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第87話 翼ひろげて-4


ミモはすぐに月神を追いかけた。

ついたのは礼拝堂だ。

月神はモアを入り口に立たせると、傍に来た柴丸をソードホルダーに変身させて、それを掴み取る。

三本の刀の一つ、月牙がひとりでに鞘から離れると、ステンドグラスに描かれていた神の喉元に突き刺さった。


「!」


モアの瞳が少し、揺らぐ。

大きな音がした。月神が椅子を蹴ったのだ。

木製だったためにバラバラに砕かれ、木片が床に散らばった。


「ちょちょちょッ!」


ミモが慌てて止めに入ったが月神は彼女を突き飛ばすと沢渡三条を抜いて壁を切りつける。

さらに鞘からは雲雀坂が発射され、花瓶や蝋燭を破壊していく。

モアはそれをジッと見ていた。

すると月牙が神の喉から離れ、月神の手に戻った。歩く。神のもとへ。


「――て」


「うん?」


「やめてッッ!!」


モアの表情が怖れに染まった。彼女は走り、月神の腰へしがみつく。


「神様になんてことをッ! 裁きが下ってしまいます!」


「キリストや仏陀――、まあとにかく、おれの世界にいる神なら絶対にやらないさ。ばちが当たってしまう」


月神はモアを突き飛ばした。

そして月牙を一度鞘に納めると、振り向きざまに抜刀する。

白い線が空間に浮かび上がると、神は粉々に砕けて、落ちていく。


「――……ァァ」


モアは目を見開き、そこからボロボロと涙が零れた。

掠れた声が漏れる。それは徐々に大きくなり、やがて叫び声に変わった。

しかし月神はモアの肩を掴み、負けないように声を出す。


「創作の究極的な本質とは何か? それは神の領域に足を踏み入れることだ!」


モアは首を振る。

しかし月神はモアの耳に顔を近づけた。


「お前たちの神はおれの世界の人間が生み出した! ならば、おれはアンタの信じるものとそう変わらない。だから話を聞け!」


モアは首を振る。

月神は舌打ちを零した。


「キミが信じていたのは本当に神か? それとも自分が作ったつまらないルールか? どっちなんだ!」


そこで壁が吹き飛んだ。

ゲロル星人775型-Zが巨大な腕で月神の頭をガッシリと掴んだ。

躊躇なく握り潰そうとするが、それよりも先に刀が全身に突き刺さる。


Zは苦痛に叫びながら月神を投げ飛ばした。

壁に叩きつけられた月神はそのまま壁を破壊して瓦礫と共に転がっていく。


『余計なことを吹き込むな!』


うるさい羽音と共に773型-Gも着地する。細い指で呆けているモアの頭を小突いた。


『コイツには空っぽの人形になってもらわなければ困るんだよ!』


「モア様!」


ミモは走ろうとして、自分の足が震えていることに気付いた。

ゲロルを見ると感覚がおかしくなって、自分がいま呼吸をしているのかもわからなくなる。

父と母の姿がフラッシュバックして、凄まじい吐き気が込み上げてきた。

だが同じくしてモアの姿を見た時、ミモの体は前に出ていた。


「モア様から離れろッッ!!」


モアの目に、一瞬だけ光が宿る。

だがGの羽音を聞いた時、モアは深い闇を求めた。


表情が消えたのを見てミモは悲しくなった。

もしかしたら自分の声が届いてモアが戻ってくれるかもしれないと期待したのだ。

やはり、自分では変えられないのか。彼女の心に希望の光を灯すことは――


『ゴミが』


Gの胸が左右に開き、そこにいる小さなゲロルが一斉に羽ばたいた。

それらはミモの耳、口、あるいは服を切り裂き、体内への侵入を試みるだろう。

そうして脳に到達して狂わせる。

ネズミ中毒になった父のように。


『決めた。お前は自分の体を喰え』


Gが笑う。


『どれだけ喰ったら死ぬか、賭けのテーマにしてやる』


ミモは両腕で顔を覆うが、そんなもので防げるものではない。

しかし突如、地面が割れた。

巨大なウツボカズラが二つミモの前に現れて、飛んできたゲロルたちを吸い込むようにして全て捕食してみせた。


「下がってなさい!」


後ろから走ってきたルナがミモを抜けて電動ガンを連射する。

Gは触覚を高速で振るわせて種を粉々にしてしまう。

ルナはレイピアを思いきり突き出すが、Gはそれを手で掴み取った。


力を込めるが、少しも前にいかない。

ルナは武器から手を離すと、ケープマントをなびかせて風が起こす。

Gの体からキノコがいくつも生えてきた。特殊な胞子で動きを拘束しようと思ったのだが、そこでキノコが瞬く間に腐食して溶けていった。


さらにGの長い触角がルナの足首に巻き付いた。

踏みとどまろうとしても、ルナの体は簡単に浮き上がり、投げ飛ばされてしまう。

空中で身動きが取れなくなっているところへGの目から放たれるレーザーが直撃し、ルナは地面を転がっていく。

すぐにミモが駆け寄ってきた。


「大丈夫ッ!?」


「ええ。このくらい問題なくってよ」


「でもッ、月神も倒れたまま動かないし」


「はぁー。貴女ってば本当にアホ――、ではなくて、馬鹿女なのね」


「言い直した意味なくない?」


「よく見ておきなさい。確かにやられているお兄様は妖艶で素敵だけれども!」


ルナは立ち上がる。


「お兄様が負けるなんて解釈違いよ!」


月神が倒れていたのは、会話の途中だったからだ。

耳元にあったステンドグラスの破片にアダムの姿が映っていた。


『神の領域に足を踏み入れるか。うーん、面白い考え方だ』


「人は常に創作の中で生きてきた。救いを求めて救済の国を作り、過ちを認めさせるために裁きの王国を想像した。違うところでは神々の物語を口にして、星の並びに名前をつけた。おれはそう思ってる」


