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第73話 久遠の友よ-3


「イゼ! これを使え!」


アイが注射器を撃つ。イゼは頷くと、それを剣の腹で受け止めた。

刃に液体が注入されていき、真っ赤に染まった剣を地面に突き刺す。


赤いエネルギーが地面に注入されていくと、光悟が排出されるように飛び出してきた。

どうやら液状化している光悟の中にアイの魔法が溶け込み、妨害に成功したようだ。


光悟はせき込みながら吐血する。

さらに市江がハンマーで地面を叩き、冷気を光悟へ向かわせた。


「よくわかりませんが、水になれるなら凍らせてしまえばいいのです! ふふん!」


黒いスーツが霜で覆われる。

どうやら狙い通り液状化できなくなってしまったようだ。

光悟は仕方なく短刀を構えて、向かってくるイゼと切りあった。

武器が打ち付けあう音が響き、やがて光悟の短刀が弾かれて地面に落ちる。


「今度こそ首をもらうぞ!」


イゼが踏み込んだところで離れていた月神が急加速。

一瞬でイゼの右に来ると、彼女の体を蹴り飛ばした。

イゼは地面を転がるがその勢いですぐに立ち上がると、左手に持っていた剣を捨てて、右の剣を両手で掴んで天にかかげ上げた。


「集え粒子よ! 光の奔流ッ!」


煌めく粒子が剣に集い、激しく発光する。

光は空に向かって伸びていき、剣のリーチを上昇させていった。


「全力を込めて貴様らを両断する!」


イゼは鬼のような表情で、その巨大化した剣を躊躇なく振り下ろした。


「セイクリッドッッ! ディバイダー!!」


東京タワーほどの光の剣が迫ってくる。


「大技だな」


光悟は腕を伸ばして虹色のバリアを張った。

剣がそこにぶつかると凄まじい衝撃が光悟の腕に伝わり、すぐにバリアが粉々に砕けた。

四散する虹色の破片、光の剣はすぐに勢いを取り戻して光悟たちに迫ってくる。


「なにッ!?」


しかしイゼは激しい抵抗感を感じ、うろたえた。

無理もない。渾身の力で放った大技と同じサイズの刀身を月神が抜いたからだ。


「鳴神流、肆式・猿真似。いかなる攻撃であろうとも、猿神によって模写できる」


イゼは激しい焦燥に駆られた。

全ての力を込めた技でさえ悪党に奪われるというのか。

そんあことがあってはならない。

そう思った時、視界に泣きそうな妹の顔が蘇る。


(そうだ。ナナコのためにも私は――!)


