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第62話 愛ゆえに-4



「大丈夫か! 待ってろ!」


光悟はすぐに和久井へ治癒の光を当てて、傷を癒していく。

その隙に舞鶴はマンションから飛び立ち、空に消えていった。

追いかけることも考えたが和久井の治療を優先する。

プリズマーのボタンを押して、バトルモードに変形済みのライガーたちを召喚した。


「俺は光を当て続けるから、みんなは手術を頼む」


『了解です光悟様』


『よしきた! ワテらに任せとき!』


『やってやるざぁ!』


ジャスティボウの頭部にあるコンピューターには、世界各国のスーパードクターの技術が記録されている。

麻酔薬や輸血用の血液も体内に備えてあるのでさっそくオペが始まった。

麻酔は下半身の感覚を奪うが、意識までは奪わない。

和久井は真っ青になりながら、光悟に微笑みかける。


「ア、アイツ性格やばくね? 刀、引き抜きゃいいだけなのに、わざわざ下ろしやがった! おかげでガチでケツが真っ二つだぜ……!」


「和久井、どうして庇ったんだ。俺の防御力ならダメージはほとんどなかった!」


「どうして? どうしてって、お前、そりゃ……」


友達だから?

いや、違う。そんなカッコいい理由ではない。


また、光悟のものになるのかと思ったら腹が立っただけだ。


お前の番じゃない。

違うオレのものだ。オレの番なんだ。

和久井はそれを言おうとしてやめた。

いくら治癒の光を当てられて麻酔も使ってくれているとはいえ股間を裂かれた痛みは忘れちゃいない。


「あの、悪いんだけど、ちょっと聞いていいか? 鳥ロボくん」


『ワテはジャッキーいいます。なんでっか?』


「オレのちんこ、どうなってる?」


『……知らんほうがええこともありまっせ。なあ兄ちゃん』


『袋破けて、片玉落ちてるざぁ』


「ああ、くそ! あのゴミ女ァア!」


『スパーダ! アホたれ! 言わんでええねん! そんなこと!』


『ちんちんは言わんかったざ! でも玉のほうは、おとろしいことになっとるから言ったほうがええでの!』


「頼む治してくれ! まだ一回も使ってねぇんだ! 巨乳のコスプレイヤーと知り合った時に使う予定だったんだ! 本当なんだ!」


『和久井様! 喋らないでください傷に触ります! お前たちもやめないか!』


ギャーギャー言いつつやがて傷は完全に塞がった。

消滅するジャスティボウたち。

和久井は包帯でグルグル巻きの体をジッと見つめた。


「なんか変な巻き方だな」


「ニチアサ巻きというんだ。伝統の縛り方だ」


「これ股間カバーできてる?」


「………」


「ま、いっか。それより改めて考えてみたんだけど、やっぱアイツってクソ女じゃね? 普通あの流れで刺す? どんな脳みそしてんだよ。ヤバすぎだろ」


「大丈夫だ。俺も昔はパピに同じことをやられた」


「何が大丈夫なんだよ。ああ、クソ、そういえばお前もやばいヤツだったわ」


和久井は光悟に肩を貸してもらい、立ち上がる。


「舞鶴は悪か。だからどういう物差しなんだよ。正義って誰が決めるんだ」


なんだかまた凄くイライラしてきた。


「光悟、お前だって忘れたわけじゃないだろ。舞鶴が助けてくれたからテメェらはヴォイスに勝てたんだぞ!」


「ああ。だが、それと今は別だ。俺は彼女を止める」


「……お前じゃダメだ。お前じゃ早すぎる。あいつは不真面目でノロマだから、ゆっくりじゃないと治らない」


舞鶴の泣き顔を見た時、一つ思い出した。

腹を刺された時、二つ思い出した。

光悟が舞鶴に近づこうとした時、和久井は全てを思い出していた。





「やめてマックス! だめよ、わたしには秘密があるの」


「大丈夫だとも! 僕はキミを受け入れる。何も言わなくていい!」


「……ッ、本当に?」


「ああ。神に誓うさ」


そして、二人は抱き合い、愛し合う。

朝を迎えた。ジョディはマックスの腕の中で微笑む。


「マックス、わたし幸せだわ」


「僕もだよ。もしもキミが秘密を打ち明けたくなった時はいつでも聞くから」


「今、言ってもいい?」


「もちろん!」


「わたしね、エイズなの」


「………」


「………」


「「………」」


………。



☆陽「ワオ!」性★



テレレ! テレレ! テレレ! テレレ!


