待ち合わせ②
スマホを確認するが、特に彼女からの連絡はない。時間はとうに10分以上が過ぎている。
徐々に、焦燥感が募り始める。
その時、告白の夜に彼女が言ったことが、頭の中に響いた。
『もう二度と、好きって言わないで欲しい』
結局……、僕は、その言葉の真意を確かめることができていない。
もちろん聞こうとはした。しかし彼女はそう言った後、すぐに話題を変えて歩き出してしまったのだ。
(……もしかして、立花さんは来ないんじゃないか)
嫌な考えがぐるぐる回って、脳みそがぐちゃぐちゃになる。
LINEのチャットを見るが、先ほど送ったメッセージは既読になっていない。
次々と湧き上がる不安で僕の指は凍りついてしまっていた。
頭が痛い。
ガンガンと一定の周期で頭が痛み出す。まるで頭の中でドリブルされてるみたいだ。
--嫌だ。
思い出したくない--…
しかし、いつの間にか--僕の意識は体育館にあった。
両手でバスケットボールを持って。
体育館には、もう一つの人影がある。僕と相対して立ちすくむ人物。
『先輩』だった。
頭痛はピークに達していた。地震にでも見舞われたかのように、頭の中全体が揺れる感覚。
そしてその奥深くから浮かんできたのは、長年僕の中に棲みついている、一つの思いだった。
やっぱり、僕は--…
「お待たせ~!」
不意に響いたその声は、僕を幻の世界から引っ張り出した。
パタパタと近づく足音に、僕はゆっくりと瞼を開ける。
「遅れてごめん! 待ったよね!」
立花さん--…
そこには、膝に手をついてぜえぜえと息を弾ませる立花さんがいた。
「来る途中でスマホの充電切れちゃって! どの電車かわかんなくなるわ、連絡もできないわで……。充電するの完全に忘れてたよ~」
矢継ぎ早にそうまくし立ててくる彼女を、僕は数秒間ほど眺めていただろうか。
段々と目の前の現実が呑み込めてくると同時に、言いようのない安堵感が胸に染み渡っていくのを感じた。
気づけば、頭痛はほとんど治まっていた。
「……顔色悪くない? 大丈夫?」
「あ、ああ、ごめん。大丈夫だから……」
正直まだ気分が悪かったが、彼女に心配をかけまいと表情を取りつくろう。
しかし立花さんは、疑り深い目で斜め下からじぃっと僕を見上げてくる。
「もしかして怒ってる?」
「いや……ただ、ちゃんと来てくれて安心したっていうか……」
「えー、なにそれ! わたしが彼氏との約束すっぽかすとでも思った~?」
「い、いや……」
彼氏。彼女が何気なく言ったその言葉に、ドキッとする。
良かった。僕は本当に立花さんと付き合っているのだ。
「冗談だってば! ほんとに、待たせちゃってごめんね?」
「いや、それは本当に大丈夫」
「ありがと!」
不安になったり、安心したり、かと思えば嬉しくなったり。たった数分間のことなのに……感情の振れ幅が激しすぎて、いささか以上に疲れた。
だが、嫌な感じはしなかった。
そんな僕をよそに、彼女が言う。
「……ところでモバイルバッテリー持ってる?」