襲撃
もうやるっきゃねえ。ここにとどまれば兄貴に殺られるだけ。俺は【閃光】にかける。そして、生き延びてみせる。こんなワケの分からないことで死ぬなんてまっぴらごめんだ。
馬車が近づいて来た。随分と急いでいるようで灯りが激しく揺れている。しかし、本当に馬車だけか? 何か変だぞ……。
「行ケ!」
「へ、へい!!」
空回りするぐらいに地面を踏み締め、ダッと道に飛び出す。灯りに照らされた二頭立ての馬車がみるみる迫り、その左右には護衛の姿も浮かぶ。ドクンと胸が痛み、顔が熱い。戦士の顔だってか? やってやろうじゃないか! もう回避出来ない距離にまで引き付けて──。
【閃光】!!
馬のいななき、男の怒声、何かの咆哮。目を開けると──【閃光】の効果か──辺りは明るい。馬は引き返そうと暴れ、護衛は振り落とされている。そして──
「ガアアアアアアアア!!」
地竜!? なんてことだ。ふざけるなよ! こんなの聞いてないぞ!! 地を這い、硬い鎧に覆われた巨大な竜が眼を赤く染めている。
「ォォオオオ!!」
兄貴!! 馬車に襲い掛かろうとした地竜に兄貴が斬りかかる。こうしてはいられない! さっさと馬車の中身を頂かないと!
顔を押さえてなすすべもない御者を尻目に馬車に取り付く。てんでバラバラに暴れまわる馬に馬車は揺られるが、強引に扉を開き──。
「動くな! 命まではとらな──」
カハッ
「下賤の手に落ちるぐらいなら……」
目の前には少女がいる。見るからに高貴で、そして気高くあろうとしている。
「お父様……お母様……先にいきます……」
ゲハッ
少女は血を吐き、その胸に刺さった小さな刃物から血が流れる。
「なんだよこれ……」
ドンッ! と馬車が揺れて地面に転がり落ちると、兄貴の姿があった。俺と同じく土まみれで目に光がない。また地竜が唸った。随分と遠くに聞こえるが、その姿は目の前にある。見逃して……くれないよな。
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「緊張シテルノカ?」
「兄貴!」
兄貴が生きてる! うおおおお! 兄貴兄貴あにきいぃ!! 今回の死に戻り地点はここか! ここからならまだなんとかなる! 今逃げれば大丈夫。俺も兄貴も死なない!
「逃げましょう、兄貴」
「怖気ツイタカ」
「違うんです! 聞いて下さい!」
「ウチノ部族デハ初メテ狩リヲスル若者ノ顔ニ、コレヲ塗ル」
だから違うんですって! 何で俺の話を聞いてくれないだよ! 顔に何かを塗り塗りしてる場合じゃないって! ってまさか、スキルが変わって【交渉】がなくなってるのか?
「ちょっと小便に」
「ココデシロ」
「……へい」
兄貴に背を向けてギルドカードを取り出し、小便をしながらこっそり灯りで照らす。
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名前 :ヨナス
性別 :男
スキル:虹2 影縫い5
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虹か。にじぃぃいい!? これどういうこと!? どんな効果があるんだ? まさか凄いレアスキルとか?
【虹】!!
小便にサッと虹がかかる。
うん。綺麗だなー。綺麗だねー。……もう、死のう。無理だ。感情がついていかないわ。いや待て……。まだ諦めるな。まだやれることはある筈だ……。
サッと振り返り、兄貴を灯りで照らす。
「見てください、虹っす!」
「……虹ダ」
兄貴、隙アリだぜ──。
【影縫い】!!
兄貴、ごめん。今はこれしか出来ないんだ。




