33話「国王の登場」ざまぁ
会場の入口を警備していた眷属の一匹が『国王がケットシー様に会いたいそうです』と伝えにきた。
「通しなさい」
私が許可すると、兵士に支えられながら王冠を被った男が私に近づいてきた。
事前に調べてあるので知っている。奴はこの国の国王だ。
私が最初ここにきたとき、国王は会場にいなかった。
おそらく会場の外にいた誰かが、会場の騒ぎに気づき国王に伝えに行ったのだろう。
「余はこの国の王だ。
騒ぎを聞き急ぎ会場に駆けつけた次第だ。
そなたたちの目的はなんだ……!
余たちがそなたらに何をしたというのだ!?」
「これは陛下。
お初にお目にかかります。
私の名前はケットシー・シュヴァルツ・ドリット・クローネ・ケーニヒ、ケットシー界の第三王子です。
今後お会いすることはないと思いますので、覚えなくて結構ですよ」
私は恭しく挨拶をした。
「先ほどの質問の答えなのですが、私の記憶が確かなら、我々ケットシー一族があなた方人間に何かされた事はありませんね」
「では、なぜこんなことを……!」
「この国の王族はほんの数年前、異世界から聖女を召喚しましたね?
聖女を王子と婚約させ、王子との結婚を餌に聖女を不眠不休で働かせた。
そして聖女が国中の瘴気を浄化し終えたら、王子は用済みになった聖女との婚約を破棄し、聖女を己の借金のかたにハゲでデブで五十過ぎの辺境伯に嫁がせようとした。
身に覚えがありますよね?」
私の言葉を聞いて、王太子と辺境伯と大臣と神官たちが、顔を真っ青にして額に大量の汗を浮かべている。
「すまんが余はここ数年体の調子が思わしくなく、内政は息子に任せていた……」
「おや?
国王は病弱なのを理由に逃げましたか? では王太子に尋ねます。
今私が申し上げたことに、身に覚えがありますよね?」
「リ……リコは生きていたのか……?
お、お前は……リコに頼まれて……ふ、復讐に来たのか?」
王太子が震える指で私を指し、尋ねてきた。
「当たらずも遠からずですね。
城から逃げ出したリコ様は心優しい木こりに保護されました。
やがて二人は愛し合い、男の子を授かった。
私の主はリコ様の第一子です。
御主人様は私にこう命じました。
『母さんが帰ってきたとき気持ちよく過ごせるように大掃除をしておいて』と。
私は主の言葉を『国の汚物である腐った王族と貴族と神官と商人を一掃しろ』という意味に解釈いたしました。
なので私は城の大掃除のついでに、獅子身中の虫であるあなた方を廃棄処分に参ったのです」
私はそう言ってニッコリと微笑んだ。
城の大掃除の名目で城の大金庫と食料庫の中身をいただきました。
あとは獅子身中の虫の処分だけですね。
会場にいた人間たちは紫を通り越して白い顔をしていた。
口から泡を吹いて倒れた者もいる。
気を失ったくらいでは許しませんよ。
「リ、リコの子供ならまだ幼いだろ?!
幼い子がそんな恐ろしいことを命じるわけがない……!
頼む見逃してくれ!
見逃してくれたら、家臣として召し抱えてやる!」
王太子が自分に都合の良いことを喚いている。
「私は今の主を気に入っておりますので、二君に仕える気はありません。
あなたの家臣になるなど死んでもゴメンです。
それから、今のリコ様は人妻です。
王太子といえどリコ様を呼び捨てにすることは許しませんよ!」
私が王太子を睨みつけると、王太子はまたお漏らしをした。
「まずは王太子から庭に放り投げなさい!」
私が命じるとケットシーの一族の者が王太子を担ぎ上げた。
「おい! 止めろ! さわるな!」
王太子が何か話しているが無視し、一族の者は王太子を窓から放り投げた。
「ぐわぁぁぁぁあああああっっ!!」
醜い悲鳴を上げて王太子が落下していく。
ケルベロスがおしっこまみれの王太子を口でキャッチするのを嫌がったので、王太子は地面に激突した。
「王太子に回復魔法をかけてあげなさい。
簡単に死なれては面白くないのですからね。
王太子にはこのあと、嫌というほどケルベロスと追いかけっこをしてもらわなくてはいけませんから」
私の命を受けたケットシーの一族の一匹が、王太子のあとを追って窓から飛び降りた。
ケットシー一族のニャンパラリは普通の猫のそれとは違う。この程度の高さから落ちても問題ない。
私の予想通り一族の者は綺麗に着地を決めた。




