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第80話 一期一会-1



光悟は辺りを見る。

ミモや舞鶴は子供のように泣きじゃくり、しゃっくりの音が聞こえてくる。

イゼも沈黙したままボロボロと涙を流していた。

モアは無表情で立ち尽くしている。


「辛いかもしれないが元気を出すんだ」


光悟の言葉は泣きじゃくる声の中に虚しく消えていく。

その中、和久井はフラフラと舞鶴のもとへ足を進めた。


「困っちまうよなぁ? 宇宙人オチだなんて。二期が荒れそうだぜ。へへへ」


「ぐっす! ひっく! ぇええぇえん! ぐずっ!」


「大丈夫か? 舞鶴」


「……そっか。そぉだ!」


舞鶴は目を擦った。しかし涙はとめどなく溢れていく。


「しぬ! ななみにあえないなら、もうッじぬ!」


「え……?」


「ごろじで! わくい……! もういきるのやめるっ!」


「すぅー。そ、そんなこと言うなよ。やめとけって……」


「しぬ! もう決めたから! 絶対死ぬ!」


「やめとけやめとけ。苦しいぞ。めちゃくちゃ痛いぞ」


「………」


苦しいのは嫌だった。痛いのは嫌だった。

ずっと苦しくならないために戦ってきた。

さんざん痛い目にあって、それでやっと終わると思っていたら――


「うぅうぅぅぅうッッ!」


舞鶴の目にまた涙が浮かぶ。


「仕方ない。ここは和久井様が一肌脱ごう」


テレビで見た。泣いてる女を泣き止ませることができたならキスまではいけるらしい。

信じるぞ。嘘だったらDMで殺害予告してやる。


「オレさ、この前、あいつらとバーベキュー行ったんだよ。笑っちまうよな、ザ・陽キャイベントをやったんだぜこのオレが。結論をいうと、まあまあおもろかったな」


「………」


「月神のヤツ凄いんだ。メロンを水面に叩きつけて、その衝撃で魚を気絶させて捕ってたんだぜ? ヤベェよな。ははは、は。悪い。月神っていうのはあの刀持ってた――、ってまあいいか」


「………」


「とにかく、アレだ。オレが言いたいのはなんていうか、その、マジ無理だって思ってても意外と楽しいんだ。知ってるやつだけでやるバーベキューはダルくないから。よし、決まりだ! バーベキューでもやろう。知らないヤツとやるのは地獄極まりないけど、仲のいいヤツらとなら、まあまあ面白いんだ。うん。そう。マジで……。だからつまり幸せの形を自分でも決めつけなくてもいいだろ」


「………」


「あいつらは、まあ人としてはちょっと終わってるところはあるけど悪い奴じゃない。お前が困ってたら、助けてくれる連中ばっかりだ。だからたぶん苦しくはない。仲良くなれるかは別だけど、少なくともお前の敵にはならない。それにミモたちもいる。な? あ、あとオレも……! へへへ」


「でも」


「大丈夫大丈夫。テメェにしてやられた件は……、べつに気にしてないから」


「カス、とか、ぼ、ボケとか、言っ、た、のに?」


「あんなもんは……、なんていうか、挨拶みたいなもんだろ? オレたち一応こうなる前は友達だったよな? いや、まあ、お前がどう思ってたかは知らんけど」


「………」


「終わってる性格のオレにも友達がいるんだ。お前も大丈夫だ。っていうか、オレは今でもお前のことを友達だと思ってる。だから、泣くなよ」


「ほんと……?」


「もちろん。オレはお前が好きだ。ガチ恋してるんだ。意味わかる? 前にお前が動いてるのを見て本気で惚れたんだ。ガチで。好きです。付き合ってください。オレは一生お前の味方だ。お前を裏切らない。永遠に愛する。裏切ったら殺してくれても構わん。これはガチ。どう? こういうのメンヘ……、繊細な人たちに刺さるのかな? どういう感じで告白したらいいかわからん。だってオレ童貞で、彼女いたことなかったし」


