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第58話 意地-4



「ジャッキー、様子は?」


光悟はイゼを見ず、時計を見た。


『そっちにもう向かわせてます! 月神はんのところにも到着してる頃でっせ!』


「了解。ちょうど見えた」


ツバメ型のロボットが飛んでくる。

目から光線が出て光悟に当たると、その姿が消えた。


『でまっせー!』


遠く離れたジャッキーから卵が排出される。

バリアで作られた殻が割れて、光悟が姿を見せた。


『よっしゃ! もういっちょでまっせーっ!』


ポン! と音がして卵が出てきた。

それが割れると、柴丸が姿を見せる。


『光悟殿!』


柴丸が刀に変わって光悟の手に収まると、姿が変わった。

和柄のケープマント、右手に刀、左手に西洋剣、強化形態アブソリュートムーン。


そこへジャッキーが飛来する。

光悟の背中にピッタリとくっつき、精神をリンクさせることで、光悟が思うとおりにジャッキーを動かせるようになった。

光悟は翼を広げ、爆弾をつけられた人たちのもとへ飛んでいく。


「正義流・二式! ビリーフオブライト!」


光悟は躊躇なく爆弾を切っていく。

強引に取り外そうとすれば爆発する仕組みだったが、正義の刃は爆弾を蒸発させるように消滅させて無力化していく。

さらに剣と刀を振った際に発生する光が被害者の傷を一瞬で癒して後遺症が残らないようにしてみせる。


「あ、ありがとう……!」


わけがわからないことばかり。しかし、わかったこともあるのだろう。

被害者の一人がそう口にした。この言葉を光悟に向けて放つのが正解だと思ったのだ。光悟は何かを返そうとしたが、頭を下げるだけだった。


被害者たちを安全な場所に着陸させるように羽のパーツに指示を送ると、自身は月神たちのところへ戻ってくる。

そこでジャッキーを切り離して着地。勢いあまってしばらく地面を滑っていたが、グッと踏みとどまる。


一方でジャッキーはそのまま空中飛行を継続。

すぐ近くにある展望台にやってくるとバトルモードに変形しながら着地した。

既に他の二体も到着している。三体のロボットは肩を並べ、ゆっくりと歩行した。



中央にいたライガーは、両腕を胸の前で交差させ、右腕が前になるようにX状にクロスさせる。

さらに一度腕を腰に戻して、また胸のほうに上げて今度は左腕が前にくるようにクロスを作って、また腰のほうへ引いて右腕が前になるようにクロスを作り、一連の動きを繰り返しながら歩く。



右にいたジャッキーは、掌が前を向くように肘を曲げたまま両手を広げ、そのまま握りこぶしを作って、右拳が空に向いていたら左拳が地面を向くように曲げ、一歩踏み出せば左拳が空を向いて、右拳が地面を向くように歩いた。



左にいたスパーダは電車ごっこみたいに両肘を曲げて指をまっすぐに伸ばし、歩くごとに肩ごと腕を縦に回すようにして歩いた。



一歩一歩前に進むたびに、いちいちへんてこなアクションを入れる。

無駄な動作のようにも思えるが、『当時の人間』にとっては必要なことだと思った。


ロボットということを子供たちに印象付けるために?

