1話「山奥に住む木こりの青年」
「女性の言ってることを男が理解するのは難しい。
我が子は親の欲目で天才に見えるもんだ」
これが親友のケンちゃんの口癖だ。
ケンちゃんの話では男はドワーフやホビットよりだが、女はフェアリーやエルフよりらしい。
俺は山奥に住んでいる木こり。
祖父の代からずっと木こりをしている。
趣味は実益を兼ねた木彫りの置物作り。
民芸品屋に売っている、鮭をくわえた熊をイメージしてもらえると分かりやすいと思う。
ふもとの村に降りるのは、一カ月に一度。
木彫りの置物を持っていって、パンや干し肉やチーズや野菜や果物と交換する。
ほとんど村の人たちとの交流はない。
村に住む猟師のケンちゃんだけは、幼い頃からよく声をかけてくれた。
それは今も変わらなくて、村に降りてきたたときケンちゃんは必ず俺に声をかけてくれる。
そして時々自宅に招いてお茶をごちそうしてくれる。
今日もケンちゃんの自宅に招かれ、ハーブティーをごちそうになっている。
「ケンちゃん、俺の息子天才じゃないかと思うんだ」
「ああ、オレも息子が三歳のときには何度もそう思ったぜ。
『オレの息子は天才だ!
教会の日曜学校を主席で卒業して、町長の推薦状を貰って王都にある学校に通って、末は王宮勤めのエリートの仲間入りする!』
……ってな。
だけど段々と現実に気付かされるんだよ。
息子が七歳になる頃にはそんな夢も消えたね」
「いや、うちの息子はまだ五歳……」
「おいネフ!
遊んでばかりいないで、ちったぁ勉強しろ!」
外から泥まみれで帰ってきたのはケンちゃんの息子のネフくん。ネフくんはわんぱく盛りの九歳だ。
「えーやだよ!
おれ勉強嫌いだもん!
それにおれは父ちゃんの跡をついで猟師になるんだ!
だから勉強なんて必要ねぇよ!」
「馬鹿野郎!
猟師だって読み書きや算術ができなきゃ足元見られて買い叩かれるんだよ!」
「父ちゃんの雷が落ちた!
逃げろ〜〜!」
ネフくんはキッチンにあったりんごをポケットにしまうと、出ていってしまった。
「現実はこんなもんだ。
息子が小さいうちだけだぜ、末は王宮の騎士か魔術師かなんて夢が見れるのは」
「うん、そうだね」
「母親がいればまた違ってたんだろうがな。
イアダ……!
なんで出ていっちまったんだよ!」
ケンちゃんの奥さんのイアダさんは、六年前に実家に帰ってしまった。
そのときケンちゃんから「女性の言ってることを男が理解するのは難しい。女性たちの言ってることは精霊や妖精の言葉だと思え」という話を、嫌というほど聞かされた。
「悪かった、お前んとこのかみさんも実家に帰っちまったんだよな」
「家の場合は帰ったというか……帰されたというか」
「皆まで言うな!
気持ちは分かる!
今日は飲もう!」
「いや、息子が家で待ってるから……」
結局落ち込んでいるケンちゃんを一人にはできず、夕方まで付き合うことになってしまった。
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