第95話 戦えぼくらの虹色戦隊-4
「グッ! ガァァァアァアアァァ!」
警告ランプで真っ赤に染まったコックピットの中。
いたるところから火花のシャワーが噴き出る中でゲロルが叫んでいた。
UFOは次々と爆発を起こしながら落下していき、やがて完全に地上へ墜落すると大爆発を巻き起こした。
しかし月神たちは目を細める。
見逃してはいない。
爆炎から飛び出してきた小型のカプセルを。
「……六秒」
ルナがそう言って月神の隣に立つ。
「いや、四秒だ」
月神が言う。二人にジロリと睨まれ、光悟はため息をついた。
「二秒」
光悟がルナの隣に立つ。
それぞれエクリプススーツを解除すると、月神も刀を三本に戻して元の姿に戻った。
ルナがレイピアを前に出す。
右にいた月神が刀をレイピアに重ねる。
左にいた光悟も剣をそこへ合わせた。
三人はそのまま武器を上に掲げ上げて剣先を天へ向ける。
「正義よ!」
ルナは上から下へ、月神と光悟は斜めに剣をふるう。
三つの斬撃が発射され、それが交わり、飛んでいく。
『ゲロルは死なない! ゲロルは――ッ! 不滅だ!!』
脱出カプセルの中でゲロル星人が吠えていた。
そこで再び警告音。センサーが捉えた高エネルギー。
ゲロル星人が振り返ると、そこに見えたアスタリスク型の斬撃。
『うッ、あぁあぁあぁあああああぁあああ!!』
直撃。墜落していくカプセルは無数の火花を散らし、四秒で爆散した。
「おれの勝ちだね」
「流石です、お兄様」
「………」
弾かれる二つの五百円。
月神がそれをキャッチすると、三人は踵を返した。
唯一、光悟だけが振り返る。
月神が斬ったのはUFOだけではなく、その向こうにある空をも切り裂いた。
だから外で、アダムは膝をついて咳き込んでいる。
隣ある魔法陣は強制的に生まれたものだ。
和久井はアダムをジッと見ていた。
アダムもすぐに和久井を睨んだ。
空に生まれた切り傷から飛び出したということは、空を飛んだということだ。
それを可能にしたのは、和久井の手にある光の球体が原因だろう。
『あんな方法で、あの悪女を説得するなんてね』
「催眠術な。まあ正確な呼び名は違うだろうけど、全部ティクスにやってもらいましたよと」
レインボードリーム。
以前、少女が悪夢を見せてくる敵に狙われた際にティクスが使った技だ。
快眠できて、ティクスが描いた夢を見せることができる。
しかも眠っている間は催眠状態となり、命令すれば好きなように動かせるので現実に実体化して直接狙ってきた怪人を少女がボコボコにしていた。
『とんでもないね。悪用できそうだ』
「まあ、ティクスはそんなこと、しないだろ」
『でもマリオンハートがあるならできるかもしれない。事実、キミはおそらくとても残酷なことをしようとしている』
「……かもな。でもそれはきっと必要なことなんだ」
和久井は散乱したDVDを見た。壁に空いた穴を見た。
「これがお前の望んだ未来か? これがお前の正義の末路か? 光悟のヤツは、オレ様にそうほざきやがった。偉そうでムカつくぜ」
光悟は『彼』も同じ気持ちであると口にした。
彼とはきっとアダムのことだと、和久井は勝手に思っている。
「オレの記憶が正しけりゃ、お前は悪いヤツじゃなかった。いや、むしろ良いモンだったよな? お前が善であるということを前提に進めるなら、こんなイカレたシナリオなんざ見るに堪えない筈だって」
パピを拉致する際に、舞鶴を使ったことがどうしても引っかかった。
あんな回りくどいやり方をしなくても舞鶴も和久井も戦う力を持っていなかったのだから、アダムが直接パピを回収しにくればいいだけだ。
だから舞鶴を使ったところが重要だと思った。きっとアダムは舞鶴がどんな選択を取るのかが見たかったのだ。
「もういい加減こんな回りくどいやり方はやめようや。テメェは本気で世界を滅ぼそうなんて思ってないんだろ?」
『……フッ、まあ、ねえ。だからその本気を見つけたかったんだ。そして今の理由があるとすれば二つ。まず一つは仲間のためだ』
アルクスの願いは叶えてあげたいと思ってる。
境遇には同情するし、なによりも生みの親みたいなものだから。
とはいえ、地球を滅ぼすようなことは感心しないので。
創生魔法で故郷の村や住民を創ることだけに集中して、ゲロル星人を地球に解き放つのはやめないかと提案はした。
ただ、却下された。
一応、食い下がったが、やっぱり却下された。
念のため、もう一度提案したが、これ以上の会話はしない。
もしも抵抗するなら敵対すると言われてしまったので、アダムはアルクスに全面的に協力をすることにした。
