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第57話 意地-3


場面はライガーに戻る。

瓦礫の中にいる人たちを虹のベールで保護すると、前輪と後輪が収納されて、両手両足が地面についた。


力を込め、吠える。

轟音と共に発生する衝撃波が、なんと瓦礫を全て粉に変えてみせた。

まだ終わらない。獣の雄たけびは続く。粉さえも消し飛び、炎もまた消し飛んだ。


こうしてショッピングモールという存在が消え去った。

むろん、下敷きになっていた人たちは保護されているので怪我一つない。


『ミッション完了!』


しかし、すぐに左を見た。

この事態を引き起こしたパラノイア、集合恐怖症のポルックスが走ってくる。


『敵勢力を発見! ビーストモードからバトルモードに移行します!』


変形(トランスフォーム)は一瞬で完了する。

ライオンが立ち上がったかと思うと、頭部から別の頭が伸びてきて、ライオンの顔だったものは胸の装甲に変わる。

さらに肉球部分から五本指の手が伸びてきた。

こうして四足歩行から二足歩行のライガーバトルモードへ移行が完了する。


メタ的なことをいえば、スーツアクターが入るための形態である。

ポルックスは全身の目を光らせながら走り、両手を突き出してきた。

掌にも目があり、すべての眼球からレーザーが発射される。


無差別射撃。

しかしライガーの胸装甲が吠えると、衝撃波でレーザーが粒子となって消し飛び、ポルックスも衝撃で倒れた。

すぐに立ち上がったが、駆け付けたライガーのパンチを胸に受けると手足をバタつかせながら放物線を描いて飛んでいく。


『エネルギーチャージ!』


ライガーが両手両足を開くと、胸部にあるライオンの顔へ光が集中していく。


『レオ・バスター!』


胸部の獅子が吠えると、エネルギーでできた巨大なライオンの顔が発射されて立ち上がったポルックスに直撃した。

悲鳴と共に爆発が巻き起こり、ポルックスは粉々になって消滅する。



一方、海中にいたスパーダから無数のコバンザメ型マシーンが射出される。

それらは子供たちの脚にくっつくと麻酔と輸血の役割を果たす。

現在、子供たちの足首にはフックが突き刺さっており、そこから伸びる鎖に錘がつけられているため沈んでいるのだ。


『ひって酷いことするもんやの! 許せんわ!』


スパーダの鼻からチェーンソーが伸びてきて、シルエットがノコギリザメに変わる。


『ほこでちょっと待っとっけの。今助けるざぁ!』


チュイーンと音がしてチェーンソーが回転。

子供たちの脚についた鎖を次々に切り取っていく。

コバンザメロボは小さいがパワーはあるので、子供たちを引き上げて、浮上していった。


そこでチェーンソーがしまわれ、次は目が左右に伸びてハンマーヘッドシャークのような形状に変わる。

目から強力なライトを起動すると、真下にいる海洋恐怖症のプロキオンを捉えた。


敵は背中の触手を伸ばしてくるが、スパーダは開いた目と目の間から魚雷を連射して粉砕していく。

さらに魚雷は発射されていき、プロキオンの全身に着弾していった。


『ハイドロアロー!』


スパーダの口からカジキ型のエネルギーが発射されると、一瞬でプロキオンを貫いて爆発させた。




『トルネードクラッシャー!』


上空。

体を高速回転させながらの突進攻撃。ジャッキーの嘴が、カペラを貫いた。

爆炎から飛び出したジャッキーは一か所に集中させていた被害者のもとまで飛行するが、そこで重大な問題に気づいた。


『こ、こらアカン! なんちゅうエグい構造しとるんや!』


被害者の背中にある爆弾は、体内に突き刺すことで固定してある。

調べてみると、ありとあらゆるパターンを試してみても、爆弾を取り除こうとすれば脊髄が損傷してしまう。