テレレーテッテテッテー(楽しい音楽)♪


「こんなこともあるよー! 人間だからーッ!」


陽キャっぽいおじさんがギターをかき鳴らしてる。

後ろには世界中の子供たちが笑っていた。

サムとよしおは美味しいチョコドーナツを分け合っている。お調子者のピーターは牛のお乳を直接飲み始めた。


「でも悲しまないで! みんながついてるじゃん!」


世界中の子供たちが手を取り笑い合う。

ありがとう世界平和。サンキュー、ラブアンドピース。

みんなそこにいるから! 悲しまないでよ!

よし決めた。みんなでタオル振り回そう!


「手を伸ばそーよ! 届くから!」


すると上空の飛行機から爆弾が降ってきて、みんなの前に落ちて爆発した。


「「「「あばーっっ!」」」」


爆風に巻き込まれて、子供たちの腕や足やらポーンと飛んだ。

陽キャギターかきならしおじさんも、皮膚が焼け弾けて、死んだ。


ただし長老だけは生き残っていた。これが年の功とやらなのだろうか?

長老は泣いて喜んだが、みんな死んでいるから独りぼっちだった。


転がっていたショットガンを口に突っ込んで引き金をひいた。

脳が飛び散り、長老は死んだ。

みんな死んだ。かわいそうだね!




END





そこで映画が終わった。


「クソ映画じゃん!」


和久井は一人なのに思わず叫んだ。

ちょっとコンビニまで出かけてくるわみたいなノリで死を選ぶ登場人物たち。気軽にライトなノリで通行人を殺す人々。

これは未来か、洗脳か。衝撃の問題作!


なんてキャッチコピーだったが、意味不明の一言につきる。

事実ネットの評価も散々だった。何を伝えたいのかわからない。

いろいろな人を揶揄している。ブラックユーモアを勘違いしている。

差別描写が多すぎて最後まで見ることができなかったなどなど。


まあ尤もだ。

クソ映画スレで名前が出ただけはある。

ネット配信サービスの中のひとつだったからよかったものの、金を出して見に行った際にコレをお出しされたら映画館で暴れていただろう。


「………」


さて、今までだったらここで終わっていた。

意味不明な映画は実はそれなりに数があり、これも実はそれほど尖ったアイデンティティがあるとは思えない。

もっとやばい映画はそれありにあると思ってる。


しかしそこで思う。

この作品はDVDも発売されていた筈だ。

そこにマリオンハートを与えて世界を本物にしたらどうなるんだろう?

