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異世界の悪役令嬢を救うため、特撮ヒーローに俺はなる!  作者: ツカサショウゴ
和久井編『魔法少女』 第一章 White
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第44話 チュータ!-4


「お前たち、よせ。今日は喧嘩をしにきたのではない。魔法少女同士で食事でもして結束力を高めようという集まりなのだ。どれ、趣味を言い合おうじゃないか。私は休日になると盆栽を嗜むんだが、舞鶴、キミはどんなことをしてるんだ? もしよかったらみんなで一緒に同じことをやっても――」


「ネットで、他人の、悪口、書いてる」


最悪だよ。

コミュニケーションって言葉をきっと知らないんだ。和久井はそう思う。


「スゥ……! なかなか攻撃的なユーモアだな。本当は何を?」


「いや、本当に、してる。有名人、SNS、ブチ、荒らす」


「……市江は?」


「フォミチキです」「あたしも同じだぞ!」


「フォミチキ?」


「フォーミーマートのレジ横にあるチキンですっ」「あれが美味いんだぞ!」


((((趣味じゃねぇだろ))))


「ッ、シスターは? 歌が好きと噂で聞いたが?」


「いえ、私は暇があれば、ずっとお祈りをしていますので。私は趣味を持ちません」


「……室町は?」


「死ね」


「ん、ミッ、ミモはどうだ!」


「服とか買いに行って、SNSにアップするのが――」


「クソみたいな趣味」


「おい、誰が言った今。喧嘩するならしてもいいよ?」


「よさぬか! 和久井はどうだ?」


「オレ? えーっと、ゲームとか、アニメかな?」


「よいではないか。どういうのを嗜むんだ? チョコパンマンか?」


「まあ今期で言うならやっぱ黒鉄のイグジスじゃねーかな。原作の絵を、ああいう風にゴリゴリ動かせるってのは目から鱗だったな。原作の評価は微妙だったのにアニメ化されたとたんトレンド独占状態になったし。まあそういう意味ではただ会社ガチャみたいなのに勝ったって話だから、純粋に完成度でいうならオリジナルアニメの――」


「「「「「「………」」」」」」


あーあ、やっちゃったよ。

プレミしちゃったよ。

誰も知らないヤツ言っちゃったよ。


(いや、待て。お前は知ってるだろ舞鶴。感想言いあっただろ。助けろよ! コッチ側の人間だろテメェ! ひたすらにオレから目を逸らすのはやめろよ!)


