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第53話 血まみれの腕-4


「ありが、とう」


「ん」


「思った、より、乳首、綺麗だね。ふへっ」


シャワーでお湯をかけられた。

選択肢を間違えたらしい。


しばらくしてミモが隣にやってきた。

肩を並べてお湯につかるが、まあ気まずい。

ぶっちゃけ、ぜんぜん仲良くないし。二人の間にあるのは一度カラオケに行ったということと、魔法少女という点だけだ

どれ、ここはひとつガールズトークにでも興じて親交を深めておくか。


「好きな、食べ物、ある?」


「んー、甘いものかな。舞鶴は?」


「からあげ」


「マジ? あたし作れるよ。とってもおいしいから今度作ってあげよっか?」


(いるかぼけ。どうせ手とか洗わないで手もみするんだろ? 死ね)


「ねえ舞鶴。嘘、ついてないよね?」


一瞬、ここでミモを殺そうと思った。

馬鹿に見えて意外と鋭いらしい。

しかし流石にその後、言い訳ができない。だからもっと別のやり方だ。


「ちょっと、ついてる。本当は和久井、説得するつもり、なかった」


「それは、どーゆー……?」


「和久井を、殺す、つもりだった。私が、私の手で。罪を重ねた友人への、せめてもの、情け。だからその前に少しだけ、ほんの少しだけ二人でお出かけがしたかった。その間に、罪を自覚して、くれなくてもいい。でもほんの少しだけ二人で過ごすことができればそれでよかった」


「舞鶴、まさか、和久井のことが……?」


(なわけねぇだろ、死ねカス)


まあでも信じてくれているのはいい。適当に作った言い訳を続ける。

お出かけの途中、結局和久井は次の殺人を犯してしまったと。


「死刑に、しようと……。でも、殺せ、なかった。私には。だから、せめて、誰かが終わらせてくれるように、あの動画を、撮影した、の」


「そっか。話してくれてありがと。うれしい。ぎゅーする?」


一瞬、悪くない提案だと思った。

しかしその瞬間、舞鶴の脳裏に奈々実の死体がよぎった。


待て。ちょっと待てと。

そもそも舞鶴は奈々実がどうやって死んだのか覚えていない。


魔法少女になる際に記憶を失っているからだ。

今までは当然パラノイアによる仕業だと思っていたが、魔法少女にやられたとは考えられないだろうか?

ということは隣にいるミモが最愛の人の仇だという可能性もある。


ダメだ。

ダメだダメだ! 駄目だ!!

育んではいけない。彼女以外の絆など!


「する、もんか」


「かー! でも、そっか、そうだよね」


次の瞬間、ミモの声のトーンが変わる。


「イゼさんも結構マジで怒ってたよ」


「……どんな風に?」


「和久井を殺すって」


悪くない。だが今、殺されるのも少し違う。

そんなことを考えながら、二人は風呂を出た。

ミモがアイスをくれたので、それをかじりながらリビングに行くと子供たちが駆け寄ってきた。


舞鶴は子供が大嫌いだった。

ギャーギャーギャーギャー、ファミレスなんかで騒いでると全員殺したくなる。


全員パラノイアにむごたらしく殺されてくれないものか。

それとも和久井を煽ってこの子たちを次のターゲットにしようか。

そんなことを考えていると、奥のテレビに目がいった。


『遺書には息子がご迷惑をおかけしました。死んでお詫びを――』


和久井の母が首を吊って死んだらしい。


(やばすぎて草ァ! おもろすぎることになってもうてまぁす!)


なんだかテンションが上がってきた。

外、走りたい! 舞鶴はすぐに和久井のもとへ向かった。

ミモに引き留められたけど、彼女の言葉なんてひとかけらも舞鶴には届かない。



その和久井は固まっていた。

真っ暗な焼き肉屋で何をするでもなく、ただひたすら時が過ぎるのを待っていた。

するとそこへみゅうたん1号がやってくる。


『お母さん死んじゃったって』


「あ、そう」


『……は? いやちょっと、それだけなの?』


「おお」


『ムカツク』


なぜ、みゅうたん1号が和久井のもとに来たのかは、自身でもわからない。

ただ、なぜかとてもムカついた。

何かが脈打つ。みゅうたんの心が大きな波紋を生み出した。

気づけば、みゅうたん1号は消えていた。

入れ替わるようにして舞鶴がやってくる。


「おかあさま! 亡くなったって! ごめんなさい。私のせいだわ! 胸が痛い!」(欠片も思ってねぇけどな!)


