

「ありがとう、よろしく頼む」


 預かった書類を無くさないようにヤマトはカバンに入れる。




 それから少しして、朝の時間に、冒険者たちが集まり始める。


「はい! 皆さん、依頼書の張り出しのお時間です!」

 

 アニーが元気に声をかけ、ヤマトも手伝い、掲示板に依頼書を張り出す。

 依頼書の張り出し。朝の一番忙しい時間である。冒険者たちが自分の実力に見合いつつも、より報酬などの条件が良い依頼の取り合いになる。


「皆さん、押さないでください。受付は順番ですから」


 アニーやほかの受付嬢たちが、次々と依頼の受付を済ませて、冒険者たちは出発する。


「やっぱり朝の受付は戦場ですね」


 受付から冒険者たちが居なくなるのを見計らいヤマトはアニーに声をかける。


「皆さん、依頼の取り合いですからね」

「まあ、塩漬けになるよりはいいことだと思いますけど」


 その後も、遅めに来た冒険者の受付もあるので、ヤマトは邪魔にならないように自分の仕事に戻るのだった。




 朝の冒険者たちの依頼受付が終わると、次に来るのは依頼主が依頼の発注に来るのだ

 大まかな内容と報酬金は決まっているが、中には依頼内容が特殊であったり、報酬が用意できない等の場合がある。

 その時は応相談として、個別相談になるのである。


特殊な依頼内容については話をヤマトやブラッドが直接聴取して内容を精査して、報酬額を決める。


「はい、その内容でしたら十万ギルでお受けできます」

「では、それでお願いします」

「それでは、こちらの依頼書にサインを――」


 報酬金が用意できないという依頼主については国や町の補助事業の案内をして、依頼を発注できるように相談をする。


「イエロービーの討伐依頼でしたら、国から補助金がでますので、こちらの書類のご記入をお願いします。」

「ありがとうございます。村の近く森に巣ができてしまったもので」




 昼、冒険者も依頼主もほとんどいなくなり、従業員の休憩時間も兼ねている。

 従業員は弁当や外食など、様々だがヤマトはいつもギルドに併設されている酒場で済ませている。


「おかみさん、日替わり一つお願いします」

「あいよ、大盛にしとくからしっかり食べるんだよ!」

「ありがとうございます」


 なお、ブラッドギルド長も酒場で済ませており、アニーは弁当はである。




 昼食と昼休憩が終わるとヤマトは外回りへ出る。


「外回り言ってきます」

『行ってらっしゃい』


 ほかの従業員からの声を背に外回り先に行く。




 外回り先は商会や魔術ギルド、各種職人ギルドを対象に行い、依頼を出してもらえるように営業をかけている

依頼の内容は各商会は隊商の護衛等、魔術ギルドは遺跡調査、各職人ギルドは魔物の素材の調達など多岐に渡る。

 そして、ヤマトは現在、グランド商会で商談中だった。


「先日は、ブルーリーフの調達依頼を出していただきありがとうございました。」

「ヤマトさん、その節はお世話になりました」


 挨拶も程々にヤマトは本題を切り出す。


「それで今度、隣国まで隊商を出す予定があるとか」

「ハハッ、ヤマトさんは耳が良いですね。ファイヤーシールドさんに頼もうと思ってまして」


 ヤマトは内心舌打ちした。ファイヤーシールドはこの街の冒険者ギルドの中でも護衛依頼で高い実績を誇っているギルドである。


「ファイヤーシールドさんですか、護衛は随一ですからね。」

「まあ、予算の方があるからまだ本決まりではないですが……」


 それを聞いたヤマトは内心、白々しいと思いながらも、頭の中でそろばんをはじき、計算をする。


「でしたら、うちに依頼していただければ、この金額でやらせていただきます」


 そう言って、ヤマトは見積もりを見せる。


「この金額ですか、わかりました。お世話になってますし、これで検討させてもらいます」

「ぜひよろしくお願いします」


 その言葉を最後に商談は終わるのだった

 

 その後も他の営業先を回りヤマトはギルドへ戻るのだった。


 


 夕方、朝に出た冒険者たちが戻ってくる。ウキウキと笑顔の者もいれば、お通夜のような表情の者もいる。依頼の結果は押して知るべしである。


 その後、起きるのは打ち上げと反省会という名の飲み会である。




 冒険者とは刹那主義というか、後先を考えない。なので、こういうものもいる。


「なあ、ちょっとぐらいいいだろ?」


 と言いながら、受付嬢に絡む冒険者というのが出る。そしてそれを嫌がる受付嬢。受付嬢はギルドの顔だけあって、美目麗しいものが多い。


 そういった酔っ払いの相手もヤマトの仕事である。


「従業員への迷惑になるようなことはご遠慮願います」

「なんでだと! てめぇには関係ねえ! 引っ込んでろ!」


 ヤマトが酔っ払っている冒険者の男に受付嬢への態度を注意すると、男は怒鳴り返す。


「ほかの方の迷惑になるので、お静かに願います」

「うるせえ!」


 ヤマトに腹を立てたのか男は腰に差していた剣を抜いた。それには周りにいたほかの冒険者もざわつき、中には仲裁入ろうとして、武器に手をかけているものもいる。


 男が剣を抜いた瞬間にヤマトは男の手を取る。すると男はフワッと浮き上がり背中から落とされる。

 自分より小さく細い相手に投げられて、男は何が起きたかわからず倒れる。


 「依頼の後の打ち上げは結構ですが、従業員への迷惑行為はしないようにお願いいたします」


 とあくまで丁寧にヤマトは男に注意する。男は狐につままれたような気分になりながら、おとなしく肯くのであった。




 夜、冒険者たちも居なくなり、打ち上げの賑やかさが嘘だったかのように静かになった。いるのは残業の従業員だけである。


「ヤマトさん。まだ残ってるんですか?」


 と、アニーが帰り際にヤマトを見かけて声をかける。


「ああ、ちょっと依頼の発注受付があってね。もう終わるから俺も帰るよ」

「じゃあ、一緒に夕食食べて帰りましょうよ」

「いいけど、奢らないよ?」

「残念、じゃあ、先に外で待てます」


 そう言うと、アニーは上機嫌で出ていく。




 ヤマトは手早く書類を片付けて、制服から私服に着替えると、アニーと合流するため、外に出る。


「やあ、ごめん。待たせたかな」

「そんな待ってないのでいいですよ」


 二人は日が落ちたが、屋台や店の明かりが輝く町を二人は歩き出す


「ヤマトさん、この前新しくできたレストランがあるんですけど、今日はそこに行きませんか?」

「いつの間にかそんなところができてたのか。それじゃあ、そこにしようか」

「じゃあ、案内しますね」


 そういうと、アニーはヤマトの腕に抱き着き腕を引く。


「おいおい、外であんまりそういうのは」

「大丈夫ですよ。誰にも見られてませんし、こういうのは堂々としてる方がバレません」

「そういうもんかね」


 ヤマトもアニーに引っ張られて歩き出したのだった。


【作者からのお願い】

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