和久井が疎外感を感じていた時、いきなりテーブルに何かが降ってきた。

ネコだ。翼がある。みゅうたんだ。そこで鐘の音が聞こえた。


『大変だミュ! パラノイアだミュ!』


少女たちの表情が変わった。

ちょうど八つコーヒーが運ばれてきたので、それらをすべて和久井に押し付けると、舞鶴たちは店の外へ飛び出した。


「ユーマ!」『Get ready』『Unlimited Magical Ascension』


電子音声が重なり合う。並び立つ少女の背後に、次々にユーマが出現していった。

各々、取り出したチャーム。それが変身アイテムらしい。


「マギアス・パラジオン!」


『THUNDER・BIRD』『NESSIE』『BIG・FOOT』

『MOTHMAN』

『CARBUNCLE』『YETI』『CHUPACABRA』


バトルスーツに身を包んだ少女たち。

みゅうたんが言うにはコスチュームにはそれぞれテーマがあるらしい。


たとえば舞鶴は和を基調としたコスチューム。テーマは侍。


モアは修道服のようなコスチューム。テーマはシスター。


ミモは体のラインがわかる動きやすいコスチュームへ。テーマは格闘家。


イゼはファンタジックなコスチュームへ。テーマは魔法剣士。


苺は獣の耳がついたフードが特徴的なコスチュームへ。テーマは道化師。


市江はフリルがたくさんあしらわれたコスチュームへ。テーマはロリータ。


アイは西部劇を思わせるコスチュームへ。テーマはガンマン。


舞鶴にいたっては眉が細くなったりと、顔も変わっていく。


「アップグレード!」『OK』


魔法少女たちはユーマを分解して装甲に変える強化形態・ワイズマンモードに移行していく。

サンダーバードは、アメリカで目撃された巨大な怪鳥がモデルになっている。


頭部が舞鶴の右肩に。

胴体が四肢へ、脚が腰へ、翼が背中に装着されて防御力や飛行能力を向上させる。

武器は鋼でできた折り紙だ。様々な大きさのものを作り出すことができ、それらで作った作品には相応の能力が宿る。

舞鶴は早速、大きな折り紙で刀を作ると、それを掴んで走っていた。


ネッシーは、スコットランドのネス湖で目撃された首長竜をモデルにしている。

長い首が全て頭部に収納されると、そのままモアの右腕のガントレットとなった。


体は丸ごとバックパックとなって背中に装着され、後ろの両ヒレは分離して、クロスボウとなってモアの左手に装着される。

水を操ることができ、首長竜らしく伸長するガントレットで戦うのだ。


ビッグフットは、アメリカで目撃情報のある巨大な猿人をモデルにしている。

ロボットの見た目は、長方形の体に大きな腕と脚がくっついており、体と両腕はバックパックとなってミモが背負う形になった。


これによりミモの両肩上部に、ビッグフットの両腕が見え、シルエットで言えば腕が四つある形になる。

さらに脚が分離し、まるごとトンファーになった。

剛腕や、太い脚のトンファーで攻撃するパワーファイターである。


モスマンは、ウェストバージニアや、オハイオで目撃情報のある巨大な翼をもった生物をモデルにしている。

ロボットの見た目は長方形の体に、眼状紋が特徴的な大きな羽が装備されていた。


頭部にあった櫛歯上の触角が分離してイゼの頭に装着され、さらに翼はケープマントとなってイゼを包み込んだ。

さらに体部分は分離し、ガントレットや足を覆う装甲に変わっていく。

さらに尻尾が剣になっており、特殊な鱗粉で相手を翻弄しながら戦うのだ。


カーバンクルは、スペインで見つかった真っ赤に輝く鏡を頭にのせた小動物をモデルにしている。

ロボットの見た目はネコのような形をしており、ユーマの中でも最も小型である。


他のものは魔法少女の装甲になるという特性上、魔法少女と同等、あるいはそれ以上のサイズではあるが、カーバンクルに関しては自身がまるごとハンドパペットのように苺の左腕にすっぽりと被さることで合体が完了する。

装甲にならないため、身体能力を強化することはできないが、武器となって自身からは強力な火炎放射を放ったり、攻撃力は遥かに上昇していた。


イエティはヒマラヤ山脈に住む雪男をモデルにしていた。

ロボットの見ためは大きな冷蔵庫に目がついているシンプルなもの。


サイズは大きいがカーバンクルと同じく、装備されるというよりは、自身がまるごと武器(ハンマー)になるタイプだった。

側面から棒が伸びると、それを柄として市江は抱え上げる。

見た目通り、強力な冷気を放出することができ、底や上部に噴射口も見える。


チュパカブラは、プエルトリコで目撃された吸血生物をモデルにしていた。

ロボットの見た目は、モデルとなったチュパカブラそのものに酷似しており、赤いアーモンド状の目に、カンガルーのような脚。背中には無数の棘が確認できた。


頭部が取れると、大きな魔女帽子に被さるように装備される。

さらに腕は腕に、脚は腰に装備され、胴体は胴体に装備されていく。

そして背を覆っていた棘のパーツも、アイの帽子やマントに装備されていった。

与える武器は、サイバーパンクに登場しそうな銃だ。



『THE・WISEMAN――……!』



変身が完了した魔法少女たちが見たのは大きな光の柱である。

アブダクションレイ。みゅうたんがパラノイアを島に転送してくれた証である。

それを確認した瞬間、舞鶴は猛スピードで飛行して、そこを目指す。

アイもニヤリと笑うと、すぐに後を追いかけた。



大きな音が鳴れば恐怖するのは当然でありそれを責めるというのはお門違いであると言ったら笑われましたというのはあまりにもひどい話であると証明しなければならないと誓ったあの日どうして大きな音が鳴ってみんなは驚かないんだろうと思っていたらグランドにいた人はみんな死んだらしいって雨が降っていたから当たり前だろうがと叫んだら叩かれたのは怖いでしょうといえばきっと誰も彼も夢も未来も希望も恐怖――


