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第86話 翼ひろげて-3


「命乞いをすればペットにしてやるぞ? さあどうする?」


「問題はない」


光悟の目は青い。

水しぶきが上がると、どこからともなく光悟が現れ、飛び回し蹴りで機械兵の光線銃を弾く。

別の場所でバシャンと音がして光悟たちが機械兵にとびかかっていく。

気づけば部屋にいる機械兵一体一体に光悟が短刀を持って戦っていた。


『そういえば分身をする能力があったか。だが機械兵はまだまだいるぞ?』


「ゲロル、お前は一つ勘違いをしている」


光悟は無表情だった。

そこに恐れは欠片もない。


「俺のほうが多い」


抑揚のない言葉だった。

そこでナナコの中に今まで感じたことのない何かが芽生えた。


おかしい。なにかがおかしい。

イゼやアイですら僅かな恐怖が感じられるのに、光悟からは一切の恐怖心を感じない。

まさか。そう思って、ナナコは学校の周りを撮影した映像を表示させる。


『なん……だ、これはッ』


そこには光悟が映っていた。


「俺は八百人いる」


光悟しか映っていなかった。








『グアァアァアアアアッツ!』


玄関のガラスを突き破りナナコが転がっていく。


『ガァアアアアアアアア!』


体を起こしながら、ナナコは全ての口から光線を発射する。

それらは光悟たちを蒸発させていくが、そこで背中に痛みを感じて前に倒れた。

周りには無数の光悟が短刀を持って迫ってきていた。


『ウォエェアア! ガアアァアラア! 死ねェエエ!』


ナナコは立ち上がり、刀を振り回す。

次々に光悟が切り裂かれていくが、血は一滴もできない。

全て水になって弾けるだけだった。

周りにはスクラップになった機械兵が転がっている。

試しに反応を探ってみたが、起動中の個体は一体もいなかった。

つまり百五十体、全て光悟に破壊されたというわけだ。


『ダァアア! ゼァアアラア!』


何もないのにまだナナコは剣を振り回していた。

そう、なにもない。気づけば光悟がいなくなっていた。

やったのか? ナナコは一瞬笑みを浮かべたが、すぐにそれを消した。


学校中の窓が割れた。

全ての窓から光悟が顔を出し、水でできた手裏剣を投げる。

それは空中で軌道を変え、次々にナナコに命中していく。


『グッ! ガァアァアア!』


のけぞり、後退していくナナコは見た。

無数の光悟たちが水になって空に昇っていく。

それらが交わっていき、蛇のような龍ができあがった。


それも、八体。


正義忍法・大蛇(オロチ)龍閃波(りゅうせんは)