あるいは、その少し間抜けな動作で怖がる子供たちがいなくなるようにだ。

そう、彼らこそ、極光戦士ティクスを支えるサポートロボット。


『『『ジャスティボウ!!』』』


ジャッキーは両腕を右斜め上に伸ばし、スパーダは両腕を左斜め上に伸ばし、そしてライガーは両手を斜め左右に伸ばして決めポーズをとった。

ライガーの肩へ、光悟から分離したティクスが着地する。

すぐに地面に降り立つとティクスたちはフィーネの街を見下ろした。


『煙が出ている。ジャッキーは消火活動を! スパーダは川から敵がいないかを捜索! ライガーは人命救助に向かってくれ!』


『よっしゃ! ワテに任せときやーッ!』


『わかったでの。えれぇ人たち、おらんといいやがの!』


『了解ですマスター。我らがいる限り一人の犠牲も出すことはないと約束しましょう!』


三体のロボは変形してビーストモードになると、それぞれの役割を果たすべく離れていった。



「ライガー、ジャッキー、スパーダ、三体を纏めてなんと呼ぶかを決める際、じゃんけんで勝ったものが名付けようということになったんだが、それに勝ったのがスパーダだったんだ。彼はジャスティスとレインボウから文字を取り、ジャスティボウと命名したんだ。ちなみにスパーダのスーツアクターである佐野菱さんは実際に視界が悪くて重いスパーダの体で海に入るシーンがあるんだが、昔、プールで溺れてしまったのが原因で水がトラウマだったんだ。現場ではアクターを交代する話も出てたんだけど、なんと彼は見ている子供たちに勇気を与えたいとのことで、撮影の続行を申し出たらしい。まあとはいえ撮影した後でスパーダの中の人がどうとか表に出すのはやめてくれって佐野さんは笑いながら言ったそうだが。つまるところ彼はもしかしたらその理由を自分を勇気づける理由にしたのかもしれないな。ははは、おちゃめでありながらも勇敢な人だ。そうだろ月神、ルナ」


「エクセレント」「マーベラス」


「ふっ、そうだろうそうだろう」


満足そうな光悟だが、隣にいた月神もルナもずっと一点を見つめていただけで欠片も聞いていなかった。

それなりに一緒に過ごしてきたため、光悟が早口になった際の情報は耳に入れる必要がないと学習済みなのだ。

光悟も光悟で話し終わったとたん、嘘のように冷めた表情に戻る。

そして車の後ろに隠れていた和久井の前に立った。


「………」


何を喋ればいいのか、和久井にはサッパリわからなかった。

わからなすぎて、手が差し伸べられても、取る方法がわからない。


でも光悟にはそれがわかっていたらしい。

有無を言わさず和久井の肩を掴んで強引に引き上げた。


棒立ちの和久井はしばらくポカンとしていたが、そこまで頭の悪い男でもない。

光悟の腕が極光戦士の腕だったから、片手で持ち上げられたんだ。


どうにも乾いた笑いがこみあげてきて光悟のことを殴りそうになった。

しかし惨めすぎて自殺したくなるから、拳はそこにあった車にぶつけておいた。


「いけないぞ和久井。人のものを殴るな。というか物に当たっちゃダメだ」


「……いや、いやいやいや」


「?」


混乱。一瞬だけ真実が見えて、また見えなくなって、見えていたのは覚えていて。


「ずるいだろ」


「………」


「ずりぃだろ……、いやずるいって。ッッずりぃんだよお前はッッ!!」


和久井はサイドミラーを掴んで引っこ抜いてやろうと思ったが、無理な話だった。

でも光悟ならできるんだ。月神ならできるんだ。ルナならできるんだ。


「お前らだって! ぬいぐるみの力がなかったらオレと同じなんだ! オレとッッ!」


和久井は痛みを感じた。それはそれは酷い激痛だった。

だがこの痛みが体のどこから出ているのかがわからない。わかりたくもない。


「だから俺にはティクスになる義務がある」


力がないから『できなかった』人が、たくさんいるんだろう。

力が足りなかったから『諦めた』人が、たくさんいるんだろう。


「俺は、その人たちの代わりに正義を示すんだ」


和久井は腰が抜けたようにへたり込んだ。

思い出した光景がある。あれは、みんなでいた時の、そう、テレビだ。

つけっぱなしで話したり、ボードゲームしてたから、誰も画面を見ていなかった。


ドキュメンタリー。

内容はなんだったっけ? いじめられた子たちが集まって作ったスポーツクラブ? いや、それは来週だ。

たしか病気でもうすぐ死んでしまう子供の密着?


ああ、それは別の番組だったかな?

生まれた時に体の一部がなかった子供の話だったか?