そんなことを考える日が増えた。



次の日、神社。

正面右から、ルナ、パピ、光悟、和久井が並んでいた。

お賽銭を入れ終わったパピは学んだ通り、まずは二回礼を行う。


「ぱんぱんっ!」


「パピ、ぱんぱんは口に出さなくてもいいんだ。普通に手を叩けばいい」


「……はー? 知ってましたけどー? え? 冗談とか通じないつまらない人でしたっけー? うわ、キッツ。え? キッツ。あ、キッツ。こいつの隣にいるのキッツ」


「そ、そうか、悪かった。ユーモアのセンスがなくて……」


「キモキモキモキモーイ。あー、萎えるわぁ最低最悪ぅ」


そうして、みんな目を閉じる。


「光悟とずっと一緒にいられますように……!」


「………」


「ラブラブもいっぱいできますように……!」


「………」


「光悟がずっと元気でいられるよ――」


「あの……、パピ、お願いは声に出さなくてもいいんだぞ」


「くぅううぅぅぅぅぅううぅ! はやく言えッッ!!」


「パピ! いけないぞ! 神様の前で暴力を振るおうとするのは! これも知ってるかと思ったんだ!」


「ッッッ! ……ッッ! ~~~ッッッッ!!」


「ほら、ルナを見てみるんだ! 彼女のようにやればいい!」


確かにルナは目を閉じ、沈黙していた。していたが、何か聞こえてくる。


「……ジュルリッ! ジュルッ! ……ニチャァァ! ピチャ! チュルッ!」


「え? きも」


「チッ、失礼な。お兄様と光悟さんが舌を絡ませてほしいという願いのどこが――」


「ンなもん神に頼むな!!」


疲れる。和久井は特大のため息をついた。

時期的にもうすぐ初詣。予行練習がしたいというのでついてきてみればこれだ。

まあパピたちは異世界にいたわけだから、日本の文化に戸惑うのはわかるが、それにしても酷い。


その後、四人は近くの蕎麦屋に入った。

先ほどと同じ並びでカウンターに座ると、ルナは月見そばを音を立てずに食べ始める。

反対にパピは天ぷらそばをズゾゾゾゾゾゾと勢いよく啜っていた。


あれからパピとルナは、コーポ円森の402号室に引っ越してきた。

つまり光悟の部屋の隣である。


『ルナもバカよね、月神と一緒に住めばよかったのに』


などとパピがニヤニヤ嬉しそうに語っていたのは記憶に新しい。

一緒に暮らせるのが嬉しいのだろう。

とはいえルナはマリオンハートの研究で頻繁に月神のほうに行っているようで、ここ最近は家を開けることが多かったようだ。


月神といえばルナは現在、ルナ・ロウズではなく、『月神ルナ』と名乗っている。

戸籍の面でみると、月神の叔父一家の養子になったようだ。

つまり正確には月神の従妹ということになっているが、オンユアサイドでの関係通り義妹を名乗っているらしい。

その状態のほうが興奮するとかなんとか言っていた。


「歴史とかやる意味ある? アタシは未来しか見てないわけ。おっさん共のホトトギス談義なんざ好きにやらせとけばいいじゃん。ねえ、ルナ」


「英語のほうが苦痛だわ。この見た目で一切できないという事実が……」


愚痴を言っている二人を和久井はジッと見た。

やはりどう見ても、普通の人間にしか見えない。

だがその正体はホムンクルス、創生魔法で生み出された存在だ。


「和久井、いけないぞ」


「あ?」


「サラダのトマトを残してる」


「こんなウンコみたいなもん食えるかよ」


「和久井いけないぞ訂正しろ。生産者の方々が作ってくれた野菜だ。フンの味がするわけがない。そもそもウンコの味がする食材はない」


「これだから物を知らないヤツが困るぜ。ウンコから抽出したコーヒーがあってだな」


「だとしてもウンコの味はしないだろう」


「だったら悪魔の照明って知ってるか? ウンコの味がするものがこの世に存在するということを証明するということは――」


「そこ! 食事中になんてこと言うのよ! 死ね!」


「いけないぞパピ、死ぬなんて言葉を簡単に――」


「あああああああああああああああ」


パピは頭を掻きむしっていた。わかる。疲れる。


疲れる。


そう、このところ、精神が疲労している。

マリオンハートを知ってしまった後の生活は、やはりガラリと変わってしまった。

あまり気にしすぎるなとは月神にも光悟にも言われたことだ。

マリオンハートは物質の類ではなく、もはや概念だ。


関わりすぎると精神を病む。


事実、このところ和久井は少しおかしくなっていた。

壁にペタペタ貼っていたアニメのポスターを全て剥がして押し入れにしまったのは、どうにもキャラクターたちの視線が気になって落ち着かないからだ。

だってもしもハートが少しでも入っていたらどうなる?


