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第60話 愛ゆえに-2



「ということなんだけど、どうだい? 真並くん」


月神に言われて、光悟はメガネを整える。


「ミモやモアをトワイライトカイザーで調べたが、肉体の構造が人間と変わらない」


骨格。臓器。構造が人間と同じだった。

それをどう捉えるかは、まだ結論付けることができない。

何かしらの細工がしてあるのか、あるいは本物に近づいているのか。


「和久井くんが何も覚えていなかったように、彼女たちも同じだろう」


ティクスや柴丸、シャルトもそうだが、マリオンハートが入ったものはそれを自覚している。

ティクスのような存在の場合は、光悟の家にやってきたぬいぐるみとしての記憶と、放送されていたヒーローだった自分の記憶も持ち合わせているわけだし。


「だけどミモたちにはそれがない。虚構の世界を真実だと思い込んで生活していた」


「月神」


光悟に睨まれて月神は肩を竦めた。たしかにミモの前でする話じゃない。

だがしかし、ゆっくりともしていられない。

考えてみれば前回の件にてルナやヴァジル、ロリエはゲームにハートが入ったことで生まれたようなものだ。


「しかし今回は、わざわざ魔法少女のフィギュアを用意して、映像記録媒体にもハートを入れて仮想世界を用意しているなんて、明らかに変だ。これは以前のようにたまたまハートが入ったのではなく、狙ってやってるね」