轟音と共にナナコの姿が消えた。

イゼは地面に倒れていた。降り注ぐ粒子を見て、自分の剣が月神によって折られたのだと理解した。


「パーフェクト。おれの勝ちだ」


「それは、どうかな!」


アイが走って銃を連射する。

月神は飛んでくる注射器を体を僅かに反らすことで全て回避した。


しかしアイが笑った。

月神もその反応に気づいたのか、すぐに背後を見て理解した。

注射器は月神を狙ったのではなく、彼の後ろにいたイゼを狙ったのだ。


立ち上がったイゼは自分の体で全ての注射器を受け止めていた。

注射器はすぐに起動し、イゼの血を吸い上げてアイの腕輪へ供給させていく。

イゼが貧血で気絶したのを見て、月神は呆れたように笑った。


「無茶をする」


イゼの血液はアイの銃に纏わりつき、巨大なバズーカーに変わった。

砲口へ集中していく赤黒いエネルギー。

さらに市江と苺も腕をかざし、そこへ炎と氷のエネルギーも加わっていく。


「俺に任せろ」


光悟が前に出た。

腕を軽く振るとスーツの上にプリズマーが現れ、黄色いボタンを押して宝石を露出させる。


空から黄色い光が伸びてくる。

光の中からはライガーが飛び出してきた。

四足でしっかりと大地を踏みしめると、口の中に光を集中させていく。

さらに緑と藍色の光も出現し、今度はバトルモードとなったジャッキーとスパーダが現れ、ライガーの胴体横に掌を押し当てる。


『チャージ! スカイパワー!』


『チャージ! アクアパワー!』


『チャージ! グランドパワー!』


三体のジャスティボウたちが高らかに声を上げる。

はじめは黄色一色だったライガーの口の中の光に緑色が加わり、藍色が加わり、より強く輝いていく。

そこでアイがバズーカーを発射した。


「消え失せろ! ブラッディストライク!!」


熱波と冷気を纏った赤黒い弾丸が光悟たちを塵にしようと放たれた。

それを見て、光悟はライガーの尻尾を思いきり引っ張る。


「レインボーフルバースト」


淡々と口にした必殺技名。

ライガーから七色の光を纏う巨大な光弾が発射された。

それは赤黒い球体を一撃で粉砕すると、アイたちの目の前で爆発する。

少女たちの悲鳴が聞こえてきたが、光悟たちは表情を変えなかった。





「やっぱアイツらすげぇな……」


一方、少し離れたところで和久井たちが戦いを見ていた。


「ミモちゃん。私たち、ここにいてもいいのかな?」


「いいの、いいの。モア様。和久井とパピを守れるのはあたしらだけなんだから」


「だけど」


「いいの! いいーの! 大丈夫ダイジョーブ!」


ミモが強く釘を刺したのは不安だったからだ。モアの様子がなんだかおかしいように感じているのだ。


「ねえ、モア様。笑ってみて?」


「どうして?」


「いいから」


モアは笑った。そしてすぐに真顔になる。

今までずっと笑顔だっただけに、なんだか嫌な予感がする。

だからなるべく感情を揺さぶられそうな場所にいかないでほしかった。


「しかしこうも一方的に見えるのもそれはそれで複雑だぜ」


和久井が唸る。

作品が違うとはいえ、光悟とイゼたちの間にはかなり差があるように感じられた。

すると肩に乗っていたパピが舌打ちと共に猫パンチで和久井を攻撃する。


「いてぇな! 何すんだ!」


『アンタがカスみたいなこと言うからでしょ。当たり前じゃん、光悟があんなカス女どもに負けるわけないっての』


「言い方に気をつけろ! 一応、これ、オレの好きなアニメなんだからな!」


しかしまあ考えてみれば変身箇所は相変わらず右腕のみだが、オンユアサイドでは呼び出せなかったジャスティボウたちをフルパワーで扱えているところを見ると、前よりは確実にパワーアップしているようだ。


『特訓してたのよ。なんか、とってもたくさん。だって――』


光悟は今、腕を組んで遠くを、果てしない遠くを見ている。


「ティクスに敗北は許されない」


それだけが答えだった。それが全てだった。

同じような想いは、隣にいる月神とルナも抱いている。


「上々だね真並くん」


「マーベラスですわね光悟さん。私の出番がまったくなかったわ」


そこで三人は気配を感じて少しだけ顔を動かした。

サンダーバードを纏った魔法少女が、光悟やアイたちの間に着地する。


「来たか、舞……」


そこで光悟の言葉が止まった。月神とルナも固まった。

和久井は舞鶴のことが気になったので走った。光悟の隣にやってくると、理解した。


「なん、だよ、お前……、それ」


舞鶴がそこにいた。けれど何かが変だった。何かがおかしかった。

舞鶴は魔法少女になる時、理想の自分を作り上げていた。

黒髪になって眉も整えて、喋り方だっていつもみたいなどもってばかりではない。

自分の中にあるヒロイン像を作り上げて、それを投影していた。


でも今は違っていた。


なぜだかわからないが、舞鶴はいつも通りだった。

ボサボサでパサパサの茶色い髪。小学生から使ってる歪んだ眼鏡。

和久井のよく知ってる舞鶴だった。

でも違う点が一つ。



禿げていた。



前髪がなかった。

ところどころ髪がゴッソリ無くなっている。

でもそれに気づくのが遅れたのには、ちゃんと理由がある。


「あ……! あっ、あ!」


舞鶴は嬉しそうに光悟たちを見て、剣を構えた。

舞鶴は引きちぎった髪を集めてガムテープで頭に貼り付けていた。

そしてカモフラージュのためにテープを茶色のマジックペンで塗って誤魔化そうとしていた。


でもそんなのは無茶だ。

現にガムテープはいくつも剥がれかけており、荒れた頭皮をチラチラと覗かせる。

舞鶴にはウィッグを被るという発想がなかった。


存在を知らなかった。カツラなら知っている。

それは禿げたオッサンが被る、とても滑稽でダサいものだから、被らなかった。


堂々としていればいい。

かつて奈々実にそう言われた。

そういえば最近は多様性がどうのこうのとネットで論争が起こっている。

だからこれでいいのだ。


「し、し……ッ! しししし死んでぇ!」


舞鶴は嬉しそうに頬を赤らめて言った。

和久井は頭が痛くなった。

舞鶴がおかしいのは頭だけじゃない。顔も変だった。


和久井の言葉を借りるのであれば「ヤバすぎて草」である。

とにかく舞鶴の顔がヤバすぎなのだ。

どれくらいヤバすぎるのかというと"大草原"なくらいヤバイので、とにかくヤバイと思ってもらえばいい。


「よ、よぉ、舞鶴」


「ん」


「なに、しに、きたんだ?」


引きつった顔と、上ずった声で和久井は聞いた。


「なッ! 奈々実に会えるの! も、もう少しで! こ、こここ光悟! 殺せば! ふへっ! ひへへへはぁあぁぁ!」


「そうか。それより、えっと……、えーっと顔はどうしたんだ? いつもと雰囲気違うな?」


「け、化粧! お化粧してみました! ふ、ふへへ。奈々実に会えるから、ちょっと綺麗にしようかなって。へへ、えへへ……! ぐへっ!」


舞鶴は真っ白だった。

白い肌とかそういうレベルではなく、白塗りにしていた。


和久井は昔、バカな殿様が暴れ散らかすバラエティーでケラケラ笑っていたのを思い出した。

それくらい舞鶴は白かった。

首は白く塗ってないので、余計に顔だけ白いのが目立つ。


かとも思えば、顔の縁だけ黒く塗っている。

小顔に見せるためらしいが、もみあげから繋がる髭にしか見えなかった。


頬もおかしい。なぜか赤い円がある。

顔が白いから余計に真っ赤な点が頬にあるのが目立っている。

しかも左側は濡れてぐしゃぐしゃになっており、白と交じってる。


目も凄かった。

つけまつげや、アイラインだのアイシャドウだの左目に力を入れたのか、巨大に見える。

でも右目は失敗してしまったようで、それが原因で泣いたのか、もうぐちゃぐちゃだった。


口紅も同じだ。

ミスをして擦ったのか、白塗りとルージュが混じってハッキリ言うと顔全体が汚かった。



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