先日、コーラを入れようと思ってグラスを取ったが手を滑らせて割ってしまった。

グラスは道具だ。でもマリオンハートが入っていたら生命だ。

割れたら、たぶん、死ぬ。

というかもしかしたら既にハートが入っていたかもしれない。


その可能性はある。

そしたら命を奪ったことになるのか?

それを伝えると、月神に鼻で笑われた。


「グラスはグラスだ。ハートが入っていたとしても無機物でしかない。近いものでいうと植物に近いかな」


グラスを割ったことは、植物を引っこ抜いたことに近い。


「ましてやキミ、虫を殺したことくらいあるだろ?」


それはそうだ。加えて、マリオンハートの根底は魂にある。

人間にもあるとされているが、それが可視化できないのに対して、マリオンハートは目に見える。

以前、ティクスや柴丸がバラバラにされた際、ハートが排出された光景を見た。

そして今、修復された柴丸にルナから抜いたハートの欠片を入れて増幅させているらしい。

もちろんそんなこと人間の魂では絶対にできない。


「つまり人間の魂とマリオンハートでは同じ魂とあれど、定義が違うんだ」


死の概念も同じだ。

人の死と道具が壊れるということを同一に考えないほうがいいと言われた。

それはなんとなく理解できる。事実マリオンハートもそういうものに憑依するよりは、宿る意味があるものを探して憑依するようだ。


「それにマリオンハートはどこにでもあるわけじゃない」


月神は言うが彼らだって全てを理解しているわけじゃないと常々口にしている。

だから和久井の部屋からは、いつの間にかポスターが消えた。


「……人形、か」


和久井は飾ってある舞鶴のフィギュアを見て、複雑な表情を浮かべた。

フィギュアはいくつかあるが、情熱はなかった。

せいぜい小遣いに余裕があればケースを買おうか検討していたくらいで状態にこだわりはなく、たまたま全部新品だっただけで値段の張るフィギュアであれば中古でもいいくらいだった。他人の精液がついてるかもしれないという最悪のリスクはあるけど、どうせ触れないし、近づかない。


写真は買ったばかりの時に撮るくらいで、あとは眺めるでもなくなんとなく飾っていた。

でも今は違う。ケースに入れないのは閉じ込めるのが可哀想だからだ。

掃除も頻繁にするしパンツは絶対に覗かない。

それはやはりあの戦いで舞鶴が動いて喋っているのを見てしまったからだろう。


複雑だった。

もうマリオンハートはないのだから動くことはないのにどうしても期待してしまう。

でも、だからといって動かれたら動かれたで困る。


今まで舞鶴のフィギュアの前で、とても口にはできないような最悪の姿を晒してきた。

あんなものを好きな人の前でやっていたかと思うと、それだけで死にたくなってくる。

だから舞鶴が動いてもらっては困るのだ。


「………」


その日、和久井は押し入れを掃除していた。

マリオンハートを知ってからどうにも物が捨てられなくなっていたのだが、このままでは生きていくのに疲労して仕方ないから踏ん切りをつけるためだった。

いるもの。いらないもの。二つの袋を用意して物をポンポン入れていく。


(ん? なんだこれ?)


奥から何かが出てきた。カセットテープだ。

書いてある字を見て察する。どうやら和久井の父親がCDから曲を入れて編集したらしい。

内容はどれもこれも和久井の母が好きなアーティストの曲だった。

ははあ、そういうことか。和久井はテープを、いらないものの袋に放り投げる。


(お気に入りの曲で好感度稼ぎか? 浅い考えだ。だっせぇ男だぜ)


昔はそれが普通だったのだろう。似たような話をバラエティーで聞いたことがある。

さすがに当時の感性にケチをつけるほど野暮な男ではない。

今はもうCDプレイヤーも持ってないし、純粋に要らないだろうから捨てたのだ。

それより理解できないのは、あの口うるさいババアのどこに惹かれたか?

まったくおぞましい話である。


「………」


和久井はなんだか、とても、とても、複雑だった。

舞鶴が好きだ。メロメロだ。



でも、愛してない。



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