陸地に被害者を連れていければジャッキー一人でも損傷させないような摘出手術ができるが、それまでに爆弾は爆発してしまう。

いくらレインボーベールを纏わせているからといって、近距離で爆発が起きれば、衝撃から肉体を守り切ることはできないだろう。


『気に入らへんッ! 光悟はん、マスター! 聞こえてまっか?』


マスターとはティクスのことだ。了解と、光悟たちは口にする。


「悪いが戦いはここまでだ。俺は人命救助に向かう」


「人殺しを助けたくせに! 都合のいいことを!」


イゼは剣を向けてくるが、光悟は首を横に振った。


「月神! ルナ!」


この二人にもジャッキーの声は届いている。光悟の言いたいことは理解できていた。


「やれやれ、もう少しイージーゲームを楽しみたかったが」


「素晴らしい! フフフ……! 私の輝かしいデビューをお兄様に見ていただくにはいいタイミングだわ!」


ルナは持っていたケースを地面に落とし、つま先で軽く小突くとロックが外れた。

そこでスーツの下襟を掴む。月神も肩の部分を、光悟は裾をグッと片手で掴むと――

一気に引き剥がすように手を払った!


「フルオープンだ!」


光悟が叫ぶと、マントを脱ぎ棄てるようにして黒い布が体から剥がれて消えていく。

ルナはワンピース姿に。

月神は犬耳と犬の尻尾を生やした和服姿に。

光悟は右腕だけが特撮ヒーロー・極光戦士ティクスの変身する紫の姿、ライトニングロードと同じになっていた。


「なんだ、その腕は……!」


「デザイナー曰く、騎士をモチーフにしているそうだ」


変わっていたのは腕だけではない。瞳の色と、髪の色が紫色に染まっている

背中には大きなマントがあって、風に靡いていた。


月神とルナにもいえることだが、スーツを着ていた時のシルエットと合っていない。か

といって高速で着替えたというわけでもない。


ルナは緑色の髪をかきあげて風に靡かせた。

傍には開いたケースがある。頑丈なそれが守っていたのは、今、彼女の前に立っているネコのぬいぐるみだ。


『どうぞお見知りおきを。私はフランソワ・シャルト・リューブリアン。気軽にシャルトと呼んでくれたまえ』


灰色の体に、黄色の瞳。美しいオス猫だった。

漫画、『月牙の刃』に登場する洋風の剣士。羽飾りがついた、つばの広いノーブルハットから耳を出している。


『詩人チルチュールは言った。幻を愛するくらいならば、嘘を愛せと。お集まりいただいたお嬢さんたちには、それが理解できるかな?』


シャルトは、イマジンツールを発動する。

道具に与えられた能力を、持ち主となる人間に与えるシステムだ。

シャルトの体が一本のレイピア・『ルドルフベルタ』へと変わると、ルナはそれを掴み取り、鞘から刃を引き抜いた。


ルナの姿が変わる。

モチーフはシャルトと同じく三銃士を思わせる剣士。

全体的に赤を基調とした姿で、腰まであるケープマントにはシャルトの家紋と、オオミズアオという蛾をモチーフにしたロウズ家の家紋が記されていた。


右脚は無地、左脚は赤と緑の縞模様のニーソックス。

羽飾りと薔薇がついたノーブルハットから見える猫耳と、スカートに空いた穴から覗かせる猫の尻尾。


「体を流れるこの圧倒的なエネルギー! 目に焼き付けなさい! この月神ルナの美しさを!!」


そこでアイはハッとして、直後ムッと表情に変わる。


「ウゼェ。ウゼェな! いきなり現れてメチャクチャしてくれやがって!」


アイが走りだそうとした時、ルナが腕を払いマントを靡かせた。

風が吹く。魂が溶けてしまいそうなほど甘い匂いがしたと思ったら、コンクリートの駐車場に次々と花が咲き始めた。

黄色、紫、赤、ピンク、白。あっという間にアイは花畑の中だ。


「だからなんだ! 花なんて踏みつぶして蹴散らしてやるよ!)


