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最終話

 急げ急げ急げ! 俺は道に飛び出し、大きく息を吸い込む。


「リタさん、敵襲だ! 兄貴がやられた!!」


 森の向こうから気配がした。人影がヌッと近寄り、声がする。


「なにがあったの?」


「兄貴が急に動けなくなってしまった! どこかに敵がいる筈です!」


「本当なの?」


「いいから、兄貴を見て下さい!」


 手を引いて森に入り、座ったままみじろぎ一つ出来ない兄貴を灯りで照らす。


「ベルガー!」


 兄貴は当然応えない。


「一体、どこから情報が漏れたの……」


 考え込むリタに灯りを向ける。ああ、今日も色っぽいなぁ。俺のスキルを知ってるからこそ、疑ってないんだろうなぁ。ごめん、リタ。


【影縫い】


 スラリとした立ち姿のまま固まるリタの眼には驚きの色がある。これですっかり俺は裏切り者だな。別に2人のことは嫌いじゃなかったぜ。また会った時はよろしくな。って、ゆっくりしてる場合じゃない!


 慌てて道の反対側の森にはいり、あらかじめ決めておいた合流地点を目指す。いけるいける! まだ時間はある! 目指すは──馬!!



#



「地竜だぁー!! 地竜が出たぞー!!」


 今日は大声を出してばかりだぜ。俺も馬もヘトヘトだが、まだ止まるわけにはいかない。俺はあの少女のことを諦めてない。地竜は凶悪なモンスターだが、そこまで足は速くない筈。まだ、何とかなるかもしれない!


 俺の様子に驚いたララナの街の門衛は反射的に槍を構えようとする。クソ、ふざけやがって。


「何やってんだ! 地竜が出たんだよ! 俺に槍を向けてる場合じゃないだろ! 早く出来る奴等を集めて北の森へ急げ!!」


「なんだその顔は!! お前はどこの蛮族だ!!」


 うおおおお! 兄貴のせいだ!! 一体、どんな顔になってんだ!! 慌てて顔を拭い、再度説明する。


「本当なのか?」


「嘘なら笑い話にでもすればいいだろ! そして俺を磔にでもすればいい!! お前達、責任取れんのか!?」


 くらえ、責任攻撃! お前達の弱点は知っているんだ!!


 騒ぎを聞きつけた別の門衛が俺の剣幕に何かを感じ、慌てて走っていく。頼むぜ。俺はもう限界だ。ちょっと今日は色々あり過ぎた。


 馬から降りるとすとんと力が抜けてもう立てない。街の城壁にもたれかかる。早く、助けにいってやってくれ。俺に力なんてありゃしない。なんせ底辺冒険者なんだ。多くを期待しないでくれよ。ただ流されてるだけなんだ。


 城門から出て行く騎馬の音を聞いて、俺は意識を手放した。



#

 


「おい、聞いたか? 侯爵令嬢のはなし?」


「ああ、もちろんだとも。随分と大掛かりな襲撃だったらしいな。ただの盗賊じゃないって噂だ」


「侯爵は拡大路線の急先鋒だからな。他の国も絡んでるんじゃないかって俺はにらんでいる」


「おいおい、物騒な話をウチでやるんじゃねえよ」


 酒場の主人がカウンターの2人の話に割って入り諫めた。本人達は苦い顔をして酒を手に取り、誤魔化す。


「なんにせよ、御令嬢がご無事でよかったぜ」


「ああ。御令嬢は天に愛されているとみえる」


「だな。御令嬢が戻られたあの日、雨も降ってないのにあんな綺麗な虹がかかったのだから。この街に」


 俺はエールを飲み干して席を立つ。


 さすがにもう、ララナの街にはいられない。何処か遠くへ行こう。例えば、南の方へ。

読んで頂き、ありがとうございました!

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