加えてマリオンハートが入る道具の中で最も厄介なのが、やはり『世界』を明確に具現するDVDやゲームソフトだ。


「本物になった時点で、おれたちの世界に浸食してくる。フィギュアにハートを入れたのもこの点がポイントだろう」


肉体をはじめから用意するということは、本物になった後スムーズに地球で能力を使うことができる。


「向こうの狙いを阻止するためにも、一刻も早く全てを終わらせなければならない。ってね」


「とにかく動こう。和久井、俺たちが来るまでにお前はなにをやってたんだ?」


「………」


「和久井?」


「なんにも、してねぇ」


「どういうことだ?」


「ぼーっとしてた。酒飲んでぼーっとして。オナニーしてた。あと、たくさん人を殺した、くらいだ」


「「フール」」


「わかってる! わーってるよ! あああ! クソクソクソッ!」


月神とルナの冷めた瞳は死にたくなるほどの威力だ。

とはいえ事実なのだから仕方ない。何も生み出せなかった。何も紡げなかった。

和久井は死にたくなったが、今までの自分を全て説明する。


「物語だったとしたらクソすぎて打ち切りどころのレベルじゃない。作った人間が死刑になるくらいだ。何一つ面白くない。そればかりか、ただただ不快なだけで――」


「だったら次は刻めばいい」


光悟に肩を掴まれた。


「お前の物語だ。行くぞ、和久井」


「お、おい! 行くってどこへ……」


光悟に手を引かれ、和久井はうろたえた。

しかし、あれだ。今になって振り返ってみたら、光悟のヤツはそれなりにかっこいいことをしていたと思う。

するとなんだか腹が立ってきた。和久井はグッと歯を食いしばると、行先もわからないのに光悟よりも前に出た。


「お前にできたならオレにもできる。昔からゲームはオレのほうが上手かった……!」


光悟はほんの少しだけ唇を釣り上げた。





男の子と女の子がブランコに乗っていた。

二人は幼稚園の頃から一緒の幼馴染だ。家も隣同士で、いつも一緒に遊んでいた。

だけど今日は二人のテンションが低い。


小学校に入ってからというもの、二人一緒にいるとからかわれる回数が増えてきた。

お似合いだとか、結婚式には呼んでくれとか、みんなの前で言われるものだから恥ずかしくてたまらない。

ましてや女の子の名前は宇佐木、男の子の名前が亀山だから『ウサギとカメ』だなんて言われてる。


「きょうはとくにひどかったね。せきがえでむりやりとなりにされて……」


「ごめんねカメちゃん。わたしがウサギなんてみょうじだから」


「ううんっ、きにしないでウサちゃん。ぼくすきだよ、ウサギとカメってよばれるの」


「ほんとう?」


「うん。それに――」


しょんぼりする宇佐木ちゃんは見たくないから、亀山くんは勇気を出した。


「いつか、そうなりたいって、おもってるよ。ぼく」


「ッ! わたしも! えへへ!」


まだ恋のイロハも理解していない二人ではあるが、恥ずかしそうに微笑んでいた。


「これからもそばにいてくれる?」


「うん。やくそくだよっ!」


三年後の夏休みも、二人は約束を守っていた。

夏祭りに来ていた二人は手をつないで花火を見た。来年も二人で見ようと約束した。


中学生になっても二人は一緒にいた。


やっぱり周りからは、からかわれたが、それで二人が離れることはなかった。

亀山がラブレターをもらったと聞いたら、宇佐木は不安で泣いてしまった。

宇佐木のことをかわいいと言っている男がいると、亀山はムッとした。


二人はいつも一緒にいた。

でも、やっぱり、そういうものは、永くは続かない。

亀山の両親が離婚することになり、亀山は母親の実家があるところに引っ越さなければならなくなってしまった。


最後の夏祭り、二人は花火の下でキスをした。

手紙を書く。長い休みがあったら会いに来る。そう約束して二人は離れ離れになった。


その後、高校生になった亀山に事件が起きた。腸を患ってしまったのだ。

直接命に係わるものではないが、急にトイレに行きたくなって、ある時出かけた先で漏らしてしまった。

当時の高校生という多感な時期においては、それはすごくショックなことだった。


そんな状態で宇佐木に会いたくないと思ってしまった。軽蔑されると思った。

こんなクソ漏らし野郎なんかよりも、もっと相応しい人とお祭りに行けばいいと思った。


だから亀山は宇佐木に手紙を書かなかった。会いにいかなかった。



それから十年が経って亀山は一人の女性と結婚した。

レイコという女性だった。

仕事の同僚で、飲みの帰りになりゆきでセックスしたら、子供ができたので結婚した。


授かり婚というらしい。

亀山はレイコが嫌いではなかったので問題はなかった。

子供が少し大きくなった時、亀山は父が死んだと知らされた。


もう随分と会ってなかったし、それなりに酷い人だったが、それでもせめて通夜には行こうと思った。

一人で行った。そこで宇佐木と再会した。

本来ならば、なつかしいと一言二言かわして終わらせるべきだったのに、亀山が彼女を食事に誘ったのは面影が昔のままだったからだ。


会いたかった。

宇佐木は嬉しそうに笑ったが、すぐに悲しそうに泣いた。

亀山が結婚をしたことを知ったからだ。

宇佐木は亀山をずっと待っていた。約束を信じていたのだ。


「ひいちゃうよね……」


落ち着いた後、宇佐木は笑った。

当たり前である。子供の時の約束など、約束ではないようなものだ。

ましてや一度も会いに来なかった時点で、なぜ察することができないのだろうか。


「そんなことない!」


けれども亀山は叫んでいた。激しい感情があった。自分の愚かさを悔やんだ。

なんていじらしい。亀山は一秒でも早く宇佐木の涙を止めたかった。


だからホテルで彼女を強く抱きしめた。

与えられなかったぶんの愛を倍にして与えたいと思った。

二人は一晩中愛し合った。宇佐木は処女だった。


お互いに後悔は欠片もなかった。

だからゴムもしなかった。それは無粋であると。


「子供、できたら一緒に育てよう」


亀山は宇佐木と共に生きていくつもりだった。ずっと宇佐木を愛していたからだ。


「夏までには終わらせる。話し合いが無理なら、家を出てまで一緒にいる」


「……うん」


「家族三人で夏祭りに行こう」


「うん。待ってるね」


「クズ野郎でごめんね」


「そんな貴方を好きになったんだから」


二人はキスをした。妻と娘を切ろうと、亀山は己に誓った。


「やっと、キミに追いついた」


「ウサギとカメ? なつかしいね」


まあ亀山というのは父の名字だったから、離婚した時に変わったのだけど。

今の名字は安平だった。宇佐木は安平になるのが楽しみだとわらった。



これは、ただの不倫だ。



ただどうやら神は裏切られた安平の妻、レイコを見捨てなかった。

彼女も後日、運命の悪戯で別れることになったバンドマンの男と再会して肌を重ねることになる。

そしてその彼のために夫と娘を切る覚悟を固めたのだ。

こう書くとそれぞれ酷い人間と思われるかもしれないが、話は簡単である。



モラルや罪悪感など。



真の愛には勝てない。



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