足を上げようとして、気づいた。花が、蔓が、足に絡みついてくる。


「またかよクソッ!」


力を込めると引きちぎれたが、どうせどこに足を出しても花を踏むことになるので、またすぐに絡みついてくる。

数歩、歩いたところで息が切れてきた。


一方でルナには絡みついてこないので、花を蹴散らしながら走っていく。

注射器が飛んでくるが、当然のように剣で弾いて加速していく。


「フランソワ流・二式!」


踏み込んだ時、花びらが舞い、ルナの姿が消えた。

次の瞬間、アイの目の前にルナが迫っていた。


「ハムレット!」


「うぐぁあ!」


渾身の突きがアイのみぞおちに入る。

衝撃で足に纏わりついていた蔦がちぎれ、アイは後方に吹き飛んだ。

しかし花がクッションになって墜落時の衝撃はそれほどない。アイは胸を押さえながらもすぐに立ち上がった。


「ぐっ! ゲホッ! やってくれる……ッ!」


そこで気づく。ルナは剣を鞘に収めて、腕を組んでいた。


「ッ? なんだ? ナメてんのかテメェ!」


「ホホホ!」


「あァ!?」


「貴女、もう終わっていてよ」


アイは思い出した。銃弾が種で、撃ち込まれたら――


「ガアァアァ!」


みぞおちから薔薇が姿を見せ、一秒ほどで巨大化して爆発した。

衝撃と薔薇の強い香りに目が眩む。膝をつき、たまらず両手をついた。

そこに蔦が絡みつき、完全に動きが封じられる。

ダメだ、負けた。そう思った時、ルナの声が耳を貫いた。


「勢いよく吹き飛んだり転がったりしても帽子が脱げないのね」


アイは目を見開いた。大きな感情が彼女の意識を覚醒させる。


「ウゼェよ!」


吠えると、チュパカブラが分離して赤い霧を噴射する。

ルナがマントを靡かせると風が起こって霧は晴れたが、そこにアイの姿はなかった。

まあいい。どうでもいい。そんなことよりルナはキラキラした目で月神を見た。


「わぎゃッ! 危ないっですってコレッッ!」


市江と苺は回転しながら飛んでくる刀をかわすために走り回っている。

そもそもなぜ刀が飛び回るのか。それは月神のホルダーにセットされている二本目の刀が原因だった。

妖刀、『沢渡(さわたり)三条(さんじょう)』の鍔には、猿神・『すが洩雁木』が封印されている。


「鳴神流、壱式・猿回しによって、おれの思い通りに刀が動く」


しかし、ある程度慣れてきたのか、市江が刀の軌道を予測してハンマーで弾き飛ばした。

衝撃を受ければ刀はしばらく行動不能になるようで、その隙に姉妹は氷柱と炎弾を飛ばす。

月神は避けない。どこからともなく甲冑の肩についている大袖(おおそで)が飛んでくると、それが盾となって桃山姉妹の飛び道具を受け止めた。


「またです! それはなんなんです!?」


「この大袖は柴丸の師匠が使っていたものだ。これも遠隔操作でおれの盾になる」


「し、しばま……? え?」


月神は三本目の刀、雲雀坂(ひばりざか)を抜いた。

雉神(きじがみ)雛罌粟(ひなげし)の鍔がセットされており、その力で月神は空を飛ぶことができる。


二つの大袖が、月神の両肩付近に留まる。デザインはまさに雉の翼だ。

月神は地面を蹴って空に舞い上がると、刀を持ったまま体を丸めた。


「鳴神流2式・翔烈羽(しょうれっぱ)!」


縦回転を繰り返しながら市江たちのもとへ突っ込んでいく。

市江たちは後ろに跳んで回避するが、月神が地面に着地した時、彼を中心に凄まじい風が発生して市江たちを空に打ち上げた。


「ひぎゃぁぁあえええ」


驚いて叫んでみたものの、苺はもともとカーバンクルが飛べるし、市江もハンマーにジェット噴射があるので、滑空くらいはできる。

だから余裕でいたのだが――、地面では月神が腰を落として構えを取っていた。


「鳴神流砲帝式・伍式!」


沢渡三条を掴むと光が溢れた。

やばい気がする。苺と市江は目を合わせてそう思ったが、もう遅い。


「猿楽代表演目! 鎮藩(ちんぱん)五里(ごり)宇城(うき)!」


刀を抜くと再び赤い装束の猿神が姿を現す。

両手にあったのは小型のグレネードランチャー。それを躊躇なく発射すると、空で二つの爆発が巻き起こる。


「「ぴぎゃああああああああああああ」」


殺傷能力は低いようで、爆発の中から出てきた市江はバラエティー番組の爆発オチみたいに髪がアフロになって焦げ焦げになっていた。そのまま苺と共に吹っ飛んでいき、やがて見えなくなったところで空がキラリと光る。





