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16話「お仕事と親の威厳」コルト視点



【コルト視点】



日本に来て二週間が経過した。


リコはこの世界の学校に通っていて、今年の三月に卒業するらしい。


次元を超える機械が故障してしまったこともあり、それまでこの世界に滞在することになった。


リコ一人の稼ぎで家族三人を養うのは大変だ。


俺も職探しに行こうとしたのだが……。


アビーに、

「父さん、この世界は身分証がないと働けないんだよ。

 外をふらふらとうろついて、この世界の騎士団や自警団に不法滞在の外国人と間違えられて捕縛されると母さんに迷惑がかかるから、父さんはあまり外を出歩かないで。

 お金は僕が稼ぐから」

と言われてしまった。


アビーはリコからスマートフォンと呼ばれる薄い板のようなものを借りると、恐ろしいほどの速さでこの世界の常識を理解していった。


そしてアビーは、俺にはよくわからない方法であっという間にお金を稼いだ。


アビー曰く「悪いお金じゃないから安心して」とのことだ。


次元を超える機械の修理の費用とか、次元を超える機械を隠しておく倉庫とか、俺たちの滞在費用とか……色々とお金がかかるからアビーがお金を稼いでくれたのは正直非常に嬉しかった。


しかし、息子に大金を稼がれて養われたのでは父親としての俺の立場が……。


元の世界では人足の仕事は身分証がなくても出来た。


他国の移民が、河川工事などの日雇いの仕事に就いていたのを目にしたことがある。


この世界でもそれが可能なら、俺が人足の仕事をしてリコとアビーを養おうと思っていたのに……。


本当は本職の木こりの仕事をしたかったのだが、「山には持ち主がいるから勝手に木を切ってはいけないのよ」とリコに釘を刺されてしまった。


木彫りの置物を作って売ろうにも、木材を買わなくてはいけない。


木を彫る道具は持ってきたけど、材料は持ってきてないからどうしたものか?


俺が色々と考えている間に、アビーがリコが借りている部屋の隣の部屋を借り、俺のアトリエにしてくれた。


その上、木彫りの置物を作る木材と道具も手配してくれた。


それからこの世界の服とか靴も、アビーが「いんたーねっとつうはん」というもので購入してくれた。


うちの息子は気が利いていて、優しくて、賢い。


木を掘る道具は元の世界からも持ってきてはいた。


しかし、リコのいる世界の道具は元いた世界のものより遥かに進化していて使いやすかった。


この世界の技術は凄いな。


俺にはアビーのようにこの世界の道具の仕組みまでは理解できないが、元の世界の数倍……いや数百倍進んでいるのがわかる。


妻や息子にばかり働かせておくわけにはいかない。


俺も木彫りの置物を作ってリコに楽をさせないと!


モチーフはクリスマスの日に、空を飛んでいたトナカイの引くソリに乗ったおじいさんにしよう。


リコの話では彼はこの世界の有名人でこの時期の人気者らしいから。


俺は意気込んで製作に取り掛かったのだが……。


「父さんの作った木彫りの置物は一体、一万円で売れたよ。

 材料費込みでトントンてところだね」


現実は厳しい。


「父さん、僕たちの目的は母さんを連れて元の世界に戻ることだよ。

 そのために大事なのはお金を稼ぐことよりも、目立つ行いをして母さんに迷惑をかけないことだと思うんだ。

 お金は僕が沢山稼いだから、父さんは母さんの家事を手伝って上げてよ」


うちの息子は本当に、優秀で冷静で状況の分析力に長けている。


やはりアビーは天才……?


