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第29話 同じ轍


一方、月神は研究所でタブレットに映る数値を睨んでいた。


『依夢ちゃんどうしたのでござるか? ずっと数字ばかり見てるでござる』


数字の内容は、彼が回収したマリオンハートの一部をオンユアサイドとは別のPCゲームに入れて、どれくらいの時間でハートが増加していくのかを調べたものだ。


「そのハートはすぐに回収したが、そこから察するにオンユアサイドは明らかに成長が遅すぎる。回収以降の増加数値をシミュレーションアプリでAIにも計算させたが、月神が逃がしてしまったハートの量を考えると成長スピードが全く合わない」


多少ティクスや他の物にハートの欠片が入っていたとしても、本当ならばもうオンユアサイドは本物の世界になっていてもおかしくない。


「おれはずっとオンユアサイドにマリオンハートが入ったと思っていたけれど、それは違うようだね。ハートが入ったのはゲームではなく、パピだ。ディスクにハートが直撃したけれど、魂が入ったのはその中にいるキャラクターの一つ……」


『つまり、このまま時間が経てばパピ殿が本物の人間になるわけでござるか?』


「だといいがね。魔法の存在は危険かもしれないが、今のパピなら人類と敵対することはないだろう。ただそうなると、どうして彼女にはハートが入っているという自覚がない? そもそもパピだけであんな世界が生まれるものか? ってね。そこが大きなクエスチョンだ」





翌日、光悟は久しぶりに夢を見なかった。

体を起こすとパピの姿がなかった。

光悟は部屋を出て水で口をゆすぐ。

着替え終わるとティクスと合流した。そこでメイドが走ってきた。


真っ青だった。

光悟とティクスは礼拝堂に向かった。

ステンドグラスに照らされてパピが壁にもたれ掛かっていた。



死んでいた。



毒の小瓶を持っていた。

自殺だった。


「ふッざぁけんッッなよ!!」


声が裏返った。

腰を抜かした光悟は、ハイハイで前に進むしかなかった。


「ふざけんなふざけんなッ! ふざけんなァア!! あァアアぁあアあぁ! なんでッッ! ずっと一緒にいてくれるんじゃねぇのかよ! パピッッ! なんでッ! なんでぇエエッ! 違う! これは何かの間違いだ! これは夢だ! なあそうだろ和久井! それともヴァイラスか? 許せねぇブッ殺してやる! ティクス! 早く変身を!」


『こ、光悟くん! 落ち着くんだ!!』


抑えられた光悟はボロボロと涙を流して地面に蹲り、すすり泣いた。

和久井は心から思う。

今、画面に映っているのは誰だ?


コイツは一体、誰なんだ?


しばらくして光悟は地球に戻った。

魔法陣が消えたので、もう戻れないようだった。





パピは夢を見た。

きっとそれはラストの粒子を吸い込んだからだ。


光悟と手を繋いで歩いていた。幸せだった。


だが次第に腕が腐り落ちていく。

腐敗臭に耐えきれずパピは嘔吐した。

光悟に見られたくないから蛆まみれの腕を必死に隠した。


それを見てルクスが笑っている。

何を今さら普通の幸せを夢見ているの?

まさか貴女、光悟が殺されたことを気にしてないって本気で信じてるの?


だとしたらとんだ馬鹿ね、そんな人間いるわけないでしょ。

全部貴女のせいだからね?

光悟が何回も苦しんで痛い思いをしたのはアンタのせい。

きっと光悟は貴女を見るのも嫌でしょうね。


そもそも貴女はゲームのキャラクターでしょ?

そこから目を逸らしてどうするつもり?

貴女が人間に近づけば光悟の世界は危険に晒される。


それ本気で考えてる?

本当に光悟の将来や幸せを考えてるの?

地球で生きる資格が貴女にあるとでも?



それを聞いたパピは妊娠していた。

地球で作った命だ。

だからラストは巨大な鳥の足でパピのお腹を蹴った。


パピは倒れた。

必死に謝った。泣いて鼻水を垂らしながら許しを請うた。

お願いします。光悟と私の大切な赤ちゃんなんです。

ラストはパピの腹を蹴った。


パピは何かが流れ出るのを感じた。

パピの足の隙間を大量の血液に交じって蟲の死骸がボトボトと落ちていく。

赤ちゃんなどいない。詰まっていたのはヴァイラスだった。


聞いてパピ、光悟はよくできた人間よ。

そして貴女は多くの人間を苦しめた最低の魔女。


地球には光悟にふさわしい性格の良い女の子がたくさんいる。

アンタみたいなヤツが光悟の傍にいるよりもずっと彼を幸せにすることができる。

ずっと立派で優しい子供が産める。だから諦めろ。お前の役目は死ぬことだ。


そうすれば正しい歴史が進む。


パピは飛び起きると、隣にいた光悟に助けを求めようとして、やめる。

ただの悪い夢だ。水でも飲んで眠りなおそう。光悟にはぐっすり眠ってほしい。


下に降りて水を飲んだ帰り、パピはヴァジルに会った。

賢者の石を忘れたから取りに来たらしい。

ヴァジルは近くに光悟がいないことを知るとパピの襟を掴んだ。


「僕はロリエを愛してる。だからお前が嫌いだ。どうしても許せないんだよ!」


なんでアレだけ暴れて『親が悪いから可哀そうだったね、パピは悪くないよ』で終わるんだよ。

納得できないよ。お前はたくさんロリエを苦しめた。

もちろん光悟さんだってそうだ。

なのにちょっと泣けば許される? 馬鹿にするものいい加減にしろ。


パピは言い返せなかった。

ただ目を潤ませ、ごめんなさいと連呼するしかできない。


ヴァジルはパピを掴むと、中庭に連れていく。

そして思い切り頬を殴って後ろにある噴水に叩き落とした。

ずぶ濡れのパピはお母さんに抱きしめてもらいたくなった。

でもそのお母さんに殴られた記憶がフラッシュバックして、光悟に会いたくなった。

震えながらヴァジルを見上げると、彼はとても怒っていた。


「お前がかつてロリエにやったことだ! どんな気持ちだ! 言ってみろ!」


ごめんなさい。

パピにはそう言うしかできなかった。

悲しくなった。どうしようもなく寂しくなった。でも悪いのは自分だから仕方ない。


「僕らがどれだけ我慢してきたと思う! 覚悟しろ! 僕はお前を一生恨み続けるぞ!」


お前に幸せなんて絶対与えるか!

邪魔し続けてやるよパピ・ニーゲラー!

お前の悪評を永遠にばら撒いてやる。

それでもダメなら僕が悪いことをして全部お前のせいにしてやる!


きっとみんなはお前じゃなくて僕を信じるぞ!

ほら思い出せ。

お前はみんなを傷つけた。

何を泣いてるんだよ? 泣きたいのはコッチだった! ロリエのほうだった! 光悟さんのほうだった!


「お前に少しでも申し訳ないという気持ちがあるなら、これを飲んで死ね!」


そういってヴァジルは毒の入った小瓶を投げた。

噴水から出たパピは礼拝堂に向かった。神を見た。胸がズキズキ痛んだ。涙が出た。

もしも自分がお伽の中の幻想ならば、どうして作った人はアタシをこんな人間にしたのですか?

どうしてもっと優しく、幸せな運命を与えてくれなかったのですか?


ごめんね光悟、幸せになってね。

パピはそう呟いて毒を飲んだ。


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