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第90話 キス-3


光悟がパピを降ろすと、月神とルナが跳んだ。

空中を一回転して、月神が光悟の肩に座った。

そしてルナは月神の肩に座る。


「「「合体完了! トリプルユニオン!!!」」」


『えっ?』


………。


『乗っただけじゃん!!』


肩車。

まあ、そうだ。

そうなのだが――


「浅いな」


『なーんでアタシが怒られなきゃならないのよムカツクなァアアア」


光悟は月神とルナを乗せたまま、のしのし前に出て行く。

ゲロルタワーは全ての顔から再びレーザーを発射するが、光悟が腕を前にかざすと虹のシールドが張られて攻撃を無力化していく。


こうして距離が詰まった。

月神とルナは武器を、ゲロルも腕を振って打ち付けあうが、すぐにゲロルから悲鳴があがった。

腕よりも早く剣とレイピアがタワーに刻まれていく。


虹の波紋が広がった。

光悟の掌底でゲロルタワーが後退していく。

ここで光悟はプリズマーを操作して橙色・トワイライトカイザーに変わると手にした光線銃を上に投げた。


それをルナが掴み取ると、持っていたレイピアを下に落とす。

それを月神がキャッチすると、持っていた月牙を下に落として光悟に渡した。


つまり、三人の武器が入れ替わる。

光悟が力を込めると月牙に電撃が纏わりつき、刀を払うとスパークと共に縦横無尽に電撃が迸った。

ゲロルタワーの全ての顔が白目をむいてブルブルと震えている。

そうやって感電していると、そのまま満月状のエネルギーの中に閉じ込められた。


そこに月神がレイピアを打ち込んだ。

月はバラバラに砕け、ゲロルタワーは大きく吹き飛び、背中から地面に倒れた。


そこへ発砲音。


追尾する種が発射されてゲロルタワーの全身に命中する。種は体の奥深くに侵入し、そこで発芽した。

張り巡らされる茨。そこから咲き誇る赤いバラたち。

そこで三人は武器を元の持ち主に戻し、月神とルナが地面に着地した。


走り出した二人は、刀とレイピアで次々にバラを切り落としていく。

ゲロルタワーから悲鳴が上がった。

体から出たバラが痛覚と連動しているようで、摘み取られるだけで激しいダメージが入る。


すぐに立ち上がろうとするが、網のように張り巡らされた茨が邪魔でうまく立ち上がることができない。

そうしている間に全てのバラが切り取られた。


「愛するお兄様へ」「愛する義妹(いもうと)へ」


エクリプススーツを一部だけ具現して、黒い布を作る。

二人はそれをラッピングペーパーにしていた。

切り取ったバラを集め、それぞれできあがった花束を月神はルナへ。ルナは月神へプレゼントする。


そこでルナが二つの花束に魔力を込めた。

二人が花束を投げるとバラの花びらが全て分離して、花吹雪が立ち上がったばかりのゲロルタワーに纏わりつく。


バラの花びらが目に張り付き、視界を奪う。

腕に張り付き、口に張り付き、全身に張り付いて瞬く間に赤い塊ができあがった。


何も見えない。聞こえない。感じない。

ゲロルタワーが目からレーザーを出そうとしても、バラの花びらが蓋になっていてうまくいかない。

そうしていると衝撃を感じた。


ゲロルタワーは理解していないだろうが、光悟に蹴られたのだ。

よろけて後退している間に、光悟は両腕を交差した。


『「レインボーバースト!」』


光悟とティクスの声が重なり合ったが、それもわからないままゲロルタワーは虹の光線に包まれた。

悲鳴が聞こえた。ゲロルタワーが倒れると、大爆発が巻き起こる。

爆風が光悟たちの髪を揺らした。

光悟は無表情、月神とルナは涼しげに笑っていた。





『プランが、崩れたの……!』


イブは肩を落としていた。

アルクスも憤っているようだったが、隣にいたアダムだけは笑みを浮かべていた。


『確かにモアの感情を奪いきれなかったのは計画の失敗だけど、それならプランを変更すればいいだけだとも』


「簡単に言うものだ」


『簡単だからね』