いやいや、親の欲目でそう見えるだけ。


アビーに余計なプレッシャーをかけてはいけない。


僕は炊事、洗濯、掃除をしながら、家事の合間に木彫りの置物を作ることにした。


この世界の材料や道具や調味料に慣れるには時間がかかったが、リコやアビーが「美味しい」と言ってくれると苦労が報われた気がした。






余談だがアビーがアトリエとして借りてくれた部屋には簡易ベッドがある。 


アビーが「疲れたときはそこで休んで」と言って用意してくれたものだ。


アビーの希望で夜はリコのシングルベッドに、リコとアビーと俺の三人で川の字になって寝ている。


「川」というのはリコの世界の文字で、子供を真ん中にして親子三人で寝ると、「川」という字に見えることから、そう呼ばれているらしい。


四年ぶりに親子三人で川の字で寝られることに、最初はとても感動した。


今でもその気持ちは変わらない。


変わらないのだが……。


アトリエにある簡易ベッドを見るとつい思い出してしまう。


リコが自称神様に日本に連れて行かれる前。


リコと「そろそろ二人目がほしいな。次はあたしそっくりの女の子がいいな」と話していたことを……。


二人目→子作り→子作りの為の夫婦のいとなみ……夜こっそり抜け出してこの部屋でリコと……。


いやいやダメだろ!


アビーが夜中に目を覚ましたとき、俺たちが側にいなかったらきっと心配する。


しっかりしていてもアビーはまだ七歳だ。


アビーは母親を目の前で連れ去られたので、一人になるのを嫌がる。


この世界にはアビーの子守をしてくれるケットシーもケルベロスも雷竜もいない。


アビーが深夜に目を覚ましたとき、俺たちが隣で寝ていないことに気づいて泣き出したら……。


しかもその原因が、俺がリコとスケベな事をしたいからだとしたら……。


親としてダメダメだろ!


リコとの子作りするのは、元の世界に帰って落ち着いてからにしよう。


元の世界に戻ったら子供部屋と寝室を分けたいな……。


ああ……でも、昼間のアトリエでリコと

ちょっとだけイチャつくだけなら……!


四年振りのスキンシップだし、キスしたら止まらなくなりそうだ……!


リコが以前話していたシャンプーやリンスの効果なのか、リコの髪は元の世界にいたときよりずっとつやつやしていて、しかもいい香りがした。


きめ細やかだったリコの肌は、さらにきめ細かく白く輝いていて……。


元々綺麗だったリコが十割増しで美しく見えて……彼女と二人きりになったら理性が保てそうにない。


元の世界に帰るまでエッチなことは我慢しよう……!


そう思っていたのだが……。








ある日、俺がアトリエで一人で作業していると。


「コルト、作業はかどってる?

 お茶とお菓子持ってきたよ」


リコが差し入れを持ってきてくれた。


それは良いのだが、問題はリコの格好だ。


リコは膝が見えるような短いスカートを履いていた。


リコの着ているセーターは胸元が大きく開いている。


この世界では足を見せる格好も普通なようだが、俺は素足に耐性がない。


「ありがとう、そこに置いといて」


俺はサッとリコから視線を逸らす、


「コルトったらそっけない。

 四年会わない間にあたしに関心なくなっちゃった?」


「あるよ!

 俺はリコのことが今もすごく大好きだ!」


「家族としての情じゃなくて?」


「異性として魅力を感じてるし、リコを愛してる!」


リコが俺の隣に座り、俺の指に自分の指を絡めてきた。


「ちょっ……リコ!」


元の世界に帰るまで我慢しようって決めたのに、理性をゴリゴリ削られていく。


「アビーのことなら大丈夫だよ。

 今倉庫に次元を超える機械の修理に行ってるから。

 夕方まで二人きりだよ」


リコが俺の頬に手を添え、彼女の唇が俺の唇に触れた。


「リコ……!」


当然俺の理性は崩壊した。


俺とリコがアトリエで何をしたのかは、ご想像にお任せする。






☆☆☆☆☆





俺たちが元の世界に帰ってから数十年後の世界で、制作者不明の木彫りの置物に高値がつくことになるのだが……そのことを俺が知ることはない。




――コルト編終わり――


読んで下さりありがとうございます。

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