私はオオイヌ。『雷恐怖症』のシリウス。


「ァアぁアぁアぁアアア!」


恐怖の悲鳴をあげたのは、人間のシルエットをした何かだった。

口はあるが目がない。髪もない。服を着ていないが、爪や乳首や性器などといった人間にあるものは一切確認ができない。

肌は真っ白で、皮膚というよりはイルカのような質感に見えた。

特徴といえば、額を突き破る大きな棒だ。これは避雷針である。


このシリウス、静電気でも怖いというのに座っているのは禍々しい電気椅子だった。

いや座っているというよりは、座らせているといえばいいのか。手足がガッチリと固定されて逃げることができない。

電気椅子には車輪がついているから、移動はできるのだろうが……?


「見つけた――ッ! パラノイア!」


舞鶴が一番乗りだった。

後ろを見ても、まだアイたちは離れている。

チャンスだ。一撃で首を刎ねて殺してしまおう。

舞鶴はニヤリと笑ったが、焦るあまり大声を出してしまったのがいけなかった。

このシリウスは大声を聞けば、雷が来ると思ってしまう。


「ギョエエェエエエエエエェエエエエ!!」


上ずった悲鳴が聞こえて、舞鶴の笑みが消えた。

耳をつんざく轟音。舞鶴に直撃したのは、シリウスが発生させた落雷だった。

空が光ってから直撃までは一瞬で、舞鶴は帯電しながら地面に倒れる。


さらにシリウスの電気椅子には無数のコイルが突き刺さっているのだが、それが発光すると地面を突き破ってコイルが出現していき、舞鶴の周りを囲むように設置されていく。

それが光を放ち、電流が放出された。


「ぁがッッ! ぎぃいぅッッ! ぎゃぁあぁあぁアアァ!」


激しい痛みと衝撃、痺れ。

しかしキラキラと光る粒子が見えた瞬間、コイルがバラバラに切断される。


イゼだ。剣を構えてマントを大きく靡かせていた。

モスマンの力の一つ、『超高速』を使っており、迫る落雷を的確に回避していくと、舞鶴を掴んでシリウスから距離を取ろうとする。


だが銃声が聞こえた時、イゼの動きが止まった。

足を撃たれたのだ。チュパカブラが与える銃が発射するのは普通の弾丸ではなく、小型の注射器。

それがイゼと舞鶴の体にいくつも突き刺さる。


「室町ッ! 貴様――ッッ!」


そこでフラッシュ。

イゼは動こうと思ったが、動けなかった。

理由はいくつかある。一つはもちろん足を撃たれたこと。

もう一つは市江のせいだ。ハンマーで地面を叩くと、冷気が伝い、イゼの足裏が地面に張り付ついた。


だからイゼは落雷を受けてしまった。

さらに追撃といわんばかりにアイが撃った注射器(だんがん)が起動し、押し子の部分が自動で引かれてイゼと舞鶴の血液を吸い上げた。

押し子の先端から吸い上げた血液が粒子状となって噴射され、それがアイの腕輪に吸い込まれていく。


「ブラッディエッジ!」


アイが腕を振るうと、赤い斬撃が発射されてシリウスに直撃する。

他人の血液を使って戦うのがチュパカブラの能力だった。

アイはすぐに二丁拳銃を使って、背後から走ってきたモアとミモの胸を撃つ。


「んッ!」


「は――ッ?」


注射器はご丁寧に両胸に一本ずつ、計二本刺さっている。

それが起動すると、血液が吸われていき、思わず二人は脱力感を感じて立ち止った。


「デケェもんブラ下げてんだから、ちょっとくらい貸してくれよ」


赤い粒子がアイの腕輪に吸い込まれていく。

そのまま手をかざすと、シリウスの頭上に赤黒い魔法陣が出現した。