アダムはパピをズームにする。


『今はみゅうたんだけど、彼女をパピに戻す』


「できるのか? 向こうにも仕組みはわかっていないみたいだが」


『向こうは気づいてるさ。芝居が固いね、僕には大根に見える』


アダムはマウスを動かして光悟をズームにする。


『トワイライトカイザーはありとあらゆる機械を操ることができる。彼を消化してあの力を貰うことができれば、パピのエクリプスを弄ってバグを治せる』


パピを戻して、パピを消化して、エリクシーラーを貰うことができれば、あとはもう一押しだ。


『僕が誰かの感情を食い尽くして、からっぽの人形にすればいい。あとはそのステッキを使って、魔法を使う』


誰よりも早くイブが手を挙げた。


『ワタシを使ってほしいの! ワタシの全部を食べて、エリクシーラーを使ってほしいの』


イブは悲しそうに嬉しそうに笑った。

アダムはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。


『そうだね。それがいいかもしれないね』


窓の外を見た。何も見えない。


『地球に、キミの居場所はないからね……』


そこでアルクスが口を挟んだ。

一つ気になることがある。アダムの今のプランは確かにエリクシーラーを発動させることができるかもしれないが、一つだけ越えなければならない壁がある。


「そのやり方で創成魔法を現実に適応させるには、当然ながら使用者やステッキが本物になってなければならない」


幻想(トワイライトカイザー)で、現実(エクリプス)に干渉するのも不可能なため、そうなるとトワイライトカイザーを本物にする必要がある。


「お前、本物になる覚悟はあるのか? 体内に入れたハートを、少しずつ食っては消化しているな」


『気づかれていたか。それはただ、月神たちに見つかると思って――』


「だがもうバレた。むしろお前は一刻も早く完全体になるべきだ。魂を本物にして、地球に適応する」


アダムは肩を竦めた。


『わかってるさ。ただその前にちょっと、答えが見たいんだよ。僕は……』





「どう、かな……? えへへ」


ジャスティボウたちによる手術はあまりにも高速で終わった。

ものの三分ほどでアイは包帯を取ることができた。

それは肉人形の脳が飾りであるということが大きく関係している。

椅子状にされた頭蓋骨を、一般的な形状に変形させるだけならばすぐにできた。


「見事だな。傷が目立たない」


イゼはグイッと顔を近づけてアイを見る。

アイは少し困ったような表情で視線を泳がせた。


「むッ、どうした? 顔が赤いぞ。気分でも悪いのか?」


イゼは手でアイの額を押さえたが、わからないので、額と額をくっつけてみる。

熱はないと思うが、ますますアイの顔は赤くなった。


「あっ、その! イゼちゃんがすぐそこにいるから……!」


「それがどうしたのだ?」


イゼはアイの瞳をまっすぐに見つめる。

近くて見ると綺麗なブルーだ。それにとにかく顔が整ってる。綺麗だ。

それになぜかいい匂いがする。アイはパニックになって、目がぐるぐるになってきた。

すぐそこにくっつきあっているミモとモアもいるし。そうしているとまたイゼの距離が近づいて――


「ちけぇよ! 離れろコラ!!」


「わッわッわッ! どうしたのだ! いきなり?」


イゼはビックリして後ろに下がる。アイは真っ赤になって息を荒げていた。


「グイグイ来るんじゃねぇ! まだそんな仲でもないだろ!」


「それはそうだが、また急激に雰囲気が……」


そこで壁にもたれかかっていた月神が口を開いた。


「コアになっている室町アイのフィギュアが、ゲロル星人に改造された状態がベースになっているから、二つの人格が交じり合ってる。ってね」


ティクスや柴丸も持ち主たちと過ごした記憶と、ぬいぐるみのモデルになったフィクションでの活躍の記憶が混在している。それと同じことだ。

ゲロル星人に連れ去られる前の穏やかな性格が戻ってきているが、興奮したりすると改造後の荒々しい口調になってしまうらしい。


「そう、か」