まあ、なんでもいい。とにかくそういう感じの番組だった。

和久井はそれを低俗な番組だと鼻で嗤った。

悲しげだったり、感動的な音楽で盛り上げて涙を誘う感動ポルノだの偽善番組だのこき下ろしてやった。

斜に構えているつもりはなく、事実ネットには和久井と同じ意見の人間がたくさんいたし、それを見てきたから間違っているとは思ってなかった。


月神やルナだって興味がないと言っていた。

こういう境遇の人間は腐るほどいるからと、冷めた様子だった。


でも光悟のヤツはというと、泣いていやがった。

愚直に、馬鹿みたいに、まんまと策略にハマって、浅い男だと笑ってやった。キショイい男だ。


そうだ。気色悪い。

泣かせに来てる番組で泣くなと。

本当に浅いんだよと呆れてくる。


でも今にして考えてみれば、彼らには何か一本、筋の通ったものがあるようだった。

月神やルナは腐るほどいるからこそ、それが減るようなシステムやアイテムを作ろうという先のビジョンがあって、光悟だってバグみたいな『善意』は貴重なものだ。

だから光悟にはティクスをがいて、月神には柴丸がいて、ルナにはシャルトがいる。


「光悟っ、オレっ、殺しちまったんだ。たくさんの人を――ッ! だから無理だよぉ」


また、しりもちをつきそうになる。けれども、それよりも早く言葉が届いた。


「お前は誰も殺してない」


「え……?」


「彼らにはマリオンハートが入っていない。生きているように見えても、それは幻だ」


和久井は頭を押さえた。それは、たしか――


「あ、あれ? あれ? え? オレ……、えッ?」


「落ち着け。お前は記憶を失っているんだ」


光悟は辺りを見回す。


「ここは地球じゃない。あの時と同じ、何者かによって作られた孵化する前の世界だ」


ジワリ、ジワリと、思い出す言葉。

マリオンハート。それは道具に魂を与える物質。

ゲームに入った時は光悟がゲームの中に入って。それは現実と同じ感覚で。でも現実じゃないくて。


「――……オレが、入ってたのか?」


その時、和久井は母の顔を思い出した。あんな顔ではなかった。

そうだ。この島にいる母は、母ではなかった。それは父も同じだ。


「和久井、この世界はどうやら舞鶴が深く関わっているらしい。だから持ち主であるお前の協力が必要なんだ」


和久井は頭を押さえる。

ダメだ。思い出せない。なんでここに来たのか。なんで舞鶴がいたのか。

そこで和久井は肩を掴まれた。ヒーローの腕でガッシリと。


「もう一度言う。お前は、誰も殺してない」


「で、でも……! そうだったとしても――ッ!」


「殺意を抱いたことは絶対に恥じるべきだ。でもお前は運がよかった。お前が傷つけたものにマリオンハートは入ってない。この世界を構成したものが用意した人形を壊しただけだ。俺はかつて過ちを繰り返さないために何度もやりなおした。だからお前も、やり直せばいい」


光悟はまっすぐな瞳で和久井を見た。


「俺は、未来のお前に期待する!」


「光悟……!」


和久井はたまらず一度、光悟から目を逸らした。

しばらくはそうしていたが、やがて目つきが変わった。

ギラリと光悟を睨み、心臓部分を軽く小突いた。


「おせぇよ、カス野郎。もっと早く助けに来いバカタレが」


「いけないぞ和久井。人に向かってカスとかバカタレなんて言っちゃいけない」


二人、ニヤリと笑った。

和久井はフラつく足取りでミモのところを目指す。

光悟もついていこうとすると、月神が隣にやってきた。


「意外だったね。キミが彼を許すとは」


「和久井の話を信じるなら、もちろん殺人という行為は許されるものではない。ただハートがないものを傷つけたとしても、それは夢で人を殺したのと同じだ」


「だが真並くんはそれでもヴァジルたちは生きていると、おれに言った」


「魂は宿るものだ。たとえマリオンハートを持っていなくとも。それが生きていないことの証明にはならない。逆に魂があっても死にながら生きてるものだっているだろ? 俺はそう思った。だがそれは所詮、思っただけだ。俺の願いでしかない」


「………」


「俺はそれを現実にした」


光悟はルナを見た。申し訳なさそうに肩を竦めている。光悟がいなければルナはここに立っていなかっただろう。


「だが――、和久井は違う」


「なるほど。意外とクレバーでシニカルな考え方だったわけだ」


「エゴさ。いずれにせよ、和久井には和久井の考えがある。それは尊重したいが、だからといって俺が従うとは限らない」


光悟は自分の考えを尊重する。

だからこそプリズマーの黄色のボタンを押してライガーを呼び、藍色のボタンを押してジャッキーを呼び、緑のボタンを押してスパーダを呼んだ。

ジャスティボウは人を救うために呼ぶものだ。


「俺はもうここにいる。もしもここから先、和久井が悪意をもって誰かを傷つけようとするなら、俺はそれを止める。戦ってでもな」


光悟は表情を変えない。


「まあでも、そもそも和久井は誰かを傷つけようとしてココに来たんじゃない」


「それがわかるって?」


「ああ。幼馴染だからな」


光悟はそう言って和久井の後をついていく。


「へぇ、少し妬けるね」


「……え? いや、ちょ、今のどういう意味か詳しく聞いてもいいですか?」


月神と、涎を垂らしたルナも続いていった。


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