「ブラッディレイン!」


魔法陣から雨が降ってきた。よくみるとそれは赤い針だ。

それがシリウスの全身に突き刺さっていき、悲鳴が巻き起こる。


「ばゆれねるはまき!!」


シリウスが何かを叫んだ時、額に突き刺さった避雷針が光ってアイの頭上に雷が降ってきた。

だがいつの間にか苺がアイを庇うように割り入っていた。


腕に被せたカーバンクルが口を開くと、降ってきた雷を吸い込んでく。

動いていたのは市江だ。氷の力で、自分の進む道を凍らせると、靴裏からブレードが出現してアイススケートのように滑っていった。


「どりゃー! です!」


ハンマーを大きく横降りして、倒れていたシリウスの避雷針を叩き折った。

そのままの勢いで大きく旋回したのち、次はハンマーをシリウスへ叩きつける。直撃と同時に冷気が襲い掛かり、全身を砕きながら凍結させた。


さらに市江はハンマーを振り上げながら後ろへ飛び、着地と同時に地面に打ち付ける。

するとシリウスが倒れていた地面から巨大な氷柱が伸びてターゲットを空へ打ち上げる。

アイはその墜落地点を予想し、走りだした。


「オラァア!」


アイは、右の足裏で落ちてきたシリウスを蹴り止めた。

靴はガラスのように透明で、ハイヒールになっており、そのヒールの部分がシリウスの胸に突き刺さった。


ここも吸血装置らしく、ゴクゴクとわざとらしい音を立てながら、シリウスの血ともわからぬ真っ黄色の液体が靴へ流れ込んいく。

アイは黄色に染まった(あし)を払ってシリウスを放ると、腕を前にかざして魔法陣を自分の前と、倒れたシリウスの上にもう一つ出現させる。


「死ね! ヘパイトスヒール!」


アイは右足で魔法陣を蹴った。

ヒールが魔法陣に突き刺さると、シンクロするようにしてシリウスの頭上から巨大な黄色の槍が降ってくる。


槍は一撃でシリウスの頭部を潰すと、爆散させた。

むき出しになるソウルエーテル。

アイのワイズマンが解除されてチュパカブラが長い舌を使ってそれを捕食した。


「やってくれる……!」


イゼは剣を杖がわりにして立ち上がった。

未だに痺れが残っている。舞鶴なんて、まだ起き上がることができずに震えていた。


『THE・WISEMAN――……!』


おかしな光景だった。

敵がいなくなったのにアイは再びチュパカブラを鎧に変えた。

顎を動かして何かの合図を送ると、市江が動き出す。

持っていたハンマーを思いきり地面に打ち付けると、凄まじい冷気が発生して、魔法少女たちの周囲にいくつもの氷塊が降ってきた。


「苺! やっちゃえ! ですッ!」「了解だぞ! 燃え燃えだぞっ!」


そこで苺が飛び上がり、カーバンクルの口から連続して炎弾を発射して氷塊にぶつけていく。

魔法の炎は氷に纏わりつくことで急激に溶かしていった。

あっという間に蒸発する音と、水蒸気が周囲を包んだ。

その目的は気を散らすこと、そして音で銃声を隠すこと。

だからミモとモアは、お腹に注射器が突き刺さったことに気づかなかった。


痛みでやっと理解する。

またやったなと文句を言おうとしたが、声が出なかった。

今度は血を吸われるのではなく、注射器に入っていた液体が体内に注入される。


ミモは何も言えず、ただ重くなる体に従って膝をつくだけ。

それはモアも同じで、アイの撃った麻酔弾が自由を奪っていった。


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