巨大な怪物がナナコを見下した。

八個の口が開くと、そこから青く発光する水流が発射されてナナコを飲み込んでいく。


ナナコは何もできない。

何かをしようとしたが、全て青い水に飲みこまれた。

激しい水圧にもまれて平衡感覚が消え去ったのち、やがて自分が地面に倒れていることに気づく。


「真並光悟!」


イゼが叫ぶ。光悟は振り返った。


「頼む!」


イゼはそこで言葉が詰まってしまう。だがそれでも前に進み、続きを叫んだ。


「お婆さまを……ッ! 救ってくれ!」


光悟は頷いた。

腰を落として短刀をなぞる。すると刃が青く発光し、そこで地面を蹴った。


『アアアアアアアアアアアアアアアア!』


ナナコも立ち上がると、天を仰ぎ、吠え、刀を持って走り出す。

お互いの距離が近づいていき、さらに加速する。

眼前。迫った。交差する刃。

何かが飛んだ。首だ。リーチの差が勝敗を分けたようだ。光悟の首が宙を舞って体は地面に倒れる。


『ははは! やったァア!』


ナナコは声をあげて笑った。

その時、光悟の頭が地面に落ちる。

パシャンと音がして、体と一緒に水になった。


『え? あ――! ぐぁあ!』


まるで海面からイルカが飛び跳ねるように光悟が地面から飛び出してナナコを斬った。

着水するように地面に潜り、消えていった。

するとまた別の場所から光悟が飛び出して、短刀をナナコに刻み付ける。

ダメージを与えた光悟は再び地面の中に潜り、完全に消えてしまう。


『グアァァ! ヅゥウウォオオオ!』


それが続いた。

光悟は次々に現れてナナコを切り裂いていく。


「「ハァアアアア!」」


前宙で飛んできた二人の光悟の飛び蹴りが直撃し、ナナコは倒れまいと後退していく。

その中で見た。またも飛んでくる光悟の姿を。


「正義忍法奥義――!」


光悟の右手に青い光が集中していき、竜の頭部のオーラが纏わりつく。

ナナコは剣を前に出した。すると剣が伸びて、先にあったイズの顔が大口を開いて光悟の喉元に食らいつく。

しかしそこでパシャンと音がして光悟の姿が水となる。

水はそのまま空中を流れていきナナコの背後で実体化した。

そして腕にあった竜の頭部を背中に叩きつける。


九頭竜(くずりゅう)蒼光破(そうこうは)!」


『グアアァァアァァアァアアア!』


手足をバタつかせナナコは地面に激突。しばらく地面を滑っていく。


『あ、ァァア! そんな! ことがッッ!』


立ち上がろうとしたが上手くいかない。

激しい眩暈と、あとは体内を暴走するエネルギー。

体が熱い。そうしていると肉体の一部が弾けて光が漏れ出ていく。


『まさか――ッ! そんな! 侵略者の頂点なのに! どうして――ッッ!?」


肉体が崩壊していく。

今までもゲロルに歯向かってくる種族はたくさんいた。

しかしいずれもゲロルを殺すことはできなかったのに。


『それが、なぜッ!?』


「正義には勝てない」


光悟は何も変わらぬ表情でゲロルを睨み貫いた。


「助けを求めている人がいる限り」


アイやイゼが少し、表情を和らげる。


「俺に負ける理由はない」


そこでナナコは、先ほど感じた未知の存在が『恐怖』であることを理解した。


「イィイ……! イギギイアアァァアァアァア!!」


叫ぶ。口の中から光が溢れ、ナナコは爆発と共に粉々に砕け散った。


「………」


アイはチラリと隣にいるイゼを見た。

彼女は泣いていた。しかしまっすぐに前を、未来を見ていた。

その後、アポロンの家に戻ろうかとしたところ、イゼはあるものを見つける。


「むっ」


ゴミが落ちてる。アイスのパッケージだ。

歩く。手を伸ばす。そこで手がぶつかった。

光悟と目が合った。二人はニヤリと笑った。





アポロンの家。

ミモは自分の部屋で泣いていた。泣いていることが悲しくて泣いていた。

今までは涙を流そうものなら、すぐに誰かが声をかけてくれた。


何泣いてんだと茶化しながらも気にかけてくれた弟。

食べて忘れろと外食に連れていってくれた父。

親身になって話を聞いてくれた母。

釣られて泣いてくれたチビたち。


いつまででも傍にいてくれたモア。


でも、もう、誰も来てくれなかった。モアはリビングで座っているだけだ。

ミモの泣いている声は聞こえている筈なのに人形のように表情一つ変えないで。

なんかもう、いろいろわからない。疲れた。最悪だ。だから泣く。


(さすがに気の毒だな)


和久井が様子を見に行こうとすると、舞鶴に裾を掴まれた。


「ど、ど、こ、いくの?」


「いやぁ、ちょっとッ、ミモが泣いてるから」


「慰めて。それで、乗り換える、ん、だ」


「はい?」


「私には! あ、貴方しか、い、いないのに……! 見捨てるんだ!」


「いやいやッ、別に。そういうわけじゃ――」


「死ね!! 死ねよ!! 裏切りものがぁぁア!」


「えー……」


「貴方に。買われ……た、せいで! 私はこんなに! 傷ついたのにッッッ!!」


「びっくりした。いきなり叫ぶんだもん。びっくりしたな」


その時、舞鶴は和久井にキスをした。

やり方がわからないので、とりあえず真正面から迫り、鼻と鼻を押しつぶしながら唇をべったりとくっつけた。

ガチッと音がして歯がぶつかった。

歯茎もめちゃくちゃ痛かった。

こんな雑に消費して。でも無事に和久井の頭は真っ白になり、ガチガチに固まる。


「いかないで」


「はい」


舞鶴はニヤリと笑った。

だが問題はない。既にミモの背中には、ルナの手が優しく添えられたからだ。


「難しいものね。こういう時、どうすれば正解なのかしら?」


放っておいたほうが嬉しい人もいるだろうし、声をかけたほうがいい場合もある。

はじめルナは前者を選んだが、やっぱりダメだと思って駆けつけた。


かつてそれで失敗したからだ。

あれは放っておいたというよりは見て見ぬふりだったが、それでもやっぱり黙っておくのは気持ち悪い。

ミモもしゃくりあげ、ただただルナにしがみついて泣くことしかできない。


「ハハッ、時間の無駄だろ」


突如なにやら人間性に欠ける言葉が飛んできたので、ミモはびっくりしてそちらを見た。

月神が腕組んで、壁にもたれかかっていた。


「ぐすっ! マジ? えぐくない? ひっく!」


「喚くな。うるさいのは嫌いだ」


「ひっぐ! ぐぅっ! さいでー……!」


ルナは苦笑しながらミモの頭を撫でる。


「お兄様ったら。誤解をされてしまいます」


「キミがわかってくれていればいい。ってね」


月神は泣いているミモの前に来る。


「どうすれば泣き止む? なんでも言ってみな。すぐに叶えてやるぜ」


「そんなの……、決まってるじゃん。モア様に前みたいに笑ってほしい」


「それだけ? つまらないヤツだねアンタ意外と」


「はぁ!?」


「隠し事はよくないな。気づいてないだけかな? とにかくスマートに進めたい」


月神はリビングに戻ると、ジッとしているモアの腕を掴んだ。


「来い」


モアはされるがままに引き起こされ、月神に連れて行かれる。


「ちょっと! モア様に乱暴しないでよ!」


「フールなヤツは黙ってろ」


月神はスタスタと歩いていく。ミモはグッと堪えて、隣にいるルナに耳打ちした。


「フールってどーゆー意味?」


「あら、知らないの? かわいいって意味よ」


「さすがに嘘ってわかったわ」


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