そこで和久井は衝撃を感じた。

一瞬殴られたかと思ったが違った。

舞鶴が飛びついてきて、強く抱きしめられた。


舞鶴は泣いていた。

でも少しだけ、さっきの涙よりも温かいものが混じっていた。

気がする。

知らんけど。

和久井は微笑んで、舞鶴の背中を優しく撫でた。


「……和久井」


よかった。光悟はそう思ったが――


「まあ無理もないです。人生が宇宙人のせいでメチャクチャになったんです」


「!」


一同の前に姿を見せたのは桃山市江だった。

アイと一緒に逃げていたと思ったが、どうやら違ったらしい。


「あの映像、見たですか? ゾッとするですよ。だって――」


市江は、モアを睨んだ。


「パラノイアが人間だったということは、わたしたちは人殺しです」


元・魔法少女たちの頭に浮かぶのは、パラノイアを攻撃していた時の光景だ。

当然モアも思い出した。パラノイアを――、人を殺した時の記憶。


「地獄落ちです」


市江の言葉を聞いた時、モアは頭を抱えて叫んだ。


「いやあぁあああぁあああッッ!!」


ミモはその悲痛な叫びを聞いて、涙が引っ込んだ。

モアの様子がおかしい。

確かに大きなショックは受けただろうが、明らかに取り乱している。


心配だ。不安だ。

ミモはすぐに走り出したが、モアにたどり着く前に吹雪が襲い掛かり、地面に倒れてしまう。

市江は魔法少女に変身しており、手にはイエティが変形したハンマーが握られていた。


「シスターが人を殺すだなんて。神はお怒りです!」


挑発するようにハンマーを向けると、モアは呼吸を荒くして蹲った。


「よせ!」


光悟が市江を止めようとした時だった。

光の柱が市江を照らすと、彼女の体が消え去り、光悟の手が空を切った。


「なに……?」


光悟から離れたところに再び光の柱が生まれ、そこから市江が姿を見せる。


「神は決して貴女を許さないです。あなたのご両親のような死が、またやってくるです」


そう言い残すと、市江は光と共に消え去った。





その館は、森の奥にひっそりと建っていた。



中には老夫婦が暮らしている。

優しい人たちで、森を抜けたところにある村からの評判はいい。

しかしそれは当然だ。そう思われるように振舞っていたのだから。

まさか村の連中は、屋敷の地下にあんな空間が広がっているだなんて夢にも思わなかっただろう。


水族館は魚を見る。

動物園は動物を見る。

であるならば、そこの館は人間を見る場所であった。


種類は大きく分けて二つ。

一つは『性』だが、こちらはあまり人気がなかった。

この館に来る人間はそういったものを求めてはいない。


金のある人間ならば性など簡単に買えるし、そういうショーをセッティングするのは容易だったからだ。

しいていうなら年齢が低いものの性行為はそれなりに人気があったので、次第にそちらの方向がメインになっていったのは、ここで詳しく語ることではない。


まあいずれにせよ性的な刺激に飽きた人間が集まる場所なので、もう一つの展示物が非常に人気があった。

それは、老夫婦の知り合いが世界各国から調達してくる奇形児だ。


金持ちたちにとっては、いいエンターテインメントになった。

その建物があった地域では特にそうした者たちは特別視されていたらしく、天の使いであるという者や、まったく逆に災いを齎す邪悪であると口にする者もいて、いずれにせよ未知なる存在というものに対しての果てしない興味があったのだろうと思う。


むろん今の時代では考えられないことではあるが、であるからにしてこの場所に集う人間は人権やモラル、良心を置き去りにした先にある『刺激』を求めていたのである。



とても分かりやすくいえば、悪人たちのエンターテインメント施設だった。



その館に、ある日、アイドルが現れた。

桃山苺と桃山市江、双子の姉妹は後頭部から臀部までが結合していた。


借金まみれの両親に売られた二人は、若さと美しい容姿からすぐに人気になった。

奇しくもその土地の神話には、四つの足と四本の腕、二つの顔を持った女神・べルネスが登場する。

このことから桃山姉妹はべルネスと名付けられ、二人を目当てに多くの客がやってきた。


そう、女神なのだ。


一糸纏わぬ姿で腰掛ける二人を見て、ある客は自慰行為にふけり、ある客は罪を懺悔しながら自傷行為に走る。

ある客は涙を流しながら手を合わせ、ある客は今まで見てきた人間とは違う形をしている二人を、純粋に奇異の目で見ていた。


桃山姉妹は自分たちがどう見られているのかが分からず、沈黙を貫いた。

親に売られ、見世物として生きるのは苦痛ではあったが、暮らしは以前よりずっとマシだった。


人気商品の彼女たちを、小屋の人間は丁重にもてなし、温かい食事や柔らかいベッドを用意してくれたからだ。

それに市江にとって、一番大切なものは苺だった。

苺にとって、一番大切なものは市江だった。


二人はいつも眠りに落ちるまでお喋りをした。

後ろが繋がっているから、いつも横を向いて眠った。


「ずっと一緒にいるです。苺」


「当たり前だぞ。市江」


二人は誓った。孤独ではなかった。

それはなにも姉妹だけではない。

見世物になっていた人たちはみんな優しく、桃山姉妹を気遣ってくれた。


鼻が肥大化したビッグノーズは客からもらったチョコレートを二人に譲っていたし、二本の足が一つに交わって一本足になっていたカルマンは、たくさんためになる話をしてくれた。

何があったか、体が穴だらけのオリマは小粋なジョークで姉妹をいつも笑わせてくれた。


なかでもミラという単眼の女性は、文字通り姉代わりになってくれた人だった。

三人はいつも一緒だった。

ミラは寂しい時は誰よりも傍にいてくれたし、面白い時は一緒に声を出して笑ってくれた。


ミラは絵が上手かった。

目が一つしかないから、距離感だので苦労したらしいが、必死に努力をしたらしい。

海という場所はとても綺麗なものだということを二人はミラの絵から学んだ。


それに市江と苺は背中合わせでくっついているため、お互いの顔を見たことがなかった。

だからミラはお互いの似顔絵を描いてくれた。

ミラのおかげで市江は苺の、苺は市江の顔が知れて、とても感謝していた。


「ミラとずっと一緒にいたいぞ」


「ですです! これからも一緒です」


ある日そう言うと、ミラは笑って首を横に振った。


「アタシたちは外に出るべきよ」


ずっとここで見世物で生きていくなんて、最低だという。


「実は客の一人がアタシの絵を見てくれたらしくて。とっても褒めてくれたんだ」


この才能をここに閉じ込めておくにはもったいないから、近々ミラを出してくれるらしい。


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