35話「ふぎゃぁぁぁあああああ!! ぎょえええええええええ!!」ざまぁ
「ぎょぇえ゛え゛え゛え゛え゛っっ!!」
醜い叫び声を上げながら貴族の男が、パーティー会場の窓から落ちてくる。
会場の真下にいたケルベロスが男を口でキャッチし、庭に吐き出した。
己についたケルベロスの唾液を見ながら、男は呆然としている。
そこに一足先に庭に落ちて、ケルベロスと楽しく追いかけっこしている集団が突っ込んできた。
巨大な犬が地響きと砂煙を上げながら、目を爛々と輝かせよだれを垂らしながら近づいて来たら、人間たちにとっては恐怖でしかないだろう。
窓から投げ出されたばかりの男も、集団にまじって走り出した。
「ゔぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!
助けてくれぇぇぇぇ!!」
「来るなぁぁ! 化け物ぉぉぉぉぉぉ!!」
「おすわり! ふせ! 待て! 何でもいいから止まってくれぇぇぇぇぇ!!」
【ワンワンワンワンワンワン!!
(フフハハハハハハ! 楽しい! 楽しいぞ! 広い庭で好きなだけ追いかけっこが出来て、その上スイーツが腹一杯食べられるとは! ここは天国か!!)】
一足早く庭に落とされた貴族たちのあとを、ケルベロスが上機嫌で追いかけていく。
気がつけば落ちてきた人間を口でキャッチする役割のケルベロスまで、追いかけっこに参加していた。
会場の真下には、会場から落とされ、頭から地面に突っ込んだ貴族の残骸が複数転がっていた。
ケットシーの一族たちが彼らを地面から引っこ抜き、回復魔法をかけて回わり、気を失った者には水をかけている。
ケットシー族の負担が大きいな。
仕方ない。残りの人間は階段で降りてもらう。
そういえば雷竜はどこに行ったのかな?
辺りを見回すと、雷竜は花畑で居眠りしていた。
どうやら彼は自分の出番が回って来ない事に退屈しているようだ。
雷竜にはこれから沢山活躍してもらうので、今は休んでいてもらおう。
雷竜には今日は王城にいる人間たちの浄化をしてもらい、明日からは地方の貴族や神官や商人たちの浄化をしてもらう予定だ。
パーティーに参加していない貴族の中にも、悪い貴族は沢山いるからね。
雷竜の電撃は普通の人間にはちょっとピリピリするだけ。肩こりや腰痛が治ったりむしろ良い効果がある。
だからまとめて電撃を食らわせてもなんの問題もない。
悪い人間は雷竜の電撃に触れると非常に痛がる。一時間ほど痛みを味わったあと、悪しき心が浄化され善人になる。
もっと悪い人間は雷竜の電撃に触れると真っ黒焦げになる。
真っ黒焦げになった人間には「雷竜一族に伝わる浄化施設」に行ってもらう。
その施設のスペシャルハードコースを受けさせる。
「雷竜一族に伝わる浄化施設」のスペシャルハードコースは地獄よりも過酷という噂だ。生きて出られるといいけど……。
☆
「ふぎゃぁぁぁあああああ!!」
「ぎょえええええええええ!!」
「いやぁぁぁぁあああああ!!」
「助しゅけてぇぇええええ!!」
醜い叫び声が聞こえたのでそちらに目を向けると、王太子と王太子妃と辺境伯と悪徳神官がケルベロスから逃げ回っていた。
「わたしより殿下の方が美味しいわよ! 食べるなら殿下を食べなさい!」
「お前! 王太子である俺を売る気か!」
「元はと言えば、あんたが聖女を捨てるからこうなったんでしょう!」
「お前がリコに『年増のおばさん』とか言って怒らせるからこうなってんだろうが!」
「何よ! 殿下だってあの女のことを『行き遅れのババァ』って罵ってたくせに!」
「うっさい! 貧乳!」
「何よ! お漏らし王太子!」
王太子と王太子妃はケルベロスから全速力で逃げながら、醜い言い争いをしている。
全速力で走りながらあれだけ話せるとは、彼らはかなりタフなようです。
これならあと三日は楽しめそうです。
「辺境伯殿!
わたしたちの盾になってください!」
体力がない悪徳神官たちが走るのを諦め、同じく地面に伸びていた辺境伯をケルベロスへの生贄に差し出した。
「ケルベロス様! 辺境伯はお肉がたっぷりついていて美味しいですよ!
彼を食べて私たちは見逃してください!」
「お前ら!
それが神官の言う言葉か!
この外道ども!
おいバケ犬!
食うならこいつらからにしろ!
神官を食うと神力が得られると言うだろう!?」
辺境伯と悪徳神官は自分が助かるために、お互いに相手を生贄にしようとしている。
「やれやれ、ケルベロスは追いかけっこが好きなだけで人を食べる趣味はないというのに……。
己が助かるために醜態を晒すとは、愚かな方々ですね」
それでも万が一ということもある。
ケルベロスには事前にスイーツをお腹いっぱい食べさせておいた。
私は醜く争う彼らを眺めながら、王太子と王太子妃と辺境伯と悪徳神官の魂は簡単に浄化されそうにないから「雷竜一族に伝わる浄化施設」行き決定だなと考えていた。
【ケットシー編終わり】
次回は自称神へのざまぁ回です。