「フッ!」


光悟は飛び上がる。

体を捻りながら剣を振るうが、イゼはそれをしっかりと受け止めた。

光悟は着地を決めると振り返る。距離はそれなりに空いており、二人のマントが風に靡いていた。


「説明している時間はない。終わらせるぞ」


光悟は腕輪・プリズマーを動かし、中に入っていた宝石を輩出させる。

浮かび上がる宝石を左手で握りつぶすと拳から光が溢れて、剣へ集中していく。


「望むところだ」


イゼが剣をまっすぐに構えた。

すると同じように剣が発光しはじめる。


「………」「……ッ!」


両者、同時に地面を蹴った。

高速で斬り合い、飛び上がり、まだ斬り合う。

そして落下していく中でも剣をぶつけ合った。


先に落下したのはイゼだった。叩き落されたのだ。

唇を噛む。血が出るほどに。


『一番のヒーローになって。悪者なんかに負けないで……!』


妹はそう言って泣き、そして死んだ。


「私は悪に負けるわけにはいかんのだ!」


光悟は剣を逆手に持って、振りかぶって降ってくる。



「エグゼ! ブリザァアアド!!」

「ラストスカリアァアアッッ!!」



イゼが輝く剣を横にして、叩きつけられた一撃を受け止めた。

激しい冷気と光がせめぎ合い、その中にナナコの影を見た。


幼い日の夜、イゼはナナコがいなくなっていることに気づいた。

心配になって探すと、道場で蹲っているのを見つけた。


すぐ傍にはイゼが稽古で使っていた木刀がある。

祖母に叩きのめされているのを見て、不憫に思ったのだろう。


「ナナコが少しでも戦えるようになれば……!」


そう呟いていた。訓練をするつもりだったらしい。

しかし少し息が切れると、苦しくなってしまい、動けなくなった

今にして思えば、あの時の疲労が負担となり、妹の死期を早めてしまったのかもしれない。だからイゼは誓ったのだ。剣で負けるわけにはいかないと。


「ゼァアアアアアアアアア!!」


魂の叫びだった。

イゼの剣が、光悟の剣を打ち破ったのだ。


「ぐ……ッ! がはッ!」


光悟は地面を転がっていく。

持っていた剣は弾かれて宙を舞い、そのまま湖に落ちた。

イゼはトドメを刺すべく走り出した。光悟は素早く立ち上がると、マントを外し、それを投げる。

目くらましのつもりだろうが、イゼはなんのことはなくそれを切り裂いて突き進む。

踏み込み、思いきり剣を横に払った。光悟は後ろに下がりつつ倒れてみせる。剣が鼻先を掠めるが、クリーンヒットはしていない。


「だが倒れれば満足に動くことはできまい! 悪あがきもここまでだ!」


狙うは、光悟の心臓だ。

だがそこでイゼは空から伸びるオレンジ色の光を見た。


マントを投げて、ほんのわずかに気を逸らした時間でボタンを押していたのだ。

イゼが腹部に感じた違和感。見ると、腹に銃口が突き付けられている。


「うがぁあ!」


光悟が持っていた銃からエネルギー弾が発射され、イゼが吹き飛んでいく。


「い……、いつのまに銃を!?」


体を起こして気づいた。光悟の瞳と髪がオレンジ色に変わっている。

いつの間にかメガネをかけており、何よりも右腕のデザインも変わっていた。

イゼが意味を理解しかけた時、光悟は既に手にしていた宝石を銃の底部で叩き壊す。

破片が銃口に集まり、光に変わった。


「ラスト! バレット!」


オレンジ色の光弾が発射された。

イゼは体を反らしてそれを回避するが――


「がぁあああ!」


背中が爆発した。光弾が追尾してくることに気づかなかった。

まともに受けてしまったからか、イゼからモスマンが分離して消え去る。

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