すると和久井が振り返った。彼は笑っていた。


「全然ッ、大丈夫! 大丈夫! あ、あは! 気にすんなって! 別に親なんて子供より早く死ぬんだから! むしろウザいのが二人ともいなくなってラッキーだわ!」


「でも気を付けて! イゼさんは貴方を狙ってる! 貴方を殺そうとしている!」


「ガチ? ガチで? ひ、ひはは! それやばくね? やばいって絶対? ガチ!? でも別に心配すんなって。気にしてねーからマジで!!」


和久井は裏返った声で笑う。

落ち込んでいる舞鶴を慰めることに加えて、動じていない勇敢な自分を見せれば舞鶴を落とせるのではないかと思っていた。

そうだ。告白するなら今だ。

最悪殺されるかもしれないんだから、やれることは早くやっておかないと。幸いココには誰もいないのだし。


「な、なあ! 舞鶴、あ、あ、あ、オレ! お前のこと! 好きなんだ!」


「……は?」


つか、ちょっと待って。なんか臭くね? やばくね?


「あ」


舞鶴は見つけた。

和久井の周りに紙ナプキンが丸めて散らばっている。

店に置きっぱなしにしてあったものを使ったのだろうが、何を拭いたのか?

舞鶴は悲鳴を飲み込んだ。どうやら和久井は自慰行為で現実から逃避していたようだ。


「頼むよ! や、や、やらせてくれねぇか! は、はは! うへはははえへは!」


和久井は目の焦点が合ってなかった。

オナニーや酒で少しでも気を紛らわせないと、死がやってくる。


「あ、あれだよ。舞鶴。ハワイに訪れた芸能人なんかが花の首飾りみたいなのかけてもらうだろ? オレもあれをやられるんだよ! あれはきっと死神だ! 腸をオレの首にかけて歓迎してきやがる! くそっ! くそくそくそ! オレは殺してねぇっての! なあ舞鶴! はは! ははは! なあ!?」


なあ、と言われましても。

夢の話をしているのか、それとも和久井にしか見えていないものの話をしているのか。


「じゃあ、また、これ、を、渡しておくから。死神、が来たら、投げて」


拾っておいた手裏剣を和久井に渡す。

和久井はニヤリと笑ってそれを受け取った。


「じゃ、あの、舞鶴ッ! ヤらせてくれるんだよな?」


「は……? むり」


舞鶴は和久井を突き飛ばすと、焼き肉屋の出口に向かう。

振り返ると、和久井は笑いながらオナニーに興じていた。


(壊れた? じゃあマジでゴミじゃん。死んどけカス)


魔法少女に変身して装甲を纏い、夜空へ舞い上がった。

きっと、もう少しだ。もう少しで奈々実に会える。嬉しくておかしくなりそうだ。



次の日は曇り空だった。

和久井はフラつく足取りでコンビニにやってきた。

自慰行為なんて、全てを忘れられるのはほんの一瞬だけだ。


そこからはまた死神が自分を抱きしめにやってくる。

それを忘れるには、やっぱり酒だ。あれが一番いい。


和久井は一番高いアルコール度数のチューハイをポケットに入れた。

一本じゃ絶対に足りないので、もう一つ盗んで逆側のポケットに入れた。


そういえば舞鶴はパンを持ってきてくれなくなった。何か食べたい。

その時、和久井は口を押えた。焼肉が食べたいと思ったが、肉の映像が浮かんだ瞬間、死体が思い浮かんだ。

腸が破れて、そこから覗いた便が床を汚していたっけ。


やばい。吐く。

和久井は店を出ると、そこそこ広い駐車場で蹲った。

なんとか呼吸を整えていると、肩を叩かれる。


「キミ、お酒盗ったよね」


店長らしいが、厳しい表情だった。和久井はなんだか凄まじく腹が立った。

こっちは店を汚さないように堪えてやったというのになんだその態度は。


そもそも酒がないとダメなんだ。

それなのに未成年かどうか、いまさら確認してくるのはなんなんだ。

お前はなんなんだ。お前にオレの苦しみが理解できるのか。


「オレは殺すつもりはなかったんだ。これは仕方ないんだ。オレを苦しめるお前はなんなんだ! くそっ! くそくそくそ! ちくしょうッッ!」


そこで店長がアッと呟いた。

どうやら目の前にいる人間が、テレビやニュースで取り上げられている和久井だということに気づいたらしい。

店長は和久井の腕を強く掴んだ。

どうやら店長の友人の息子が、顔面をズタズタにされて殺されたらしい。

だから絶対に和久井を捕まえなければならない。

店長は和久井を引き起こして連れていこうとする。


「痛いって言ってるだろ!」


しかしそんな言葉を店長は無視して、コンビニに連れて行こうとする。


「なんなんだよお前は!!」


和久井が叫んだ。

和久井はもう一方の腕でポケットの中にあった手裏剣を掴み取る。

そして、投げた。

待ってましたと、上空で和久井を監視していた舞鶴が手裏剣を動かした。


店長の頭が割れて血飛沫が舞う。

サンダーバードが思い切りライフエーテルを吸い込んだ。まだ食わせろ。

そんな声が聞こえた気がしたから舞鶴は手裏剣を動かし続ける。


近くにいた名前も知らないおばさんの腕を斬った。

隣にいた小さな男の子は息子だろうか? 母親の腕を持ったまま泣き始めた。

クソウゼェ。舞鶴はニヤリと笑って、男の子の耳を狙った。

やった! 見事に耳だけが地面に落ちたぞ!