アダムは笑っていたが、欠片も笑っていなかった。


『だからマリオンハートなんて存在してはいけないんだよ。キミたちが培ってきたものを破壊する最悪の存在だ』


対して、月神は鼻で笑う。


「使い方だろ? 爆弾だって人を殺すが、隕石を破壊するのに使えば70億人助かる」


『使えていないからこうなった』


「時間はかかる。でもやがては導いてみせるさ」


話が終わったので、月神は立ち上がった。


「千年後にはおれを祀る神社がどこかには建ってるよ」


そこで月神はアダムが映っていたガラスを踏み潰す。

月神の真上に飛行機雲が伸びる。すると、空からアイとイゼが降ってきた。


「流石は真並くんだ」


ジャッキーと合体していた光悟が飛んでくる。

モアを抱えるとミモの隣に着地させて、再び上昇した。


「すまない。少し力を使いすぎた。ここは任せた」


月神とルナが頷くと、光悟はもう一度お礼を言ってアポロンの家に向かった。

イゼとアイが光悟についていかなかったのは、ここに来るまでにマリオンハート所有者としての立ち回りを聞いていたからだ。


「行くぞ、室町」


「う、うんっ!」


目を閉じて、意識を集中する。

自らの中にある『心』に意識を向けた時、二人の体は光る球体に変わっていた。

意味を理解したのか、ルナが腕を伸ばす。


「来て!」


二つの光球はルナに向かって飛んでいくと、その体の中に吸い込まれていった。

ちょうどアポロンの家で光悟が和久井に説明している。

ティクスや柴丸たちと同じで自らの力を与えようというのだが、和久井は訝しげな表情である。


「一心同体だから強いんだろ? 一つの体に三つも四つも魂入れても大丈夫なのかよ? それに持ち主でもないんだから……」


「俺と月神なら難しいかもしれないが、ルナならいけるかもしれない」


「まァ? なんでだよ」


「ルナには才能がある」


言われてみれば月神の研究にずっと付き合っていたとはいえ、光悟がいまだに変身箇所が右腕だけなのに対してルナはシャルトの力が全身に及んでいた。

ルナのハートは元は始祖の一部、同じマリオンハートだから浸透しやすいのかもしれない。なにより――


「ずっと誰かさんにペコペコしてたから、合わせるのは慣れてるわ」『THE・WISEMAN――……!』


ルナはエクリプススーツを剥ぎ捨てる。

猫耳の剣士。その姿は以前見せた時と何も変わっていない。


『役立たずを纏ったところで何になる! ゴミの鎧なんて俺様が食い尽くしてやる!』


Gがルナに飛び掛かる。するとそこに合わせてルナは武器を突き出した。


『無駄だ!』


再び腕で武器を掴む。

が、そこで気づいた。武器の形状が違う。

機械的な印象のレイピア。ガシュンと音が聞こえると、剣先が伸びてGの腹部に突き刺さった。


「グッッ!」


ピンポイントな衝撃。硬い鎧を貫いて剣先が肉体に侵入した。

ルナは柄についていたトリガーを引く。

