新人
これは、大罪人の捧げる花のスピンオフ作品です。
どうぞ、敬愛する者から見た大罪人の話をお楽しみください。
私の名前はヘンリエッテ・ゼークト。
今日から私に、新しく部下ができることとなった。
今日はその顔合わせの日だ。
私は指定された部屋へ向かい、扉をノックした。
「ヘンリエッテ・ゼークト、ただいままいりました。」
「入れ。」
入室許可の声が聞こえてきたため、扉を開けて中に入った。
そこには上司と、上司の座っているデスクの手前に一人と二匹がいた。
「今日からお前の部下になるものたちだ。」
「初めまして(・・・・・・)。よろしくお願いします、ヘンリエッテ先輩。私はエリディカ・ランドールといいます。」
「私はリューネだ。」
「ラーツェだ、よろしく。」
「私はヘンリエッテ・ゼークト。これからよろしくお願いします。」
そう、今日から私の部下になるのは、かの大罪人エリディカ・ランドールとその友人の狼たちだった。
彼女はこれから私の部下として働くことで、今までの罪を清算していく。
それに頑として一緒に罪を償うと言ってきかなかった狼たちも一緒だ。
特例として、彼らも罪を償うことを許された。
特にリューネは、魔王として暴れた実績があるため、その清算も含まれているが。
彼らが私に対して初めましてといったのは理由がある。
ここに来るまでに、生前との縁を断ち切るために記憶をきれいさっぱりなくならせたのだ。
彼らはただ、罪を償うためにいるとしか知らない。
ただし、ラーツェは特に大した罪はないので記憶はあるが。
そのおかげか、彼らのバランスは保たれていた。
なんで3人一緒なのか、それは大事な友人だからだ。
その心さえあれば大丈夫らしい。
「挨拶は済んだな。では、ヘンリエッテ。彼らに仕事を教えてやれ。」
「はっ、かしこまりました。それでは案内します、ついてきてください。」
「わかりました!」
私たちは部屋を出て、仕事の説明を始めた。
…私も昔は、あんな風に緊張とこれからの仕事への期待に胸を膨らませていたっけ。
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「新人騎士諸君、ようこそランドール隊へ。私は隊長のエリディカ・ランドールだ。私の隊は女性しかいないが、男に劣らないところを他の隊の騎士たちに見せつけてくれ!」
「「はいっ!」」
私は、昔、エリディカ・ランドールが魔王になる前の騎士隊に所属していた。
新人の頃は、周りに追いつくのに必死で、仕事を覚えるのも遅かった私は、あまりよく思われていなかった。
でも、そんな私でも見捨てず、期待して仕事を色々任せてくれたのが隊長のエリディカだった。
私は、鍛錬も仕事も頑張ってこなしていった。
隊長が私に対して期待してくれていると知っていたから。
周りの嘲笑など気にもならなかった。
そんな私の敬愛していたエリディカは、他の騎士隊の隊長たちとは比べ物にならないくらいたくさんの武勲をあげていた。
しかし、女ということもあって、その功績に見合う対価をもらっているわけではなかった。
それを知っている私たち隊員は、何度もエリディカ隊長に抗議した。
この功績に対して、この褒美の量は少なすぎる。とか、なんでこんなにも武勲をあげているのに評価されないんだとか。
エリディカ隊長は、そんな私たちの言葉がうれしかったのか、そうだなと賛同してはくれるが、その抗議が上に届くことはなかった。
彼女は気にしていなかったのだ。
隊のみんながエリディカ隊長を慕っていた。
皆彼女のようになりたかったのだ。
目標であった彼女のようになるため、日々邁進していたある日。
私にエリディカ隊長は、副隊長に任命した。
衝撃だった。
落ちこぼれだった私がなぜと思ったが、周りのみんなは私の頑張りをいつの間にか認めてくれていて、私が副隊長になるのを喜んでくれた。
それから、副隊長となってさらに努力を続けていたある日。
ついにその時がやってきた。
エリディカ隊長が敵国の大将を討ち取ったのだ。
みんな、これは絶対いい褒美をもらえると喜んだ。
しかし、その褒美が渡されることはなかった。
彼女にいわれのない罪がかけられ、騎士たちに追いかけられ、攻撃されることとなったのだ。
私たちもその攻撃に参加するよう言われたが、全員断固として拒否した。
エリディカ隊長がそんなことするわけないと、みんなで抗議をした。
すると、私たちはとらわれ、敵に加担するものとして処刑された。
死後の審判を受けていた際、エリディカ隊長の現状を知ることがあった。
そのため、私は苦しんでいる彼女を助けてほしいと願ったのだ。
願ったにもかかわらず、彼女は案内人を振り払い逃げてしまったらしいが。
そんなこと、輪廻の輪の中に還った私には関係のないことだったが。