「ご、ごめんねイゼちゃん。アイもまだ……、うまくコントロールできなくて。ふえぇ」


やがてまた穏やかな性格に戻ったようで、モジモジしていた。


「許せんな。ゲロル……」


「手術の際アイのフィギュアを調べたが、額にいたゲロルが消えていた」


「イゼやモアの中にいたゲロルにもハートが入っていたね。そうなるとおそらくソイツにも入ってる」


ゲロルが本物になる前に潰さなければならない。


「ところで考えてみればアレはどういうことなのかしら?」


ルナは先ほどアイとイゼから力を借りていた。

二人がイマジンツールで一度エネルギー態になって、今また元に戻っているわけだが、肉人形を纏っているのになんであんなことができたのだろう。


「フィギュアの体を自覚したのなら、周りの肉は剥がれると思うのだけれど……」


「きっと、市江ちゃんがいるんだよ」


アイは、己を自覚し、ルールを理解したからこそわかる。


「市江ちゃんはね、苺っていう空想の姉妹をすごく大切にしてた」


アイは事情を知っていた。

だから自分の家の鏡や窓を二人のために破壊していたのだ。

市江は常に苺といた。本人はずっとそう思っている。たとえ一人だけだったとしても。


「やっぱりそうだったのか」


「和久井、心当たりがあるのか?」


「アニメじゃ、ずっと二人で一緒にいたが、今にして思い返してみると違和感があったシーンがチラホラとあったからな」


「カーバンクルが喋ってたでしょ? あれは市江ちゃんが、苺ちゃんの言葉として喋らせてたんだよ。どういう経緯で苺ちゃんが生まれたのかはわかんないけど……」


とはいえ察することはできた。

幻の苺が、ろくな理由で生まれていないことを。


「………」


隅っこのほうにいた舞鶴は爪を噛んだ。

幻の姉妹。何をバカなと思った途端、奈々実の笑顔が浮かんできた。

あの優しさ、あのぬくもり、あの笑顔、あのときめき。

全てが妄想だった。


「お、おい! お前っ、何やってんだ!」


舞鶴は思わずニヤリと笑った。

親指を食いちぎる勢いで噛んでみた。

オタク女の顎の力じゃ血が出るだけだったが、ビュンと音がするような勢いで和久井は駆け寄ってきてくれた。


「大丈夫か!」


和久井は青ざめながら、止血するために舞鶴の親指を抑えた。

舞鶴も青ざめていた。痛いのは苦手だ。

気絶しそうになって白目をむいた時、虹色の光が迸って傷が塞がった。


「いけないぞ舞鶴。自分を傷つけるな」


「和久井くん。そいつをしっかり抑えておいてくれ。真並くんに無駄な力を使わせたくない」


月神は話を続けた。


「おれが戦った市江にはハートが入っていなかった。おそらく、ハートが入っているフィギュアの市江が外にいて、アダムに協力してるようだ」


月神もアイの頭部を治す手術に少し立ち会ったが、そこで気づいた。

どうやらアダムはフィギュアの中に入れたハートを僅かに噛みちぎって、肉人形の中に入れていたようだ


「普通なら単にフィギュアと肉人形がそれぞれ別の人格を獲得するだけだが、今の話を聞いてなんとなく見えてきた。イマジナリーフレンドや死別、あるいは二重人格や体が繋がっていたとか……、いずれにせよアダムは市江の持ち主となり、彼女のバックボーンをイマジンツールで世界に適応させたんだろう」


市江によって『二つの体の中に同一の魂が存在することは正しいことである』という概念のようなシステムが生まれた。

物語が『悲しみ』を綴った結果、アダムたちにとって都合のいい設定が生まれたのである。


「アダムは食ったナナミプリズムのハートを市江に入れて世界の核にしてるから、そのルールが適応されてる。この世界を作った暴食魔法といい、ピッタリの力が出てくるね」


創造の翼。

今や人の想像は、ありとあらゆるものを創作できる。


創作物に不可能はない。

たった一日で世界を終わらせることができるし、逆にたった一日で死滅した星を再生することだってできる。



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