「ブッサイクなガキ! 母親もブスでババアって! 救いようないでしょ!」


どうせ生きてたって、いじめられて自殺するだけだろうから、今ここで殺してあげよう。

舞鶴は笑いながら手裏剣を動かす。

泣いてる姿も可愛くなくて笑ってしまう。なんか、×××みたいな顔ですね。


「もういいよ」


和久井がポツリと呟いた。


「もういいって」


なぜか、それは舞鶴の耳にハッキリと届いた。

よくねぇよカス。舞鶴は笑い、手裏剣で子供をバラバラにしようとする。

すると母親が子供を抱きしめて覆いかぶさり、必死に守ろうとした。


うざい。うざすぎる。

舞鶴は激しい怒りを覚えた。なんの意味もない行為だ。

舞鶴は手裏剣を落とすようにして、母親と息子を纏めて貫いて、四等分にしてみせた。


それだけではない。手裏剣のスピードは速い。

騒ぎを聞いて駆けつけてきたジジイの首を一撃で切断すると、店長の様子を見に来たバイトの腹を掻っ捌いて臓物を散らす。


まだ止まらない。

悲鳴をあげたお姉さんの右腕を切断し、逃げようとしたところに一発、次は左腕を肩から切断した。

両腕から血しぶきをあげると、お姉さんは狂ったのか、笑いながらおしっこを漏らした。


それを見て腰を抜かしたおじさんの喉を切って、大きなイボがある額、眼球、クソを覗かせた鼻、カサカサの唇、すべて赤い線で塗り潰してズタズタにした。


次は手裏剣を動かして、車で逃げようとしていたお兄さんの後頭部をブチ抜いた。


「誰かこれ止めてくれよぉおぉおぉお ひはっ! うへはあはは」


和久井は鼻水を流し、涎を垂らし、おしっこを漏らしながら笑っていた。

舞鶴は笑った。もちろんこれも浮遊する折り鶴で撮影してある。

あとでネットに流して、凶悪殺人鬼としての経験値を稼いでもらおう。


「あ?」


手裏剣を動かす感覚が消えた。理由は、手裏剣が消えたからだ。

イゼだ。高速移動で駆けつけて、剣で手裏剣を破壊した。


「助かった助かった」


血まみれの和久井は感謝の意を述べた。

するとイゼが近づいてくる。和久井は愛想をよくするためヘラヘラすることにした。

次の瞬間、イゼの拳が和久井の顔面ど真ん中に叩き込まれた。


「へげぇえ!」


鼻から出血しながら倒れる。一瞬の混乱の後、激しい怒りが込み上げてきた。

なにするんだ。オレは被害者なのに。可哀そうなのに。慰めや優しさをくれよ。


「なにしやがるなにしやがる! なにをしやがるーッッ!」


和久井はイゼに掴みかかった。


「理不尽な目に合うオレに優しくしないお前は敵だ! うあぁあああ!」


本気でそう思っていた。だがその態度が、イゼの逆鱗に触れた。

無理もない。人を殺しておいて保身に走ろうとする態度が気に入らなかった。

イゼは剣を振って、和久井の肩に傷を作る。


「ウギャぁあぁ!」


和久井は倒れ、喚く。

そこへミモが駆け付けた。少し遅れてモアもやってくる。

走ってくるまでに見つけた死体の山のせいで二人は和久井を庇うという発想に至れなかった。

そうしているとイゼは和久井の前髪を掴んで、引き起こす。


「答えろ和久井! 貴様が教室にいた人たちを殺したのだな!?」


「アイツらが勝手に死んだだけだ! オレは何にも悪くねぇ! 手を放せェええ!」


和久井は唾を吐いた。

イゼは顔を逸らしてそれを避ける。


「ろくに調べもしないで攻撃してくるなんて最悪だ。最低最悪だ! 何が魔法少女だ! バカの集まりじゃねぇかァア! 謝罪しろゴミ女ァア!」


和久井はイゼが嫌いになった。世界が嫌いになった。

なんでオレに優しくしないんだ。なんでオレに有利に働いてくれないんだ。


なんでオレの都合のいいように動いてくれないんだ。


嫌いだ。

全部嫌いだ。

和久井は叫んだ。ふざけんな。


死ね。


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