『それはいい。べつに不思議じゃない。それだけアルクスの憎悪が大きかっただけだ。大事なのは、もう一つのほうなんだ……』
アダムは立ち上がり、まっすぐに和久井を見る。
『お前とのゲームが、まだ続いてる』
和久井もまた、アダムの目を睨んだ。
『僕らは、悪意も善意もデフォルメされてる。その先にあるもっと超越した感情が見たい。それは僕らと同じ空気感の真並光悟じゃダメなんだよ……』
「確かにアイツは人間じゃねぇ。オレみたいな屑のほうがピッタリかもな」
『でも感動したよ。まあもしかするとそれはひどく普通のことだったのかもしれないけど。でも今、和久井はまた僕の前に立っている』
シナリオという絶対的な力。
仕組まれた運命の中を歩んでいた自分たちの前に、シナリオを超越した和久井がいる。
それはアダムにとって、あまりにも大きな存在だった。
「今にして考えてみれば腑に落ちる点がいくつもある。あそこで彼がああ動いたのは、あそこで彼女があんなことをしたのは、そういう意図があって、役割があって、ストーリーやテーマが破綻しないようにとしたならば不思議じゃないと……」
「……そうだな。オレもそう思うぜ」
「キミは何の力も持っていない。それはキミ自身が一番わかってた筈だ。なのになんであの時、ココに来た? あんな女のために。それは色欲からなのか? それとも純粋な情だというのか?」
いつしかアダムの顔からは笑みが消えていた。
それは苛立ちであり、それは怒りであり、それは大きな悲しみである。
なぜだ。なぜだ。なぜだ。なぜだ……。
「なぜ和久井は舞鶴を助ける?」
見限られ、騙され、殺されかけ、裏切られ、なのに今もココに来ている。
もちろんそれは光悟の存在があってのことだろう。事実、和久井は舌を噛んだ舞鶴を見捨てようとしていた。
そう、一度は切ろうとしていた筈なのだ。ならなぜココに来た?
好きだという感情を知っている。だが真の意味で理解はしていないのか?
シナリオライターは、自分に『愛する人』を与えてくれなかったから。
「ごちゃごちゃ考えてんのか? 単純な話だろ。仲間を助けに来るのは当然だ。お前だってそうしてた」
『……僕の仲間だった人たちに、屑はいなかった』
「じゃあもしも屑になったらどうしてた? 人間生きてれば、生き方を変えられるもんだ」
『それは――』
「オレだってもしかしたら誰かが作ったキャラクターなのかもしれねぇぞ。なあアダム、これは別に複雑な話じゃねぇ。当たり前のことなんだって」
和久井は親指で胸を示した。
「心に従えよアダム。そしたらそれは嘘でも、嘘じゃない」
『……でも、そこに至るまでの道に霧がある。それがたまらなく腹立たしい』
「強情なヤツだぜ。まったく」
だったら、従ってやろうじゃないか。アダムの目が据わった。
『世界の行く末がどうとかは後だ。とにかくアイツをここから出すわけにはいかない! 自分の憎悪にふさわしい罰を受けながら死んでいくべきだ!』
「……どの道、テメェの言う通りオレはゲームの決着をつけにきた! そこに転がってるパピを回収して、アダム! お前はここで倒す!」
和久井が持っていた光球を前に突き出すと、それがボタン付きのチャームに変わる。
死にたくなるほどの青い空だった。
「アイス、買ってきたんだ。一緒に食べよう?」
「うん」
舞鶴は笑顔で氷菓を受け取った。
「不思議な夢を見たの」
クーラーの効いた部屋で舞鶴はそう言った。
「どんな夢?」
「あまり……、覚えてなくて、でも、あんまり、良い夢じゃなかったかも。奈々実がいなかったことだけは、覚えてる」
「ふふっ、だいじょうぶ。わたしはココにいるよ」
「そう、だよね。うん。ふふ、ごめんね変なこと」
「いいよ。大丈夫。それよりもうすぐ夏祭りだよね。一緒にまわろうね」
「うん。楽しみ!」
「みんなも来るって言ってたし、ふふ、たこやきをね、おなかいっぱい食べるの。おなかがはちきれるまで食べちゃおうかな!」
「私は! うーん、かき氷に、フランクフルト!」
「花火が見れるよ。楽しみだね!」
「うんっ!」
ひまわりのような笑顔を舞鶴は浮かべた。
「気持ちは理解できなくはないが、あまりにも哀れだ」
フィーネの空に広がるモニタ。
そこに和久井の『二次創作』が表示されている。
「女装したピエロがキミの正義か?」
「――ひどすぎだろもっと言葉を選べ。それにピエロ?」
光が晴れていく。
「おいおい目腐ってんじゃねぇのか月神さんよ。なあ、光悟」
「ああ。ピエロじゃない。どこからどう見ても」
奈々実が、アダムの前に立っていた。
「魔法少女だ」
次回の更新で最終回です
もうちょっとだけお付き合いいただければなと!