装置が動く音がして剣の中央部分、クリアパーツになっている部分に緑色の液体が入っていくのが見えた。


Gは不快感に吠えた。血が吸われているのがわかった。

目からレーザーを発射しようと光を集めた時、ルナのマントが広がった。


するとマントに『眼』の模様が浮かび上がり、衝撃波が発生してGが吹き飛んだ。

全身に付着していた鱗粉が爆発していき、衝撃に包まれながら地面に激突する。


『これは、まさかッ!』


ルナは腰から別の武器を抜いた。

トリガーガードに指をかけてスピンさせながら掲げた銃は、前まで使っていた電動ガンではなくアイが使っていたチュパカブラが与えた銃と同じデザインだった。


ルナは弾丸を発射。

Gは触覚を高速で震わせてそれを粉砕しようとするが、違和感を感じて止めた。


銃から発射されたのは種ではなく、注射器だ。

針先が触角に突き刺さっており。

その中に入っていた種が注入される。

瞬く間に蔓が触角を突き破ってGに纏わりついた。


「フランソワ流・一式!」


ルナは柄についていたボタンを押す。

すると吸い取って剣にチャージしていたゲロルの血液が、赤く染まった。


「アスカニウス!」


剣を振るうと、バラの花びらが舞い、赤い斬撃が発射される。

がんじがらめになっていたGに直撃すると、大量の血液をまき散らした。


「グアァアアァ!」


無様に倒れるGを見て、ルナは笑う。


「素晴らしい! 力が溢れる!」


『クソ! ユーマは我々の力だというのに! 何故だ!!』


「創造の翼だ!」


月神が答える。

彼もまたエクリプススーツを剥ぎ捨てて和服姿に変わった。

犬耳と尻尾、そして両肩の前に浮遊する赤い大袖のシールド。

これらもまた、人が創造の翼で空に羽ばたいたから見つけたものだ。


「人は雲に手を伸ばし、手が届かないとわかってもなお伸ばし続けた!」


月神は自分の胸の辺りをグッと掴む。


「やがて夢は翼を授けた! 空に羽ばたいた人々は雲をちぎって食べたのさ!」


それは甘くておいしい。わたあめのような味だった。

そう記す。それを見た人々は雲に夢を見た。

そしていつか自らも創造の翼を広げて空にむかって飛んでいく。


「人はこれからも翼を広げ続ける! 心ある限りッ!」


月神はホルダーをかざし、ゲロルたちを睨む。


「その自由を! 可能性を奪う貴様らはおれが許さない! これがゲームだというのなら面白い! お前が死ぬまで遊んでやるぜ!!」


「ォオオオオオオオオオオオオオオオ!」


今まで沈黙を守っていたZが吠えた。あまりにも不愉快だからだ。

剛腕が歪むと、まるでレンコンのように変形し、無数の穴を月神に向ける。

そこから弾丸が発射されていった。

しかし月神は姿勢を低くして加速、ヤマイヌのように駆けていく。



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