新たな世界_1
ここは小さな町「カナイ」。
ラジアント大陸の北西部に位置する。
民家や商店が点在し、中規模の市場もある賑やかな町だ。
そのカナイの町外れにある林の中、舗装もされていない砂利道を走る少女。
一見普通の人間の少女に見えるが、頭には猫のような動物の耳があり、
口も猫のようにぷっくりしており、尻尾も生えている。
この世界には「獣人」と呼ばれる種が存在している。
「獅子」のような獰猛な種もあれば、「ウサギ」のような温和な種もいる。
その少女は「コネット族」と呼ばれる獣人である。
警戒心は強いが協調性もあり、なにより運動能力が高い。
柔軟で、瞬発力のある身体を有している。
その少女は茶色い髪の間から生えている耳を
ぴょこぴょこと揺らしながら、颯爽と林の中を駆けていく。
林の中を抜けると、ひらけた場所に小さな二階建ての家がポツンと建っている。
レンガが積まれた苔むした塀は、ところどころ崩れており、
丸い窓のついた厚い木でできた赤い玄関ドアが特徴的だ。
横にはポストが置いてあり、ポスト口の上に『見慣れない文字』が
書かれた木札が取り付けてある。
「コネット族」の少女は一目散に赤い玄関まで走り、
ドンドンと扉を強く叩いた。
「タロさん!タロさーん!」
少女は家の中まで聞こえるよう大きな声で叫ぶ。
家の中から物音が聴こえ、玄関のドアが開かれる。
「ミア。前々から何度も言ってるけど、玄関を目一杯叩くなよ。」
中から出てきたのは黒髪の青年。
この大陸では見かけない人種らしい。
「タロさん!タロさん!大変だよ!」
青年の不満には聞く耳を持たず、
両手をワタワタと振りながら叫ぶ
『ミア』と呼ばれる少女。
「大変なんだよタロさん!」
「どうした、どうした。ちょっと落ち着け」
「落ち着いてられるかいな!
隣町のナオトリ村に行く道に
大きなモンスターがいるんだよ!」
「モンスター?なんでまたそんな所に・・・」
「カナイ」と「ナオトリ村」は1里程離れているが、
その2つを結ぶ道は、人の往来も多く、
しっかりと舗装されている比較的安全な道となっている。
モンスターはおろか、無害な野生動物もめったに見ることはない。
「とにかくタロさん、緊急事態よ!
はやくモンスターを倒してきてちょうだい!」
ミアは拳をブンブンと振り回し、タロを急きたてる。
タロは一つため息をつき、家の中へもどる。
壁に立て掛けてあるミスリルソード。刀身の長い両手剣である。
その大剣を掴み、再び玄関に戻ってきた。
「それじゃ、行きますか・・・」
黒髪の青年、『タロ』は両手剣を背中に携え、家を出た。