21話「再会。トナカイの引くソリが空を飛ぶ夜」
次元を超える機械が次元を超えるとき、揺れたりしたけど、なんとか無事に母さんのいる世界につくことができた。
おそらく僕たちの着いた場所は公園という、都会の中に人口の林がある場所だろう。
公園に次元を超える機械を隠し、母さんを探すために公園の外に出る。
僕は自分でもそこそこ賢い方だと思っていたけど……この世界を創った人は天才だ。
もちろん一人の天才によってもたらされた恩恵ではないだろう。
何百、何千人もの天才が、数百年もしくは数千年かけて紡いできたもの。
欲しい……!
この世界を去る前にこの世界の技術の全てを吸収したい!
……でもそれは後回しだ。
今は全力で母さんを探さないと!
ふと父さんを見ると、赤い服を着た白い髭の老紳士に向かって手を振っていた。
父さんは相変わらず人たらしだ。
もうこの世界の誰かと仲良くなったのかな?
赤い服を着た老紳士が僕の顔を見て、口をパクパクさせていた。
「探しものはあっちにあるよ」
と言われた気がして、老紳士が指し示した方角を見る。
そこには僕のよく知っている人がいた。
漆黒の髪に黒曜石の瞳、元の世界にいたときとは違う服を着てるけど、間違いない! あれは母さんだ!
「父さん!
母さんを見つけたよ!」
僕は父さんの服を引っ張った。
「えっ? もう?!」
父さんは驚いた顔をしていた。
父さんもこんなに早く母さんが見つかるとは思っていなかったのだろう。
僕は父さんの手を引っ張り、母さんの元に駆けていく。
「リコ……」
「母さん……!」
僕も父さんも我慢できずに、母さんに話しかけていた。
母さんの瞳が驚きに見開かれる。
母さんの記憶が自称神様に消されているのを忘れていた。
突然見知らぬ親子が目の前に現れて「母さん」なんて言われたら困惑するよね。
母さんの口から「あなたたち誰?」って言われたらどうしよう?
そんなことを言われたら僕はショックから立ち直れないかも。
僕の体は震えていた。
父さんはそんな僕を落ち着かせるように、僕の手を強く握りしめた。
「あの、ごめん。
初対面でこんなこと言われても面食らうと思いますが……俺たちはその決してあやしい者では……!」
父さんが母さんに説明したけど、僕の目から見ても僕らはこの世界で浮いてる気がする。
まず服装、僕や父さんみたいな格好をしている人が誰もいない。
この世界の人は他人に無関心なのか、誰も僕らの格好を気に留めることなく通り過ぎていく。
通りすがりの人が変な格好しているのは気にならないのかもしれないけど、自分に話しかけてきた人がおかしな格好をしていたら気になるだろう。
母さんに異国の服を着た不審な親子だと思われたかも?
「……バカ」
「えっ?」
「初めましてじゃないでしょう?
何年一緒に暮らしたと思ってるのよ」
母さんがすねたような口調で父さんに言った。
「リコ……記憶があるのか?」
父さんが母さんに尋ねる。
自称神様にあの世界で暮らした記憶を消されたんじゃなかったの?
「ああ、あたしを勝手に日本に連れ帰った自称神様ね!
あたしの記憶を消そうとするから、顔を引っ掻いて腕に思いっきり噛みついてやったわ!
そしたら逃げるように姿を消したわ!
全く逃げる前に私をコルトとアビーのいた世界に返しなさいっての!」
母さんは眉間にシワを作りプリプリと怒っていた。
母さんの記憶は神に消されてなかった?
「良かった……!
本当に良かった……!」
「ちょっと、コルトなんで泣いてるの……!?」
僕は父さんが泣いているところを初めて見た。
「母さ〜〜ん!」
僕は母さんに抱きついていた。
四年前はとても大きく思えた母さんは、華奢でそれほど大きくないように思えた。
気がついたら僕の目から涙がボロボロとあふれていた。
「アビー大きくなったわね!
成長しても泣き虫のままね」
「僕は泣き虫じゃないよ。母さんが消えた日に泣いて以来、四年間泣かなかったもん!」と言いたかったけど言葉が出てこなかった。
「ねぇ、どうやってこっちの世界に来たの?
自称神様を捕まえて締め上げたとか?
それとも城に攻め込んで王家の秘術を盗んだの?」
「どっちも違うよ」
母さんの質問に父さんが答える。
王家の秘術の書かれた本は、僕の眷属が王宮の図書館からこっそり持ち出してくれたのであって、盗んだわけじゃない。
読み終わったあとはちゃんと返したしね。
「とりあえず寒いからどっかのお店に入ろうよ。
あ、ちょうどハンバーガーショップがある」
ハンバーガーショップって、前に母さんが行きたいといっていたお店のことだよね!
そういえば僕お腹空いてたんだ!
「クリスマスイブだから期間限定ハンバーガーが食べられるかも!?
奢ってあげるわ!
温かいコーヒーとポテト付きでね!
帰りにクリスマスケーキを買って帰りましょう!
家族用の大っきなやつ!」
そう言って母さんはウィンクした。
「ありがとう」
父さんが母さんにお礼を言った。
ご飯を食べ終わったら、今までのことを母さんに沢山お話したいな。
それから夜は父さんと母さんと三人で眠りたいな。
「神様は信じないけど、サンタさんは信じてもいいかも。
こうしてコルトとアビーに会わせてくれたんだから」
母さんの言ったサンタさんがわからない。
でもきっと自称神様とは比べ物にならないくらい素敵な存在なんだと思う。
だって何億人もいるこの世界の人たちの中から、母さん見つけ出して僕たちに会わせてくれたんだから。
僕の脳裏に父さんが手を振っていた白髭の老紳士の顔が浮かぶ。
あの人がもしかしてサンタさんだったのかな? まさかね。
父さんがぼんやりとした顔で空を見上げていた。
「ねぇ、リコ……」
「なぁに、コルト?」
「この世界じゃ飛行機以外に、ソリも空を飛ぶの?」
父さんが真顔で母さんに尋ねた。
「はっ?」
父さんの質問がよほど変だったのか、母さんが素っ頓狂な声を上げた。
母さんの顔をみるとキョトンとした顔をしている。
多分僕も母さんと同じような顔をしていると思う。
父さんには僕たちには見えない何かが見えていたのかな?




